公開日 2023/08/21 06:30
【特別企画】Grandiosoシリーズの思想と成果を凝縮
ディスクに内包される情報をすべて引き出す。エソテリックの一体型プレーヤー「K-05XD」の到達点
角田郁雄
エソテリックの中核CD/SACDプレーヤー「K-05」は、2011年の登場以来着実に進化を重ね、現在は第4世代機となる「K-05XD」に至っている。最新ドライブ「VRDS-ATLAS」を搭載、Grandiosoシリーズの思想と成果が凝縮された本機のサウンドの魅力を深掘りした。
静寂極まるノルウェーの大聖堂。ピアノの旋律が上方に静かに響き渡る。ベースは胴の響きを鮮明にし、ピチカートに弦の弾力感を鮮明にする。そしてドラムスは、ピアノとベースとの巧みな響きを探り出し打音する。3人の奏者たちは、録音というステージのなかで単に作品を正確に演奏するに留まらず、響きの立体空間を創ろうとしているのであろうか。
いや、おそらくは、響きの芸術を創造しようとしているのであろう。その旋律を紡いでゆくアーティキュレーションも絶妙で、そこにはストイックさや研ぎ澄まされたスピリッツまでも感じさせる。このアルバムは、ホフ・アンサンブルの『POLARITY』だ。透明かつ豊かな残響を伴い、その場でライヴを展開しているかのような感覚に、私は陥ってしまった。これは、ディスクではない。窓越しに外の光景を見るのではなく、窓を開放して外を見る感覚だ。
私が再生した数枚のディスクのなかで、特に印象深かったのは、ベルリン古楽アカデミーによる『J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲』だ。弦楽パートの響きが立体的に空間で交差し、木管楽器に滑らかで色濃い響きが聴けた。まだバルブのなかった金管楽器。その鮮烈とも言える、輝きに満ちた響きに感激した。第3番は、イザベル・ファウスト(vn)とアントワン・タメスティ(vla)が登場し、オケとともに丁々発止するかのような演奏を展開する。繊細さ、柔らかさ、重厚さ、といった単純な言葉では表せない演奏の力感、旋律の抑揚を心ゆくまで堪能してしまった。
これは、エソテリックの最新のSACDプレーヤー「K-05XD」を聴いた素直な感想だ。空気感といった微細な音をクローズアップさせながら、奏者の実在感を鮮明にする。ベールを一枚も二枚も剥いだような透明度の高い立体空間。演奏は、その場に迫ってくる。そこには、良い意味で、もはや固有の音色は排除され、ディスクに内包する情報をくまなく引き出し、その奏力をリアルに再現する。K-05XDには、そんなダイナミックな音楽のテクスチャーがある。こうした音楽を奏でる本機には、それだけの試聴を重ねた技術がある。
本機には、世界で唯一無二のVRDSディスク・ドライブを搭載した。ATLAS 05だ。CDをクランプするターンテーブルを支えるブリッジは、VRDS-NEOよりも大型、ワイド化され、美しいヘアライン仕上げの10mm厚のアルミ製。マスターテープのリールをイメージしたターンテーブルは、アルミとCDと同材のポリカーボネートとのハイブリッド構造だ。ドライブ時の振動を、従来以上に素早く振動減衰させるため、底板との距離を縮めたメカニカルアースを実現。メカ全体の低重心化を行い、駆動モーターもターンテーブルの下部に設置した。
その結果として、機械的なノイズを大幅に低減することに成功した。トレイのくり抜きも最小限とし、剛性を高め、トレイ収納時の共振も樹脂製ストッパーで防いでいる。
このVRDS ATLAS 05には、どれだけの開発期間を要したのであろうか。単純に、音質に影響するサーボ電流を低減させるに、止まってはいないだろう。試聴を重ね、ごく僅かな音の違いや音楽の表現力を探っているように思えてならない。
なぜなら、このメカだけではなく、筐体全体の構造も見直しているからだ。サイズは、従来のシングルレイヤーから大型のダブルレイヤーへと変更され、ドライブメカはセンターマウントとし、2mm厚のスチール製ベースプレートを介して、5mm厚の同材のボトムプレートに強固に設置され、振動分散、抑制のためにボトムプレートにスリットまでも設けた。さらに同社独自のピンポイントフットで筐体は3点支持される。
