公開日 2024/07/25 11:00
デノン、旗艦プリメイン「PMA-3000NE」。差動1段アンプなど“究極のシンプル”を追求
110周年機を発展させた最新技術で開発
デノンは、プリメインアンプ新フラグシップモデル「PMA-3000NE」を9月13日より発売する。価格は528,000円(税込)。
「Hi-Fiアンプの理想、その飽くなき追求」をコンセプトに、デノン伝統のUHC-MOSシングルプッシュプル増幅回路と、2020年に発売された110周年モデル「PMA-A110」で培った技術をさらに発展させた最新アンプ設計技術をもって作り上げたというHi-Fiプリメインのフラグシップ機。3000番台のネームはデノンが70-90年代にかけて販売していたハイエンドアンプ“POA-3000シリーズ”の番号を引き継いだものだという。
同社の田中清崇氏によると、「1つの半導体から取り出せる電流は限られている以上、大電流を取り出すためには複数の半導体を用いる必要があるが、すると素子ごとの個体差が音を濁らせる。そのため、デノンでは『少ない半導体素子で大電流を取り出す』という矛盾した追求を続けていた」と説明。
オーディオ用半導体以外にも手を広げて探す中、大電流、低い電気抵抗、高S/Nという条件を満たすものとして、製鉄工場などで使われている産業用半導体「MOS-FET」が適合。それを用いることで、1ペアという最小単位の素子による増幅を可能とした「UHC-MOSシングルプッシュプル増幅回路」を開発し、今に至るまで30年以上ブラッシュアップし続けているとした。
今回のPMA-3000NEでは最新型の「Advanced UHC-MOSシングルプッシュプル増幅回路」を搭載。アンプ回路などの開発に携わった渡邉和馬氏によると、PMA-A110では差動2段アンプ回路を用いていたのに対し、「究極にシンプルな差動1段回路に到達した」とのことで、シンプル故に動作が安定しており、さまざまなスピーカーシステムで優れた駆動性を実現しているという。
可変ゲイン型プリアンプとパワーアンプによる2段構成を採用。一般的な音量レベルの範囲内ではプリアンプではなくパワーアンプのみで増幅することによって、ノイズレベルを改善、限りなく繊細で透明感の高い空間表現力を獲得したとする。
この機構自体はA110から踏襲されたものだが、A110のプリ部が2層基板+片面のプリ部複数基板だったのに対し、本機は4層基板を採用し、単独のプリ部基板を実現。ミニマムシグナルパスに貢献するほか、ワイヤーやフィルムケーブルを可能な限り排除し、製造における個体差や飛び込みノイズを大幅に軽減させている。
さらにプリ部では、増幅量の多いフォノイコライザー部の独立基板への集約や、ヘッドホンアンプの独立などを実施。A110はパワーアンプ出力をヘッドホン出力に送るかたちだったため、比較して信号経路を短縮できているという。
パワーアンプ部では電圧増幅段をパラレル化し、徹底した熱管理を行うことによって、UHC-MOSシングルプッシュプル増幅回路の安定動作に成功したと説明。こちらも2層基板を採用し、単層基板のA110と比べて一層のミニマムシグナルパスを実現したほか、ワイヤーの排除による個体差、ノイズの軽減を実現。
また、パワーアンプ基板からスピーカー端子への接続には140μmの銅箔および銅製バスバーを使用。これもワイヤーレス化の一環で、140μmというのは通常品(35μm)の4倍もの箔圧になるとのこと。
電源部ではA110と同様の大容量・高品位EIコアトランスを採用し、磁束漏洩の影響を打ち消すためにLCマウント方式で配置。ブロックコンデンサーは本機専用に新規開発された大容量カスタムコンデンサーを採用する。
さらにデジタル/アナログ回路で電源を独立させており、プリ部用電源は高剛性シャーシに直接マウント。スタンバイ用電源は後部からフロントパネル部内へと移動させ、後方部の電源はパワーアンプ用のみになっている。ショットキーバリアダイオードも、A110ではシングルだったところを並列化させ、低インピーダンス化や熱の観点で安定した動作を実現。
