公開日 2016/11/04 12:00
ビクタースタジオがセレクト!エンジニアが唸るこの1枚 −「Watching from Above VOL.2/KOKIA」
Watching from Above VOL.2/KOKIA
WAV/FLAC 192kHz/24bit ¥2,160(アルバム)/¥540(単曲)
http://hd-music.info/album.cgi/13239
今回のセレクトは、ビクタースタジオ自らが作品の企画・制作に参画する「Do・Live(ド・ライブ)」の第四弾となる「Watching from Above VOL.2/KOKIA」のご紹介だ。前回「Watching from Above VOL.1」の引き続きで、本作のCDバージョンは既にリリースをされているので、ハイレゾバージョンをお待ちかねの方もさぞ多かったことだろう。
前作と同様に、ビクタースタジオの301スタジオでレコーディングされ、ミックスダウン、マスタリングまで総ての工程を、192kHz/24bit以上のフォーマット(レコーディング、ミックスダウンは32bit)で作業が行われている。
前回は全体の聴きどころやサウンド面での大まかなポイントをお伝えさせて頂いたので、今回は具体的なレコーディングやエンジニアリングといった観点からサウンドアプローチの妙についてご紹介させて頂こう。
楽曲のポイントとなる音響空間や立体感の表現に際してのマイクアレンジは、エンジニアの力が最も発揮されるひとつで個性が際立つ部分だが、その効果は楽器の種類によっても大きく異なる。アコースティックピアノやバイオリン等は空気感や音場を比較的表現し易い楽器の代表であるが、中でもやはりドラムのマイクアレンジはエンジニアの多くが楽曲の「肝(きも)」として最も気を遣うポイントだろう。本作でも個性的で独創性豊かなドラムのサウンドアレンジにより、絶妙な音場を創り出している。
まずは、ドラムのセッティング場所。ビクタースタジオ内で最も広いメインエリアを有する301スタジオで、敢えて天井烽フ低い響きを抑えた壁際にドラムをセットし、まずは基本のドラムサウンドをデッドでタイトにアレンジ。しかし、ドラムでの空間表現を放棄したのではなく、通常は他の音のかぶりが多くて使用しにくいコンデンサー系マイクを多用し、ドラムで多く使用されるダイナミック系マイクでは表現出来ないルーム感や空気感をドラムのセット内で巧みにアレンジ。唄やピアノに透明感のあるリバーブやオフマイクで音場感や空気感を表現した分、ドラムはルーム感はありつつもタイトで締まったアプローチで楽曲のサウンドの芯をつくり、音場表現をより立体的で豊かなものに仕上げているのだ。
深い奥行き感を表現する際、楽器全体をアンビエンスマイクまみれのサウンドにするのではなく、敢えてタイトな楽器サウンドを加えることで、比較としての奥行き感を際立たせている。例えが的確かは疑問だが、スイカの甘さをより引き立てる為に、塩をかけて食べるのと同じ原理だ。遠目にセットするが故に音の芯が弱くなりがちなルームマイクのバランスを控え、楽曲全体のメリハリを意識し、楽器毎のサウンドアレンジの違いで立体感を演出するという、非常に巧みで高度なエンジニアの技で裏付けされている。
この作品には、こういったドラムサウンドを始めとして、他にも細部にまで徹底した拘りが散りばめられている。本作は、通常に聴いて頂いて申し分ないのは勿論だが、そんな微細な箇所にまでも意識を配り、更に楽曲を楽しんで頂くのににもふさわしい逸品だ。
私共の組織的な内情で大変申し訳ないが、配信サイト自体の運営母体の移管により、「Do・Live(ド・ライブ)」も含めたこのコーナーは一旦休止の運びとなりそうだ。とは言っても、HD-Music.とビクタースタジオの関わりは今までと全く変わりはないので、更にパワーアップしてまた皆様に色々な情報やピュアな音楽をお伝えできる時を楽しみに、一先ずお別れとさせて頂きたい。これまでご愛読、またご試聴頂き誠に有難うございました。心より感謝申し上げます。
中山佳敬 氏
ビクタースタジオ所属のレコーディングエンジニア。現在はビクタースタジオのチーフエンジニアとして従事。
