公開日 2018/09/03 05:45
<IFA>数字だけの8Kより、作り込んだ4K。ソニー新有機EL「AF9」が見せる至上の立体感
サウンドの向上にも注目
4K液晶テレビ「ZF9」とともにIFAでソニーが公開したBRAVIA Masterシリーズのもう一つの新製品が、4K有機ELテレビのフラグシップ「AF9」(関連ニュース)である。映像エンジンはZF9と同様にX1 Ultimateを積み、アコースティックサーフェスを新たにセンタースピーカーモードに対応させるなど、映像と音響の両方で進化を遂げたというのがソニーの主張。そのクオリティをブースでじっくり検証した。
日本だけでなく欧州でも、大型テレビにおける4K有機ELテレビの構成比は著しく伸長しており、AV機器のなかでも注目度の高さは他の追随を許さない。ZF9のレポートでも紹介した通り、ソニーは4K液晶テレビにもフラグシップ機を投入して旺盛な開発姿勢を示しているが、その一方で4K有機ELテレビの開発スピードを緩めたわけではなく、トップエンドのAF9を完成させた。遠くない時期に日本国内仕様の価格や発売時期も明らかにされるはずだが、まずは欧州向けモデルの映像で進化の内容を確認してみよう。
新しい映像プロセッサー「X1 Ultimate」は処理速度を2倍に上げることでリアルタイムの演算量を高め、オブジェクト型超解像の導入やコントラスト改善技術「HDRリマスター」の完成度も高めるなど、複数の信号処理を同時に高速でこなす能力を獲得した。特にオブジェクト型超解像は被写体映像の特徴を詳細に検出して同じような特徴を持つエリアをグルーピングする技術であり、それぞれのグループに対して超解像やノイズリダクションの処理を最適化し、誤検出による違和感の発生を大幅に減らすことを狙っている。
その成果は実際の画像からも確実に読み取ることができる。ぶどうの一粒まで検出可能という例がよく紹介されているが、風景や人物など多様な被写体で構成された実際の映像は細部まで変化に富み、刻々と変化する動画でも高い検出精度が要求される。
会場のデモ機に映し出された映像ソースは人物から風景までバリエーションが豊富で、明暗の分布やコントラストのレンジも大きく異なる。そうした複数の映像ソースから共通して読み取れる特徴の一つが「違和感のない自然な描写」である。特にIFAのようなイベント会場での有機ELのデモンストレーション映像は、見た瞬間のインパクトを重視した派手な例が目立つのだが、AF9に映し出されている映像はディテール情報が豊富な建築や自然の描写でもエッジを際立たせることがない。その一方で実際に人間の目でみているような自然な立体感が感じられ、わずかな遠近の差をも忠実に描写していることに気付く。
今年のIFAでは8Kディスプレイも大きな話題になっているが、解像度を上げただけで遠近感を引き出せるわけではないことを思い知らされるような映像が多く、なんのための8Kなのかよくわからない展示にも遭遇する。しかも、それはけっして極端な例ではない。ディスプレイの性能を判断する指標が相変わらず解像度偏重になる傾向は、特に海外では依然として強く、個々の被写体一つ一つの階調とコントラストを忠実に再現することで立体感や遠近感を表現するというアプローチはむしろ少数派と言っていい。
そんな環境だからこそ、AF9が見せるあざとさのない立体感豊かな映像はかえって目立っているように感じられた。
暗部の正確な色再現や階調再現をどこまで引き出せるかという点も、有機ELの画質を判断するうえで重要な指標の一つである。展示ブースは暗室環境ではないので最暗部の明暗表現や色の正確さを判断するのは難しいのだが、室内シーンをとらえた映像の肌色表現など、一部の映像から本機のポテンシャルの高さをうかがうことができた。
特にHDR映像で肌の立体感をなめらかに再現することや、最暗部の階調を犠牲にすることなくぎりぎりまで粘る様子を見ると、階調表現についても従来機から確実な進化を遂げていることに気付くはずだ。一瞬見ただけではなかなか気付きにくいような微妙な部分も少なくないのだが、会場では特定の場面を繰り返し流すことが多いので、しばらく見続けることで違いが浮かび上がってくる。
アコースティックサーフェスについては、アクチュエーターを中央にも配置して音の密度と定位感を向上させ、サブウーファーの構成を変更することで低音域の開放感を改善したことが重要な改善ポイントである。その性能を活かすため、外部スピーカーと組み合わせたときにAF9をセンタースピーカーとして利用する機能が追加されたのだが、その効果を確認するための専用ルームが今回はブース内に用意されていた。
センタースピーカーモードをオン・オフしたときの音の違いは、映画のセリフの描写が一番わかりやすい。オンにすると画面の位置に明瞭な声の音像が定位して、音楽や効果音の音圧が上がってもセリフをはっきり聴き取ることができる。画面に対して斜めの位置から見たときだけでなく、正面から聴いても実音像が画面の位置にあるメリットは明らかで、とてもわかりやすい効果を確認することができた。
AF9単体での再生音も予想以上の進化を遂げている。エフェクトや音楽に注意を向けると、低音の立ち上がりと伸びやかさが従来モデルに比べて向上していることに気付くのだ。それには強化されたアンプの性能も寄与しているはずだが、サブウーファーのユニットを追加してツイン構成とし、横に向けてエネルギーを放射する構造を採用したことも効果を発揮しているように感じられた。