そしてダイオードユニットとブロックコンデンサーの接続には銅製バスバーを、パワーアンプ回路への電源供給ラインには両面2層140μmの銅箔を採用。これまでの徹底したワイヤーレス化と併せて、「アナログ回路だけで1つの塊のような状態になった」とのこと。
デジタル部ではA110同様、PCM信号を1.536MHz/32bitにアップサンプリングさせて理想的な補完処理を行うという最新アナログ波形再生技術「Ultra AL32 Processing」や、左右チャンネルに2基ずつDACを用いる「Quad-DAC構成」を採用。DACチップにはESS社の「ES9018K2M」を用いる。
また、DACの近くにクロックを配置し、DACをマスター、周辺機器をスレイブとしてクロック供給を行うことで高精度なD/A変換をもたらすという「DACマスタークロックデザイン」も踏襲。本機ではPCM 44.1kHz系/48kHz系/DSDという3つのクロックを搭載する。
デジタル周りの開発に携わった福田祐樹氏によると、こういった構成自体はA110と同じだが、デジタル基板を6層とすることで、4層のA110と比べてショートシグナル化を実現。A110は4層のうち1層がグランドに使われていたが、今回は6層のうち2層をグランドに使っている。さらに110周年SACDプレーヤー「DCD-A110」で使われていた低ジッターのクロックバッファーを採用し、より精度の高いクロックを供給できるようにしたという。
ほか、ポストフィルターの定数をES9018K2Mにあわせて最適化。同DACはローパスフィルターが入っているためローパスフィルター用の部品を削減できたほか、緩やかなロールオフの特性となり、クセのない音質にも貢献したと説明。
また、昨今のデノン製単体コンポーネントで採用された高性能オペアンプをDAC回路に採用。部品点数の削減によってDAC回路を1枚の基板に集約、小型部品の積極的な採用で実装面積を広げた分、大きなコンデンサーを実装するなどの改善もなされており、「このDAC回路をそのまま筐体に収めれば単体DACとして売ることもできる」と自信を見せる。
音決めは同社サウンドマスター・山内慎一氏がVivid & Spaciousのフィロソフィーに基づいて実施。「ワイヤーレスなどの構成の良さを活かして作った。具体的に言うと音像感や歯切れの良さなどだが、それだけでは良くないのでしなやかさや空間性なども同時に実現できるように手掛けたので、途中でめげそうになるくらい重たかった」と語っていた。
入力はアナログ系にアンバランス×3、フォノ×1、プリイン×1、デジタル系にUSB-B×1、同軸デジタル×1、光デジタル×3を搭載。機能面ではアナログモード2種類を用意。外形寸法は434W×182H×443Dmmで、質量は24.6kgとなっている。
製品発表に際し一足先に音を聴くことができたので、簡単ではあるがインプレッションを記したい。
一聴して感じるのが圧倒的なS/Nの高さ。高い解像感、広く鮮明な空間表現と併せてまさに「Vivid & Spacious」サウンドなのだが、中でも弱音の実在感に目を見張る。女性ボーカルの声が消えるその瞬間まで、確かに輪郭を持って空間に存在し続けるのだ。
クラシックソースでは、この実在感がフォルテシモの力強さとして表れる。それも高音や低音をブーストしたり、ゲインを上げるといったいわゆる「力強さ」ではなく、音が何一つ減衰することなく、そのまま素直に出てくるような印象を受ける。
例えるなら、山内氏のVivid & Spaciousサウンドに耳かき1杯分だけ塩を加えたようなイメージだろうか。しなやかで澄み渡っていながら鋭さも備えたサウンドキャラクターは、先んじて発表されたコンパクトなネットワークアンプ「DENON HOME AMP」とも通ずるところがあり、デノンの新たな可能性を感じさせてくれた。
ちなみに、今回の製品発表に登壇した渡邉氏、福田氏はともに30歳前後と若く、開発に携わるのは本製品で2モデル目だという。さらに渡邉氏は音質検討をやりたいと山内氏に(勝手に)師事しているとのことで、開発者の観点でも「次世代のデノンにつながるアンプ」と言えるだろう。
