公開日 2010/11/25 10:59
違いはどこに? ソニー/ビクターの3Dプロジェクターを村瀬氏が見る(2) ビクター「DLA-X7」編
2Dの「フィルムモード」に要注目
11月20日に発売されたソニーの「VPL-VW90ES」、12月上旬に発売を控えるビクター「DLA-X7」「DLA-X3」。3D対応のプロジェクターがいよいよ手に入る時期となった。評論家の村瀬孝矢氏がチェックした両者の3D画質を2回に渡って見ていく本企画。今回はビクターDLA-X7のレビューをお届けする。
■前モデルからの様々な進化が画質に大きく寄与
DLA-X7は、120HzデジタルドライブのD-ILAパネルを採用しており、3Dレディー型(3Dトランスミッターとメガネが別売)という特徴を備えている。この2点が、VPL-VW90ESとのもっとも大きな違いである。
使用パネルは、前回(関連記事)にも述べたように、VPL-VW90ESの0.61型に対して0.7型と、わずかにこちらの方が大きい。またLCOSパネルの実績でも、このD-ILAパネルの方が開発が早く、実際に使われている歴史も長い。そうした背景もあり、D-ILAとSXRDの比較では、D-ILAが市場をややリードしているとも言える。
本機が前モデルの「DLA-HD950」から大きく変わったところには、3Dに対応したことに加えて、光学エンジンを一新したこと、色再現範囲の拡大し7軸カラー調整を採用したことなどが挙げられる。そのほか、画質調整にフィルムトーン機能、新スクリーン補正モード機能を設けたことなども進化点だ。
もちろん、これらの変更は画質にも大きく寄与している。
新しい光学エンジンは3D対応させるために明るさを稼ぐことを目標とし、同時に色再現範囲の拡大も図った。さらに、ホームシアターのメインソースでもあるフィルムソースに特化した取り組みも行っている。
このフィルムソースの表示性能を高めたことは要注目で、映画館の世界を取り込もうとする狙いが功を奏し、これまでよりもさらに映画の世界に没入できる、魅力ある画質を実現したと言ってよいと思う。
フィルムソースの再現力を高めた例を具体的に挙げると、フィルムモードの際、キセノンライトをコダックのフィルムに通した際の色域を再現した「Film1」と、同じくキセノンをフジフイルムに当てた色域の「Film2」という、2つのカラープロファイルを用意した。
両フィルムの異なる味わいを再現するため、色合いと質感の正確な再現を図ったのだ。このマニアックなこだわりこそが、これまで連綿と開発をつづけてきたD-ILAプロジェクター開発陣の真骨頂なのである。
事実、この2つの異なったフィルムモードは、映画ソースごと切り替えて視聴してみるとその違いが良く分かり、溢れるほどの感動の世界に浸ることができる。…というと大げさに聞こえるかもしれないが、「昔のハリウッド映画はこうだった」「この日本映画はこんな感じだった」といった感激と感嘆が味わえるのである。
■幅広いスクリーン対応性も魅力
さらに、本機の幅広いスクリーン対応性も特筆しておきたい(なお今回も、そして前回のVPL-VW90ESも、視聴スクリーンはマリブを使用した)。
プロジェクターの画質とはスクリーンと一体で作り出される。そのため、スクリーンを最適化(場合によっては特化)しないかぎり本来の狙いとした画質が手に入ることはない。筆者はこのことを機会があるごとに述べていたのだが、ようやく本腰を入れて取り組んでもらえたと、大いに歓迎している機能なのである。
今回のDLA-X7は、前モデルよりはるかに対応スクリーン数を増やしたのが特徴で、世の中に存在するスクリーンをほぼ網羅するという約99種ものスクリーンに対応と、その意欲に拍手を送りたい。
