公開日 2018/09/12 10:41
デノン10年ぶりのレコードプレーヤーは、父娘ほど離れた開発者が「デザインと音」の両立を目指した
「DP-400/450USB」開発者に聞く
デノンからレコードプレーヤーの新製品「DP-400」「DP-450USB」が発売された。同社のレコードプレーヤーとしては、なんと10年以上ぶりという新製品なのだが、この2つのモデルは単なるエントリークラスのレコードプレーヤーと見過ごすことのできない、注目すべきポイントが3つある。
1つ目は、数多くのレコードプレーヤー名機を生み出してきたデノンが、これまで蓄積した技術を惜しみなく投入した野心的なモデルであるということ。
2つ目は、DAC内蔵プリメインアンプ「PMA-60」などのヒットモデルを含む、現代的なデザインとHi-Fiサウンドを兼備した「デザインシリーズ」から登場したレコードプレーヤーであるということ。DP-450USBにはUSB録音機能を持たせ、現代のライフスタイルにフィットさせていることも興味深い。
3つ目は、リーズナブルな価格帯ながら、Hi-Fiの観点からも本格的と言える内容を備えていることだ(この3点については動画でも紹介しているので、ぜひ下記の動画もご覧いただきたい)。
デノンが今、10年ぶりにレコードプレーヤー開発に至った背景には何があるのか? 今回は、DP-400/DP-450USBの開発を担当したディーアンドエムホールディングスの岡芹亮さん、山中香織さんに、シリーズ開発の経緯や技術的なポイント、製品に込められたコンセプトについて、直接お話を伺った。
■“デザインシリーズ”としてレコードプレーヤーを開発した理由とは
ーー インタビューに先駆けDP-400を付属カートリッジで試聴させてもらいましたが、価格を忘れるような優秀な音と、思わず部屋に置きたくなるような秀逸なデザインに感銘を受けました。さすがのクオリティです。
岡芹亮さん(以下、岡芹)・山中香織さん(以下、山中) ありがとうございます。
ーー デノンから10年ぶりにレコードプレーヤー新製品が登場したということ自体にも注目が集まっていますが、このタイミングで新製品を開発した背景について教えていただけますでしょうか?
山中 CDの登場により、レコードの売上は2000年代後半にいったん底を打ちました。しかし、2010年台に入りアメリカを中心に、世界でレコード復権の兆しが見られ始めました。現在は日本でも人気が高まってきているのはご存じの通りです。
今のレコードブームを牽引しているのは、CDが出る前にレコードを買っていた世代ではなく、むしろ20〜30代の若年層なんです。レコードを「新鮮」「味わいがある」「楽しい」などと感じている世代と言えます。
ーー 若い世代には、アナログらしい音楽的な音であるとか、ライフスタイルやファッションという着眼点でレコードに興味を持つ方が増えていると聞きます。
山中 このようなレコードを新鮮と捉える世代に対し、デノンとして提示できるものを考えたときに、従来の重厚長大なHi-Fiとは一線を画した「デザインシリーズ」がありました。
ーー デザインシリーズは、スタイリッシュなデザインとデノンならではのHi-Fiサウンドを兼ね備えた製品群と言えます。USB-DAC機能を搭載したアンプからヘッドホンアンプまで、ラインナップも豊富です。私も「PMA-60」を自宅で使っていますが、そのコストパフォーマンスの高さには感心させられました。
ただ、デザインシリーズというとこれまではデジタルオーディオ製品を中心の展開でしたので、レコードプレーヤーが加わったのは少し意外でした。
山中 デザインシリーズのコンセプトは、デジタル・アナログどちらかに特化するというより、現代的なデザインや利便性を持ちつつ、Hi-Fiとしてのクオリティも提供することなんです。
いい音でレコードを聴きたい、だけどデザインにもこだわりたいという20〜30代のニーズに応えるために、デザインシリーズとしての提案がベストだと考えました。
