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公開日 2009/10/07 17:47
CELL REGZAの録画機能を速攻レビュー − ケースイが考察する“レコーダーテレビ”「55X1」の魅力
CEATEC JAPAN 2009レポート
未来のテレビがいきなりやってきた!━━CEATEC JAPAN 2009で展示される製品の中で、録画マニアの筆者がもっとも“理想的なテレビ”として注目しているのが東芝の“CELL(セル)REGZA”「55X1」だ。
内蔵する3TBのHDDに地上波全8chを、約26時間TS画質(DR画質)で“録りっぱなし”にできる。番組予約を忘れても26時間以内なら、録画済の番組表からピックアップして視聴・保存できる。同社が「タイムシフトマシン」と呼ぶこの機能のため、内蔵3TBのHDDのうち3.5インチ1TBのHDD 2基を組み合わせた2TBのHDDが専用に割り当てられている。
全局録画の開始・終了時間の幅は、約26時間のうち1時間刻みで設定することもできる。例えば「4時間」で設定すれば約1週間分に渡って全局の番組が録画可能だ。この手を使えばゴールデンタイムや深夜枠だけ1週間分を録画して、空いた時間にゆっくり視聴が楽しめる。そのほかに500GBの2.5インチHDDを2基組み合わせた1TBのHDD領域が、ユーザーが任意に番組予約を行える通常録画用に設けられている。
単体ビデオレコーダーでもなしえなかった地デジ全局同時視聴・録画をあっさりとやってのけることができたのは、本機がそのコア部に「CELL Broadband Engine」を搭載しているからだ。「CELL Broadband Engine」とは東芝/ソニー/IBMが共同開発した高性能プロセッサであり、あのSCEのゲーム機「PLAYSTATION 3」や、世界最速のIBM製スーパーコンピューター「Roadrunner」にも搭載されている。今回、圧倒的なパフォーマンスを備えるCELLプロセッサが初めてテレビに搭載されたのだ。CELLの演算処理速度は、東芝の発表資料によると、Intel製CPU「Core2 Duo(2.66GHz)」の約15倍に相当する能力を備えているという。この強力なパワーをフルに活用することによって「タイムシフトマシン」の機能が実現された。
「55X1」が優れているのは録画機能だけではない。55V型のディスプレイには新規開発の超高コントラストLEDバックライトシステムが採用され、ピーク時の輝度は1,250カンデラにも達している。さらに新たな超解像処理にもCELLプロセッサの性能を活用することで、驚くほどの高画質を実現している。
今回は“CELL REGZA”「55X1」の商品企画に携わった(株)東芝 デジタルメディアネットワーク社 テレビ事業部 グローバルマーケティング部 参事の本村裕史氏に詳しい機能を紹介していただいた。「ケースイさんのような録画ファンの方にも満足いただける機能を実現することができました!」と胸を張る本村氏だ。
今回は録画機能を中心にCEATEC JAPAN会場の東芝ブースで「55X1」の実力に迫ってみた。まず気になる地デジ8ch同時録画の機能だが、本機には「タイムシフトマシン」用に8つの専用地デジチューナーが搭載されている。さらに通常録画用に地上・BS/CSデジタルチューナーを2基ずつ、録画中の視聴用チューナーとして地上・BS/CSデジタルチューナーを1基ずつ搭載している。これに地上アナログチューナー1基を加えて、何と合計で15個ものチューナーを搭載している。
単体レコーダーだけでこれだけの大がかりな録画環境を実現しようとすると、アンテナ線を分配する必要が発生して、結果安定した電波の受信レベルが得られなくなってしまう。筆者は日ごろ8台のデジタルビデオレコーダーをフル稼働させているが、これらの機器を活用するために共同受信のアンテナ線以外に、ベランダに2本の地デジ用アンテナを別途取り付けているほどだ。55X1ではこの問題を解消して地デジの全局同時録画を実現した。
大量にHDDへ録画した番組は、「タイムシフトマシン」で過去に遡り、新開発のUIである「ローミングナビ」も活用して目的の番組を検索できる。「タイムシフトマシン」で表示される過去の番組表から視聴したい番組をリモコンで選べば簡単に再生できる。いわば時間軸で検索して番組を探すのに向いている機能だ。