1992年ビクタースタジオに入社後、ロック、ポップス系のアーティストを中心に数多くのセッションに参加。2006年よりサザンオールスターズを担当、以降はビクタースタジオの「顔」である401スタジオの主としてサウンドメイクをサポートし続け、その合間に最上階から若手エンジニアの仕事っぷりを監督・指導している。
スタジオワークのスタイルは、アーティストやプロデューサーと共に創り上げる“クリエイト”派。アイデアの多彩さと許容量の広いその人間性から多方面より絶大な支持を得る。柔らかいその物腰とは裏腹に、過激で個性的なサウンドメイクも引き出しの一つ。
元「ローリング族」(?)で、今でもマニュアル車にこだわる無類の車好き。壊した車、乗った車は数知れないが、「ロータス・ヨーロッパS」のオーナーだったことは大きな自慢とチョットの後悔。
最近の趣味は息子たちとのFly Fishingと愛犬の散歩。新し物好きで、常にニューリリースのマイク・エフェクターをリサーチ&トライ。子供の頃からの夢だったレコーディング・エンジニアを、今でもブレることなく純粋に貫き通す、ビクタースタジオの“エース”エンジニア。
<中山氏からのコメント>
本アルバムのレコーディングはVocalも含めて全員の一発同時録音が前提で進められました。通常のマルチトラックレコーディングでは全ての録音が終了したのちトラックダウンという、バランスを整える作業を行って最終マスターミックスを作るのですが、今回は若干のEQ、コンプレッサー処理は施したものの、ほぼ録音時のバランスのままの音がマスターになっています。
ナチュラルな音を作る事って言うのは意外に難しく、エンジニアだけの力だけでは到底作れるものではありません。エンジニアが無理に作り込まなくても良いような、迷いのない素晴らしいプレイがあってこそ最高の録音作品が生まれます。
本作品ではほぼワンテイクで決まる程の素晴らしいプレイをして頂きました。そこで実際の演奏で表現された微妙なニュアンスや呼吸をを音として再現する為に、エンジニアリング的に今回96KHzではなく192KHzという器で録音した事はこの作品をパッケージングする上で非常に大きな意味があったと思います。幸いにも我がビクタースタジオにはコンディションの良いビンテージマイクや機材が沢山あり、今回の録音にも使用しました。ハイスペックなフォーマットで記録したことにより、これらの持つパフォーマンスを100%表現出来たのではないかと思います。
WAV/FLAC 192kHz/24bit ¥2,160(アルバム)/¥540(単曲)
http://hd-music.info/album.cgi/13239
今回のセレクトは、ビクタースタジオ自らが作品の企画・制作に参画する「Do・Live(ド・ライブ)」の第四弾となる「Watching from Above VOL.2/KOKIA」のご紹介だ。前回「Watching from Above VOL.1」の引き続きで、本作のCDバージョンは既にリリースをされているので、ハイレゾバージョンをお待ちかねの方もさぞ多かったことだろう。
前作と同様に、ビクタースタジオの301スタジオでレコーディングされ、ミックスダウン、マスタリングまで総ての工程を、192kHz/24bit以上のフォーマット(レコーディング、ミックスダウンは32bit)で作業が行われている。
前回は全体の聴きどころやサウンド面での大まかなポイントをお伝えさせて頂いたので、今回は具体的なレコーディングやエンジニアリングといった観点からサウンドアプローチの妙についてご紹介させて頂こう。
楽曲のポイントとなる音響空間や立体感の表現に際してのマイクアレンジは、エンジニアの力が最も発揮されるひとつで個性が際立つ部分だが、その効果は楽器の種類によっても大きく異なる。アコースティックピアノやバイオリン等は空気感や音場を比較的表現し易い楽器の代表であるが、中でもやはりドラムのマイクアレンジはエンジニアの多くが楽曲の「肝(きも)」として最も気を遣うポイントだろう。本作でも個性的で独創性豊かなドラムのサウンドアレンジにより、絶妙な音場を創り出している。
