公開日 2020/01/16 06:30
テクニクス最上位イヤホン「EAH-TZ700」は “現代の名機” だ! 50数年の技術が小型筐体に凝縮
【特別企画】あえてこだわったダイナミック型の可能性
高級機ながらダイナミック型ドライバー1発のみの潔い仕様で注目されている、テクニクスのカナル型イヤホン「EAH-TZ700」。新生テクニクスとしては初のイヤホンということもあり、リスナーから高い関心が寄せられている。
テクニクスブランドは、ハイファイオーディオだけでなく、ポータブルオーディオにも今回の「EAH-TZ700」の発売を皮切りに力を入れているが、テクニクスのイヤホンは松下電器産業時代にさかのぼると、1990年頃のカタログまで存在していた。このときラインナップされていた「RP-HV100」「RP-HV70」「RP-HV50」を最後に一旦その幕を閉じ、長らくパナソニックブランドで展開してきたのである。
■規格外のウーファーを搭載したかつてのハイエンド「RP-HV100」
30年前に販売されていたテクニクスのイヤホン「RP-HV100」「RP-HV70」「RP-HV50」はオープンイヤー型2ウェイモデルとなっており、当時の市場の中でも非常に個性的かつ、音質への強いこだわりが感じられた。
オープンイヤー型の良さは開放的な聴こえ方にあるが、一方で密閉度が足りないため、豊かな低音を響かせるのには難しい側面があった。そこで導き出した回答の一つが、RP-HV100やRP-HV70で採用された19mmウーファーだ。
現代のイヤホンは、大口径なものでも16mm程度が最大ということを考えると、19mmというのはまさに規格外の大きさだ。低音の豊かさが得られる反面、筐体が大きくなるため装着性に難があり、その音質を全てのリスナーに届けられたかどうか、いささか疑問が残る。
ところで、筆者がイヤホン/ヘッドホンにはまるきっかけが、まさにこのRP-HV100だった。外観はボロボロであるものの、今もその音を聴くことはできる。その後RP-HV70、RP-HV50も入手し、現在でも時々かつてのテクニクスイヤホンの音を楽しんでいるが、RP-HV70は19mmウーファーが繰り出す豊かな低域を全面に押し出した傾向であり、RP-HV100になると高域の煌びやかさ、ヌケの良さが加わり、バランスの取れたゴージャスなサウンドを味わえる。RP-HV100は1万円、RP-HV70が7500円という価格だったが、当時のイヤホンとしては非常に高値であった。
テクニクスのイヤホンというと、このRP-HV100を思い浮かべ、その再来を願ってやまない熱烈なファンも少なからず存在するはず。しかしEAH-TZ700には30年の歳月を超え、現在の市場に寄り添うために開発されたテクノロジーが内包されており、かつてのサウンドを超えるクオリティを有している。まさに積年の想いを昇華したハイエンドイヤホンといえるだろう。
■新モデルはなぜ「ダイナミック一発」を選択したのか?
現在、イヤホンの世界は百花繚乱であり、ドライバーの種類やその個数、ハウジング形状においても多様さを極めている。
テクニクスでは、旧来のモデルを超え、頂点に立つイヤホンを開発するにあたり、複数のユニットを用いるマルチウェイや、ダイナミック型とバランスド・アーマチュア(以下、BA)型のハイブリッド方式は選ばず、ダイナミックドライバー1発という構成を選択した。
さらに誰もが快適に装着できるサイズや形状を追求し、コンパクトな筐体設計を取り入れた。これは前述したRP-HV100とは正反対の構成であり、良い意味で裏切られたように感じた次第だ。
では「なぜ1発のダイナミック型ドライバーを選択したのか」ということだが、BA型ドライバーは構造的に共振の影響を避けられず、歪みを生みやすい。いくら複数のドライバーを用いてもその影響を消し去ることができないばかりか、クロスオーバーネットワークによる位相管理の難しさ、使用するパッシブな素子の影響も加わってくる。結果として定位のズレや音像の滲み、音質の違和感に繋がるのだ。
ダイナミック型ドライバー1発の場合、そうした問題を一気に解消できるが、超低域からハイレゾ音源に必要な超高域までをカバーするのは至難の業。単発の良さはわかっていても広帯域に渡って良質な特性を得ることは難しいため、BA型ドライバーやもう1基ダイナミック型ドライバーを加えるなど、各社工夫を凝らしているのが実情だ。
