[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第150回】田村ゆかりさんに捧ぐ!ラジオ「いたずら黒うさぎ」歴代OP/ED曲をオーディオ目線で語る
▼Melody(シングル「星空のSpica」より)
2007年04月21日から2008年02月02日の曲。こちらのシングルからがキングレコード在籍時の作品だ。番組スポンサーは04月07日放送以降のしばらくはコナミとキングレコードの連名となっている。
そんなこの時期のゆかりさん。水樹奈々さんのライブ映像を鑑賞して「かっこいい。様になってるの!(わたしには)できない。あいつかっけーよ!」と悩んだ末に、唐突にリスナーに電話して「水樹奈々ちゃんみたいにライブ中にかっこいいことが言いたいの!何言ったらかっこいいと思う?」との無理難題を投げかけ、幸運なリスナーを困惑させていた。
そんな時期のOP曲なこちら。イントロから登場するピアノのリフ的なフレーズと音色が独特で印象的で、ドカンと爆発的な曲とはまた違った意味合いでオープニング感の強い曲だ。
ピアノの音色はグランドよりはアップライトっぽく、ピアノの弦の近くにマイクを置いて録音したオンマイクっぽい雰囲気。ピアノ全体の大きく豊かな響きよりも、弦、ピアノ線の金属的な響きを感じさせる音作りだ。あるいは録音後のエフェクト処理や他の音色を重ねるなどで作り込んであるのかもしれない。また右手の高音と同じリズムで別の動きをするラインを左手の低音で入れることでも、独特の響きを生み出していると感じる。
いずれにせよそのピアノ、この音色この響きでの歯切れよいフレーズはこの曲において大きな役割を担っていると思う。その後もそのピアノがバッキングの中心。そのピアノの歯切れのよいなリズムをセンターに、その左右にワウペダルで揺らしたリズムのギターが配置される。この組み合わせも絶妙だ。
そしてそのピアノのリフはそのままサビのバッキングにも使われている。しかし厳密には「そのまま」ではない。オープニングでは左手と右手、低音と高音でフレーズを重ねて弾くことで響きを強調していたが、このサビのバッキングなどでは左手の役割を減らし、フレーズの重心を高音側に上げている。
イントロはピアノのソロであるのに対して、ここからは他の楽器も入ってのバッキング。ピアノの左手が目立った動きをすると特にベースとぶつかりがちだ。またフレーズの印象付けはイントロでもう十分に行えているので、改めての強調も必要ない。ここは軽やかにリフレインしておけばよいわけだ。
ということでここまでそれについてばかりたっぷり語ってきたことからバレバレだと思うが、この曲ではこのピアノの雰囲気を生かすことを最優先にしてオーディオシステムを考えてみたい。
ずばり、ヘッドホンがおすすめだ。ピアノの音色にオンマイク感があると書いたが、そういった「音の近さ」の描写がほしい場合、そこを強調して届けてくれるヘッドホンに分がある。イヤホンでも近さは得られるが、すると今度は「響き」の方が少しわかりにくい。バランスがよいのは開放型ヘッドホンあたりではないだろうか。
そしてヘッドホンを推す理由はもうひとつ。
「ヘッドフォンで耳を塞いで 逃げたくなる気持ちを閉じ込めた」
そう歌われているのだからヘッドホンで聴いた方が雰囲気が出るではないか。
という流れで歌詞の話に。まずこの歌は「君をつれて」の「僕」に続いて一人称が「ボク」となっている。とはいえ曲調も声の作り方も「君をつれて」のように少年っぽくはなく、そこは強くは意識されていないのかなという気がする。
一方、ここは意図されているのかなと感じられるのは、シングル表題曲「星空のSpica」とのつながりだ。
「きみに続く長い道を遥か照らす青い星よ」
「いつか見た星空は今のボクへのメッセージ」
「祈りのように旅は続く」
「どんな道のりも朝が来るんだと信じてる」
その2曲の間に収録されている「Sensitive Venus」にも「夜明け」という言葉が使われており、このシングルは星空の夜から夜明けまでを舞台にしているのかな、みたいな想像も膨らむところだ。実際にそこまで明確な意図があるのかはわからないが、ゆかりさんの作品はシングルであっても収録曲のバランスや流れにも気が配られており、このシングル「星空のSpica」もその例外ではない。そこは確かだろう。
なおこちらの作詞・作曲・編曲の全てを担当した田中隼人さんは、水樹奈々さんにも曲を提供している。
次ページ次は歴代ED曲の中でも特に静かな印象の「YOURS EVER」
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