公開日 2005/10/09 09:51
≪炭山アキラのハイエンド2005レポート≫ オンキヨーのピュアオーディオに期待/ハイフィデリティショウのHANIWAスピーカー
■オンキヨー
ここ数年ホームシアターに専念していた感のあるオンキヨーが、最近になってデジタルアンプ技術を引っ提げ、久々にピュアオーディオのフィールドへ戻ってきた。今秋の新製品は、何とも懐かしいセグメントと型番を背負って登場してくる模様である。
プリメインアンプのA-977は、かつて1980年代の後半までは「ナナキュッパ」と呼ばれたセグメントで、後に90年代には10万円クラスで、常にベストセラーの一角に入り続けていた同社の看板プリメインの系譜を引く型番である。A-917や927は、かつて使っていたという年輩のファンも多いことだろう。その顔つきも、現代オンキヨーのエッセンスをまといながら、まぎれもなく往年の名アンプの血筋を感じさせるものだ。
回路はデジタル増幅になったが、同社としては既にVLシリーズで実用化済みだけに、手慣れたものである。聞くと「デジタルになって最初は面食らったが、ポイントを押さえることができるようになってからは、実に面白い開発作業だった」とか。
このアンプはどうやら10万円代前半、正確な金額は未決定だそうだが、恐らく12〜13万円前後で発売される模様だ。そのセグメントには、かつて覇を競ったライバルがいまだ君臨している。入門機とハイエンドへの二極分化が叫ばれて久しいオーディオ界だが、久しぶりにオーディオ界の中間層が厚くなってきそうである。期待しようではないか。
ほぼ同時期に発売されるCDプレーヤーC-777は、面白い特徴を持ったプレーヤーだ。デジタルフィルターのスロープ特性を変化させられるプレーヤーはソニーなどから出ていたが、本機はそれに加えて、クロックのタイミングもプラスマイナスで調整することができるのだ。何でも、特に古いディスクはクロックが正確だと却って違和感を生ずる場合があるのだそうで、むしろ少し緩めてやった方がバランスすることがあるのだとか。基本クロックはかなり厳密なものが搭載されているので、最新の高音質ディスクは本来のクロックで楽しむのがよいのだろう。
スピーカーにも魅力的なモデルが複数存在する。参考出品のトップモデルがカット展示されていたが、ウーファーの物量やバッフルの板厚には舌を巻く。リングラジエーターのトゥイーターも大いに興味を惹くところだ。なお、会場には展示されていなかったが、これも懐かしい30cmクラスの3ウェイブックシェルフ型を開発中とか。まさに温故知新。勢いがあったころのオーディオ界の良き部分はどんどん参考にしてほしいものである。
■四十七研究所
四十七研究所の展示には毎年驚きの声を上げているような気がするが、それは同社が奇をてらったもの作りをしているからではない。同社製品には“合理主義の行き着く先”というか、虚飾をはぎ取った末に見えてくる物事の本質のようなものが、むき出しで並べられているように感じるからである。
今年の衝撃はアナログプレーヤーだった。二重のターンテーブルを相互に逆回転させる手法、2枚のターンテーブルを1個のモーターで駆動させる極めてシンプルなやり方、華奢に見えてガタツキの発生する要素が極めて少なそうなアームなど、全くもって独創性の塊のようなプレーヤーである。写真では確認できないが、カートリッジの先端に極めて細いブラシを取り付け、ディスクに接触させているのもこのプレーヤーの大きな特徴なのだという。
しかし、このプレーヤーを目の当たりにした時の驚きを、小さな画像でどれほどお伝えできているだろうか。皆さんもぜひ現物に接してみてほしい。
■オーヴァー
2006年の春に第1号製品を送り出すという、まさに生まれたばかりの社、オーヴァーは、A&Vフェスタでも試作品を展示していたが、ハイエンドショウで初めてサウンドを確認することができた。第1号製品はプリメインアンプで、削り出しパーツが多用され、オーバーオールのNFBを廃したMOS-FETアンプという凝った構成ながら、30万円台の前半を目指して価格を調整中という意欲作である。
