公開日 2021/10/11 07:00
アイマスもパックマンも“実在”させる、バンナム「未来研スタジオ」が次元の壁を壊した
日本のIP/エンタメを世界に広げる
バンダイナムコエンターテインメントが今年5月、自社スタジオ「MIRAIKEN studio(未来研スタジオ)」を開設した。同社らしく先端技術の粋を凝らしたスタジオだが、なぜ “ゲーム会社” である同社が自社スタジオを持つに至ったのか? このスタジオからどういった未来を発信していくのか、その展望を聞いた。
■先端テクノロジーでリアルと二次元を融合させる
そもそもバンダイナムコエンターテインメントは本社を「バンダイナムコ未来研究所」と名付けているように、エンターテインメントを軸としたテクノロジーの発展に積極的だ。AIやVR、ARにMRといった技術を取り入れ、ゲームやライブコンテンツのようにユーザーが楽しめるかたちでアウトプットしてきた。未来研スタジオはxR技術による次世代的な配信を実現するスタジオなので、アプローチの一貫としてチャレンジしていると言われれば違和感はないが、しかしイベント企画・運営を行う会社ではないのにやりすぎでは、とも考えてしまう。
その設立の背景には、昨今の情勢には必ずと言っていいほど関わってくるコロナ禍も影響している。このコロナ禍においてライブなどのリアルイベントが軒並み中止となり、その一方で配信は年間200本ほどが行われたそうだ。さすがにこの数を都度セッティングし、外部の制作会社や配信会社に依頼をしていくと、そこにかかるカロリーは相当なものになる。現実的なコスト管理などの面から、自前でスタジオを持ちたいという考えがあったという。
もちろん打算的な理由は一部に過ぎない。バンダイナムコエンターテインメントは、数多くのIP(知的財産)を抱える会社であり、そのIPの世界観を拡張し、ユーザーとの接点を増やすことをミッションとしている。VTuberが台頭してくるなど配信の有り様が変化してきたなか、「ゲームの世界に入れるものを作ろう」というテーマを持って配信事業を本格化したのだ。
未来研スタジオは壁3面+床1面の計4面が高画質LEDディスプレイで囲まれた「A studio」と、モーションキャプチャ撮影やスチール撮影などの用途が想定された「B studio」の2つで構成されている。LEDディスプレイは4K対応の高精細2.6mmピッチLEDで、そのステージは10人ほどが同時に登壇できる広さだ。このLEDディスプレイにはゲームや実写の映像などを映し出し、それを背景にキャストが入ってくる。セットを組み替えるのではなく、映像を切り替えることで一瞬の場面展開も可能だ。素材の制作や配信環境の関係から4K対応としているが、実際には8K映像などにも対応する。
今回お話を伺った、バンダイナムコエンターテインメントの株式会社バンダイナムコエンターテインメント 第3IP事業ディビジョン ニュービジネスプロダクション クロスメディア課 アシスタントマネージャー 吉本行気氏は「これほどのスタジオは日本に何件もない」と胸を張る。国内最大規模のスタジオとしてバーチャル映像表現にも力を入れているが、「ゲームの世界に入り込めるスタジオは唯一と自負している」と同社ならではのIPを活用した展開が強みだとしている。
実際に、未来研スタジオのお披露目イベント「MIRAIKEN studio Opening Ceremony」では、実写と二次元キャラクターの融合を見事に映像化してみせた。スタジオ内でナビゲーターのヒャダイン氏、金澤朋子氏と『アイドルマスター』シリーズのアイドル天海春香が共演。いまはテレビでもタレントとVTuberが同じ画面に写っているシーンが放送されることも珍しくないが、キャラクターのCGクオリティが高いことが特徴だろう。また、パックマンを背景にダンサーがパフォーマンスする、といったライブパフォーマンスへの活用も実例が示された。
二次元キャラクターとのコラボに関して、視聴者は画面を通して映像を見るため、「キャラクターが画面を飛び出した」という体験とは違うものだが、一方でその画面内では、キャラクターが画面を飛び出してリアルの人物と交流している。タレントの実物を見る機会などそうそうないことを考えると、この映像には “キャラクターの実在性” をイメージさせる力がある。キャラクターからはモーションキャプチャにより、リアルでシームレスな反応が得られるからなおさらだ。