もう一つの構造変化は、オーディオ回路を上層に、電源部や電源トランスなどを下層に設置する2階建構造としたことだ。これにより、磁束漏れや振動を防ぐだけではなく、最短の電源供給を可能にした。オーディオ回路で注目されることは、同社独自のディスクリートDAC、Master Sound Discrete DACを搭載したことが大きなアドヴァンテージ。
本機では、Grandioso K1XのDACを凝縮したことが特徴だ。FPGAで構成される64bit/512Fs対応のΔΣモジュレーターを1式搭載し、DACは、1chあたり16個のエレメントで構成された。1エレメントの構成は、クロックドライバー、ロジック回路、コンデンサー、抵抗などで一列に基板上に配置されている。
この16個のエレメントにΔΣモジュレーターからのデジタル信号を割り当てることにより、劇的に変換精度を向上させている。このDACで変換されたアナログ信号は、出力段(ローパスフィルター)に接続。これも音質のコア。スルーレイト、2000V/μsを誇る電流強化型バッファー、ESOTERIC-HCLDを搭載している。もちろん、同社製品で使用できる電流伝送ES-LINK Analogに対応した。
電源部に目を向けると、さらに強化したことが理解できる。従来製品よりも2倍の規模とし、大容量トロイダルトランスを2基装備しアナログとデジタル回路を分離。さらにはコントロール専用のEI型トランスも加えた。各回路の電源レギュレーターはディスクリート構成で、ロー・フィードバックDCレギュレーターを採用。合計16本、容量にして0.25F(250,000μF)のスーパーキャパシターを投入。電源部の大容量化が見てとれる。本機は、もちろん、MQA-CDやUSB入力のハイレゾ再生に対応する。
実際の音質と音楽表現の印象は冒頭のとおり。洗練されたデザインと精密感に溢れた回路を搭載するK-05XDには、世界でも、名を馳せるほどのハイエンドなフレーバーがある。
(提供:エソテリック)
本記事は『季刊・オーディオアクセサリー189号』からの転載です。
微細な音をクローズアップさせながら、奏者の実在感を鮮明にする
静寂極まるノルウェーの大聖堂。ピアノの旋律が上方に静かに響き渡る。ベースは胴の響きを鮮明にし、ピチカートに弦の弾力感を鮮明にする。そしてドラムスは、ピアノとベースとの巧みな響きを探り出し打音する。3人の奏者たちは、録音というステージのなかで単に作品を正確に演奏するに留まらず、響きの立体空間を創ろうとしているのであろうか。
いや、おそらくは、響きの芸術を創造しようとしているのであろう。その旋律を紡いでゆくアーティキュレーションも絶妙で、そこにはストイックさや研ぎ澄まされたスピリッツまでも感じさせる。このアルバムは、ホフ・アンサンブルの『POLARITY』だ。透明かつ豊かな残響を伴い、その場でライヴを展開しているかのような感覚に、私は陥ってしまった。これは、ディスクではない。窓越しに外の光景を見るのではなく、窓を開放して外を見る感覚だ。
私が再生した数枚のディスクのなかで、特に印象深かったのは、ベルリン古楽アカデミーによる『J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲』だ。弦楽パートの響きが立体的に空間で交差し、木管楽器に滑らかで色濃い響きが聴けた。まだバルブのなかった金管楽器。その鮮烈とも言える、輝きに満ちた響きに感激した。第3番は、イザベル・ファウスト(vn)とアントワン・タメスティ(vla)が登場し、オケとともに丁々発止するかのような演奏を展開する。繊細さ、柔らかさ、重厚さ、といった単純な言葉では表せない演奏の力感、旋律の抑揚を心ゆくまで堪能してしまった。
