公開日 2016/12/16 10:03
【特別企画】開発者インタビュー
ハイレゾが普及したいま、改めて見直す“原音忠実” − Sound Realityシリーズ誕生の舞台裏
山本 敦
オーディオテクニカの「Sound Reality」シリーズに、新しいフラグシップのポータブルヘッドホン「ATH-SR9」(以下:SR9)と、フルデジタルのワイヤレスヘッドホン「ATH-DSR9BT」(以下:DSR9BT)が加わった。どちらのモデルにも、ヘッドホンメーカーであるオーディオテクニカらしいユニークなアイデアが詰まっている。今回は両製品の企画・開発に携わったキーパーソンに、製品について詳しく訊ねる機会を得た。
ハイレゾが普及したいま、改めて“原音忠実”を見直す。
その解のひとつが「ATH-SR9」
オーディオテクニカの「SR(Sound Reality)シリーズ」は、同社の多彩なポータブル系ヘッドホン・イヤホンのラインナップの中で、純粋に高音質を追求したスタンダードモデルだ。その誕生は、同社ヘッドホン・イヤホン発売40周年にあたる2014年春にリリースされたイヤホン「ATH-CKR10/CKR9」に遡る。その後、ハイレゾ対応のポータブルヘッドホン「ATH-MSR7」も発売されたが、それぞれのモデルは「Sound Reality」つまり原音を忠実に描くための音づくりのコンセプトとしていた。それが今回発売されたATH-SR9、ATH-DSR9BTを含むシリーズ名称として定着したのだ。
SR9は同シリーズに加わるハイレゾ対応ポータブルヘッドホンのフラグシップだ。「ハイレゾブームに火がつき始めた2年前と比べて、現在はハイレゾ対応のオーディオ機器が進化して、音源も広く普及してきました。ハイレゾ再生のレベルそのものが高くなったいま、新たな環境でよりシビアに忠実な原音再生を追求したモデルがSR9です」−− 奈良氏が本機の企画意図を語る。
SR9は音質と機能、いずれの観点から見てもATH-MSR7(以下MSR7)と比べて大きく変わったヘッドホンだ。ドライバーは同じ口径だが、SR9専用に開発した「φ45mm“トゥルー・モーション” ハイレゾ・オーディオドライバー」が搭載されている。「通常、ドライバーの設計は数日で完了するのですが、SR9のドライバー設計はいつもより長く、半年ほど時間をかけてじっくりと練り上げてきました」−− 安藤氏が振り返る。
「ポータブルヘッドホンなので、本体とハウジングのサイズ感をMSR7とだいたい同じに収めたいのですが、音質は新しい次元を目指さなければならない。だから、より大きな駆動力を得るためのマグネットを乗せる必要がありました。音響スペースをより有効に使うための知恵を絞り出す必要があったのです」(安藤氏)
そこで生まれたのは、「ミッドポイント・マウントテクノロジー」と呼ばれるヘッドホンの内部構造を革新する技術だ。オーディオテクニカのヘッドホンには初めて採用された。
「振動板前後の空気室の容積を均一にするということをやっています。ベースになるコンセプトや要素技術は既に完成していましたが、それを製品に搭載するためにまたひと苦労がありました。振動板の振幅を前後に1対1の割合でスムーズに動かすことによって、入力信号に対する正確なレスポンスが得られます。さらにドライバーの背圧をダンパーから抜いて振動板の前に出すことで、低音にマスクされないクリアな中高域を鳴らせるようになりました」(安藤氏)
極薄の振動板には「DLC(Diamond Like Carbon)コーティング」をかけた。これにより振動板の剛性が高まり、さらに良好な高域特性が得られる。ドライバーの駆動力を高めるため、大型のマグネットと純鉄一体型ヨークを配置して磁気回路を強化したこともSR9の特徴だが、その結果としてMSR7を超える情報量と解像感の獲得につながった。
SR9ならではの個性をどのように引きだしたのか。音づくりのポイントを安藤氏に訊ねた。