まずは、ドラムのセッティング場所。ビクタースタジオ内で最も広いメインエリアを有する301スタジオで、敢えて天井烽フ低い響きを抑えた壁際にドラムをセットし、まずは基本のドラムサウンドをデッドでタイトにアレンジ。しかし、ドラムでの空間表現を放棄したのではなく、通常は他の音のかぶりが多くて使用しにくいコンデンサー系マイクを多用し、ドラムで多く使用されるダイナミック系マイクでは表現出来ないルーム感や空気感をドラムのセット内で巧みにアレンジ。唄やピアノに透明感のあるリバーブやオフマイクで音場感や空気感を表現した分、ドラムはルーム感はありつつもタイトで締まったアプローチで楽曲のサウンドの芯をつくり、音場表現をより立体的で豊かなものに仕上げているのだ。
深い奥行き感を表現する際、楽器全体をアンビエンスマイクまみれのサウンドにするのではなく、敢えてタイトな楽器サウンドを加えることで、比較としての奥行き感を際立たせている。例えが的確かは疑問だが、スイカの甘さをより引き立てる為に、塩をかけて食べるのと同じ原理だ。遠目にセットするが故に音の芯が弱くなりがちなルームマイクのバランスを控え、楽曲全体のメリハリを意識し、楽器毎のサウンドアレンジの違いで立体感を演出するという、非常に巧みで高度なエンジニアの技で裏付けされている。
この作品には、こういったドラムサウンドを始めとして、他にも細部にまで徹底した拘りが散りばめられている。本作は、通常に聴いて頂いて申し分ないのは勿論だが、そんな微細な箇所にまでも意識を配り、更に楽曲を楽しんで頂くのににもふさわしい逸品だ。
私共の組織的な内情で大変申し訳ないが、配信サイト自体の運営母体の移管により、「Do・Live(ド・ライブ)」も含めたこのコーナーは一旦休止の運びとなりそうだ。とは言っても、HD-Music.とビクタースタジオの関わりは今までと全く変わりはないので、更にパワーアップしてまた皆様に色々な情報やピュアな音楽をお伝えできる時を楽しみに、一先ずお別れとさせて頂きたい。これまでご愛読、またご試聴頂き誠に有難うございました。心より感謝申し上げます。
中山佳敬 氏
ビクタースタジオ所属のレコーディングエンジニア。現在はビクタースタジオのチーフエンジニアとして従事。
1992年ビクタースタジオに入社後、ロック、ポップス系のアーティストを中心に数多くのセッションに参加。2006年よりサザンオールスターズを担当、以降はビクタースタジオの「顔」である401スタジオの主としてサウンドメイクをサポートし続け、その合間に最上階から若手エンジニアの仕事っぷりを監督・指導している。
スタジオワークのスタイルは、アーティストやプロデューサーと共に創り上げる“クリエイト”派。アイデアの多彩さと許容量の広いその人間性から多方面より絶大な支持を得る。柔らかいその物腰とは裏腹に、過激で個性的なサウンドメイクも引き出しの一つ。
元「ローリング族」(?)で、今でもマニュアル車にこだわる無類の車好き。壊した車、乗った車は数知れないが、「ロータス・ヨーロッパS」のオーナーだったことは大きな自慢とチョットの後悔。
最近の趣味は息子たちとのFly Fishingと愛犬の散歩。新し物好きで、常にニューリリースのマイク・エフェクターをリサーチ&トライ。子供の頃からの夢だったレコーディング・エンジニアを、今でもブレることなく純粋に貫き通す、ビクタースタジオの“エース”エンジニア。
<中山氏からのコメント>
本アルバムのレコーディングはVocalも含めて全員の一発同時録音が前提で進められました。通常のマルチトラックレコーディングでは全ての録音が終了したのちトラックダウンという、バランスを整える作業を行って最終マスターミックスを作るのですが、今回は若干のEQ、コンプレッサー処理は施したものの、ほぼ録音時のバランスのままの音がマスターになっています。
ナチュラルな音を作る事って言うのは意外に難しく、エンジニアだけの力だけでは到底作れるものではありません。エンジニアが無理に作り込まなくても良いような、迷いのない素晴らしいプレイがあってこそ最高の録音作品が生まれます。
本作品ではほぼワンテイクで決まる程の素晴らしいプレイをして頂きました。そこで実際の演奏で表現された微妙なニュアンスや呼吸をを音として再現する為に、エンジニアリング的に今回96KHzではなく192KHzという器で録音した事はこの作品をパッケージングする上で非常に大きな意味があったと思います。幸いにも我がビクタースタジオにはコンディションの良いビンテージマイクや機材が沢山あり、今回の録音にも使用しました。ハイスペックなフォーマットで記録したことにより、これらの持つパフォーマンスを100%表現出来たのではないかと思います。