本機が国内で発売されたときは、センタースピーカーモードの効果だけでなく、低音の質感やスピード感の変化にも注意しながら音質を確認することをお薦めする。
(山之内 正)
日本だけでなく欧州でも、大型テレビにおける4K有機ELテレビの構成比は著しく伸長しており、AV機器のなかでも注目度の高さは他の追随を許さない。ZF9のレポートでも紹介した通り、ソニーは4K液晶テレビにもフラグシップ機を投入して旺盛な開発姿勢を示しているが、その一方で4K有機ELテレビの開発スピードを緩めたわけではなく、トップエンドのAF9を完成させた。遠くない時期に日本国内仕様の価格や発売時期も明らかにされるはずだが、まずは欧州向けモデルの映像で進化の内容を確認してみよう。
新しい映像プロセッサー「X1 Ultimate」は処理速度を2倍に上げることでリアルタイムの演算量を高め、オブジェクト型超解像の導入やコントラスト改善技術「HDRリマスター」の完成度も高めるなど、複数の信号処理を同時に高速でこなす能力を獲得した。特にオブジェクト型超解像は被写体映像の特徴を詳細に検出して同じような特徴を持つエリアをグルーピングする技術であり、それぞれのグループに対して超解像やノイズリダクションの処理を最適化し、誤検出による違和感の発生を大幅に減らすことを狙っている。
その成果は実際の画像からも確実に読み取ることができる。ぶどうの一粒まで検出可能という例がよく紹介されているが、風景や人物など多様な被写体で構成された実際の映像は細部まで変化に富み、刻々と変化する動画でも高い検出精度が要求される。
会場のデモ機に映し出された映像ソースは人物から風景までバリエーションが豊富で、明暗の分布やコントラストのレンジも大きく異なる。そうした複数の映像ソースから共通して読み取れる特徴の一つが「違和感のない自然な描写」である。特にIFAのようなイベント会場での有機ELのデモンストレーション映像は、見た瞬間のインパクトを重視した派手な例が目立つのだが、AF9に映し出されている映像はディテール情報が豊富な建築や自然の描写でもエッジを際立たせることがない。その一方で実際に人間の目でみているような自然な立体感が感じられ、わずかな遠近の差をも忠実に描写していることに気付く。
今年のIFAでは8Kディスプレイも大きな話題になっているが、解像度を上げただけで遠近感を引き出せるわけではないことを思い知らされるような映像が多く、なんのための8Kなのかよくわからない展示にも遭遇する。しかも、それはけっして極端な例ではない。ディスプレイの性能を判断する指標が相変わらず解像度偏重になる傾向は、特に海外では依然として強く、個々の被写体一つ一つの階調とコントラストを忠実に再現することで立体感や遠近感を表現するというアプローチはむしろ少数派と言っていい。
そんな環境だからこそ、AF9が見せるあざとさのない立体感豊かな映像はかえって目立っているように感じられた。
暗部の正確な色再現や階調再現をどこまで引き出せるかという点も、有機ELの画質を判断するうえで重要な指標の一つである。展示ブースは暗室環境ではないので最暗部の明暗表現や色の正確さを判断するのは難しいのだが、室内シーンをとらえた映像の肌色表現など、一部の映像から本機のポテンシャルの高さをうかがうことができた。
特にHDR映像で肌の立体感をなめらかに再現することや、最暗部の階調を犠牲にすることなくぎりぎりまで粘る様子を見ると、階調表現についても従来機から確実な進化を遂げていることに気付くはずだ。一瞬見ただけではなかなか気付きにくいような微妙な部分も少なくないのだが、会場では特定の場面を繰り返し流すことが多いので、しばらく見続けることで違いが浮かび上がってくる。
アコースティックサーフェスについては、アクチュエーターを中央にも配置して音の密度と定位感を向上させ、サブウーファーの構成を変更することで低音域の開放感を改善したことが重要な改善ポイントである。その性能を活かすため、外部スピーカーと組み合わせたときにAF9をセンタースピーカーとして利用する機能が追加されたのだが、その効果を確認するための専用ルームが今回はブース内に用意されていた。
センタースピーカーモードをオン・オフしたときの音の違いは、映画のセリフの描写が一番わかりやすい。オンにすると画面の位置に明瞭な声の音像が定位して、音楽や効果音の音圧が上がってもセリフをはっきり聴き取ることができる。画面に対して斜めの位置から見たときだけでなく、正面から聴いても実音像が画面の位置にあるメリットは明らかで、とてもわかりやすい効果を確認することができた。
AF9単体での再生音も予想以上の進化を遂げている。エフェクトや音楽に注意を向けると、低音の立ち上がりと伸びやかさが従来モデルに比べて向上していることに気付くのだ。それには強化されたアンプの性能も寄与しているはずだが、サブウーファーのユニットを追加してツイン構成とし、横に向けてエネルギーを放射する構造を採用したことも効果を発揮しているように感じられた。
本機が国内で発売されたときは、センタースピーカーモードの効果だけでなく、低音の質感やスピード感の変化にも注意しながら音質を確認することをお薦めする。
(山之内 正)