これは、エソテリックの最新のSACDプレーヤー「K-05XD」を聴いた素直な感想だ。空気感といった微細な音をクローズアップさせながら、奏者の実在感を鮮明にする。ベールを一枚も二枚も剥いだような透明度の高い立体空間。演奏は、その場に迫ってくる。そこには、良い意味で、もはや固有の音色は排除され、ディスクに内包する情報をくまなく引き出し、その奏力をリアルに再現する。K-05XDには、そんなダイナミックな音楽のテクスチャーがある。こうした音楽を奏でる本機には、それだけの試聴を重ねた技術がある。
新設計のVRDSメカ「ATLAS 05」を搭載
本機には、世界で唯一無二のVRDSディスク・ドライブを搭載した。ATLAS 05だ。CDをクランプするターンテーブルを支えるブリッジは、VRDS-NEOよりも大型、ワイド化され、美しいヘアライン仕上げの10mm厚のアルミ製。マスターテープのリールをイメージしたターンテーブルは、アルミとCDと同材のポリカーボネートとのハイブリッド構造だ。ドライブ時の振動を、従来以上に素早く振動減衰させるため、底板との距離を縮めたメカニカルアースを実現。メカ全体の低重心化を行い、駆動モーターもターンテーブルの下部に設置した。
その結果として、機械的なノイズを大幅に低減することに成功した。トレイのくり抜きも最小限とし、剛性を高め、トレイ収納時の共振も樹脂製ストッパーで防いでいる。
このVRDS ATLAS 05には、どれだけの開発期間を要したのであろうか。単純に、音質に影響するサーボ電流を低減させるに、止まってはいないだろう。試聴を重ね、ごく僅かな音の違いや音楽の表現力を探っているように思えてならない。
なぜなら、このメカだけではなく、筐体全体の構造も見直しているからだ。サイズは、従来のシングルレイヤーから大型のダブルレイヤーへと変更され、ドライブメカはセンターマウントとし、2mm厚のスチール製ベースプレートを介して、5mm厚の同材のボトムプレートに強固に設置され、振動分散、抑制のためにボトムプレートにスリットまでも設けた。さらに同社独自のピンポイントフットで筐体は3点支持される。
上位グレードのDACを凝縮したディスクリートDACを搭載
もう一つの構造変化は、オーディオ回路を上層に、電源部や電源トランスなどを下層に設置する2階建構造としたことだ。これにより、磁束漏れや振動を防ぐだけではなく、最短の電源供給を可能にした。オーディオ回路で注目されることは、同社独自のディスクリートDAC、Master Sound Discrete DACを搭載したことが大きなアドヴァンテージ。
本機では、Grandioso K1XのDACを凝縮したことが特徴だ。FPGAで構成される64bit/512Fs対応のΔΣモジュレーターを1式搭載し、DACは、1chあたり16個のエレメントで構成された。1エレメントの構成は、クロックドライバー、ロジック回路、コンデンサー、抵抗などで一列に基板上に配置されている。
この16個のエレメントにΔΣモジュレーターからのデジタル信号を割り当てることにより、劇的に変換精度を向上させている。このDACで変換されたアナログ信号は、出力段(ローパスフィルター)に接続。これも音質のコア。スルーレイト、2000V/μsを誇る電流強化型バッファー、ESOTERIC-HCLDを搭載している。もちろん、同社製品で使用できる電流伝送ES-LINK Analogに対応した。
電源部に目を向けると、さらに強化したことが理解できる。従来製品よりも2倍の規模とし、大容量トロイダルトランスを2基装備しアナログとデジタル回路を分離。さらにはコントロール専用のEI型トランスも加えた。各回路の電源レギュレーターはディスクリート構成で、ロー・フィードバックDCレギュレーターを採用。合計16本、容量にして0.25F(250,000μF)のスーパーキャパシターを投入。電源部の大容量化が見てとれる。本機は、もちろん、MQA-CDやUSB入力のハイレゾ再生に対応する。
実際の音質と音楽表現の印象は冒頭のとおり。洗練されたデザインと精密感に溢れた回路を搭載するK-05XDには、世界でも、名を馳せるほどのハイエンドなフレーバーがある。
(提供:エソテリック)
本記事は『季刊・オーディオアクセサリー189号』からの転載です。
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