公開日 2020/12/01 06:30
ラックスマン「D-10X」はメディアの違いを正確に描き分ける。名演奏に新たな息吹を吹き込むSACDプレーヤー
【特別企画】オーディオ銘機賞2021金賞受賞
■ラックスマンのD-10Xで、聴き慣れたソフトから新しい発見を
新しいオーディオ製品を手に入れると気分が高揚するのは、いつもの曲がこれまでと違う音で鳴るからだ。ヴォーカルはいままで聴いたなかで一番なめらかだとか、ベースがこんなに軽やかに動くのは初めて聴いたという具合に、新鮮な体験を提供してくれる。隠れていた魅力を引き出してくれるアンプやスピーカーが見つかったときは、その出会いに思わず感謝してしまう。
プレーヤーの場合は、いつものディスクから違う表情が浮かぶ。優れた製品なら、同じ演奏のマスタリングの違いやメディアの差まで忠実に描き分けるはずだ。
最近は、同じ音源がマスタリングの異なるディスクで何度も登場する。名盤が多いのでつい買い足してしまうが、差が分からないとがっかりし、納得のいく違いが聴き取れれば大満足。音にこだわる音楽ファンはそれを何度も繰り返してきた。ディスクごとの音の違いを正確に鳴らし分けるプレーヤーを手に入れれば、見極めはもっと楽になるに違いない。
ラックスマンのD-10Xを初めて聴いたとき、CDとSACDの差やマスタリングの違いがよく分かるプレーヤーだと直感した。MQA対応も重要な進化のひとつだが、もっと大切なのは既存のCDとMQA-CDの差を正確に鳴らし分けることだ。私の直感が正しいかどうか、高音質盤やリマスタリング盤を聴き比べて、D-10Xの真価を確かめたくなった。
D-10Xをじっくり聴いてみたいと思ったのは、ロームが開発したハイエンドDAC「BD34301EKV」のパフォーマンスを確認してみたいという理由もある。デバイスメーカーには珍しく、音楽表現にまで踏み込んで音をチューニングしたという「MUS-IC」。今回が初採用となるこのDACの特徴をD-10Xがどこまで引き出しているのか、名盤中の名盤を厳選して聴いてみることにした。
まとまった数のディスクをラックスマンの試聴室に持ち込み、同社のフラッグシップ級アンプとフォーカルのScala Utopia Evoを組み合わせたシステムにD-10Xをつないで早速聴き始めた。
■《ブルー・トレイン》の聴き比べでは、マスタリング差も含め予想以上の違いが表出
D-10Xで聴き比べる最初の音源にはジョン・コルトレーンの《ブルー・トレイン》を選んだ。今回はトラック1のタイトル曲を再生する。ブルーノートレーベルに一枚だけ残したコルトレーン31歳のときのリーダーアルバムで、コルトレーンのテナーサックスにリー・モーガン(tp)、カーティス・フラー(tb)を加えた3管編成。そこにケニー・ドリュー(p)、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(dr)が加わっている。
今回はルディ・ヴァン・ゲルダー(RVG)エディションのCD、エソテリックのブルーノートのボックスセット「6 Great Jazz」に収められたSACD、ハイレゾCD名盤シリーズで登場したMQA-CDの3枚を用意した。CDはヴァン・ゲルダー自身による2003年のリマスター盤、エソテリックのSACDはオリジナルマスターからのDSDリマスタリング、そしてMQA-CDは2017年のDSDマスターを352.8kHz/24bitに変換してMQAエンコードした音源を記録している。いずれもステレオマスターだ。
3枚のディスクはそれぞれ良いところがあるとはいえ、音の違いは想像していたよりもずっと大きかった。CDはサックスが他の2枚よりも中央寄りに大きめのイメージで定位し、ソロのプレイでは力強さが際立つ。トランペットもそうだが、息を強く吹き込んだときの高音に勢いが乗って、耳のすぐ手前まで音が迫ってくるような浸透力だ。エコーの有無で音色は大きく変わるが、前後の動きはあまり出てこない。
この盤はRVGエディションの前にもCD化されているが、それよりも音に実在感があり、鮮烈な音に生まれ変わっている。D-10XがRVGエディションの良い部分を際立たせているのではと考えたくなるほど、60年以上も前の録音なのに驚くばかりの鮮度の高さがある。ピアノを含むサポートはセパレーションよりも渾然一体としたまとまりの良さが前面に出る。
次にSACDを聴くと、冒頭の3ホーンのユニゾンから楽器のセパレーションの良さが際立ち、サックスは左チャンネルに鮮明な音像が定位、ピアノとドラムも楽器の位置がピタリと定まる。さらに霧が晴れたような見通しの良さがあり、一音一音のアタックが鋭いことにも感心した。テナーサックスはブレス以外の場所でも要所でアクセントが付き、コルトレーンの個性的なフレージングが聴き取れるが、モーガンのトランペットは引っかかりがなくなめらかだ。プレイヤーごとの個性はSACDが一番よく分かる。
MQA-CDのセパレーションはSACDに近いが、サックスとトランペットの音色が少し柔らかく、半歩下がったような落ち着いたスタンスに聴こえる。もう少し前に出てほしいと思うフレーズでも、微妙に遠慮しているかのようだ。メディアの違いに応じて音量を揃えて聴いているのだが、それを超える音量に上げても印象はあまり変わらない。一方、トランペットのマウスピースからの息漏れをリアルに再現したり、ピアノの左手のコードがにごらないなど、SACDと共通の抜けの良さには好感を持った。