しかしテクニクスは、このダイナミック型ドライバーそのものにメスを入れ、1基でも十分な広帯域特性を実現できる「プレシジョンモーションドライバー」を開発し、数々の難しい課題を克服したのである。
テクニクスブランドは、ハイファイオーディオだけでなく、ポータブルオーディオにも今回の「EAH-TZ700」の発売を皮切りに力を入れているが、テクニクスのイヤホンは松下電器産業時代にさかのぼると、1990年頃のカタログまで存在していた。このときラインナップされていた「RP-HV100」「RP-HV70」「RP-HV50」を最後に一旦その幕を閉じ、長らくパナソニックブランドで展開してきたのである。
■規格外のウーファーを搭載したかつてのハイエンド「RP-HV100」
30年前に販売されていたテクニクスのイヤホン「RP-HV100」「RP-HV70」「RP-HV50」はオープンイヤー型2ウェイモデルとなっており、当時の市場の中でも非常に個性的かつ、音質への強いこだわりが感じられた。
オープンイヤー型の良さは開放的な聴こえ方にあるが、一方で密閉度が足りないため、豊かな低音を響かせるのには難しい側面があった。そこで導き出した回答の一つが、RP-HV100やRP-HV70で採用された19mmウーファーだ。
現代のイヤホンは、大口径なものでも16mm程度が最大ということを考えると、19mmというのはまさに規格外の大きさだ。低音の豊かさが得られる反面、筐体が大きくなるため装着性に難があり、その音質を全てのリスナーに届けられたかどうか、いささか疑問が残る。
ところで、筆者がイヤホン/ヘッドホンにはまるきっかけが、まさにこのRP-HV100だった。外観はボロボロであるものの、今もその音を聴くことはできる。その後RP-HV70、RP-HV50も入手し、現在でも時々かつてのテクニクスイヤホンの音を楽しんでいるが、RP-HV70は19mmウーファーが繰り出す豊かな低域を全面に押し出した傾向であり、RP-HV100になると高域の煌びやかさ、ヌケの良さが加わり、バランスの取れたゴージャスなサウンドを味わえる。RP-HV100は1万円、RP-HV70が7500円という価格だったが、当時のイヤホンとしては非常に高値であった。
テクニクスのイヤホンというと、このRP-HV100を思い浮かべ、その再来を願ってやまない熱烈なファンも少なからず存在するはず。しかしEAH-TZ700には30年の歳月を超え、現在の市場に寄り添うために開発されたテクノロジーが内包されており、かつてのサウンドを超えるクオリティを有している。まさに積年の想いを昇華したハイエンドイヤホンといえるだろう。
■新モデルはなぜ「ダイナミック一発」を選択したのか?
現在、イヤホンの世界は百花繚乱であり、ドライバーの種類やその個数、ハウジング形状においても多様さを極めている。
テクニクスでは、旧来のモデルを超え、頂点に立つイヤホンを開発するにあたり、複数のユニットを用いるマルチウェイや、ダイナミック型とバランスド・アーマチュア(以下、BA)型のハイブリッド方式は選ばず、ダイナミックドライバー1発という構成を選択した。
さらに誰もが快適に装着できるサイズや形状を追求し、コンパクトな筐体設計を取り入れた。これは前述したRP-HV100とは正反対の構成であり、良い意味で裏切られたように感じた次第だ。
では「なぜ1発のダイナミック型ドライバーを選択したのか」ということだが、BA型ドライバーは構造的に共振の影響を避けられず、歪みを生みやすい。いくら複数のドライバーを用いてもその影響を消し去ることができないばかりか、クロスオーバーネットワークによる位相管理の難しさ、使用するパッシブな素子の影響も加わってくる。結果として定位のズレや音像の滲み、音質の違和感に繋がるのだ。
ダイナミック型ドライバー1発の場合、そうした問題を一気に解消できるが、超低域からハイレゾ音源に必要な超高域までをカバーするのは至難の業。単発の良さはわかっていても広帯域に渡って良質な特性を得ることは難しいため、BA型ドライバーやもう1基ダイナミック型ドライバーを加えるなど、各社工夫を凝らしているのが実情だ。
しかしテクニクスは、このダイナミック型ドライバーそのものにメスを入れ、1基でも十分な広帯域特性を実現できる「プレシジョンモーションドライバー」を開発し、数々の難しい課題を克服したのである。
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