公開日 2022/11/17 06:35
壮絶な空間描写、そして静寂。エソテリック初のアナログプレーヤー「Grandioso T1」は演奏家の想いを映す鏡
【特別企画】オーディオ銘機賞2023 <金賞>受賞モデル
今年の東京インターナショナルオーディオショウでも話題を集めたエソテリック初のアナログプレーヤー「Grandioso T1」。独自の非接触ドライブ方式「ESOTERIC MagneDrive System」や「マグネフロート方式プラッター」、モータードライバーの「10MHz クロックシンク」など、同ブランドの最新技術を投入。今年のオーディオ銘機賞2023にて「金賞」を受賞したそのサウンドを角田郁雄氏が解説する。
暫時、静けさ極まる空間。やがて、いつもとは違い、木質感と膨らみのある弦楽の響きが、この部屋を広げたがごとく、壮絶を極め空間描写された。続く鮮烈な金管楽器はこの上なく眩しく、ティンパニによる雷鳴は、大地を打ちつけ、風を巻き上げるがごとく響き渡った。キリステン・フラグスタッドの深みのある声は、いつにも増して歌唱の臨場感を鮮明にし、生々しく迫ってくる。
これは、クナパーツブッシュ指揮ウィーン・フィルによるワーグナーの『ワルキューレ第一場』を再生した印象だ。この濁りなき弱音と壮絶な強音を、これほどに目の覚めるほどの重心の低い、高解像度広帯域再生で聴いたのは、おそらく初めてだ。
続いて、ECMレーベルのトルド・グスタフセン・トリオによる『The Other Days』を再生した。ピアノの一音一音は、真珠のように柔らかな輝きを示し、ドラムスやシンバルの響きは、打音した表面あるいは金属の質感までも再現し、その絶妙なタッチによる演奏に魅了される。それはベースも同じく。このトリオの一期一会の演奏の素晴らしさをあたかも眼前の生演奏のように満喫させてくれた。ECMの「静寂の次に美しい音」とは、このことだと知らされた。
こうした音楽を奏でてくれたのは、エソテリックが長年、開発研究と試作を重ねたアナログプレーヤー、Grandioso T1だ。
おそらく誰もが感動するのは、その姿であろう。ハイグレード・アルミ材などを多用し、美しさと重厚さを両立したデザインは気品に満ちている。まさにオーディオ製品の枠を超え、アートの域に到達した印象を私は受けている。
その搭載技術を紹介しよう。本体キャビネットはウッド材をアルミボードでサンドイッチした、各レイヤー間の相互振動伝達を抑える構造。強固な大型アルミフットで全体を支えている。サイズは一般的なオーディオラックのトップボードに設置可能で、重量は45kg。アルミ合金ブロックを精密切削したプラッターの重量は19kg。
特筆すべきことは、世界的にも類を見ないユニークな駆動方式だ。現在は、ベルトドライブとダイレクトドライブ(DD)という方式が駆動の主役となり、往年のプレーヤーではリム・ドライブ方式を採用。各ブランドがこれらの方式に独自の工夫を行ってきた。その駆動方式に関しては賛否両論があり、どちらに優位性があるのか、見極めるのは困難。愛好家も好みで選択していることだろう。
対して同社は、これらの駆動方式を根本から見直し、理想の駆動方式を研究したようだ。それは、DDおよびベルト駆動のモーターとは、機械的、電気的に縁を切り、ベルトを使用せず、磁力を使用し重量級プラッターを回転させることを理想と考えたことだ。これが、驚愕のエソテリック・マグネドライブ・システムだ(特許取得済み)。
では、どのように駆動しているか説明しよう。フロントのディスプレイのついた部分は、実はモーター駆動ユニット。4点支持のキャビネット(ベース部)とは非接触でプレーヤーに設置される。このモーターのプーリーには、NとS極の磁石が各9個交互に装着され、合計18極のマグネティックドライバーを構成。