A StudioとB Studioを設けた理由もここにあるのだろう。2つのスタジオはガラス窓でお互いに様子を見ることができるようになっている。A Studioにいる人物が、B Studioでモーションキャプチャをする “中の人” がどういった動きをしているのかを確認しながら進行する、といったことが可能なわけだ。また、eスポーツのイベントではA Studioでプレイ、B Studioでその様子を実況するなどの使い分けもできる。
ライブの背景映像では、壁と床にしかLEDディスプレイはないはずだが、映像上では天井にカメラがパンした先にも映像が続いており、奥行きのあるゲームの全景を映し出していた。これは人物の背景に高精細な映像を映し出して撮影、それを天井を超えるような高さのあるCG映像に合成するといったプロセスで作り出しているそうだ。
また視聴者だけでなく、出演するキャストにも影響がある。壁と床のディスプレイには実際に映像が映し出されるため、出演する声優の方からは「まるでゲームの世界に入り込んでいる感じで、ほかにこんな現場はない。気持ちの作り方が変わる」という意見があったと、吉本氏が教えてくれた。
見る側と出る側、双方にプラスの影響を与える。こういった三次元×二次元の融合こそ、未来研スタジオの真骨頂だ。
映像面ではゲームを手がけていることから、フルCGで作り込むことも得意領域。さらにグループとしては日本でも屈指の超高精細モーションキャプチャスタジオを所有しており、アイドル星井美希の特別生配信なども成功させている。こうした部隊とチームを組んで両軸から攻められるのも、同社が運営するメリットだろう。
■IPを世界に広げ、日本のエンタメを向上させていく
さて、新しいエンタメ体験を提供してくれる未来研スタジオだが、コロナ禍が終焉した際には、リアルイベントも反動のように多く行われることだろう。オンライン、配信イベントが反対に落ち込む可能性についてはどのように捉えているのかを問うと、吉本氏の返事は明るい。
「多くの配信を行ってみての気付きがありました。コンサートが地方だから参加できない、遠征になりコストがかかる、という人たちが参加できるようになるというメリットもそうですが、我々も海外を非常に意識するようになったんです。現地コンサートは海外に行くことを意識しないといけないため、断念せざるを得ないこともありますが、配信は海外からも当たり前に見ることができるので、必ず視野に入れることになります。出口が世界へと広がりました」(吉本氏)
バンダイナムコグループの取り組みとして「自社の版権も、他社からお預かりしているものも含めてIPを広く世界中に広めていきたい。もっともっと、お客様の熱量を上げて、多様なアウトプットをしていくのがミッション。既成の方法にとらわれず、手広く実践していきたい」と語る吉本氏。配信もその1つ。リアルとの両輪で、よりユーザーが楽しめる体験の提供を模索していくのだろう。
また現状では未来研スタジオはバンダイナムコグループのみが利用する自社スタジオとなっているが、その門戸は閉ざされていない。吉本氏は未来研スタジオを “オープン型プラットフォーム” とすることで、日本のライブエンタメ業界を世界レベルに引き上げることを目標に掲げる。「実現できる技術を持っている人が少ない、施設が少ない、マシンが少ない、ということがハードルになっているため、未来研スタジオをどんどん使っていただいて、新しいものが作られ、技術が蓄積されていき、コストも下げられるようになって、結果として業界水準を上げるようにしたい」と展望が述べられた。
この未来研スタジオの技術を一般開放する可能性についても、「面白いですね」と前向きだ。「5〜10年後には未来研スタジオの技術が古いと言われるかもしれませんが、他社との情報交換も積極的に行っていき、一般の方とも未来研スタジオの技術を掛け算していき、世の中の技術促進に役立ててればと考えています」。
体験型ゲームへの技術活用や、スタジオを小型化して個人含むクリエイターに貸し出す、もしくはパッケージ化して売り出すなどが実現すると、エンタメの底上げになるのではないだろうか。「この映像すごいな」という体験はいつも楽しいものだが、それを身近なものにしてくれる未来研スタジオ。その取り組みにはメディアとして注目しつつ、いち視聴者としても期待していきたい。
◇