■差動1段アンプ、ミニマムシグナルパスなど「究極のシンプル」を追求したHi-Fiプリメイン
「Hi-Fiアンプの理想、その飽くなき追求」をコンセプトに、デノン伝統のUHC-MOSシングルプッシュプル増幅回路と、2020年に発売された110周年モデル「PMA-A110」で培った技術をさらに発展させた最新アンプ設計技術をもって作り上げたというHi-Fiプリメインのフラグシップ機。3000番台のネームはデノンが70-90年代にかけて販売していたハイエンドアンプ“POA-3000シリーズ”の番号を引き継いだものだという。
同社の田中清崇氏によると、「1つの半導体から取り出せる電流は限られている以上、大電流を取り出すためには複数の半導体を用いる必要があるが、すると素子ごとの個体差が音を濁らせる。そのため、デノンでは『少ない半導体素子で大電流を取り出す』という矛盾した追求を続けていた」と説明。
オーディオ用半導体以外にも手を広げて探す中、大電流、低い電気抵抗、高S/Nという条件を満たすものとして、製鉄工場などで使われている産業用半導体「MOS-FET」が適合。それを用いることで、1ペアという最小単位の素子による増幅を可能とした「UHC-MOSシングルプッシュプル増幅回路」を開発し、今に至るまで30年以上ブラッシュアップし続けているとした。
今回のPMA-3000NEでは最新型の「Advanced UHC-MOSシングルプッシュプル増幅回路」を搭載。アンプ回路などの開発に携わった渡邉和馬氏によると、PMA-A110では差動2段アンプ回路を用いていたのに対し、「究極にシンプルな差動1段回路に到達した」とのことで、シンプル故に動作が安定しており、さまざまなスピーカーシステムで優れた駆動性を実現しているという。
可変ゲイン型プリアンプとパワーアンプによる2段構成を採用。一般的な音量レベルの範囲内ではプリアンプではなくパワーアンプのみで増幅することによって、ノイズレベルを改善、限りなく繊細で透明感の高い空間表現力を獲得したとする。
この機構自体はA110から踏襲されたものだが、A110のプリ部が2層基板+片面のプリ部複数基板だったのに対し、本機は4層基板を採用し、単独のプリ部基板を実現。ミニマムシグナルパスに貢献するほか、ワイヤーやフィルムケーブルを可能な限り排除し、製造における個体差や飛び込みノイズを大幅に軽減させている。
さらにプリ部では、増幅量の多いフォノイコライザー部の独立基板への集約や、ヘッドホンアンプの独立などを実施。A110はパワーアンプ出力をヘッドホン出力に送るかたちだったため、比較して信号経路を短縮できているという。
パワーアンプ部では電圧増幅段をパラレル化し、徹底した熱管理を行うことによって、UHC-MOSシングルプッシュプル増幅回路の安定動作に成功したと説明。こちらも2層基板を採用し、単層基板のA110と比べて一層のミニマムシグナルパスを実現したほか、ワイヤーの排除による個体差、ノイズの軽減を実現。
また、パワーアンプ基板からスピーカー端子への接続には140μmの銅箔および銅製バスバーを使用。これもワイヤーレス化の一環で、140μmというのは通常品(35μm)の4倍もの箔圧になるとのこと。
電源部ではA110と同様の大容量・高品位EIコアトランスを採用し、磁束漏洩の影響を打ち消すためにLCマウント方式で配置。ブロックコンデンサーは本機専用に新規開発された大容量カスタムコンデンサーを採用する。
さらにデジタル/アナログ回路で電源を独立させており、プリ部用電源は高剛性シャーシに直接マウント。スタンバイ用電源は後部からフロントパネル部内へと移動させ、後方部の電源はパワーアンプ用のみになっている。ショットキーバリアダイオードも、A110ではシングルだったところを並列化させ、低インピーダンス化や熱の観点で安定した動作を実現。
そしてダイオードユニットとブロックコンデンサーの接続には銅製バスバーを、パワーアンプ回路への電源供給ラインには両面2層140μmの銅箔を採用。これまでの徹底したワイヤーレス化と併せて、「アナログ回路だけで1つの塊のような状態になった」とのこと。