一方、プラッター下部の円周上には、歯車のような、軟鉄による凹凸を162式設置した。これをマグネティック・インダクション・ホイールと呼び、前述の18極のマグネティックドライバーとわずかな間隙を設け、非接触で同ドライバーが近接回転すると、その磁力によりプラッターが回転する仕組みだ。
なお、このマグネティックドライバーが9回転すると、プラッターが1回転するとのこと。さらに驚いたことは、何とプラッターとマグネティックドライバーの距離も微調整が可能であり、あたかもベルトドライブ方式のベルトの張度を変えた時のように音質が変化する。接近させれば音の立ち上がりが強めになり、離せばアタック感を強調しない自然な立ち上がりの音質となる。
プレーヤーで重要な軸構造も巧みだ。この19kgプラッターを支えるセンター軸は、独立した軸筐体内に収容され、上向きに配置される。プラッターをこの上向きの軸に被せるように設置する方式だ。ユニークなことは、この軸筐体の底面に円形磁石を設置し、軸下部にも円形磁石を設置し、その磁力の反発でプラッターを浮かせていることだ。
しかし、実際に試作試聴を重ねた結果ところ完全に浮かせず、15kgの重量を浮かし、4kgを軸荷重させ、軸負担、軸摩擦を低減させて、高S/Nを実現。この方が音質が良好であったとのこと。
モーター駆動のためには、専用外部電源部が必要。その方式もまったく予想すらできないほど独創的だ。PWM制御の3相ブラシレスモーターを高精度な正弦波で駆動させるために、PWM制御に10MHzマスタークロックジェネレーター、Grandioso G1Xを接続可能にした。これは開発段階で、クロック接続の有無や接続するクロックジェネレーターの種類で音質が変わることを体験したからだ。本機には、こうした唯一無二と言える独創的な技術が搭載されている。
なお、新開発の専用ダイナミック・バランス・トーンアームも搭載可能。音質は冒頭のとおりだ。使い慣れたカートリッジから本来の音を発見することだろうし、往年の名演奏盤を再生するなら、オーディオ的なことは忘れ、演奏家が蘇ったかのような、音楽を再現するであろう。作品によっては、演奏の思いまでも鏡のように再現するであろう。
本機は、このように、卓越した再生力を備え、その作り込みはアートの域に到達したように思える。
(提供:エソテリック)
本記事は『季刊・analog vol.77』からの転載です。
目の覚めるほど低重心で、高解像度広帯域な再生
暫時、静けさ極まる空間。やがて、いつもとは違い、木質感と膨らみのある弦楽の響きが、この部屋を広げたがごとく、壮絶を極め空間描写された。続く鮮烈な金管楽器はこの上なく眩しく、ティンパニによる雷鳴は、大地を打ちつけ、風を巻き上げるがごとく響き渡った。キリステン・フラグスタッドの深みのある声は、いつにも増して歌唱の臨場感を鮮明にし、生々しく迫ってくる。
これは、クナパーツブッシュ指揮ウィーン・フィルによるワーグナーの『ワルキューレ第一場』を再生した印象だ。この濁りなき弱音と壮絶な強音を、これほどに目の覚めるほどの重心の低い、高解像度広帯域再生で聴いたのは、おそらく初めてだ。
続いて、ECMレーベルのトルド・グスタフセン・トリオによる『The Other Days』を再生した。ピアノの一音一音は、真珠のように柔らかな輝きを示し、ドラムスやシンバルの響きは、打音した表面あるいは金属の質感までも再現し、その絶妙なタッチによる演奏に魅了される。それはベースも同じく。このトリオの一期一会の演奏の素晴らしさをあたかも眼前の生演奏のように満喫させてくれた。ECMの「静寂の次に美しい音」とは、このことだと知らされた。
ユニークな駆動方式など、長年の研究開発の末生まれたアナログプレーヤー
こうした音楽を奏でてくれたのは、エソテリックが長年、開発研究と試作を重ねたアナログプレーヤー、Grandioso T1だ。
おそらく誰もが感動するのは、その姿であろう。ハイグレード・アルミ材などを多用し、美しさと重厚さを両立したデザインは気品に満ちている。まさにオーディオ製品の枠を超え、アートの域に到達した印象を私は受けている。