バンダイナムコエンターテインメントが開催する日本最大級のオンライン博覧会『アソビストアEXPO 2021』が、本日10月11日まで開催されている。ここでは様々なプログラムを、未来研スタジオより配信していく。期間中は、人気作品のキャラクターやアイドル、声優陣による豪華LIVE番組が予定されているので、 “未来的な映像” を見てみたい方は覗いてみてほしい。
©BANDAI NAMCO Entertainment Inc. Tales of Arise™ & ©BANDAI NAMCO Entertainment Inc. SCARLET NEXUS™ & ©BANDAI NAMCO Entertainment Inc. ACE COMBAT™ 7: SKIES UNKNOWN & © BANDAI NAMCO Entertainment Inc. ©窪岡俊之 ©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
■先端テクノロジーでリアルと二次元を融合させる
そもそもバンダイナムコエンターテインメントは本社を「バンダイナムコ未来研究所」と名付けているように、エンターテインメントを軸としたテクノロジーの発展に積極的だ。AIやVR、ARにMRといった技術を取り入れ、ゲームやライブコンテンツのようにユーザーが楽しめるかたちでアウトプットしてきた。未来研スタジオはxR技術による次世代的な配信を実現するスタジオなので、アプローチの一貫としてチャレンジしていると言われれば違和感はないが、しかしイベント企画・運営を行う会社ではないのにやりすぎでは、とも考えてしまう。
その設立の背景には、昨今の情勢には必ずと言っていいほど関わってくるコロナ禍も影響している。このコロナ禍においてライブなどのリアルイベントが軒並み中止となり、その一方で配信は年間200本ほどが行われたそうだ。さすがにこの数を都度セッティングし、外部の制作会社や配信会社に依頼をしていくと、そこにかかるカロリーは相当なものになる。現実的なコスト管理などの面から、自前でスタジオを持ちたいという考えがあったという。
もちろん打算的な理由は一部に過ぎない。バンダイナムコエンターテインメントは、数多くのIP(知的財産)を抱える会社であり、そのIPの世界観を拡張し、ユーザーとの接点を増やすことをミッションとしている。VTuberが台頭してくるなど配信の有り様が変化してきたなか、「ゲームの世界に入れるものを作ろう」というテーマを持って配信事業を本格化したのだ。
未来研スタジオは壁3面+床1面の計4面が高画質LEDディスプレイで囲まれた「A studio」と、モーションキャプチャ撮影やスチール撮影などの用途が想定された「B studio」の2つで構成されている。LEDディスプレイは4K対応の高精細2.6mmピッチLEDで、そのステージは10人ほどが同時に登壇できる広さだ。このLEDディスプレイにはゲームや実写の映像などを映し出し、それを背景にキャストが入ってくる。セットを組み替えるのではなく、映像を切り替えることで一瞬の場面展開も可能だ。素材の制作や配信環境の関係から4K対応としているが、実際には8K映像などにも対応する。
今回お話を伺った、バンダイナムコエンターテインメントの株式会社バンダイナムコエンターテインメント 第3IP事業ディビジョン ニュービジネスプロダクション クロスメディア課 アシスタントマネージャー 吉本行気氏は「これほどのスタジオは日本に何件もない」と胸を張る。国内最大規模のスタジオとしてバーチャル映像表現にも力を入れているが、「ゲームの世界に入り込めるスタジオは唯一と自負している」と同社ならではのIPを活用した展開が強みだとしている。
実際に、未来研スタジオのお披露目イベント「MIRAIKEN studio Opening Ceremony」では、実写と二次元キャラクターの融合を見事に映像化してみせた。スタジオ内でナビゲーターのヒャダイン氏、金澤朋子氏と『アイドルマスター』シリーズのアイドル天海春香が共演。いまはテレビでもタレントとVTuberが同じ画面に写っているシーンが放送されることも珍しくないが、キャラクターのCGクオリティが高いことが特徴だろう。また、パックマンを背景にダンサーがパフォーマンスする、といったライブパフォーマンスへの活用も実例が示された。
