[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第99回】にわかに活気づく “平面駆動ヘッドホン” 注目3機種聴き比べ!
■“平面駆動型の灯火”を守ってきたブランド、AUDEZEの「LCD-XC」
最後はAUDEZE「LCD-XC」(実売目安23万8,180円)。こちらは平面駆動型にこだわり続け、その灯火を守ってきたとも言えるメーカーの最新モデルだ。先程も述べたが、同世代同価格帯には開放型モデル「LCD-X」もある。今回は他に紹介する2製品が開放型なので、このメーカーからは密閉型の本機をピックアップしてみた。
概要はこちらも以下のニュース記事を参照してほしい。
●AUDEZE、新技術“Fazor Technology”搭載の平面駆動ヘッドホン「LCD-X」「LCD-XC」
http://www.phileweb.com/news/d-av/201401/30/34464.html
では写真で見ていこう。
試聴はこちらも主にはバランス接続駆動で行った。印象をまずは簡単にまとめると、解像感等の基本要素を高いレベルで確保しつつもそれでいて、ざっくりとした荒っぽさやぐいぐいのドライブ感も強烈に表現してくれる、ロック対応力がかなり高いヘッドホンだ。
まあ今回の流れとしてこちらもお楽しみはあとにして、まずは強いて言えばの弱いところを挙げてみよう。あえて弱点はと言えば繊細「感」の弱さだ。そこを意識して聴き込めば、本機もさすがと言えるレベルの解像感や細やかな描写力を備えていることはすぐに確認できるだろう。しかし荒々しくさえある勢いのよさの印象が強烈なので、実はしっかり備えている繊細さは相対的には弱く「感」じられるのだ。しかし繰り返すが、そこも実はしっかり備えている。
例えば、「レスリングの基本技術も細やかに備えているんだけれど普段はそれを強くは打ち出さない大柄でパワフルでエンターテイメント精神豊かなアメリカン・プロレスラー」みたいなイメージを想像してみてほしい。表面上は力任せに暴れているように見せて、その裏には基本の確かさに支えられた様々な配慮が行き届いており、いざとなれば渋いレスリングもできるのだ。
弱点を挙げようとしたはずがいつのまにやら褒めモードに入ってしまったので、その勢いで褒め続けよう。
ベースやドラムスのぶっとさはずば抜けている。ベースは肉厚でぐいぐいぐいっと強引なまでのドライブ感でリズムを牽引。ドラムスは、まさに木質のほどよい柔らかさを備えつつのぶっとさだ。密閉型らしい密度感のある音色と言える。ここはまさに期待通り。いや期待値を余裕で超えてくれている。
シンバルで特徴的なのは、シンバルの金属の表面の質感が浮かぶようなざっくりとした荒さの表現に、そして音色の明るさと抜けのよさだ。ボーカルやギターや音場全体も明るくて少し派手。この派手さにして嫌な派手さではないというところも、アメリカン・プロレスラーっぽさだ。ディストーションギターやデジタル感を強く出したシンセのエッジもいい感じに強い。低音で深く太く唸るベースとバスドラムに全く負けることのない存在感だ。
■まとめ
…というわけで3モデルを試聴したが、当然ながら「平面型だからこういう音」と一様に言えるものではなかった。考えてみれば、そんな考えが通用するなら他のヘッドホンの大半は「ドーム型だからこういう音」って話になるわけだが、実際にはそんなことはないわけで、やっぱり当然だ。だが余計なしつこさくどさがないというところは、特にTH500RPとPM-1については共通項と言えるかもしれない。LCD-XCもあのパワフルさの割には聴き疲れない印象だ。
平面型は歪みや諸々の狂いや乱れを生み出しにくいという。その歪み等はリスナーに直接にそれと感じられるものではないだろう。しかしそれが最小化されてみるとこのように「なぜだか聴きやすい」と感じられるのかもしれない。
もちろん、一般的なドーム型振動板ドライバーの可能性も多くの名機や現行機によって実証されており、その進化は今後も続くだろうし、今後もまだ長らくは主流であり続けるだろう。しかしだからこそ、それとはまた違う可能性を持つ平面型の存在は、その存在が刺激となってドーム型の進化もさらに促すだろうという意味でも、平面型それ自体の音としても、魅力的だ。
高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi 趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。 |
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