公開日 2013/06/17 12:00
パナソニック“DIGA”「DMR-BZT9300」− VGP特別技術賞受賞「MGVC」に山之内 正が迫る
世界初・36ビット映像をBDに記録する新技術
昨秋登場し、圧倒的な画質・音質へのこだわりでAVファンに受け入れられた“DIGA"ハイエンド機「DMR-BZT9300」。今なお最上位機として君臨する本モデルが、この夏さらに進化する。その進化のポイントである「MGVC」の実力に山之内 正氏が迫った。
本質的な画質改善を実現する
新たな技術「MGVC」とは
パナソニックが映像メディアの画質改善に本質的な貢献を重ねてきたことはAVファンには周知の事実だ。プログレッシブ出力に対応したDVDプレーヤーの発売、色信号の高精度なアップサンプリング処理を行うリアルクロマプロセッサ技術の搭載など、同社の開発陣が取り組んできた課題はいずれも大きな成果を上げてきた。
それら本質的な画質改善をも遙かに凌ぐ、新機軸による新たな技術が再び脚光を浴びようとしている。ブルーレイディスクに最大36ビットの高階調記録を実現する「マスターグレードビデオコーディング(MGVC)」がそれだ。
通常のBD規格ではY/Cb/Crそれぞれ8ビットの計24ビットしか情報を記録できないのに対し、元映像であるスタジオマスターは各10〜12ビットで表現されており4倍から16倍細やかな階調情報を持っている。この階調情報を失うことなく、スタジオマスター本来の階調豊かな映像をそのまま記録再生するための仕組みがMGVCだ。
MGVCはパナソニックハリウッド研究所所長の柏木吉一郎氏の発案で実用化された技術で、その発想はマスタリングやオーサリングを行う現場ならではの視点から生まれた。前述のような規格上の制約がある限り、スタジオマスターには存在していたなめらかな階調や深みのある色彩がBDでは微妙に後退してしまい、アニメ作品では階調の段差(バンディング)など、さらに劣化が目に付きやすい。
そうした変化を日々目にしていることで不満が募り、なんとか解決する手段を探るなかで生まれたのが、ブルーレイ3D規格でも採用されたMPEG-4 MVC方式を活用するというアイデアだ。MVC方式では、表示タイミングが同一で互いに相関のある2つの映像を効率よくディスクに記録させることができる。しかも非対応プレーヤーではメインストリームだけを再生することができるため、既存モデルとの互換性も問題ない。
この仕組みを利用したMGVCでは、BD規格に沿った8ビットのデータをメインストリームに収録し、12ビットと8ビット各データの差分に相当する拡張データをサブストリームに収めることができる。MGVC対応機ではメインとサブのデータをそれぞれデコードし、画素単位で加算することによって、最大で12ビット×3=36ビット相当の映像を再現できるというわけだ。なお、ビット拡張データは単純な欠落分だけではなく、メインストリームの圧縮歪みを補正するデータも含んでいるため、メインと同様に8ビットで収録されるという。
MGVCによる高品位な映像を
楽しめるBZT9300
MGVC対応のディスクを再生できるハードウェアは搭載するユニフィエのバージョンやMGVCの暗号を解読するキーの有無によって限定され、当面は6月中旬のアップデート適用後のDMR-BZT9300に限られる。BZT9300以外の既存のDIGAや他社製レコーダーは非対応となるが、今後パナソニックは対応モデルを積極的に増やしていく方針だ。BZT9300のユーザーにとって、今回のアップデートはこれまでで最も重要なイベントになるだろう。
MGVC方式で記録されたBD-ROMはスタジオジブリの作品を中心にすでに発売されており、既発売の『火垂るの墓』、『となりのトトロ』、『魔女の宅急便』、『おもひでぽろぽろ』のほか、7月には『紅の豚』がリリースされる。また、新作では5月に発売された『009 RE:CYBORG』がMGVCを採用して収録されている。アニメ作品が多いのは前述のようにバンディング低減という意味も大きいが、階調情報の復元は解像感の改善など副次的な効果も期待できるため、画質の変化はかなり大きいはずだ。もちろん実写でも階調の豊かさが生む効果は計り知れないほど大きいはずで、対応作品が発売されたらあらためて確認してみたい。
BZT9300からディスプレイへの伝送はDeepColor規格で行われるため、同規格をサポートする機器の多くでMGVCのメリットを享受できる。今回はパナソニックのTH-P65VT60で視聴したが、プロジェクターなどとの組み合わせでも威力を発揮するに違いない。
作り手のこだわりを再現する
明らかな画質差が実感できた
MGVCをオンにして『火垂るの墓』を見直すと、画面のなかでの遠近感が一気に深みを増すことに驚かされる。しかも人物と背景の対比にまったく誇張はなく、場面ごとにどの人物、どの被写体にフォーカスを合わせようと意図しているのかが、自然に浮かび上がってくるのだ。
従来のBDでもフォーカスの遷移は正確に読み取ることができるものの、画面全体に現れる細かなノイズの存在によって見通しが若干曖昧になってしまい、前後の対比による遠近感が浅めに感じられてしまう。この違いは一見すると微妙なものなのだが、何度かオン・オフを繰り返して見ていると、かなり本質的な画質差として認識できる。細部に目を凝らしても違いは明白だが、画面全体を大きくとらえて見た時の方が違いがわかりやすいようだ。
暗い場面では街灯や蛍が放つ柔らかく淡い光が立体的に広がり、原画がいかにていねいに書き込まれているのか、つぶさに読み取ることができる。人物の肌色はわずかに残っていたくすみが取れて透明感が増し、瞳の部分から細かい表情が自然に浮かび上がってきた。すべての場面に当てはまることだが、台詞や音楽の助けを借りなくても映像そのものが雄弁に語りかけてくる印象を強くした。
CGで製作された『009 RE:CYBORG』では、これまで見たことがないほどのなめらかな質感と立体感に圧倒された。MGVCをオンにすると階調の微妙かつ連続的な変化だけで被写体を立体的に再現する描写が際立ち、輪郭を強めて立体的に描き出す画像とはまるで異なるアプローチでリアリティを追求していることがよくわかる。
作り手のこだわりを読み取るためのこれほど強力な技術がこの段階で登場したことには大きな意義がある。MGVC収録作品が国内外に大きく広がっていくことを強く期待したい。