【特別企画】実録:ネットオーディオガチ鼎談
高級オーディオNAS “fidata”「HFAS1」開発の裏側に迫る!アイ・オー&土方久明が本音でNAS談義
■北村氏が語る、HFAS1の音質設計秘話
北村: 各部分において「パーツを取り変えながら何度も試聴を繰り返して、一番良い仕様を選ぶ」ということをひたすら繰り返しました。音は実際に出してみないとわからないので。第一弾の試作機を披露したのが2014年の音展で、それをベースにしてさらにチューニングを追い込み、一年をかけて製品化に辿り着いたという流れです。
パーツも、コンデンサーの組み合わせに至るまで様々なものを組み合わせて試聴を繰り返して、順番に採用するものを決めていきました。あとトランス電源という案もあったんですが、さすがに筐体が大きくなりすぎてしまうので今回の製品ではナシにしたりとか。
土方: トランス電源も検討していたんですね。去年の音展から、根本的な部分も含めて細部は結構ブラッシュアップしていましたよね。基板も全く変えているし、発売された製品版は、実質マークIIと言っても良いくらいでしょ?
北村: ええ。最初は1基の電源だけで実現を目指していたんですが、2基入れてみたらより良い効果が見られたので、最終的には2基構成に変わりました。それで、2個目の電源を配置するために基板を作り直したり、基板とストレージをセパレートするT字の仕切りも少し位置調整したりしています。1点アース方式も、去年の音展後から取り入れた部分ですね。試作機にあった電源ノイズフィルターも、聴感上のテストでは無い方がよかったのであえて外したり…あと細かいですが、LANコネクターの部品まで複数を聴き比べて変えています。そんな感じで何度もトライアンドエラーを繰り返して、1つずつ仕様を決めていきました。
開口: オーディオ開発って統計学のような側面があって、トライアンドエラーを繰り返して、その数だけ良し悪しの要素があるんです。どこか1つで音が決まるということはないんですよね。そこまで積み重ねてきたもののトータルで、音が決まってくるんです。
北村: そうですね。「このパーツ1つでfidataの音を決めた」というのはなくて、何度も試聴を繰り返して最終的に現在の部品構成に到達しました。
開口: ただ、私も開発の流れを北村たちのそばでずっと見てきましたが、実は「この形で行くぞ」と決めてから基本構造は大きく変わっていないんですよ。最終的な製品の姿が、最初のコンセプトから大きく外れていないんです。基本を決めるまでの最初の下積みが長くて、1年下積み、2年で試作機が完成して、3年でやっと製品化したという。言うなれば、ここまで継続して作り続けたことが重要だったと思います。
北村: 本当に、会社もよくやらせてくれたなと思います(笑)。最初はみんな「NASで音なんて変わらないでしょ?」と言っていました。そこを、オーディオ用NASのニーズは間違いなくあるので挑戦させてほしいと説得したんです。それで試作機を作るところまでいって、最終的には「ここまできたら妥協せずにやりなさい」と、アイ・オー・データ機器という会社全体が、fidataの開発を後押ししてくれたんです。
土方: 素晴らしいですね。ちなみに、どうやって周囲を説得していったんですか?
開口: 社内で実施した試聴会が大きかったですね。北村たち開発陣は都度NASの聴き比べをしていましたし、私自身もオーディオが好きでこれまでにもRockDiskシリーズを担当していたので、NASで音が変わることはよく認識していました。でも、会社全体としてはほとんど理解されませんでした。北村が企画会議でfidataのことを話したときも、みんな意味がわからなくてキョトンとしてしまうくらいだったんですよ(笑)。
土方: そりゃそうですよね(笑)。それを変えた社内試聴会というのは、どんなものだったんですか?
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