その搭載技術を紹介しよう。本体キャビネットはウッド材をアルミボードでサンドイッチした、各レイヤー間の相互振動伝達を抑える構造。強固な大型アルミフットで全体を支えている。サイズは一般的なオーディオラックのトップボードに設置可能で、重量は45kg。アルミ合金ブロックを精密切削したプラッターの重量は19kg。
特筆すべきことは、世界的にも類を見ないユニークな駆動方式だ。現在は、ベルトドライブとダイレクトドライブ(DD)という方式が駆動の主役となり、往年のプレーヤーではリム・ドライブ方式を採用。各ブランドがこれらの方式に独自の工夫を行ってきた。その駆動方式に関しては賛否両論があり、どちらに優位性があるのか、見極めるのは困難。愛好家も好みで選択していることだろう。
対して同社は、これらの駆動方式を根本から見直し、理想の駆動方式を研究したようだ。それは、DDおよびベルト駆動のモーターとは、機械的、電気的に縁を切り、ベルトを使用せず、磁力を使用し重量級プラッターを回転させることを理想と考えたことだ。これが、驚愕のエソテリック・マグネドライブ・システムだ(特許取得済み)。
18極の磁力でプラッターを回転。距離による音質調整も可能
では、どのように駆動しているか説明しよう。フロントのディスプレイのついた部分は、実はモーター駆動ユニット。4点支持のキャビネット(ベース部)とは非接触でプレーヤーに設置される。このモーターのプーリーには、NとS極の磁石が各9個交互に装着され、合計18極のマグネティックドライバーを構成。
一方、プラッター下部の円周上には、歯車のような、軟鉄による凹凸を162式設置した。これをマグネティック・インダクション・ホイールと呼び、前述の18極のマグネティックドライバーとわずかな間隙を設け、非接触で同ドライバーが近接回転すると、その磁力によりプラッターが回転する仕組みだ。
なお、このマグネティックドライバーが9回転すると、プラッターが1回転するとのこと。さらに驚いたことは、何とプラッターとマグネティックドライバーの距離も微調整が可能であり、あたかもベルトドライブ方式のベルトの張度を変えた時のように音質が変化する。接近させれば音の立ち上がりが強めになり、離せばアタック感を強調しない自然な立ち上がりの音質となる。
プレーヤーで重要な軸構造も巧みだ。この19kgプラッターを支えるセンター軸は、独立した軸筐体内に収容され、上向きに配置される。プラッターをこの上向きの軸に被せるように設置する方式だ。ユニークなことは、この軸筐体の底面に円形磁石を設置し、軸下部にも円形磁石を設置し、その磁力の反発でプラッターを浮かせていることだ。
しかし、実際に試作試聴を重ねた結果ところ完全に浮かせず、15kgの重量を浮かし、4kgを軸荷重させ、軸負担、軸摩擦を低減させて、高S/Nを実現。この方が音質が良好であったとのこと。
モーター駆動のためには、専用外部電源部が必要。その方式もまったく予想すらできないほど独創的だ。PWM制御の3相ブラシレスモーターを高精度な正弦波で駆動させるために、PWM制御に10MHzマスタークロックジェネレーター、Grandioso G1Xを接続可能にした。これは開発段階で、クロック接続の有無や接続するクロックジェネレーターの種類で音質が変わることを体験したからだ。本機には、こうした唯一無二と言える独創的な技術が搭載されている。
なお、新開発の専用ダイナミック・バランス・トーンアームも搭載可能。音質は冒頭のとおりだ。使い慣れたカートリッジから本来の音を発見することだろうし、往年の名演奏盤を再生するなら、オーディオ的なことは忘れ、演奏家が蘇ったかのような、音楽を再現するであろう。作品によっては、演奏の思いまでも鏡のように再現するであろう。
本機は、このように、卓越した再生力を備え、その作り込みはアートの域に到達したように思える。
(提供:エソテリック)
本記事は『季刊・analog vol.77』からの転載です。