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公開日 2007/09/18 17:25

<開発者に聞くBDカム“Wooo”の秘密>主要デバイスを新たに開発し“フルHD第一主義”をこだわり抜いた

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日立製作所から発売された世界初のBDカム「DZ-BD7H」と「DZ-BD70」。その開発の経緯を探るべく開発者インタビューを行った。

前回のレポートでは、本機の開発コンセプトとデザインに触れた。


DZ-BD7H

DZ-BD70
興味深かったのはDVDにハイビジョン画質で録画できるAVCHD規格のムービーが先行する中、なぜ日立製作所はBD方式を採用したのか、という点だ。DVDなら価格も安いし入手もしやすい。しかしその疑問について、大野敦寛主任技師が明かした企画意図は明確だった。「AVCHD方式でフルHD記録するためには、DVDの容量ではまだ不足であると考えたからです」と、商品開発の大野氏は言い切った。

日立製作所はあくまでも1920×1080ドットのフルHD映像をリッチなデータで記録しようと考えた。現在のAVCHD方式のデータ転送レートは12〜13Mbpsになっている。一方日立が採用したBD方式は15Mbpsでのデータ転送が可能だ。解像度は同じでも転送レートが多い方がノイズの発生をより抑えられる。

もう一つは容量だ。ムービーで使用する光ディスクは、AVCHD方式、BD方式ともに直径8cmのディスクを使用する。DVDでは片面2層タイプの記録容量が2.6GBなのに対して、BDは片面1層で7.5GBもの容量を備えている。どちらの方式もMPEG4 AVC/H.264を使うが、DVDの場合は片面1層のディスクでは約15分しか最高画質で録画できない。しかしBD方式は7.5GBという大容量を活かして、最高画質で約1時間の記録が可能だ。後発になりながらもBDにこだわった理由はBDの「記録速度」と「大容量」へのこだわりにあった。


では引き続き開発者インタビューを続けよう。この製品のカタログを見ると“世界初”というキーワードが随所に踊っている。それぞれの世界初の技術や機能にはどんな魅力があるのだろうか?大野氏に伺った。


日立製作所 コンシューマ事業グループ デジタルコンシューマ事業部 商品企画本部 戦略部 大野敦寛主任技師
大野氏:はじめから“世界初”を狙った訳ではありません。確かにBDメディアに直接記録する初の家庭用ムービーですから、世界初の技術が必要になるのは当然です。ただ、すでにお話ししたとおり、まずBDという規格ありきではありません。フルHDハイビジョンの美しさを最大限記録できる記録メディアとして、選んだものがBDメディアだったのです。DZ-BD7シリーズは「フルHD第一主義」で設計されています。今回の製品ではカメラの主要デバイスをすべて新開発しました。それぞれのパーツを新たに開発しなければ、フルHDでのBD記録はなし得なかったのです。


大野氏によれば、今回のDZ-BD7シリーズでは「撮像素子」から「カメラ画像処理LSI」「映像音声コーデックLSI」、「小型低消費電力8cmBD/DVDドライブ」まで、主要回路のすべてを新開発し、搭載を実現したのだという。まずは映像の入り口である撮像素子からLSIの詳細について伺ってみよう。お話は、同社デジタルコンシューマ事業部商品企画本部 メディア・コミュニケーション部 技師の井町英明氏、ならびにコンシューマエレクトロニクス研究所組込みシステム開発工場 基盤ハードウェア開発プロジェクト 主任研究員小味弘典氏にうかがった。


井町英明氏
━━撮像素子はCMOS方式を採用していますね。
井町氏:米国AltaSens社と共同開発したCMOS方式のセンサーを搭載しています。撮像素子はCMOSやCCDなどのデバイスを購入するという選択ができますが、やはり最高画質を狙うなら、既存品ではなく専用のものを新たに開発しました。その結果、家庭用ハイビジョンビデオカメラの中ではトップクラスの性能である総画素数530万画素のCMOSセンサーが搭載できました。画素数だけでなく小型化に成功した点にも注目していただきたいですね。画素サイズは2.09μmで、サイズは1/2.8型に納めました。


総画素約530万画素を実現した新開発のCMOSセンサー

1920×1080フルハイビジョン対応のレンズ
━━光学系の設計と手ぶれ補正について教えてください。
井町氏:ズームは光学10倍です。フルHD撮影に欠かせない歪みの少ない大口径レンズを搭載できました。手ぶれ補正はデジタル式を採用しています。画質を考えれば光学式というご意見もあるでしょうが、しかしAltaSens社は解像度が高く撮影エリアは広いので、デジタル式の手ぶれ補正でも画質の劣化を最小限にしながら、最大の効果を発揮することができました。