むろんガンマ調整もカーブ波形を利用した微調整機能を備えている。このため、スクリーンの設定を終えた後でも、より自分の好みに合わせた画質調整が行えるのだ。ちなみに、本機は従来のレンズアパーチュアーに加え、新たにランプアパーチュアーを採用したため、光の強さをきめ細かくコントロールできるようになっており、この微調整に役立てられる。
前述したように、本機で3D映像を鑑賞するには。3D用トランスミッターと3Dメガネを別途用意する必要がある。これには、今のところ主たるソースはあくまでも2D、という考えがあるのではないかと思う。
■3D視聴 − クロストークはかなり少ない
それでは実際に3Dの画質について見ていこう。
まず端的に比較すると、VPL-VW90ESとは3D映像の趣が異なる。120Hzドライブなのでクロストークを懸念していたが、デジタルドライブの利点からか、ほとんど目に付かないほど良好だった。クロストークはかなり少なく、面書き込み表示の優位性を感じさせる。
ただし前回も触れたように、3D映像の明るさについては本機も若干暗い印象で、コントラストが低く感じられる部分もある。しかし映像の質感はスクリーンとのマッチングが良く取れていることからかなり良好で、色数も豊富なのが好ましい。暗めの環境で階調を丁寧に表現しようという開発陣の意図が感じ取れる。
なお、筆者が視聴したのは試作モデルだったので、最終製品版では細部をもっと追い込んでくるだろう。それが適えば、本機をベースとした上位機のDLA-X9と合わせ、現時点の3Dプロジェクターとして最良のモデルになるだろうと思う。
先に述べたように、2D画質は新たに設けたフィルムモード画質が特筆モノだ。2D/3Dともに、本機はホームシアターの新たな楽しさを提供し、満喫させてくれる製品だ。
村瀬孝矢
1948年、愛知県生まれ。オーディオ専門誌「ラジオ技術」誌の編集を経て、1978年よりフリーでA&V評論やコンサルティング活動を始める。 1991年にAV&Cの普及を目指したAVC社を設立。1998年よりプロジェクター専門誌「PROJECTORS」誌を編集、発行。国内外メーカーの最新プロジェクターを同一条件でチェックしており、国内でもっともプロジェクターの素性を知る人間のひとりである。日本画質学会副会長も務める。 AVC社のホームページ http://www.jah.ne.jp/~avcpj/
■前モデルからの様々な進化が画質に大きく寄与
DLA-X7は、120HzデジタルドライブのD-ILAパネルを採用しており、3Dレディー型(3Dトランスミッターとメガネが別売)という特徴を備えている。この2点が、VPL-VW90ESとのもっとも大きな違いである。
使用パネルは、前回(関連記事)にも述べたように、VPL-VW90ESの0.61型に対して0.7型と、わずかにこちらの方が大きい。またLCOSパネルの実績でも、このD-ILAパネルの方が開発が早く、実際に使われている歴史も長い。そうした背景もあり、D-ILAとSXRDの比較では、D-ILAが市場をややリードしているとも言える。
本機が前モデルの「DLA-HD950」から大きく変わったところには、3Dに対応したことに加えて、光学エンジンを一新したこと、色再現範囲の拡大し7軸カラー調整を採用したことなどが挙げられる。そのほか、画質調整にフィルムトーン機能、新スクリーン補正モード機能を設けたことなども進化点だ。
もちろん、これらの変更は画質にも大きく寄与している。
新しい光学エンジンは3D対応させるために明るさを稼ぐことを目標とし、同時に色再現範囲の拡大も図った。さらに、ホームシアターのメインソースでもあるフィルムソースに特化した取り組みも行っている。
このフィルムソースの表示性能を高めたことは要注目で、映画館の世界を取り込もうとする狙いが功を奏し、これまでよりもさらに映画の世界に没入できる、魅力ある画質を実現したと言ってよいと思う。