二次元キャラクターとのコラボに関して、視聴者は画面を通して映像を見るため、「キャラクターが画面を飛び出した」という体験とは違うものだが、一方でその画面内では、キャラクターが画面を飛び出してリアルの人物と交流している。タレントの実物を見る機会などそうそうないことを考えると、この映像には “キャラクターの実在性” をイメージさせる力がある。キャラクターからはモーションキャプチャにより、リアルでシームレスな反応が得られるからなおさらだ。
A StudioとB Studioを設けた理由もここにあるのだろう。2つのスタジオはガラス窓でお互いに様子を見ることができるようになっている。A Studioにいる人物が、B Studioでモーションキャプチャをする “中の人” がどういった動きをしているのかを確認しながら進行する、といったことが可能なわけだ。また、eスポーツのイベントではA Studioでプレイ、B Studioでその様子を実況するなどの使い分けもできる。
ライブの背景映像では、壁と床にしかLEDディスプレイはないはずだが、映像上では天井にカメラがパンした先にも映像が続いており、奥行きのあるゲームの全景を映し出していた。これは人物の背景に高精細な映像を映し出して撮影、それを天井を超えるような高さのあるCG映像に合成するといったプロセスで作り出しているそうだ。
また視聴者だけでなく、出演するキャストにも影響がある。壁と床のディスプレイには実際に映像が映し出されるため、出演する声優の方からは「まるでゲームの世界に入り込んでいる感じで、ほかにこんな現場はない。気持ちの作り方が変わる」という意見があったと、吉本氏が教えてくれた。
見る側と出る側、双方にプラスの影響を与える。こういった三次元×二次元の融合こそ、未来研スタジオの真骨頂だ。
映像面ではゲームを手がけていることから、フルCGで作り込むことも得意領域。さらにグループとしては日本でも屈指の超高精細モーションキャプチャスタジオを所有しており、アイドル星井美希の特別生配信なども成功させている。こうした部隊とチームを組んで両軸から攻められるのも、同社が運営するメリットだろう。
■IPを世界に広げ、日本のエンタメを向上させていく
さて、新しいエンタメ体験を提供してくれる未来研スタジオだが、コロナ禍が終焉した際には、リアルイベントも反動のように多く行われることだろう。オンライン、配信イベントが反対に落ち込む可能性についてはどのように捉えているのかを問うと、吉本氏の返事は明るい。
「多くの配信を行ってみての気付きがありました。コンサートが地方だから参加できない、遠征になりコストがかかる、という人たちが参加できるようになるというメリットもそうですが、我々も海外を非常に意識するようになったんです。現地コンサートは海外に行くことを意識しないといけないため、断念せざるを得ないこともありますが、配信は海外からも当たり前に見ることができるので、必ず視野に入れることになります。出口が世界へと広がりました」(吉本氏)
バンダイナムコグループの取り組みとして「自社の版権も、他社からお預かりしているものも含めてIPを広く世界中に広めていきたい。もっともっと、お客様の熱量を上げて、多様なアウトプットをしていくのがミッション。既成の方法にとらわれず、手広く実践していきたい」と語る吉本氏。配信もその1つ。リアルとの両輪で、よりユーザーが楽しめる体験の提供を模索していくのだろう。
また現状では未来研スタジオはバンダイナムコグループのみが利用する自社スタジオとなっているが、その門戸は閉ざされていない。吉本氏は未来研スタジオを “オープン型プラットフォーム” とすることで、日本のライブエンタメ業界を世界レベルに引き上げることを目標に掲げる。「実現できる技術を持っている人が少ない、施設が少ない、マシンが少ない、ということがハードルになっているため、未来研スタジオをどんどん使っていただいて、新しいものが作られ、技術が蓄積されていき、コストも下げられるようになって、結果として業界水準を上げるようにしたい」と展望が述べられた。
この未来研スタジオの技術を一般開放する可能性についても、「面白いですね」と前向きだ。「5〜10年後には未来研スタジオの技術が古いと言われるかもしれませんが、他社との情報交換も積極的に行っていき、一般の方とも未来研スタジオの技術を掛け算していき、世の中の技術促進に役立ててればと考えています」。
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