公開日 2014/12/26 16:14
’15年の新展開に期待、“機器バインド” を解消する次世代DRM「SeeQVault」最新情報
サイバーリンクからPC用再生ソフトも
改めて振り返ってみると、4Kコンテンツの商用放送開始やHDMI 2.0/HDCP 2.2対応機器の登場、家庭用ドルビーアトモス対応製品の発売など、オーディオ&ビジュアル関連分野で次の展開が期待されるニュースが多かった2014年。開催まであと10日ほどに迫った「2015 International CES」で、どのような新発表があるのかにも注目だ。そのトピックのひとつに、2014年内にも少しずつ情報のアップデートが行われてきた次世代コンテンツ保護技術「SeeQVault(シーキューボルト)」がある。
SeeQVaultとは簡単にいうと、放送録画コンテンツの視聴環境において、従来メディアが持っていた課題のひとつ「機器バインド」を解決できる仕組みを有する規格だ。現在のところは、テレビ/レコーダーなどの録画機器やUSB-HDD、PC向けアプリなどの各対応メディアが出始めているところで、対応環境も含めて発展途上であるが、展開次第でこれからの映像視聴の楽しみ方がガラリと変わる未来も期待できる。
本記事では、2015年にこのSeeQVaultに関する何らかの新しい動きがあることを期待しながら、直近の情報アップデートなどSeeQVaultにまつわる2014年までの現状を簡単にまとめた。
■SeeQVaultの概要
SeeQVaultのライセンス提供を行っているのは、NSM INTIATIVES LLCという組織。同社は、パナソニック、サムスン、ソニー、東芝の4社によって2013年1月に米国で設立された。4社それぞれの強みを活かす形で2011年からSeeQVaultの開発に取り組み、2013年2月より同技術のライセンス提供を開始している。
SeeQVault自体は、ホームネットワーク向けの著作権保護技術であるDTCPを管理する「DTLA(Digital Transmission Licensing Administrator)」と、デジタル放送に関する規格を取り扱う一般社団法人デジタル放送推進協会(Dpa)から、記録メディアとして2013年8月に認可されている。
その特徴は、「様々な対応機器での再生互換性」と「強固なセキュリティ」を両立すること。後者のセキュリティ技術面については、SeeQVaultはコンテンツの暗号化方式に業界標準のAES暗号を採用し、対応機器と記録メディアの認証には楕円曲線暗号を用いたPKI認証を用いている。また、記録メディアに用いられるフラッシュメモリーには製造時に改ざん困難な機密性の高い固有ID(EMID)をチップごとに埋め込むことで、高度なセキュリティを確保している。
また、前者の「様々な対応機器での再生互換性」を含め、そのメリットは以下の2つがある。
【1】接続機器が変わっても、録画コンテンツを引き継いで再生できる「メディアバインド」思想
これまで、録画番組の視聴環境には制限があり、録画時に使用したテレビやレコーダーなどの個体に紐づく仕様となっていた。例えば、録画機器と接続したUSB-HDD内に保存した録画コンテンツは、録画時に使用した以外のテレビやレコーダーでは再生できなかった。つまり、テレビやレコーダーなどを買い替えた場合などには、新しい機器に録画番組を引き継いで視聴できないという問題があった。
これがいわゆる「機器バインド」と呼ばれる問題だったわけだが、SeeQVaultは著作権保護のための符号化を行いながらも、録画コンテンツを録画機器側ではなくHDDなどのメディア側に紐付ける「メディアバインド」の考え方を具体化していることが大きな特徴だ。
SeeQVault対応のテレビ/レコーダーを使って録画し、SeeQVault対応の外付けHDDに保存しているコンテンツは、録画時に使用したのとは別個体のテレビ/レコーダーであっても、それがSeeQVault対応製品であれば引き継いで再生することができる。なお、録画番組を符号化する際のフォーマットにメーカー間で違いがあることから、現時点で公式に録画番組の引き継ぎ視聴がサポートされているのは同一メーカー内のSeeQVault機器同士に限られているが、本規格の本格的な普及にあたって、このあたりがどう変化していくのか、前向きな展開を期待したいところだ。
【2】録画コンテンツをHD画質のまま様々な機器で視聴できる
もう1つの大きな特徴は、既述の通りDTLAとDpaによって記録メディアとしての認可を受けたことで、本規格に対応する様々な機器で録画コンテンツをHD画質のまま楽しめるようになったこと。これまでレコーダー内の録画コンテンツを、例えばスマートフォンなどのデバイスでHD画質のまま持ち出すことは全く不可能だったわけではないが、決められた機器同士の組み合わせなど限定された環境でしか対応していなかった。