会場ではパストラル・シンフォニーのブースで音出し用に使われていたのだが、同社のハイスピードで伸びやかな美音はそのままに、何とも濃厚でカラフルなサウンドを聴かせてくれていた。これは相当な実力といっていい。
■クボテック
昨年はハイエンドショウの一員だったクボテックだが、今年は「ハイフィデリティ・オーディオショウ2005」と銘打って、同社の単独開催という格好のイベントを打ち出した。そうはいっても会場はハイエンドショウと隣接し、来場者も何の違和感もなしに双方を行き来していたから、事実上は同じイベントといってもよいのだろう。
クボテックというと、独自の精密3D-CAD/CAMによる曲面ホーンスピーカーHANIWAが一番の特徴だが、今年のHANIWAは昨年の4ウーファーから2ウーファーのものに変更され、よく似た格好で大きさの違うシステムが3種類展示されていた。一番大きなホール用HANIWAは、30cmウーファー×2、4インチ・コンプレッションドライバー、ホーン型トゥイーターの3ウェイで、ユニットはいろいろなものを取り付けることが可能とのことだが、会場の製品にはウーファーにJBL、ドライバーにエレクトロボイス、トゥイーターにエクスクルーシブのものが使われていた。
今回で一番のポイントは、すべて自社開発の超精密クロック192kHz/24ビット・フルデジタル伝送による演奏ということだったが、奏でられている音はその看板に違わぬ端正で豪壮なものだった。HANIWAというスピーカーは、そのルックスからとかく突飛な音をイメージされがちだが、その実非常にオーソドックスで器の大きなハイファイといった印象のサウンドである。このシステムそのものが導入できるのはごくごく限られた人であろうが、この精密加工技術を生かして、より“現実的”な商品が生み出されることを期待したい。
(オーディオ評論家・炭山アキラ)
hiend2005
ここ数年ホームシアターに専念していた感のあるオンキヨーが、最近になってデジタルアンプ技術を引っ提げ、久々にピュアオーディオのフィールドへ戻ってきた。今秋の新製品は、何とも懐かしいセグメントと型番を背負って登場してくる模様である。
プリメインアンプのA-977は、かつて1980年代の後半までは「ナナキュッパ」と呼ばれたセグメントで、後に90年代には10万円クラスで、常にベストセラーの一角に入り続けていた同社の看板プリメインの系譜を引く型番である。A-917や927は、かつて使っていたという年輩のファンも多いことだろう。その顔つきも、現代オンキヨーのエッセンスをまといながら、まぎれもなく往年の名アンプの血筋を感じさせるものだ。
回路はデジタル増幅になったが、同社としては既にVLシリーズで実用化済みだけに、手慣れたものである。聞くと「デジタルになって最初は面食らったが、ポイントを押さえることができるようになってからは、実に面白い開発作業だった」とか。
このアンプはどうやら10万円代前半、正確な金額は未決定だそうだが、恐らく12〜13万円前後で発売される模様だ。そのセグメントには、かつて覇を競ったライバルがいまだ君臨している。入門機とハイエンドへの二極分化が叫ばれて久しいオーディオ界だが、久しぶりにオーディオ界の中間層が厚くなってきそうである。期待しようではないか。
ほぼ同時期に発売されるCDプレーヤーC-777は、面白い特徴を持ったプレーヤーだ。デジタルフィルターのスロープ特性を変化させられるプレーヤーはソニーなどから出ていたが、本機はそれに加えて、クロックのタイミングもプラスマイナスで調整することができるのだ。何でも、特に古いディスクはクロックが正確だと却って違和感を生ずる場合があるのだそうで、むしろ少し緩めてやった方がバランスすることがあるのだとか。基本クロックはかなり厳密なものが搭載されているので、最新の高音質ディスクは本来のクロックで楽しむのがよいのだろう。