「ローミングナビ」では、HDDに録画された番組以外に、現在放送中の番組、今後の放送予定番組を独自のアルゴリズムで関連づけて、サムネール付きで環状のUI画面に人物名/ジャンル/キーワード/タイトルで仕分けして表示する機能だ。ユーザーはより直感的な操作で番組探しが楽しめる点がこの機能の魅力だ。
CEATECで展示中のデモ機はまだ開発途中の製品だったため、「ローミングナビ」のデモソースは「ジャンル」のみに仕分けられていた。実際のローミングナビでは、録画した番組が上下左右の方向に展開して表示される。操作感についてはまだ明らかではないが、見た目のUIの“未来感”はゾクゾクするほど高かった。
「タイムシフトマシン」で録画された番組は、HDDに空き容量が少なくなると一時保存されている古い録画内容から自動的に上書きされる。しかし必要な番組を指定すれば、1TBの通常録画用HDDや外付けのUSB HDDにダビングできる。ネットワークダビングに対応する同社のレコーダー“VARDIA”をLAN経由で接続すればレコーダーにも保存できる。さらにVARDIAとi.Link接続できるパナソニックのBDレコーダー“DIGA”があれば、55X1に保存した番組をBDに残すことも可能だ。VARDIAからDIGAへのダビング方法については筆者の連載コラム記事を参照してほしい。
全局録画と聞いて思い出すのが、以前ソニーが販売していた「VAIO Xビデオステーション」という製品だ。本機は8つのチューナーと最大2TBのHDDを搭載し、約3週間のアナログ地上波の放送を全局同時録画できる。3週間同時録画をするためには画質をかなり落とさなければならなかったが、それでも見逃した番組のフォローや、ネットで話題になる「突然の放送事故」を難無くチェックできる、テレビ好きには堪えられないレコーダーだった。
筆者は今もVAIO Xビデオステーションを愛用しているが、一度使うと手放せなくなる夢の録画機だと思っている。本機を使用し続けることによって“理想的なテレビ録画とは何か”が見えてきた。あらかじめ番組を探して予約するのではなく、一定期間全局を録画をしておき、後で録画済み番組の中から、必要な番組だけを視聴・保存するの使い勝手が一番良いのではないだろうか。「見たい番組を探して観る」のではなく「録画してある番組から探して観る」ほうが、遙かに快適だ。
全局を全時間録画できれば、時間変更による録り逃しも発生しないし、番組重複による録画ミスも皆無だ。例えば1ヶ月分の全局・全番組を録画できれば、連ドラは録画済みのタイトルを見逃しなく視聴できる。しかし残念ながらVAIO Xビデオステーションは、地上アナログ専用機なので、あと2011年に役目を終えることになる。ソニーから後継機が出ないものかと、首を長くして待っているのだが…最近のソニーを見ていると、あきらめたほうが良さそうに思う。
55X1の場合はデジタル放送をTS画質で録画するので、3TBのHDDながら連続録画は約26時間に止まっている。もしMPEG-4 AVCなどの長時間録画機能を備えれば、地デジ全局での3週間録画も可能だろう。筆者のような録画好きなら、動画圧縮技術を活用した長時間録画機能をいずれはCELL REGZAに望みたいと思う。
ただ現時点で言えば、筆者はCELL REGZAに長時間録画機能が搭載されることには反対だ。なぜなら、いまもし東芝が長時間録画に対応することになれば、同社のレコーダー“VARDIA”が搭載する「HD Rec」方式になるはずだからだ。
HD Recを搭載する「RD-X9」では、ハイビジョン画質を維持しながら、片面1層4.7GBのDVD-Rに最大約2時間48分もの録画が実現できる。2TBのHDDを内蔵する「RD-X9」の場合、最大で約1,322時間のハイビジョン録画が可能なので、もし3TBのHDDを搭載する「55X1」がHD Recに対応すれば約1,983時間(約83日)のハイビジョン録画が可能になる。83日間の連続録画とは、気絶するほど魅力的な録画マシンだ。しかしHD Recで録画してしまうと、ダビングなどでディスク保存した場合、東芝製レコーダー以外では再生できなくなってしまう。またパナソニックのDIGAを使った裏ワザ的なBD保存のテクニックも使えない。これではせっかくアーカイブしても将来の再生環境が不安だ。
