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公開日 2010/12/22 10:51

「音色」の生まれる瞬間に立ち会えるスピーカー − ECLIPSE「TD510」× 大橋伸太郎

ネットオーディオのハイレゾ音源にもマッチ
大橋伸太郎
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■音色には<時間>と密接な関係がある

生演奏と家庭の音楽再生を隔てるものとは何だろう。生演奏のダイナミックレンジは得られないまでも、音の強弱大小は家庭でも一定の範囲で再現出来るし、演奏の緩急やフレージングは十分に伝えることが出来る。


今回試聴したスピーカー、ECLIPSE「TD510」
生演奏にあって家庭で失われやすい最大のものは、音色と響きである。人間の声を含む楽器の固有の音色が生まれる背景には、まず演奏家の思い描く曲のイメージが原点にある。それを実際の音に移し替えていくのが演奏家の感性、経験、美的感覚である。楽器が同じでも弾く人によって音色は違う。

そうして生まれる音色の正体の第一は、倍音の出方と量である。それをコントロールするのが演奏家の技術だ。ピアノでは肩肘腕手首の使い方に始まり、最も大きいのが鍵盤に触れる瞬間のスピードであり、10mmの弾き代(しろ)を押し下げるニュアンスの差である。次にペダリングの入と出のポイントがあり、これらの総和が千差万別の音色と響きを生み出す。つまり、音色は<時間>と密接な関係があるわけだ。

■スピードの速さも演奏家の技量。これも<時間>と深い関わり

これは音色とは別の話だが、オーケストラのフォルテッシモを突き抜けてピアノや声がちゃんと隅々まで聴衆の耳に届くのもプロ演奏家の条件である。それでも、明瞭に声を届かせる歌手やピアニストがいれば、そうでない人もいる。この差は必ずしも大きな音量(声)を出せるかという問題でなく、実はこれも一種の技術の領域で、やはり<時間>と深い関係がある。

ピアノなら打鍵の速さ、発音の立ち上がりのスピード。協奏曲の場合、譜面上同じタイミングでオーケストラが鳴り始めるより数十分の一秒速くピアノが鳴り始めることで、聴衆の意識を掴み、それがその後も聴覚を持続的に引き付けることにつながる。

これは他の楽器でも同じで、日本を代表する世界的指揮者は、かつて名テノールのプラシド・ドミンゴについてこう語ったという。「声が通る歌手は声量よりスピードがあるんだ。ドミンゴがそう。オケの音が高潮する一瞬前に彼はすでに発声している。彼より声量のある歌手は沢山いるけど、彼ほど明瞭に声を響かせる歌手はいない」。

■通常のスピーカーは箱鳴りを利用して音を作っている

前置きが長くなったが、音楽では時間のコントロールとスピードは非常に重要で、それが曲と演奏の個性を生み出す<音色>と深い関係がある。

しかし、家庭用の再生機器の中で電気信号を音の波動に変える最も重要な最終的な変換器であるスピーカーシステムは、長い間その逆をやっていた。

家庭用スピーカーシステムはどれも多かれ少なかれエンクロージャーの構造を工夫し、箱鳴りを利用して音を作っている。中低域ドライバーの放射する音だけでは音の量感が得られないため、エンクロージャー内の共鳴・共振を使い主に中低域を量の面で増強していた。これは周波数バランスの補強に役立つが、正確な波形の伝達と位相の管理に悪影響を及ぼし、解像度の低下と、何より音の遅れを生む。

次ページECLIPSE TDのスピーカーシステムが<時間>を制した

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