スピーカーにも魅力的なモデルが複数存在する。参考出品のトップモデルがカット展示されていたが、ウーファーの物量やバッフルの板厚には舌を巻く。リングラジエーターのトゥイーターも大いに興味を惹くところだ。なお、会場には展示されていなかったが、これも懐かしい30cmクラスの3ウェイブックシェルフ型を開発中とか。まさに温故知新。勢いがあったころのオーディオ界の良き部分はどんどん参考にしてほしいものである。
■四十七研究所
四十七研究所の展示には毎年驚きの声を上げているような気がするが、それは同社が奇をてらったもの作りをしているからではない。同社製品には“合理主義の行き着く先”というか、虚飾をはぎ取った末に見えてくる物事の本質のようなものが、むき出しで並べられているように感じるからである。
今年の衝撃はアナログプレーヤーだった。二重のターンテーブルを相互に逆回転させる手法、2枚のターンテーブルを1個のモーターで駆動させる極めてシンプルなやり方、華奢に見えてガタツキの発生する要素が極めて少なそうなアームなど、全くもって独創性の塊のようなプレーヤーである。写真では確認できないが、カートリッジの先端に極めて細いブラシを取り付け、ディスクに接触させているのもこのプレーヤーの大きな特徴なのだという。
しかし、このプレーヤーを目の当たりにした時の驚きを、小さな画像でどれほどお伝えできているだろうか。皆さんもぜひ現物に接してみてほしい。
■オーヴァー
2006年の春に第1号製品を送り出すという、まさに生まれたばかりの社、オーヴァーは、A&Vフェスタでも試作品を展示していたが、ハイエンドショウで初めてサウンドを確認することができた。第1号製品はプリメインアンプで、削り出しパーツが多用され、オーバーオールのNFBを廃したMOS-FETアンプという凝った構成ながら、30万円台の前半を目指して価格を調整中という意欲作である。
会場ではパストラル・シンフォニーのブースで音出し用に使われていたのだが、同社のハイスピードで伸びやかな美音はそのままに、何とも濃厚でカラフルなサウンドを聴かせてくれていた。これは相当な実力といっていい。
■クボテック
昨年はハイエンドショウの一員だったクボテックだが、今年は「ハイフィデリティ・オーディオショウ2005」と銘打って、同社の単独開催という格好のイベントを打ち出した。そうはいっても会場はハイエンドショウと隣接し、来場者も何の違和感もなしに双方を行き来していたから、事実上は同じイベントといってもよいのだろう。
クボテックというと、独自の精密3D-CAD/CAMによる曲面ホーンスピーカーHANIWAが一番の特徴だが、今年のHANIWAは昨年の4ウーファーから2ウーファーのものに変更され、よく似た格好で大きさの違うシステムが3種類展示されていた。一番大きなホール用HANIWAは、30cmウーファー×2、4インチ・コンプレッションドライバー、ホーン型トゥイーターの3ウェイで、ユニットはいろいろなものを取り付けることが可能とのことだが、会場の製品にはウーファーにJBL、ドライバーにエレクトロボイス、トゥイーターにエクスクルーシブのものが使われていた。
今回で一番のポイントは、すべて自社開発の超精密クロック192kHz/24ビット・フルデジタル伝送による演奏ということだったが、奏でられている音はその看板に違わぬ端正で豪壮なものだった。HANIWAというスピーカーは、そのルックスからとかく突飛な音をイメージされがちだが、その実非常にオーソドックスで器の大きなハイファイといった印象のサウンドである。このシステムそのものが導入できるのはごくごく限られた人であろうが、この精密加工技術を生かして、より“現実的”な商品が生み出されることを期待したい。
(オーディオ評論家・炭山アキラ)
hiend2005