フィルムソースの再現力を高めた例を具体的に挙げると、フィルムモードの際、キセノンライトをコダックのフィルムに通した際の色域を再現した「Film1」と、同じくキセノンをフジフイルムに当てた色域の「Film2」という、2つのカラープロファイルを用意した。
両フィルムの異なる味わいを再現するため、色合いと質感の正確な再現を図ったのだ。このマニアックなこだわりこそが、これまで連綿と開発をつづけてきたD-ILAプロジェクター開発陣の真骨頂なのである。
事実、この2つの異なったフィルムモードは、映画ソースごと切り替えて視聴してみるとその違いが良く分かり、溢れるほどの感動の世界に浸ることができる。…というと大げさに聞こえるかもしれないが、「昔のハリウッド映画はこうだった」「この日本映画はこんな感じだった」といった感激と感嘆が味わえるのである。
■幅広いスクリーン対応性も魅力
さらに、本機の幅広いスクリーン対応性も特筆しておきたい(なお今回も、そして前回のVPL-VW90ESも、視聴スクリーンはマリブを使用した)。
プロジェクターの画質とはスクリーンと一体で作り出される。そのため、スクリーンを最適化(場合によっては特化)しないかぎり本来の狙いとした画質が手に入ることはない。筆者はこのことを機会があるごとに述べていたのだが、ようやく本腰を入れて取り組んでもらえたと、大いに歓迎している機能なのである。
今回のDLA-X7は、前モデルよりはるかに対応スクリーン数を増やしたのが特徴で、世の中に存在するスクリーンをほぼ網羅するという約99種ものスクリーンに対応と、その意欲に拍手を送りたい。
むろんガンマ調整もカーブ波形を利用した微調整機能を備えている。このため、スクリーンの設定を終えた後でも、より自分の好みに合わせた画質調整が行えるのだ。ちなみに、本機は従来のレンズアパーチュアーに加え、新たにランプアパーチュアーを採用したため、光の強さをきめ細かくコントロールできるようになっており、この微調整に役立てられる。
前述したように、本機で3D映像を鑑賞するには。3D用トランスミッターと3Dメガネを別途用意する必要がある。これには、今のところ主たるソースはあくまでも2D、という考えがあるのではないかと思う。
■3D視聴 − クロストークはかなり少ない
それでは実際に3Dの画質について見ていこう。
まず端的に比較すると、VPL-VW90ESとは3D映像の趣が異なる。120Hzドライブなのでクロストークを懸念していたが、デジタルドライブの利点からか、ほとんど目に付かないほど良好だった。クロストークはかなり少なく、面書き込み表示の優位性を感じさせる。
ただし前回も触れたように、3D映像の明るさについては本機も若干暗い印象で、コントラストが低く感じられる部分もある。しかし映像の質感はスクリーンとのマッチングが良く取れていることからかなり良好で、色数も豊富なのが好ましい。暗めの環境で階調を丁寧に表現しようという開発陣の意図が感じ取れる。
なお、筆者が視聴したのは試作モデルだったので、最終製品版では細部をもっと追い込んでくるだろう。それが適えば、本機をベースとした上位機のDLA-X9と合わせ、現時点の3Dプロジェクターとして最良のモデルになるだろうと思う。
先に述べたように、2D画質は新たに設けたフィルムモード画質が特筆モノだ。2D/3Dともに、本機はホームシアターの新たな楽しさを提供し、満喫させてくれる製品だ。
村瀬孝矢
1948年、愛知県生まれ。オーディオ専門誌「ラジオ技術」誌の編集を経て、1978年よりフリーでA&V評論やコンサルティング活動を始める。 1991年にAV&Cの普及を目指したAVC社を設立。1998年よりプロジェクター専門誌「PROJECTORS」誌を編集、発行。国内外メーカーの最新プロジェクターを同一条件でチェックしており、国内でもっともプロジェクターの素性を知る人間のひとりである。日本画質学会副会長も務める。 AVC社のホームページ http://www.jah.ne.jp/~avcpj/