SeeQVaultに対応するHDDやSDカードなどのメディアを使用することで、HD画質で録画したコンテンツを様々な対応メディアで高画質のままで楽しめる幅が広がった。これは同時に、録画コンテンツをHD画質のまま様々なメディアにバックアップできるようになったということでもある。
■2014年はSeeQVault対応機器が拡充
こうした中で、2014年はSeeQVault対応製品が拡充し、発展途上ながら様々な使い方が見えてきた年でもあった。現在までに対応機器を発表しているメーカーとその製品ジャンルを簡単におさらいしていこう。
パナソニックの製品では、2014年秋モデルの4K対応液晶テレビ“VIERA”「TH-85/65/55AX900」「TH-55/48/40AX900」7機種と、レコーダー“DIGA”「DMR-BRZ2000/1000」「DMR-BRW1000/500」「DMR-BRS500」5機種がSeeQVaultに対応している。現状、テレビ製品でSeeQVaultに対応するのはパナソニック製品のみだ。
東芝とソニーは、最初のSeeQVault対応製品として2013年10月にmicroSDHCカード製品をリリースしていた2社だ。今年になって東芝は、HDDレコーダー“レグザサーバー”「DBR-T560/T550」やBDレコーダー“レグザブルーレイ”「DBR-Z520/Z510」、録画用の外付けHDD“CANVIO DESK”「HD-QB30TK/20TK/10TK」も対応製品としてラインナップ。また、HDD製品に搭載するためのSeeQVaultインターフェースブリッジICも今年8月からメーカー向けに量産を開始した。このICチップとSeeQVault対応SDカードを搭載することで、HDD製品をSeeQVaultに対応させられるというものだ。
ソニー製品に関しては、同社製テレビやレコーダーではまだ対応機器が登場していないものの、上述のmicroSDカードのほかに、SDカード内のデータをスマートフォンなどにワイヤレス転送できるカードリーダー“ポータブルワイヤレスサーバー”「WG-C20」が展開されており、SeeQVault規格によるコンテンツ持ち出し方法を厚くサポートしている。
そして、上述のSeeQVault対応テレビ/レコーダーに接続するためのSeeQVault対応HDDとして、現在はバッファローとアイ・オー・データ機器の2社からUSB-HDDが発売されている。バッファローからは“HD-AVQ”シリーズ、アイ・オー・データ機器からは“AVHD-AUSQ”シリーズと“AVHD-USQ”が登場している。
現状ではこれらの製品を使って、SeeQVault対応のコンテンツ録画・保存が行える状態だ。なお、SeeQVault対応機器内に保存したコンテンツの視聴環境については、テレビ/レコーダー以外にPCやスマホなどのデバイスを絡めた状態でいくつかの環境が用意されている。以下に紹介していこう。
■PC/スマホにおけるSeeQVaultコンテンツ再生環境あれこれ − サイバーリンクがPC向けプレーヤーソフト開発
SeeQVaultコンテンツを扱えるアプリケーションとしては、まずデジオンから提供中のWindows向けデスクトップアプリ「SeeQVault Media Converter」が挙げられる。これは、PCにUSB接続されたHDDなどのSeeQVault対応機器を認識し、機器内に保存されている録画番組を再生したり、ネットワーク経由でDTCP-IP配信したりできるアプリ。さらにネットワークダビング機能にも対応しており、SeeQVault非対応機器からアプリにムーブした録画番組を、本アプリを介してSeeQVault対応機器に書き出すといったこともできる。
2014年末に新しく発表された今後登場予定の情報としては、サイバーリンクがSeeQVault対応機器内のコンテンツをPCで再生するプレーヤーソフトウェアを開発している。同社のPC用プレーヤーソフト「Power DVD」の流れを汲むものとのことで、詳細時期等は未定とのことだが、Windows PC製品にバンドルされる形での登場が見込まれる。例えば「SeeQVault機器の接続に対応するPC」といった製品の登場も考えられる。
ほかにはピクセラも、SeeQVault対応機器コンテンツをWindows/Android端末上で再生するためのプレーヤーアプリ「SeeQVaultプレイヤー」を開発中だ。こちらも具体的な提供開始時期などは未定とのことだが、CEATECでもデモを行っていた。