■“技術コンセプトありき”に立ち返ってレコード再生の精度を追求
ーー ここからは音質対策について伺います。ファッションからレコードに入る方が増えたとは言え、多くの方がレコード再生で一番気にするのは、やはり音質だと思います。オーディオメーカー以外が手がけたデザイン優先のレコードプレーヤーをここ最近でかなり聴きましたが、正直に言えば、お世辞にも良い音とは言えない製品も多かった。
私は、わずか数ミクロンのグルーブ(溝)を物理的なスタイラス(針)でトレースするレコード再生は、デジタルよりも難しいと考えています。特にコストの限られたエントリーモデルでは、技術の投入やパーツの精度を出すことが難しいでしょう。その点、DP-400/450USBは音質にもこだわったモデルということですが、まずは開発の経緯を教えてください。
岡芹 まず自己紹介からさせていただくと、私は多分、この会社でいちばん年長の社員だと思います。今一緒に仕事をしている山中とは、娘と仕事をしているようなものです(笑)。
私が入社した1981年は、日本コロムビア(株)三鷹事業所、つまりかつての日本電気音響(株)のオリジナルの建屋がまだあった時代でした。そこではカートリッジをはじめ、レコードプレーヤー、カセットデッキ、業務機器などの開発が行われていました。その時代を知っていることが、本製品の開発にアサインされた理由のひとつだと思います。
実は当初、2008年に発売したフルオートプレーヤー「DP-300F」をベースにデザインを刷新し、新しいモデルとして開発しようという案がありました。しかし、それでは面白みがありません。例えばDP-300Fをインダストリアルデザインで焼き直したところで、なんのインパクトもないだろうなと。
ーー 結果的には新規の開発になったのですね。
岡芹 はい。新規開発するなら、デノンのこれまで積み重ねてきたレコードプレーヤーの技術を、見直してみようということになったのです。デノンの設計思想に立ち返り、基本性能を追求した結果として、音質向上に繋がったと考えています。
例えば、速度検出を行って回転精度を維持したり、歪を減らしたりといったアプローチですが、これは当時、業務機器を多く手がけたデノンのコンセプトでした。そのエッセンスを、今回のDP-400/450USBにも入れていこうということになったのです。
1つ目は、数多くのレコードプレーヤー名機を生み出してきたデノンが、これまで蓄積した技術を惜しみなく投入した野心的なモデルであるということ。
2つ目は、DAC内蔵プリメインアンプ「PMA-60」などのヒットモデルを含む、現代的なデザインとHi-Fiサウンドを兼備した「デザインシリーズ」から登場したレコードプレーヤーであるということ。DP-450USBにはUSB録音機能を持たせ、現代のライフスタイルにフィットさせていることも興味深い。
3つ目は、リーズナブルな価格帯ながら、Hi-Fiの観点からも本格的と言える内容を備えていることだ(この3点については動画でも紹介しているので、ぜひ下記の動画もご覧いただきたい)。
デノンが今、10年ぶりにレコードプレーヤー開発に至った背景には何があるのか? 今回は、DP-400/DP-450USBの開発を担当したディーアンドエムホールディングスの岡芹亮さん、山中香織さんに、シリーズ開発の経緯や技術的なポイント、製品に込められたコンセプトについて、直接お話を伺った。
■“デザインシリーズ”としてレコードプレーヤーを開発した理由とは
ーー インタビューに先駆けDP-400を付属カートリッジで試聴させてもらいましたが、価格を忘れるような優秀な音と、思わず部屋に置きたくなるような秀逸なデザインに感銘を受けました。さすがのクオリティです。
岡芹亮さん(以下、岡芹)・山中香織さん(以下、山中) ありがとうございます。
ーー デノンから10年ぶりにレコードプレーヤー新製品が登場したということ自体にも注目が集まっていますが、このタイミングで新製品を開発した背景について教えていただけますでしょうか?