■「単体でも販売できる」高品質DAC回路を搭載
デジタル部ではA110同様、PCM信号を1.536MHz/32bitにアップサンプリングさせて理想的な補完処理を行うという最新アナログ波形再生技術「Ultra AL32 Processing」や、左右チャンネルに2基ずつDACを用いる「Quad-DAC構成」を採用。DACチップにはESS社の「ES9018K2M」を用いる。
また、DACの近くにクロックを配置し、DACをマスター、周辺機器をスレイブとしてクロック供給を行うことで高精度なD/A変換をもたらすという「DACマスタークロックデザイン」も踏襲。本機ではPCM 44.1kHz系/48kHz系/DSDという3つのクロックを搭載する。
デジタル周りの開発に携わった福田祐樹氏によると、こういった構成自体はA110と同じだが、デジタル基板を6層とすることで、4層のA110と比べてショートシグナル化を実現。A110は4層のうち1層がグランドに使われていたが、今回は6層のうち2層をグランドに使っている。さらに110周年SACDプレーヤー「DCD-A110」で使われていた低ジッターのクロックバッファーを採用し、より精度の高いクロックを供給できるようにしたという。
ほか、ポストフィルターの定数をES9018K2Mにあわせて最適化。同DACはローパスフィルターが入っているためローパスフィルター用の部品を削減できたほか、緩やかなロールオフの特性となり、クセのない音質にも貢献したと説明。
また、昨今のデノン製単体コンポーネントで採用された高性能オペアンプをDAC回路に採用。部品点数の削減によってDAC回路を1枚の基板に集約、小型部品の積極的な採用で実装面積を広げた分、大きなコンデンサーを実装するなどの改善もなされており、「このDAC回路をそのまま筐体に収めれば単体DACとして売ることもできる」と自信を見せる。
音決めは同社サウンドマスター・山内慎一氏がVivid & Spaciousのフィロソフィーに基づいて実施。「ワイヤーレスなどの構成の良さを活かして作った。具体的に言うと音像感や歯切れの良さなどだが、それだけでは良くないのでしなやかさや空間性なども同時に実現できるように手掛けたので、途中でめげそうになるくらい重たかった」と語っていた。
入力はアナログ系にアンバランス×3、フォノ×1、プリイン×1、デジタル系にUSB-B×1、同軸デジタル×1、光デジタル×3を搭載。機能面ではアナログモード2種類を用意。外形寸法は434W×182H×443Dmmで、質量は24.6kgとなっている。
■編集部インプレッション
製品発表に際し一足先に音を聴くことができたので、簡単ではあるがインプレッションを記したい。
一聴して感じるのが圧倒的なS/Nの高さ。高い解像感、広く鮮明な空間表現と併せてまさに「Vivid & Spacious」サウンドなのだが、中でも弱音の実在感に目を見張る。女性ボーカルの声が消えるその瞬間まで、確かに輪郭を持って空間に存在し続けるのだ。
クラシックソースでは、この実在感がフォルテシモの力強さとして表れる。それも高音や低音をブーストしたり、ゲインを上げるといったいわゆる「力強さ」ではなく、音が何一つ減衰することなく、そのまま素直に出てくるような印象を受ける。
例えるなら、山内氏のVivid & Spaciousサウンドに耳かき1杯分だけ塩を加えたようなイメージだろうか。しなやかで澄み渡っていながら鋭さも備えたサウンドキャラクターは、先んじて発表されたコンパクトなネットワークアンプ「DENON HOME AMP」とも通ずるところがあり、デノンの新たな可能性を感じさせてくれた。
ちなみに、今回の製品発表に登壇した渡邉氏、福田氏はともに30歳前後と若く、開発に携わるのは本製品で2モデル目だという。さらに渡邉氏は音質検討をやりたいと山内氏に(勝手に)師事しているとのことで、開発者の観点でも「次世代のデノンにつながるアンプ」と言えるだろう。