すでに東芝はBD参入を表明しており、2010年には東芝製のBDレコーダーが店頭に並ぶことも有り得るだろう。その後、先行するソニー、パナソニックなどのBDレコーダーと互換性のある長時間記録方式を採用したうえで、東芝がCELL REGZAの長時間録画対応へステップを進めることが理想だと筆者は考えている。
もはや高画質であることが当たり前になってしまった薄型テレビ市場において、CELL REGZAは画質の改善点以外にも様々にエキサイティングな機能を盛り込んできた製品だ。例えばYouTubeなどのネット動画を高画質表示する機能だ。YouTubeを始めとするネット動画には、大画面テレビを使って楽しみたい貴重なお宝映像もたくさんあるが、55X1はこれらのコンテンツをCELLプラットフォームのエンジンにより、高画質化して表示できる。これまでのテレビでは、ありそうでなかった機能だ。Opera社と共同開発した高速インターネットブラウザでは、ハイビジョン画質でのWebブラウジングも楽しめる。
画質・音質に関しては既にニュース記事でも詳細がレポートされているが、かなりのレベルに仕上がっていると筆者も感じている。
CELL REGZAがすごいところは、このスペックをプロトタイプではなく、2009年12月に発売される商品として早くも実現したということだ。きっと混迷する薄型テレビ業界に大きな一石を投じることになるだろう。過去に東芝はいち早く録画機能を本体に搭載した“レコーダーテレビ”を投入し、成功した。現在ではパナソニック、日立、シャープ、三菱電機がレコーダーテレビを発売し好調だ。将来は他社も地デジ全局同時録画の機能を追従してくるかもしれないが、これにはまだ少し時間がかかりそうだ。
エコロジーという観点でCELL REGZAの機能を見れば、「見ないかもしれない番組も録画する」のだからムダという意見もあるだろう。しかし、あまりにエコロジーに捕らわれてばかりいては生活が窮屈になってしまう。エコロジーは大切だが、そればかりを優先してしまうと、大型テレビを含むAV機器の存在自体を否定しなければならない。そもそも録画機能搭載の“レコーダーテレビ”は、カタログ値には表せないが、とてもエコロジー性能の高いAV機器だ。なぜなら見たい番組を録画することで視聴時間とテレビの稼働時間を効率よく節約できるからだ。テレビ好きとしては、レコーダーテレビを存分に活用することで省エネに貢献したいところだ。
最後に55X1の価格について考察してみる。発売後の店頭実売価格の予想は100万円前後ということで、一見するとメロンやサクランボの初値のようなご祝儀価格を彷彿させる。しかし筆者は無茶な値段とは思わない。ちなみに他社のLEDバックライトを採用する製品の価格はと言えば、本項執筆時期前後の筆者調査ではソニーのBRAVIA「KDL-55XR1」が実勢価格で56万円前後、シャープのAQUOS「LC-52DX1」だと実勢価格45万円前後で売られている。プラス50万で3TBのHDDを搭載し、地デジの全局同時録画機能が使えると考えれば、そう無理のない価格ではないだろうか。製品発表の時点では東芝デジタルメディアネットワーク社の社長である大角正明氏が「1年以内にはコストを抑えたミドルレンジの製品を発表したい」とアナウンスしたことにも期待が集まる。筆者の予想だが、LEDバックライトを使わない蛍光灯パネルなら、かなりコストダウンができるはずだ。
今回の展示では開発途中の製品ということで、実際の使用感などに詳しく触れられなかったのは残念だった。今後、引き続き本機をウォッチし続けたいと思っているので、ご期待いただきたい。
◆筆者プロフィール 鈴木桂水
元産業用ロボットメーカーの開発、設計担当を経て、現在はAV機器とパソコン周辺機器を主に扱うフリーライター。テレビ番組表を日夜分析している自称「テレビ番組表アナリスト」でもある。ユーザーの視点と元エンジニアの直感を頼りに、使いこなし系のコラムを得意とする。そのほかAV機器の情報雑誌などで執筆中。
