公開日 2016/06/10 10:30
高画質技術を磨き上げた4Kハンディカムの上位機 - ソニー「FDR-AX55」の魅力にVGP審査員が迫る
【特別企画】“ハンディカム史上最高峰”モデルの魅力を徹底解説
新たに開発した動画専用のイメージャー「Exmor R CMOSセンサー」による高精細な4K映像撮影に加え、定評のある「空間光学手ブレ補正」もよりいっそう進化。“ハンディカム史上最高峰"を標榜する「FDR-AX55」の実力に、VGP審査員が迫る。
ハンディカム「FDR-AX55」
VGP審査員 海上忍氏が製品の実力をチェック
■“ハンディカム史上最高峰"を謳う4Kカムコーダーの新世代機
先日、家族旅行の映像ライブラリを整理した際、ここ5年ほどにおけるカムコーダーの進化に感じ入った。光学系、駆動系の進化もさることながら、やはり最大のインパクトは「4K」への対応だ。
フルHD映像と見比べるとその差は歴然で、川面のきらめきも風にそよぐ木の葉も、まるで質感が違う。特に我が子の成長記録など、撮り直しのきかない被写体のことを考えたら、“なぜ4K対応モデル登場直後に買い換えなかったのか…"と、いまさらながらに後悔した次第だ。
「FDR-AX55」は、そんな想いを抱えるカムコーダーファンにこそ注目して欲しい4Kハンディカムのプレミアムモデル。2013年に発売されたハンディカム史上初の4K対応モデル「FDR-AX1」、その翌年に登場した第2世代モデル「FDR-AX100」、そして昨年発売された第3世代モデル「FDR-AXP35」に続く、4Kハンディカムの第4世代目のモデルだ。
ハンディカム「FDR-AX55」
画質や音質、「空間光学手ブレ補正」の優れた効果はそのままに、操作系を簡略化し“手軽さ”を追求したスタンダード4Kモデル「FDR-AX40」もラインアップする
まず注目したいのは、新規設計となる裏面照射型イメージセンサー「Exmor R CMOSセンサー」の搭載だ。
センサーサイズは1/2.5型、動画撮影時の有効画素数は829万画素と、数字的には前モデルからほぼ変わりないが、これまでハンディカムに搭載されてきたアスペクト比4:3のイメージセンサーとは異なり、新たにアスペクト比を16:9の動画専用設計とすることで、動画撮影に使用する受光面積を前モデル比で1.6倍にまで向上。精細感の向上はもちろん、低照度環境化でのノイズ低減を実現している。
16:9の動画専用センサー「Exmor R CMOSセンサー」を新たに搭載。裏面照射型の採用により受光面積を向上させ、低照度環境でもノイズの少ない映像を実現している
また、光学系の長足の進歩も見逃せない。新開発の「ZEISS バリオ・ゾナーT*」レンズは、独自開発の薄型非球面レンズ「AAレンズ(高度非球面成型)」と特殊低分散レンズを使用した贅沢な構成で、焦点距離は35mm判換算で26.8〜536mm(動画撮影時)。光学ズームも前モデルの倍となる20倍へと伸長。
ハンディカムシリーズのアイデンティティーといえる「空間光学手ブレ補正機能」も、よりいっそう進化を遂げており、電子補正による上下左右と回転の5軸方向でブレを補正する「インテリジェントアクティブモード」が新たに追加。走りながらの撮影でもブレが気にならない高いレベルの補正効果を実現している。映像処理に高い能力が求められる都合上、膨大なデータ処理を伴う4K撮影時には非対応ではあるが、手ブレ対策にこだわる開発方針は健在だ。
イメージャーを含む光学系全体の動きを巧みに制御し、圧倒的なブレ軽減を実現する新「空間光学手ブレ補正」を搭載。従来機比で約15倍(ワイド撮影時)の効果を達成している