山中 CDの登場により、レコードの売上は2000年代後半にいったん底を打ちました。しかし、2010年台に入りアメリカを中心に、世界でレコード復権の兆しが見られ始めました。現在は日本でも人気が高まってきているのはご存じの通りです。
今のレコードブームを牽引しているのは、CDが出る前にレコードを買っていた世代ではなく、むしろ20〜30代の若年層なんです。レコードを「新鮮」「味わいがある」「楽しい」などと感じている世代と言えます。
ーー 若い世代には、アナログらしい音楽的な音であるとか、ライフスタイルやファッションという着眼点でレコードに興味を持つ方が増えていると聞きます。
山中 このようなレコードを新鮮と捉える世代に対し、デノンとして提示できるものを考えたときに、従来の重厚長大なHi-Fiとは一線を画した「デザインシリーズ」がありました。
ーー デザインシリーズは、スタイリッシュなデザインとデノンならではのHi-Fiサウンドを兼ね備えた製品群と言えます。USB-DAC機能を搭載したアンプからヘッドホンアンプまで、ラインナップも豊富です。私も「PMA-60」を自宅で使っていますが、そのコストパフォーマンスの高さには感心させられました。
ただ、デザインシリーズというとこれまではデジタルオーディオ製品を中心の展開でしたので、レコードプレーヤーが加わったのは少し意外でした。
山中 デザインシリーズのコンセプトは、デジタル・アナログどちらかに特化するというより、現代的なデザインや利便性を持ちつつ、Hi-Fiとしてのクオリティも提供することなんです。
いい音でレコードを聴きたい、だけどデザインにもこだわりたいという20〜30代のニーズに応えるために、デザインシリーズとしての提案がベストだと考えました。
■“技術コンセプトありき”に立ち返ってレコード再生の精度を追求
ーー ここからは音質対策について伺います。ファッションからレコードに入る方が増えたとは言え、多くの方がレコード再生で一番気にするのは、やはり音質だと思います。オーディオメーカー以外が手がけたデザイン優先のレコードプレーヤーをここ最近でかなり聴きましたが、正直に言えば、お世辞にも良い音とは言えない製品も多かった。
私は、わずか数ミクロンのグルーブ(溝)を物理的なスタイラス(針)でトレースするレコード再生は、デジタルよりも難しいと考えています。特にコストの限られたエントリーモデルでは、技術の投入やパーツの精度を出すことが難しいでしょう。その点、DP-400/450USBは音質にもこだわったモデルということですが、まずは開発の経緯を教えてください。
岡芹 まず自己紹介からさせていただくと、私は多分、この会社でいちばん年長の社員だと思います。今一緒に仕事をしている山中とは、娘と仕事をしているようなものです(笑)。
私が入社した1981年は、日本コロムビア(株)三鷹事業所、つまりかつての日本電気音響(株)のオリジナルの建屋がまだあった時代でした。そこではカートリッジをはじめ、レコードプレーヤー、カセットデッキ、業務機器などの開発が行われていました。その時代を知っていることが、本製品の開発にアサインされた理由のひとつだと思います。
実は当初、2008年に発売したフルオートプレーヤー「DP-300F」をベースにデザインを刷新し、新しいモデルとして開発しようという案がありました。しかし、それでは面白みがありません。例えばDP-300Fをインダストリアルデザインで焼き直したところで、なんのインパクトもないだろうなと。
ーー 結果的には新規の開発になったのですね。
岡芹 はい。新規開発するなら、デノンのこれまで積み重ねてきたレコードプレーヤーの技術を、見直してみようということになったのです。デノンの設計思想に立ち返り、基本性能を追求した結果として、音質向上に繋がったと考えています。
例えば、速度検出を行って回転精度を維持したり、歪を減らしたりといったアプローチですが、これは当時、業務機器を多く手がけたデノンのコンセプトでした。そのエッセンスを、今回のDP-400/450USBにも入れていこうということになったのです。
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