=お話をうかがった方= 奈良崇史 氏(写真右) マーケティング本部 企画部 コンシューマー企画課 ポータブルリスニンググループ 主務 SR/DSRの商品企画を担当。これまでヘッドホン「ATH-MSR7」や、デジタルワイヤレスヘッドホン「ATH-DWL700」などを手掛ける 安藤幸三 氏(写真左) 技術本部 コンシューマープロダクツ開発部 ポータブルリスニング開発課 主務 SR/DSRの技術開発を担当。これまでヘッドホン「ATH-MSR7」やアートモニターシリーズ、SOLID BASSシリーズなどの開発に携わる 築比地(ついひじ)健三 氏(写真中央) 技術本部 コンシューマープロダクツ開発部 エレクトロニクス開発課 ATH-DSR9BTのエレクトロニクス周辺設計を担当。これまでフルデジタル伝送に対応したUSBヘッドホン「ATH-DN1000USB」などを手掛ける |
ハイレゾが普及したいま、改めて“原音忠実”を見直す。
その解のひとつが「ATH-SR9」
オーディオテクニカの「SR(Sound Reality)シリーズ」は、同社の多彩なポータブル系ヘッドホン・イヤホンのラインナップの中で、純粋に高音質を追求したスタンダードモデルだ。その誕生は、同社ヘッドホン・イヤホン発売40周年にあたる2014年春にリリースされたイヤホン「ATH-CKR10/CKR9」に遡る。その後、ハイレゾ対応のポータブルヘッドホン「ATH-MSR7」も発売されたが、それぞれのモデルは「Sound Reality」つまり原音を忠実に描くための音づくりのコンセプトとしていた。それが今回発売されたATH-SR9、ATH-DSR9BTを含むシリーズ名称として定着したのだ。
SR9は同シリーズに加わるハイレゾ対応ポータブルヘッドホンのフラグシップだ。「ハイレゾブームに火がつき始めた2年前と比べて、現在はハイレゾ対応のオーディオ機器が進化して、音源も広く普及してきました。ハイレゾ再生のレベルそのものが高くなったいま、新たな環境でよりシビアに忠実な原音再生を追求したモデルがSR9です」−− 奈良氏が本機の企画意図を語る。
SR9は音質と機能、いずれの観点から見てもATH-MSR7(以下MSR7)と比べて大きく変わったヘッドホンだ。ドライバーは同じ口径だが、SR9専用に開発した「φ45mm“トゥルー・モーション” ハイレゾ・オーディオドライバー」が搭載されている。「通常、ドライバーの設計は数日で完了するのですが、SR9のドライバー設計はいつもより長く、半年ほど時間をかけてじっくりと練り上げてきました」−− 安藤氏が振り返る。
「ポータブルヘッドホンなので、本体とハウジングのサイズ感をMSR7とだいたい同じに収めたいのですが、音質は新しい次元を目指さなければならない。だから、より大きな駆動力を得るためのマグネットを乗せる必要がありました。音響スペースをより有効に使うための知恵を絞り出す必要があったのです」(安藤氏)
そこで生まれたのは、「ミッドポイント・マウントテクノロジー」と呼ばれるヘッドホンの内部構造を革新する技術だ。オーディオテクニカのヘッドホンには初めて採用された。
「振動板前後の空気室の容積を均一にするということをやっています。ベースになるコンセプトや要素技術は既に完成していましたが、それを製品に搭載するためにまたひと苦労がありました。振動板の振幅を前後に1対1の割合でスムーズに動かすことによって、入力信号に対する正確なレスポンスが得られます。さらにドライバーの背圧をダンパーから抜いて振動板の前に出すことで、低音にマスクされないクリアな中高域を鳴らせるようになりました」(安藤氏)
極薄の振動板には「DLC(Diamond Like Carbon)コーティング」をかけた。これにより振動板の剛性が高まり、さらに良好な高域特性が得られる。ドライバーの駆動力を高めるため、大型のマグネットと純鉄一体型ヨークを配置して磁気回路を強化したこともSR9の特徴だが、その結果としてMSR7を超える情報量と解像感の獲得につながった。
SR9ならではの個性をどのように引きだしたのか。音づくりのポイントを安藤氏に訊ねた。