写真手前がAX55に搭載された手ブレ補正ユニット。光学ズーム倍率の向上に伴い光学系は大型化しているが、従来機のユニットに比べ軽量化を達成。本体の軽量化にも貢献している
■地道な作業を積み上げ実現した前モデル比約15%もの軽量化
オートフォーカスにも大幅な改良が加えられており、高速かつ高精度にフォーカスを制御する「ファストインテリジェントAF」が新たに盛り込まれた。これは“α"や“サイバーショット"など、ソニーのデジタルカメラ開発で培われた技術を活用したもので、その効果は一見しただけで前モデルとの違いに気付くほどのインパクトがある。
レンズ機構の見直しもオートフォーカス性能の向上に大きく貢献しており、ズームレンズ3つの群のうち2つの群と、フォーカスレンズの駆動をリニアモーター駆動にすることで、より素早くかつ細かいレンズ位置の調整を実現。ズーム時に発生するレンズの駆動音も抑えられて静粛性も向上している。
光学ユニット
主要レンズ群。3つのズームレンズ群のうち2つの群とフォーカス群の駆動にはリニアモーターを採用し、ズーム/フォーカス時の静音性が大幅に向上
さらに画質面だけでなく音質面にもこだわりはおよび、集音機構にもメスが入れられた。5.1chサラウンド音声記録は前モデルでも対応しているが、本機ではマイクユニットの開口部を5箇所に増やすことで、ユニット内での音の反響を抑制。ヌケのよいクリアでリアルな音声記録を実現し、ノイズレベルも前モデル比で約40%も低減させている。
従来は1方向だった開口部を5方向からにすることで、集音性を向上させた「高性能マイク」を搭載。機構内の反射音を低減させることで、ヌケのよいクリアな音声記録を達成している
一方、あまり目立たない部分ではあるが、軽量化が推し進められた点も注目したい重要な改善点。カムコーダーは手のひらで抱えるように構えて撮影するため、筐体の質量はそのまま撮影のしやすさに直結する。とはいえ、簡単に数十グラムの軽量化を図れるわけはもちろんなく、本機では軽量化を実現するために、筐体の内部フレームを構成する金属パーツの大幅な見直しが図られた。
天秤の右側に乗っているのが先代機「FDR-AXP35」に搭載されたボディ内フレーム、左側に乗っているのがAX55に搭載されるボディ内フレーム。ボディ内フレームは主に放熱とボディの強度を保つためのパーツだが、AX55では構成パーツを一から見直し徹底して無駄を省くことで、AXP35と変わらない放熱性、強度を保ちながらも大幅な軽量化を達成している
金属パーツの点数を減らせば軽量化につながりはするが、それでは筐体の剛性を低下させる原因となってしまうため、素材の再検討はもちろんのこと、放熱を担当するパーツと強度を保つパーツをひとつにまとめたり、内部フレーム以外のパーツにその役割を振り分けたりなど、地道なトライ&エラーとシミュレートを繰り返すことで、パーツ数を大幅に減らしながらも前モデル同様の放熱性と剛性を維持。前モデルと容積はほぼ変えずに約15%もの軽量化を達成した。
右側のトレイがFDR-AXP35のボディ内フレームを構成するパーツ群。左側のトレイがAX55のボディ内フレームを構成するパーツ群。放熱用のパーツと強度を維持するパーツを一部共用するなどして、構成点数を大幅に減らしている
一方で、前モデルに搭載されていたプロジェクター機能は省略された。撮影した映像をケーブルレスかつ大画面ですぐに鑑賞できるこの機能は、話題を集める魅力的な機能だが、すべてのユーザーが必要とする機能かというとそうではない。しかし軽量化はカムコーダーを使用するすべてのユーザーにとって大きなメリットであり、本機のコンセプトを実現するためには止むを得ない判断だろう。
■一瞬でピントが合うAFと圧倒的な手ブレ補正に驚愕!
