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ガジェット 公開日 2024/01/18 11:02

スマホ市場“首位陥落”のサムスン、生成AIに復権託す「Galaxy S24」で挽回なるか

【連載】佐野正弘のITインサイト 第92回
Gadget Gate
佐野正弘
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国内では円安や政府規制による販売低迷で、メーカーの撤退など多くの異変が起きているスマートフォン市場。だがその異変は国内だけでなく、世界市場でも起きているようだ。

■スマートフォン世界市場で起きている異変



そのことを示したのが、米国時間の2024年1月15日に、調査会社の米International Data Corporation(IDC)が公表したスマートフォン市場シェアに関するレポートである。これまで、スマートフォンの世界出荷台数シェアは、韓国サムスン電子が10年以上にわたって首位の座に君臨しており、米Apple、そしてXiaomiなどの中国新興メーカーがそれを追う……という構図が長く続いていた。

だが同社が公表したレポートによると、2023年のスマートフォン出荷台数シェアにおいて、暫定値のデータではあるがAppleがサムスン電子を抜いて、出荷台数シェア首位に躍り出たという。スマートフォン市場で首位が入れ替わったのは2010年以来なだけに、これは非常に大きな変化だといえる。

IDCのプレスリリースより。同社の調査では、2023年のスマートフォン出荷台数でアップルがサムスン電子を上回り、13年ぶりの首位交代となった

その要因の1つとして同レポートによると、低価格帯を中心に、中国メーカーや米GoogleなどのAndroidスマートフォンメーカーが競争力を高めていることが挙げられる。だが筆者はもう1つの理由として、2023年のスマートフォンの出荷台数が、前年比で3.2%減の約11億7,000万台と、過去10年で最低を記録するなど世界的にスマートフォン市場の不振が続いていることも、少なからず影響しているのではないかと考えている。

サムスン電子の強みは、ハイエンドからローエンドまで幅広い製品ラインナップを持つことだが、市場が縮小傾向にある状況下ではラインナップの広さよりも、ブランド力や強固な顧客基盤を持ち、確実に“指名買い”してもらえるメーカーが強みを発揮する。そうしたことから、強固なファンを持つAppleが縮小する市場で強みを発揮し、トップシェアを獲得するに至ったのではないかというのが筆者の見方だ。

■首位奪還に向けた新たな策。新フラグシップ「Galaxy S24」シリーズを海外発表



サムスン電子は、主力事業の1つである半導体が落ち込んで業績が悪化しているだけに、牙城でもあるスマートフォンで挽回を図りたいところだろう。そこで同社が、スマートフォン首位奪還に向けた新たな策として、2024年1月18日未明にグローバル発表がなされたのが、新しいスマートフォンのフラッグシップモデル「Galaxy S24」シリーズである。

Galaxy S24シリーズは、日本で販売されている「Galaxy S23」シリーズの後継となる、スタンダードな形状のスマートフォン最上位モデル。それゆえラインナップも、Galaxy S23シリーズと同様、ディスプレイサイズが6.2インチのスタンダードモデル「Galaxy S24」と、6.7インチの大画面モデル「Galaxy S24+」、そして「Sペン」を内蔵した最上位モデルの「Galaxy S24 Ultra」の、3機種構成となっている(いずれも日本市場への投入は未定)。

サムスン電子が発表した新しいフラッグシップモデル「Galaxy S24」シリーズ。左から順に「Galaxy S24」「Galaxy S24 Ultra」「Galaxy S24+」となり、デザインは前機種の「Galaxy S23」を踏襲しながらも、質感などには一部変更が加えられている

Galaxy S24シリーズは、米クアルコム製のハイエンド向けとなる最新チップセットを、Galaxyシリーズ向けに独自カスタマイズした「Snapdragon 8 Gen 3 Moble Platform for Galaxy」を採用。加えて、カメラも望遠を大幅に改良しており、新たに5,000万画素の光学5倍ズーム相当のカメラを搭載したことで、10倍ズームで暗所を撮影しても、「夜景モード」とAI技術などを組み合わせることで、明るく綺麗な画質を実現できるようになった。

Galaxy S24 Ultraは望遠カメラが5,000万画素・光学5倍ズーム相当へと大幅強化がなされており、暗所でも「夜景モード」を使うことにより、10倍ズームで鮮明な写真を撮影できる