小味弘典氏
━━画像処理についてのキーポイントはどこにあるのでしょうか。
小味氏:CMOSセンサーでデジタル化した映像を処理するのが「高画質カメラ画像処理LSI」です。この部分にはAdvancedCCM回路が搭載されており、撮影時にノイズを軽減しています。MPEG撮影では太陽光が反射するメタリックな素材など、輝度変化が激しい被写体の撮影時に“色の偽信号”が発生します。AdvancedCCM回路を使うことで“色の偽信号”を軽減できます。例えば日差しで輝く高層ビルの窓枠など、フチの部分に緑色など、本来はあり得ない色が出てくることがありますが、これらを軽減することができるようになります。この技術は当社のDVDカム開発の頃から蓄積してきたものですので、その効果には自信があります。

━━画像処理の次はコーデックですね。特徴を教えてください。
小味氏:フルハイビジョンの映像をより美しく記録するために、独自開発による高画質化アルゴリズム「MBAFF(Macro Block Adaptive Frame/Field)」を搭載しました。MBAFFとは適応型動き予測制御のことで、画面のマクロブロック単位で分割し、被写体の動きに応じてフレーム処理、フィールド処理に切替えて動きのある映像でも高解像度で表示をしています。


このMBAFFを文字と図版で説明するのは難しいのだが、この製品のキモとなる部分でもあるのでお付き合いいただきたい。下図をご覧いただきたい。動画は静止画の連続として表示するフレーム処理(解像度重視の圧縮)と、激しく動く映像の表示に強いフィールド処理(動き重視の圧縮)での表示を行う。DZ-BD7シリーズが搭載するMBAFFでは、画面を8160分割し、マクロブロック(16×16画素)上下2個ペアごとに映像を解析し、フレーム処理かフィールド処理かを適応的に判断する。カメラが動きを追従する被写体はフレーム処理をしてくっきりした映像として表示し、背景はフィールド処理で表示して残像などが発生しないように記録している。


従来通りに動き重視の符号化圧縮を行った場合

適応型動き予測制御(MBAFF)による処理を行った画像
参考図だと、カメラはハングライダーを追いかけているので、ハングライダーはフレーム処理として記録。背景はフィールド処理として記録している。取材時にはMBAFFのデモ映像を見たが、その効果をはっきりと確認でき、実際の撮影に期待が高まった。



大矢淳氏
次はいよいよドライブだ。HD DVD陣営によるとBD方式はディスク表面から0.1mmと浅い部分に記録面があり、モバイルでの使用に不向き、ということだが真相はどうだろうか。お話は日立製作所コンシューマ事業グループデジタルコンシューマ事業部ストレージ機器本部 主任技師の大矢淳氏だ。

━━BDはHD DVDよりもピックアップとディスクの距離が近いのでモバイル利用や車載には向かないとHD DVD陣営は指摘していますが、実際はいかがでしょうか。
大矢氏:そんなことはありません。ピックアップの制御は0.01mm単位で行っていますから、カメラとして使っていて接触することはありません。日立はDVDカムの頃から光ディスクへの直接記録のノウハウを蓄積していますので、ピックアップとディスクの制御には自信があります。


本機搭載のBD/DVDドライブ

BD/DVD両方の小型ピックアップを搭載した
━━ドライブ部の設計で一番苦労した点はどこになりますか。
大矢氏:いろいろありますが、やはり消費電力を抑えることでしょうね。先ほどお話ししたように、ピックアップとディスク面のクリアランス(隙間)を調節するには、電力(サーボなど)を使って盤面とピックアップの距離を一定に保たなければなりません。それでは省電力にはならないので、記録しないときはピックアップをディスの範囲外に移動させます。しかし、そうなると次の撮影時にピックアップの移動時間が発生し、タイムラグが発生してしまいます。これでは録りたいシーンを逃します。DZ-BD7シリーズはピックアップが移動する時間を内部メモリに一時蓄える“バッファリング”を行うことで、この問題を解決しました。省電力と素早い録画を両立したのです。

━━BDの他に3種類のDVDメディアに対応していますが、ドライブの設計には大変なご苦労があったのではないでしょうか。
大矢氏:そこなんですよ!このサイズのBDドライブを設計するだけでも一仕事で、その過程では大変な苦労をかけて開発をしました。最初は「BD記録だけの製品でないと無理です」と会議で申し出たのですが。
大野氏:実は私一人が「BD&DVDの両対応で行くべき」と会議で押し切ったのです。開発が大変なことはわかっていましたし、技術陣に恨まれるのは承知の上でした。それでもDVDは切り捨ててはいけなかったのです。というのも日立は世界で最初の民生用DVDカムを販売した会社です。それがBDに対応するようになったからと言って、DVDを切り捨てるという商品開発はしたくなかった。商品企画会議で、DVD機能を残そうと主張したのは私だけでした。DVDをあきらめれば、もっと早く製品化ができたかもしれません。でも今までDVDカムを使ってきたユーザーの皆さんがBDに乗り換えても同じように使える製品を作るためには、これだけは譲れなかったのです。