◇
以上、2014年末時点におけるSeeQVaultの現状をまとめてみた。特に普段からテレビ番組を録画して楽しんでいるユーザーにとっては大きな技術であり、展開次第ではこれからの映像視聴の楽しみ方そのものをガラリと変える可能性を持つ規格だ。新しい録画機器やメディアへの採用なども含め、2015年以降のさらなる発展と本格的な普及に期待したい。
SeeQVaultとは簡単にいうと、放送録画コンテンツの視聴環境において、従来メディアが持っていた課題のひとつ「機器バインド」を解決できる仕組みを有する規格だ。現在のところは、テレビ/レコーダーなどの録画機器やUSB-HDD、PC向けアプリなどの各対応メディアが出始めているところで、対応環境も含めて発展途上であるが、展開次第でこれからの映像視聴の楽しみ方がガラリと変わる未来も期待できる。
本記事では、2015年にこのSeeQVaultに関する何らかの新しい動きがあることを期待しながら、直近の情報アップデートなどSeeQVaultにまつわる2014年までの現状を簡単にまとめた。
■SeeQVaultの概要
SeeQVaultのライセンス提供を行っているのは、NSM INTIATIVES LLCという組織。同社は、パナソニック、サムスン、ソニー、東芝の4社によって2013年1月に米国で設立された。4社それぞれの強みを活かす形で2011年からSeeQVaultの開発に取り組み、2013年2月より同技術のライセンス提供を開始している。
SeeQVault自体は、ホームネットワーク向けの著作権保護技術であるDTCPを管理する「DTLA(Digital Transmission Licensing Administrator)」と、デジタル放送に関する規格を取り扱う一般社団法人デジタル放送推進協会(Dpa)から、記録メディアとして2013年8月に認可されている。
その特徴は、「様々な対応機器での再生互換性」と「強固なセキュリティ」を両立すること。後者のセキュリティ技術面については、SeeQVaultはコンテンツの暗号化方式に業界標準のAES暗号を採用し、対応機器と記録メディアの認証には楕円曲線暗号を用いたPKI認証を用いている。また、記録メディアに用いられるフラッシュメモリーには製造時に改ざん困難な機密性の高い固有ID(EMID)をチップごとに埋め込むことで、高度なセキュリティを確保している。
また、前者の「様々な対応機器での再生互換性」を含め、そのメリットは以下の2つがある。
【1】接続機器が変わっても、録画コンテンツを引き継いで再生できる「メディアバインド」思想
これまで、録画番組の視聴環境には制限があり、録画時に使用したテレビやレコーダーなどの個体に紐づく仕様となっていた。例えば、録画機器と接続したUSB-HDD内に保存した録画コンテンツは、録画時に使用した以外のテレビやレコーダーでは再生できなかった。つまり、テレビやレコーダーなどを買い替えた場合などには、新しい機器に録画番組を引き継いで視聴できないという問題があった。
これがいわゆる「機器バインド」と呼ばれる問題だったわけだが、SeeQVaultは著作権保護のための符号化を行いながらも、録画コンテンツを録画機器側ではなくHDDなどのメディア側に紐付ける「メディアバインド」の考え方を具体化していることが大きな特徴だ。
SeeQVault対応のテレビ/レコーダーを使って録画し、SeeQVault対応の外付けHDDに保存しているコンテンツは、録画時に使用したのとは別個体のテレビ/レコーダーであっても、それがSeeQVault対応製品であれば引き継いで再生することができる。なお、録画番組を符号化する際のフォーマットにメーカー間で違いがあることから、現時点で公式に録画番組の引き継ぎ視聴がサポートされているのは同一メーカー内のSeeQVault機器同士に限られているが、本規格の本格的な普及にあたって、このあたりがどう変化していくのか、前向きな展開を期待したいところだ。
【2】録画コンテンツをHD画質のまま様々な機器で視聴できる
もう1つの大きな特徴は、既述の通りDTLAとDpaによって記録メディアとしての認可を受けたことで、本規格に対応する様々な機器で録画コンテンツをHD画質のまま楽しめるようになったこと。これまでレコーダー内の録画コンテンツを、例えばスマートフォンなどのデバイスでHD画質のまま持ち出すことは全く不可能だったわけではないが、決められた機器同士の組み合わせなど限定された環境でしか対応していなかった。
SeeQVaultに対応するHDDやSDカードなどのメディアを使用することで、HD画質で録画したコンテンツを様々な対応メディアで高画質のままで楽しめる幅が広がった。これは同時に、録画コンテンツをHD画質のまま様々なメディアにバックアップできるようになったということでもある。
