[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第130回】エントリーポータブルの夏! 6万円台で買えるハイレゾDAP 注目モデル一斉テスト
▼PAW5000の音質
柔らかで暖かな空気感。しかも「どちらかといえば」レベルではなく完全に明確にそちらに寄せてある音作りだ。「毎日ずっと聴いてもらいたいので聴きやすさ聴き疲れなさを重視した」とのことなので、その設計意図に忠実な音と言えるだろう。AKがシリーズとしての音の方向性を打ち出しているのに対して、こちらはPAWGoldとは全く異なる方向性にしてきたのも面白い。ここまで振り切った音作りでそれが成功している例も珍しいので、僕としても「これも…ありだな!」と思わされる。
なおこのモデルは「DAMP」スイッチの切り替えでの音の変化が大きい。詳しくは後述するが、DAMP Hだと「柔らかで暖かな空気感で湿度60%のしっとりとした濃さ」、DAMP Lだと「柔らかで暖かな空気感で湿度40%のすっきりとした抜け」みたいなイメージだ。試聴の機会があればDAMP切替も忘れずに試してみてほしい。ここでは僕の好みに合わせて「DAMP L」での印象を主に述べる。
相対性理論「たまたまニュータウン (2DK session)」冒頭のバスドラムはとにかく空気感や音抜けが見事だ。タイトとかソリッドとか対極の感触でありつつ、しかし緩くぼわんと広がるわけでもない。太鼓類としての生感の強い響きだ。
全体としても空気感の印象が強い。AK Jrは背景を無色に近付けようという方向性だが、PAW5000は背景の粒子感というのか、背景にまで手触りを出している感じだ。それでいて背景が音の響きを邪魔することはなく、響きもむしろ豊かに感じ取れる。
ハイハットシンバル等、高域側の細かな音はその芯や輪郭を強くは打ち出さず、よい具合にほぐすタイプ。シャープな描写にこだわらず、ナチュラルで聴きやすい感触にしてある。この点がやくしまるえつこさんのボーカルとの相性を抜群に高めており、ふわっふわだけれどぼやけてはいないという絶妙な表現だ。
ということで他に相性のよい曲としては花澤香菜さん「こきゅうとす」を挙げるしかない。天使であるところの花澤さんのその天使感がさらに高まる。クール系のプレーヤーで再生すると「冬の午前に降り立った天使」のような印象だが、PAW5000だと「春の午後に降り立った天使」といった感じ。どちらもよいのだが今回は後者の新鮮さにやられてしまった。
また空間表現という意味でも、エレクトロな感じの曲よりはこういったナチュラルな空気感の曲の方によりフィットする。