すべてはお話しできないがこの「商品企画VS設計陣」の論戦は壮絶なものだったようだ。かつて設計の現場で働いていた筆者からすれば、大矢氏の「まずBDのみ製品を出して、次にDVD機能付きを」と考える道筋が順当に思える。筆者でもそう進言しただろう。しかし、商品企画の大野氏の思いは強く、そして厳しかったようだ。結果、大矢氏をはじめとする技術陣は納得し、休日を削って、BD&DVD対応のドライブを完成。回路設計チームは3フォーマット(BD、DVD、JPEG)対応のマルチコーデック対応の回路を完成させた。DZ-BD7シリーズの開発の陰には“プロジェクトXの種”があったようだ。

最後にインターフェイスについて触れておこう。お話を伺ったのはコンシューマ事業グループ デジタルコンシューマ事業部 ストレージ機器本部 カメラ設計部の加藤智子氏だ。


加藤智子氏
━━インターフェースの開発で気を配った点はどのようなところでしょうか。
加藤氏:操作をナビゲートする「カイケツガイド」機能を搭載したことです。DZ-BD7シリーズはBDもしくはBD&HDDに記録するので、実際はHi8やDVカメラなどのテープメディアから本機に乗り換えれば、録画済みのシーンを取りつぶさないランダムアクセスの恩恵に預かれます。ムービーとしては、いつ撮影を始めても録画済みのシーンを取りつぶさない、というだけでも使い勝手が良くなります。最新のムービーですが、一番初心者向きと言ってもいいでしょう。ただし、テレビとのハイビジョン接続に「HDMI」端子を使ったり、2種類のBDメディアと3種類のDVDメディアの使い分けなど、多機能故にはじめは用語などで戸惑うことも多いと思います。ホームムービーはAV機器が苦手な人でもお子さんの成長を記録するために、積極的に使っていただける商品ですので、AV機器が苦手な方に少しでも「撮影してみたい」と感じていただけるような機能をつけたいと考えました。


カメラが教える「カイケツガイド」を搭載。ビデオカメラ初心者にも使いやすいよう操作性が高められている
取材時は実際に筆者が試用をして撮影したわけではないので、インターフェースについての総論をお伝えできないが、カイケツガイドの画面は入門ユーザーにとっても大変わかりやすいものだった。日頃ムービーを使っている人でもメディアによって「ファイナライズ」が必要だったり、テレビとの接続に最適な端子選びに迷ったりするはずだ。そんなちょっとした疑問を、マニュアルを開くことなくアドバイスしてくれるのが「カイケツガイド」だ。これはなかなか便利だと感じた。


本機の仕様で気になった点が一つある。現在発売されているBDレコーダーへ、本機で撮影した映像をそのままの画質でダビングすることができないのだ。8cmのBDメディアの価格はBD-Rで2400円前後なのでまだ高価だ。一方12cmサイズのBD-Rは価格がこなれており、1枚1000円前後で手に入るショップもある。25GBの12cmBDメディアなら、8cmのBDメディアを約3枚分保存できる。ランニングコストを考えるとぜひBDレコーダーへのダビング機能を備えて欲しいところだ。将来日立からBDレコーダーが登場した際には対応が実現されるものと期待している。

世界初のBDカムDZ-BD7シリーズはとても意欲的な製品だが、操作性など従来のDVDカムの資産を受け継いでおり、誰でも簡単に使えそうというのが筆者の印象だ。またHDDを搭載するDZ-BD7Hなら、HDD上で編集をして必要なシーンだけをBDに保存できる。いまや急速にホームムービーはハイビジョン化している。まだ高価だが、日々成長する子どもをハイビジョンで残したいなら、待ってはいられないというところだろう。まずは店頭で実機に触れて、次世代ムービーの息吹を肌で感じていただきたい。

(鈴木桂水)

筆者プロフィール
元産業用ロボットメーカーの開発、設計担当を経て、現在はAV機器とパソコン周辺機器を主に扱うフリーライター。テレビ番組表を日夜分析している自称「テレビ番組表アナリスト」でもある。ユーザーの視点と元エンジニアの直感を頼りに、日経 BP社デジタルARENAにて「使って元取れ!ケースイのAV機器<極限>酷使生活」などで使いこなし系のコラムを連載。そのほかAV機器の情報雑誌などで執筆中。
>>鈴木桂水氏のブログはこちら

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