【特別企画】実録:ネットオーディオガチ鼎談
高級オーディオNAS “fidata”「HFAS1」開発の裏側に迫る!アイ・オー&土方久明が本音でNAS談義
■回路設計と同じく、聴感上のテストを繰り返した筐体設計
土方: あと、HFAS1を語る上で忘れてはいけないのが、シャーシ・筐体のクオリティですよね。この高いデザイン性と融合して堅牢性を持たせているのがすごいなと。実は、僕の友達のインダストリアルデザイナーが音展に来てHFAS1を見て、「和」という観点で素晴らしいデザインだと絶賛していました。
北村: ハイエンド製品ですので、やはりシャーシの設計には注力しました。当社はアルミ素材を採用したストレージ製品もこれまでに何度も手掛けてきていたので、ある程度の知識はあったんです。特にアイ・オー・データ機器がある北陸地方は、アルミ生産や加工産業も多く、その辺には強かったんですよ。こういった元々の知見のおかげで、デザイン性を高めつつ堅牢性も上げて、より良い設計を突き詰めることができたんです。
土方: 金沢の会社ならではの特徴が本体に出ているわけですね。和紙をイメージした天板も、本当にデザイン性が高いですし。
開口: 外観上はわからない部分で、一年前の試作機から変わっている部分も多いですよ。ここでも聴感上のテストを第一にしていて、天板の厚みを何種類も試した上で4mm厚のものを選択していますし、ネジの部材や位置まで何パターンも試しているんです。他に、メイン基板とストレージ部をセパレートするT字の縦のフレームを、実は浮かした設計に変えていたり。
北村: そうなんです。とにかく、“音質最優先”で設計を決めました。例えば「電源基板にカバーをつけるかどうか」。これはカバーをしない方が音質面でより効果的でしたので、つけない選択をしました。そのため安全上の問題から、ユーザーがストレージ交換できない仕様になりました。もちろん、ストレージ交換のニーズがあることもわかっているんですが。
土方: ストレージ交換できない仕様はそういう理由だったんですね。
開口: 理由の1つ、ですね。他にも電源2基積んだら、ストレージのスペースが狭くなって簡単に取り外せないという問題もありました。ただ、音質優先という点ではストレージも同じで、現状でベストなものを搭載していると自負していますよ。
土方: なるほど。細かいところですが、付属の電源ケーブルもがっちり太くしなやかで良いなと思いました。
開口: 電源ケーブルはお客さまの方で交換するとは思うんですが、それでもハイエンドオーディオ機器に付属するものなのでオーディオグレードのものですし、使いやすさの観点からしなやかで取り回しの良いものをチョイスしています。
■PC周辺機器ではなく、“オーディオ製品”としてのユーザビリティを追求したHFAS1
土方: あと、PC周辺機器としてのNASではなく、ちゃんとオーディオ製品としてのユーザビリティに優れていることも大きいと思うんです。電源を入れてからの起動も短いですし、また突然の電源遮断にも対応していますし。こういった仕様は企画段階から考えていたんですか?
北村: ええ、考えていました。オーディオ向けに出す製品なので、PC的な作法を前提にしてはダメだと。これまでPC向けのNAS開発で起動時間の早さはあまり求められなかったので、オーディオ向けに開発するにあたって初めて意識しましたね。
開口: IT製品の場合、難易度的にある意味お客さまに甘えてしまっている部分があるじゃないですか。でもオーディオ製品として展開するなら、最初からそれを前提にしてはいけないと思って。なので、HFAS1やRockDisk for Audioは、うちのNASの中では異例なほど起動速度が早いんです。
土方: 素晴らしい。それはつまり、「電源が完全に遮断されるまでコンセントを抜いてはいけない」といったPC的な作法を知らない従来のオーディオユーザーでも、何も意識せずに普通に使えるものだということなんですよ。これは、ネットワークオーディオが普及するための本当に大きなポイントだと思うんです。普通のNASだったら2〜3分かかる起動時間を、数十秒まで短縮しているというのはすごいですね。
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