■2014年はSeeQVault対応機器が拡充
こうした中で、2014年はSeeQVault対応製品が拡充し、発展途上ながら様々な使い方が見えてきた年でもあった。現在までに対応機器を発表しているメーカーとその製品ジャンルを簡単におさらいしていこう。
パナソニックの製品では、2014年秋モデルの4K対応液晶テレビ“VIERA”「TH-85/65/55AX900」「TH-55/48/40AX900」7機種と、レコーダー“DIGA”「DMR-BRZ2000/1000」「DMR-BRW1000/500」「DMR-BRS500」5機種がSeeQVaultに対応している。現状、テレビ製品でSeeQVaultに対応するのはパナソニック製品のみだ。
東芝とソニーは、最初のSeeQVault対応製品として2013年10月にmicroSDHCカード製品をリリースしていた2社だ。今年になって東芝は、HDDレコーダー“レグザサーバー”「DBR-T560/T550」やBDレコーダー“レグザブルーレイ”「DBR-Z520/Z510」、録画用の外付けHDD“CANVIO DESK”「HD-QB30TK/20TK/10TK」も対応製品としてラインナップ。また、HDD製品に搭載するためのSeeQVaultインターフェースブリッジICも今年8月からメーカー向けに量産を開始した。このICチップとSeeQVault対応SDカードを搭載することで、HDD製品をSeeQVaultに対応させられるというものだ。
ソニー製品に関しては、同社製テレビやレコーダーではまだ対応機器が登場していないものの、上述のmicroSDカードのほかに、SDカード内のデータをスマートフォンなどにワイヤレス転送できるカードリーダー“ポータブルワイヤレスサーバー”「WG-C20」が展開されており、SeeQVault規格によるコンテンツ持ち出し方法を厚くサポートしている。
そして、上述のSeeQVault対応テレビ/レコーダーに接続するためのSeeQVault対応HDDとして、現在はバッファローとアイ・オー・データ機器の2社からUSB-HDDが発売されている。バッファローからは“HD-AVQ”シリーズ、アイ・オー・データ機器からは“AVHD-AUSQ”シリーズと“AVHD-USQ”が登場している。
現状ではこれらの製品を使って、SeeQVault対応のコンテンツ録画・保存が行える状態だ。なお、SeeQVault対応機器内に保存したコンテンツの視聴環境については、テレビ/レコーダー以外にPCやスマホなどのデバイスを絡めた状態でいくつかの環境が用意されている。以下に紹介していこう。
■PC/スマホにおけるSeeQVaultコンテンツ再生環境あれこれ − サイバーリンクがPC向けプレーヤーソフト開発
SeeQVaultコンテンツを扱えるアプリケーションとしては、まずデジオンから提供中のWindows向けデスクトップアプリ「SeeQVault Media Converter」が挙げられる。これは、PCにUSB接続されたHDDなどのSeeQVault対応機器を認識し、機器内に保存されている録画番組を再生したり、ネットワーク経由でDTCP-IP配信したりできるアプリ。さらにネットワークダビング機能にも対応しており、SeeQVault非対応機器からアプリにムーブした録画番組を、本アプリを介してSeeQVault対応機器に書き出すといったこともできる。
2014年末に新しく発表された今後登場予定の情報としては、サイバーリンクがSeeQVault対応機器内のコンテンツをPCで再生するプレーヤーソフトウェアを開発している。同社のPC用プレーヤーソフト「Power DVD」の流れを汲むものとのことで、詳細時期等は未定とのことだが、Windows PC製品にバンドルされる形での登場が見込まれる。例えば「SeeQVault機器の接続に対応するPC」といった製品の登場も考えられる。
ほかにはピクセラも、SeeQVault対応機器コンテンツをWindows/Android端末上で再生するためのプレーヤーアプリ「SeeQVaultプレイヤー」を開発中だ。こちらも具体的な提供開始時期などは未定とのことだが、CEATECでもデモを行っていた。
以上、2014年末時点におけるSeeQVaultの現状をまとめてみた。特に普段からテレビ番組を録画して楽しんでいるユーザーにとっては大きな技術であり、展開次第ではこれからの映像視聴の楽しみ方そのものをガラリと変える可能性を持つ規格だ。新しい録画機器やメディアへの採用なども含め、2015年以降のさらなる発展と本格的な普及に期待したい。