公開日 2017/04/14 10:15
【第186回】スルーしたらもったいない出来の良さ! パイオニアの新イヤホン「SE-CH9T」レビュー
[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
■“普通に良い” パイオニアの新イヤホン「SE-CH9T」
オンキヨー&パイオニアイノベーションズから小型DAP “rubato”「DP-S1」と“private”「XDP-30R」が遂に登場! …なのだが一方、それらと同時に発表されたおかげかどうも影が薄い気がするのがこちら、パイオニアの新イヤホン「SE-CH9T」だ。実売税込1万3000円弱。
同時発表のあちらが派手だったので、こちらを「そういえばそんなのも発表されてたような…」くらいでスルーしてしまっている方もいるのでは? と危惧しているのだが、スルーしていては勿体無さすぎるくらい出来が良い。
■解析!解析!また解析!!で完成された振動板
最初のポイントは新開発のダイナミック型ドライバー、特にその振動板だ。コンピューターによる解析を繰り返し行うことで振幅対称性を向上させ、低歪化、低域感度の向上、広帯域化を実現。さらに中央ドーム部の高さや形状の調整で分割振動を抑え、高域側の特性も高めている。
「コンピューターによる解析」とは、同社超ハイエンドヘッドホン「SE-MASTER1」の開発にも用いられた「CAE解析(Computer Aided Engineering)」のことだろう。直訳すると「コンピューター支援による設計」となる。設計データからコンピューター内に仮想のパーツをモデリングし、その特性を仮想測定する技術だ。
得られる成果はパーツの実物を試作して測定するのと同じ。しかし、例えば仮に実物の試作と測定には一日かかるところを、仮想パーツならデータ変更して計算するのに一時間もかからないとなればどうだろう? 前述の「解析を繰り返し行う」に要する時間を大幅に圧縮できる。開発期間の短縮、あるいは同じ開発期間でより多くの成果を得るために極めて有効な設計手法だ。
現代の機械設計の手法としては一般的なものであり、それ自体は特筆に値するところではないかもしれない。しかしこのイヤホンの場合は実際の成果、つまりその音が、同社開発陣がこの設計手法を特に有効に使いこなしていることを示している。
振幅対称性の向上、低歪化、分割振動の抑制といったところは、一言にまとめれば「振動板のあらゆる癖を低減した」ということだろう。振動板の癖を減らす方法はまず「振動板の剛性をできるだけ高めることで動作に伴う変形を少なくする」ことだ。硬い素材を使うことだけがその手段ではない。振動板の形状を工夫することでも剛性を高めることはできる。このモデルがコンピューター解析で突き詰めたのはそこだろう。
形状によって追い込めるところとしては他に、変形を完全になくすことは無理として「その変形を音への悪影響が少ない変形に落とし込む」という考え方もある。振幅対称性の向上や分割振動の抑制というのはこちらの話かもしれない。例えば「全体をバランスよく変形させる」「耳に目立つ帯域に変化のピークが来ないように変形のポイントをずらす」といったことが想像できる。
■“空流”を制する者が“音”を制する!
続いては、その振動板から発せられた音、空気の動きをいかに制御して鼓膜にまで届けるかという部分の技術だ。
特にダイナミック型ドライバー搭載機では、ドライバーの動きによってハウジング内に生じる空気圧をどう制御するかというのは大きなポイントだ。例外的なモデルを除いてはポート、空気孔からその圧力を逃し、そのポートの位置や大きさなどで音質チューニングも行っている。
そこにこのモデルは「Airflow Control Port」という技術を投入してきた。ハウジング内から外に向かう通気経路にチューブを使っている。おそらく、単なる穴ではなくチューブにすることでハウジング内の取り回しの自由度、太さと長さの設定の幅を広げ、その幅をフル活用してチューニングを行ったということではないだろうか。「引き締まった低音と分離したクリアな中音」という狙いでチューニングしてあるとのこと。後で述べるが、実際その狙い通りの音に仕上げられている。
オンキヨー&パイオニアイノベーションズから小型DAP “rubato”「DP-S1」と“private”「XDP-30R」が遂に登場! …なのだが一方、それらと同時に発表されたおかげかどうも影が薄い気がするのがこちら、パイオニアの新イヤホン「SE-CH9T」だ。実売税込1万3000円弱。
同時発表のあちらが派手だったので、こちらを「そういえばそんなのも発表されてたような…」くらいでスルーしてしまっている方もいるのでは? と危惧しているのだが、スルーしていては勿体無さすぎるくらい出来が良い。
■解析!解析!また解析!!で完成された振動板
最初のポイントは新開発のダイナミック型ドライバー、特にその振動板だ。コンピューターによる解析を繰り返し行うことで振幅対称性を向上させ、低歪化、低域感度の向上、広帯域化を実現。さらに中央ドーム部の高さや形状の調整で分割振動を抑え、高域側の特性も高めている。
「コンピューターによる解析」とは、同社超ハイエンドヘッドホン「SE-MASTER1」の開発にも用いられた「CAE解析(Computer Aided Engineering)」のことだろう。直訳すると「コンピューター支援による設計」となる。設計データからコンピューター内に仮想のパーツをモデリングし、その特性を仮想測定する技術だ。
得られる成果はパーツの実物を試作して測定するのと同じ。しかし、例えば仮に実物の試作と測定には一日かかるところを、仮想パーツならデータ変更して計算するのに一時間もかからないとなればどうだろう? 前述の「解析を繰り返し行う」に要する時間を大幅に圧縮できる。開発期間の短縮、あるいは同じ開発期間でより多くの成果を得るために極めて有効な設計手法だ。
現代の機械設計の手法としては一般的なものであり、それ自体は特筆に値するところではないかもしれない。しかしこのイヤホンの場合は実際の成果、つまりその音が、同社開発陣がこの設計手法を特に有効に使いこなしていることを示している。
振幅対称性の向上、低歪化、分割振動の抑制といったところは、一言にまとめれば「振動板のあらゆる癖を低減した」ということだろう。振動板の癖を減らす方法はまず「振動板の剛性をできるだけ高めることで動作に伴う変形を少なくする」ことだ。硬い素材を使うことだけがその手段ではない。振動板の形状を工夫することでも剛性を高めることはできる。このモデルがコンピューター解析で突き詰めたのはそこだろう。
形状によって追い込めるところとしては他に、変形を完全になくすことは無理として「その変形を音への悪影響が少ない変形に落とし込む」という考え方もある。振幅対称性の向上や分割振動の抑制というのはこちらの話かもしれない。例えば「全体をバランスよく変形させる」「耳に目立つ帯域に変化のピークが来ないように変形のポイントをずらす」といったことが想像できる。
■“空流”を制する者が“音”を制する!
続いては、その振動板から発せられた音、空気の動きをいかに制御して鼓膜にまで届けるかという部分の技術だ。
特にダイナミック型ドライバー搭載機では、ドライバーの動きによってハウジング内に生じる空気圧をどう制御するかというのは大きなポイントだ。例外的なモデルを除いてはポート、空気孔からその圧力を逃し、そのポートの位置や大きさなどで音質チューニングも行っている。
そこにこのモデルは「Airflow Control Port」という技術を投入してきた。ハウジング内から外に向かう通気経路にチューブを使っている。おそらく、単なる穴ではなくチューブにすることでハウジング内の取り回しの自由度、太さと長さの設定の幅を広げ、その幅をフル活用してチューニングを行ったということではないだろうか。「引き締まった低音と分離したクリアな中音」という狙いでチューニングしてあるとのこと。後で述べるが、実際その狙い通りの音に仕上げられている。