だがある意味で、スマートフォンが進化しきってしまっている現状、基本機能の強化だけで消費者にインパクトを与えるのは難しくなっている。そこでサムスン電子が新たに打ち出したのが、「Galaxy AI」である。

これは文字通り、昨今注目されている生成AIを主体とした、Galaxyシリーズ専用のAI技術を用いることにより、スマートフォンで提供できる価値を大きく変えるというもの。そのGalaxy AIを活用した機能の1つが、言語に関する機能である。

実際ボイスレコーダーアプリでは、録音した音声を文字起こしして、さらに翻訳することも可能。また、Galaxyシリーズ独自の「Samsungキーボード」を用いることで、チャットアプリの文章を翻訳したり、返信するメッセージを提案したりしてくれる機能も用意されている。

そしてよりインパクトがあるのが、音声通話のリアルタイム翻訳機能だ。通話中に相手が話した言葉を翻訳してくれるだけでなく、自分が話した言葉を相手の言語に翻訳して伝えることも可能で、デモではかなり高い精度で翻訳しながら会話を成立させている様子が示されていた。

「Galaxy AI」の活用により、音声通話をリアルタイムで翻訳する「ライブ翻訳」を実現するとのこと。ちなみにAI関連機能を利用するには、事前にSamsungアカウントでのログインが必要だ

2つ目の機能は、カメラに関連するもの。Pixelシリーズの「編集マジック」のように写真の中のオブジェクトを移動し、その跡を生成して埋めてくれるなど編集機能に、生成AIが多く活用されているのはもちろんのこと、動画においても生成AIで間のフレームを追加し、スローモーション再生を実現する機能などが用意されるという。

そしてもう1つは、「Circle to Search with Google」(囲って検索)への対応だ。これは、Googleが提供するAI技術を活用した機能で、画像や動画、テキストなどから、気になるものを丸く囲むことにより、その内容を検索できるというもの。Galaxy S24シリーズは、同機能に対応する初めてのスマートフォンになるという。

Galaxy S24シリーズはGoogleの「囲って検索」にも対応。動画などから気になるものを丸く囲めば、そのモノ自体を検索してくれる

最近では、Googleが「Pixel」シリーズで生成AIを一部に取り入れ機能強化を図る姿勢を見せているが、サムスン電子も停滞が続いてるスマートフォンを進化させる手段として、生成AIの活用に明確に舵を切ったといえるだろう。そして生成AIの活用は、サムスン電子がAppleの「iPhone」シリーズに対抗する上でも、大きな意味を持ってくる。

生成AIは高い利便性を実現する一方、生成させるためAIに学習させるデータや、AIによって生成した文章や画像などの権利に関してはルールの整備が追いついておらず、その活用を巡ってはトラブルも少なからず起きている。そしてこれまでの事例を見ても、Appleはグレーな要素が残る技術を自社製品に導入することに消極的な傾向にあることから、Galaxyシリーズが生成AIの活用に舵を切ることで、高い支持を得る可能性は十分考えられるだろう。

ただ、スマートフォンとAI技術とのかかわりを振り返ると、以前にはAI技術を活用した音声アシスタントや、写真の被写体認識などで各社が競い合い、大きな盛り上がりを見せたことがある。一方で、それら機能の利用が思うように広まらず、すぐ関心が薄れてしまったことも確かだ。

実際サムスン電子も、2017年には独自のAIアシスタント「Bixby」を開発・提供するなどしてAI技術の活用に力を注いできた。だが、やはりその利用が広まらなかったため、一部機能を除いて終了してしまったという苦い経験がある。

サムスン電子は音声アシスタントが盛り上がっていた2017年に、AI技術を活用したアシスタント機能の「Bixby」を提供していたが、その後一部機能を除いて終了に至っている

Galaxy AIが大きな成功を収めるのか、Bixbyの歴史を繰り返すのかどうかは現時点で判断は難しいが、サムスン電子としてはiPhoneと差異化してAppleから顧客を奪うためにも、新技術を積極導入して差異化を図る必要があることは確かだ。

それだけに生成AIに賭けたサムスン電子の成否は、ある意味で生成AIの今後の評価によって大きく変わってくることになるのかもしれない。

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