今回聴いた3枚から筆者の好みであえて一枚に絞り込むなら、RVGエディションのCDを選ぶ。かなり作り込んだ音だとは思うが、聴き手が聴きたいサウンドに近付ける姿勢に共感した。
新しいオーディオ製品を手に入れると気分が高揚するのは、いつもの曲がこれまでと違う音で鳴るからだ。ヴォーカルはいままで聴いたなかで一番なめらかだとか、ベースがこんなに軽やかに動くのは初めて聴いたという具合に、新鮮な体験を提供してくれる。隠れていた魅力を引き出してくれるアンプやスピーカーが見つかったときは、その出会いに思わず感謝してしまう。
プレーヤーの場合は、いつものディスクから違う表情が浮かぶ。優れた製品なら、同じ演奏のマスタリングの違いやメディアの差まで忠実に描き分けるはずだ。
最近は、同じ音源がマスタリングの異なるディスクで何度も登場する。名盤が多いのでつい買い足してしまうが、差が分からないとがっかりし、納得のいく違いが聴き取れれば大満足。音にこだわる音楽ファンはそれを何度も繰り返してきた。ディスクごとの音の違いを正確に鳴らし分けるプレーヤーを手に入れれば、見極めはもっと楽になるに違いない。
ラックスマンのD-10Xを初めて聴いたとき、CDとSACDの差やマスタリングの違いがよく分かるプレーヤーだと直感した。MQA対応も重要な進化のひとつだが、もっと大切なのは既存のCDとMQA-CDの差を正確に鳴らし分けることだ。私の直感が正しいかどうか、高音質盤やリマスタリング盤を聴き比べて、D-10Xの真価を確かめたくなった。
D-10Xをじっくり聴いてみたいと思ったのは、ロームが開発したハイエンドDAC「BD34301EKV」のパフォーマンスを確認してみたいという理由もある。デバイスメーカーには珍しく、音楽表現にまで踏み込んで音をチューニングしたという「MUS-IC」。今回が初採用となるこのDACの特徴をD-10Xがどこまで引き出しているのか、名盤中の名盤を厳選して聴いてみることにした。
まとまった数のディスクをラックスマンの試聴室に持ち込み、同社のフラッグシップ級アンプとフォーカルのScala Utopia Evoを組み合わせたシステムにD-10Xをつないで早速聴き始めた。
■《ブルー・トレイン》の聴き比べでは、マスタリング差も含め予想以上の違いが表出
D-10Xで聴き比べる最初の音源にはジョン・コルトレーンの《ブルー・トレイン》を選んだ。今回はトラック1のタイトル曲を再生する。ブルーノートレーベルに一枚だけ残したコルトレーン31歳のときのリーダーアルバムで、コルトレーンのテナーサックスにリー・モーガン(tp)、カーティス・フラー(tb)を加えた3管編成。そこにケニー・ドリュー(p)、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(dr)が加わっている。
今回はルディ・ヴァン・ゲルダー(RVG)エディションのCD、エソテリックのブルーノートのボックスセット「6 Great Jazz」に収められたSACD、ハイレゾCD名盤シリーズで登場したMQA-CDの3枚を用意した。CDはヴァン・ゲルダー自身による2003年のリマスター盤、エソテリックのSACDはオリジナルマスターからのDSDリマスタリング、そしてMQA-CDは2017年のDSDマスターを352.8kHz/24bitに変換してMQAエンコードした音源を記録している。いずれもステレオマスターだ。
3枚のディスクはそれぞれ良いところがあるとはいえ、音の違いは想像していたよりもずっと大きかった。CDはサックスが他の2枚よりも中央寄りに大きめのイメージで定位し、ソロのプレイでは力強さが際立つ。トランペットもそうだが、息を強く吹き込んだときの高音に勢いが乗って、耳のすぐ手前まで音が迫ってくるような浸透力だ。エコーの有無で音色は大きく変わるが、前後の動きはあまり出てこない。
この盤はRVGエディションの前にもCD化されているが、それよりも音に実在感があり、鮮烈な音に生まれ変わっている。D-10XがRVGエディションの良い部分を際立たせているのではと考えたくなるほど、60年以上も前の録音なのに驚くばかりの鮮度の高さがある。ピアノを含むサポートはセパレーションよりも渾然一体としたまとまりの良さが前面に出る。
次にSACDを聴くと、冒頭の3ホーンのユニゾンから楽器のセパレーションの良さが際立ち、サックスは左チャンネルに鮮明な音像が定位、ピアノとドラムも楽器の位置がピタリと定まる。さらに霧が晴れたような見通しの良さがあり、一音一音のアタックが鋭いことにも感心した。テナーサックスはブレス以外の場所でも要所でアクセントが付き、コルトレーンの個性的なフレージングが聴き取れるが、モーガンのトランペットは引っかかりがなくなめらかだ。プレイヤーごとの個性はSACDが一番よく分かる。
MQA-CDのセパレーションはSACDに近いが、サックスとトランペットの音色が少し柔らかく、半歩下がったような落ち着いたスタンスに聴こえる。もう少し前に出てほしいと思うフレーズでも、微妙に遠慮しているかのようだ。メディアの違いに応じて音量を揃えて聴いているのだが、それを超える音量に上げても印象はあまり変わらない。一方、トランペットのマウスピースからの息漏れをリアルに再現したり、ピアノの左手のコードがにごらないなど、SACDと共通の抜けの良さには好感を持った。
今回聴いた3枚から筆者の好みであえて一枚に絞り込むなら、RVGエディションのCDを選ぶ。かなり作り込んだ音だとは思うが、聴き手が聴きたいサウンドに近付ける姿勢に共感した。