実際に撮影してみると、新開発イメージセンサー「Exmor R CMOSセンサー」の効果だろう、その画質は精細感が極めて高く、ヌケがよくクリア。そしてオートフォーカスの素早さに驚かされる。
アイリスには6枚羽根の虹彩絞りを採用。絞り孔を正円に近づけることで、美しいボケ味を実現している
「FDR-AX100」にしても「FDR-AXP35」にしても、従来のモデルでは光量が不足しがちな屋内などでピントが合いにくいことがあったが、本機は高速でズームしてもピントがほぼ一瞬で定まる。望遠端の状態で500ルクスほどの室内を左右にパンニングさせたときには、さすがに一瞬とはいかなかったが、それでも期待以上のスピードでどの被写体にもしっかりと合焦した。
そしてその強化されたオートフォーカスの効果が最大限に発揮されるのは、手持ちかつ高倍率というシビアな撮影条件下だ。ハンディカムのお家芸たる効果抜群の手ブレ補正機構も相まって、正確なピントを保ちつつもブレを抑えた撮影が可能。
例えば、運動会といった光量の多い屋外イベントだけでなく、学芸会などの屋内イベントの撮影にも強く、特に混雑した観覧席など三脚を立てにくい場所では頼もしいことこの上ない。
また、新たに盛り込まれた「インテリジェントアクティブモード」の効果も群を抜いている。回転方向のブレ補正も行うため、早歩き程度の揺れであれば、まるでドリーに載せて撮影したかのような安定した映像を手持ちでも撮影できる。
今回の取材にご協力いただいた“ハンディカム”開発陣の面々。画作りやサウンドチューニング、ハード/ソフト設計など、各分野のスペシャリストが集まって製品開発を進めている
従来の手ブレ補正モード「スタンダード/アクティブ」も十分に効果的だったが、この「インテリジェントアクティブモード」は次元がまるで違う。4K撮影時に使用できないのが残念でならないが、走り回る子どもやペットなど、動きの早い被写体を追いかけながらの撮影などであれば、4K解像度を優先するよりも、本モードを使用して手ブレ対策を図るほうが、よりメリットが大きいと感じた。
現在ビジュアルの世界では、“4K"に加え“HDR"が大きなトレンドとして立ち上がり始めており、HDR撮影に対応したカムコーダーの登場が待たれるところだ。4Kカムコーダーとしての完成度を一段と高めた本機に触れていると、その歴史を切り拓いてきたソニーの底力を感じるとともに、カムコーダーのさらなる進化に期待せずにはいられない。
【レンズが捉えた膨大な情報をありのまま精細に写し出す】
VGP審査副委員長 山之内 正
山之内 正 氏
暗所でも立体感を失わない自然で忠実な描写力
4Kカメラの醍醐味は、その膨大な情報量を活かして、一歩踏み込んだ映像表現に挑戦することにある。筆者のお気に入りは、ワイド側でメインの被写体を引き寄せつつ、背景との対比を際立たせる手法だ。広角側の画角に一段と余裕をもたせた本機は、そうしたダイナミックな構図を狙いやすく、しかも画面全体で4Kの精細感が威力を発揮。レンズが捉えた情報をありのまま写し出し、広角側でも細部が甘くならない。
また、光学ズームが20倍となり、望遠側にも大きな余裕が生まれた。細部のコントラストを高めたレンズと円形絞りの組み合わせが、豊かな質感と滑らかな遠近感を引き出し、人物のクローズアップではポートレート的な柔らかい描写も得意だ。
手ブレ補正は激しい動きの低減効果が驚異的だが、望遠側でのゆっくりとした動きを吸収する効果も期待以上で、4Kプロジェクターによる大画面再生も試したが、望遠側でも安定感があり、じっくりと映像に集中することができた。
そしてもう一つ感心したのが暗所での自然な描写力。明るさを引き出そうとするあまり、ノイズが気になる製品も見受けられるが、本機は暗さを忠実に再現し、暗所でも立体感を失わない。まさに狙った通りの映像が手に入る。
【着実な進化を体感させる強力な“手ブレ補正機能"】
VGP審査員 折原一也
折原一也氏
“α"の技術が盛り込まれた高速AFも見逃せないポイント
本機に採用される「空間光学手ブレ補正」は、イメージャーを含む光学系全体を丸ごと動かす独創的かつ大掛かりな機構で、2012年に発売された「HDR-PJ760V」から導入されているが、本機では大幅な小型軽量化を達成。電力消費を抑えるため、駆動していない際もユニットの中心軸が安定する構造を採用するなど、代を重ねる毎に着実な進化を遂げている。
実際に走りながら撮影された映像を見ると、スタビライザーを用いたようなスムーズな映像で、その抜群の効果に驚かされる。またHD撮影時には、5軸方向で手ブレを補正する「インテリジェントアクティブモード」も新たに搭載。ワイド側のみならず、光学20倍のテレ側でも手持ちで映像がピタリと静止するので、走り回る子供の撮影にはもちろん、動物や鳥の撮影といった趣味用途でも三脚要らず。大活躍すること請け合いだ。
また、デジタルカメラ“α"の技術が投入された「ファストインテリジェントAF」も見逃せない。空間被写体検出方式により、AF動作を従来比で40%も高速化。ビデオカメラの常識を覆す高速AFを実現している。4Kならではの高精細映像を気負いせず手軽に撮影できる、カムコーダーファン必見の実力機だ。
※本記事は雑誌『AVレビュー』Vol.256(2016年7月号)に掲載された記事のウェブ版です。