内蔵する3TBのHDDに地上波全8chを、約26時間TS画質(DR画質)で“録りっぱなし”にできる。番組予約を忘れても26時間以内なら、録画済の番組表からピックアップして視聴・保存できる。同社が「タイムシフトマシン」と呼ぶこの機能のため、内蔵3TBのHDDのうち3.5インチ1TBのHDD 2基を組み合わせた2TBのHDDが専用に割り当てられている。
全局録画の開始・終了時間の幅は、約26時間のうち1時間刻みで設定することもできる。例えば「4時間」で設定すれば約1週間分に渡って全局の番組が録画可能だ。この手を使えばゴールデンタイムや深夜枠だけ1週間分を録画して、空いた時間にゆっくり視聴が楽しめる。そのほかに500GBの2.5インチHDDを2基組み合わせた1TBのHDD領域が、ユーザーが任意に番組予約を行える通常録画用に設けられている。
単体ビデオレコーダーでもなしえなかった地デジ全局同時視聴・録画をあっさりとやってのけることができたのは、本機がそのコア部に「CELL Broadband Engine」を搭載しているからだ。「CELL Broadband Engine」とは東芝/ソニー/IBMが共同開発した高性能プロセッサであり、あのSCEのゲーム機「PLAYSTATION 3」や、世界最速のIBM製スーパーコンピューター「Roadrunner」にも搭載されている。今回、圧倒的なパフォーマンスを備えるCELLプロセッサが初めてテレビに搭載されたのだ。CELLの演算処理速度は、東芝の発表資料によると、Intel製CPU「Core2 Duo(2.66GHz)」の約15倍に相当する能力を備えているという。この強力なパワーをフルに活用することによって「タイムシフトマシン」の機能が実現された。
「55X1」が優れているのは録画機能だけではない。55V型のディスプレイには新規開発の超高コントラストLEDバックライトシステムが採用され、ピーク時の輝度は1,250カンデラにも達している。さらに新たな超解像処理にもCELLプロセッサの性能を活用することで、驚くほどの高画質を実現している。
今回は“CELL REGZA”「55X1」の商品企画に携わった(株)東芝 デジタルメディアネットワーク社 テレビ事業部 グローバルマーケティング部 参事の本村裕史氏に詳しい機能を紹介していただいた。「ケースイさんのような録画ファンの方にも満足いただける機能を実現することができました!」と胸を張る本村氏だ。
今回は録画機能を中心にCEATEC JAPAN会場の東芝ブースで「55X1」の実力に迫ってみた。まず気になる地デジ8ch同時録画の機能だが、本機には「タイムシフトマシン」用に8つの専用地デジチューナーが搭載されている。さらに通常録画用に地上・BS/CSデジタルチューナーを2基ずつ、録画中の視聴用チューナーとして地上・BS/CSデジタルチューナーを1基ずつ搭載している。これに地上アナログチューナー1基を加えて、何と合計で15個ものチューナーを搭載している。
単体レコーダーだけでこれだけの大がかりな録画環境を実現しようとすると、アンテナ線を分配する必要が発生して、結果安定した電波の受信レベルが得られなくなってしまう。筆者は日ごろ8台のデジタルビデオレコーダーをフル稼働させているが、これらの機器を活用するために共同受信のアンテナ線以外に、ベランダに2本の地デジ用アンテナを別途取り付けているほどだ。55X1ではこの問題を解消して地デジの全局同時録画を実現した。
大量にHDDへ録画した番組は、「タイムシフトマシン」で過去に遡り、新開発のUIである「ローミングナビ」も活用して目的の番組を検索できる。「タイムシフトマシン」で表示される過去の番組表から視聴したい番組をリモコンで選べば簡単に再生できる。いわば時間軸で検索して番組を探すのに向いている機能だ。
「ローミングナビ」では、HDDに録画された番組以外に、現在放送中の番組、今後の放送予定番組を独自のアルゴリズムで関連づけて、サムネール付きで環状のUI画面に人物名/ジャンル/キーワード/タイトルで仕分けして表示する機能だ。ユーザーはより直感的な操作で番組探しが楽しめる点がこの機能の魅力だ。
CEATECで展示中のデモ機はまだ開発途中の製品だったため、「ローミングナビ」のデモソースは「ジャンル」のみに仕分けられていた。実際のローミングナビでは、録画した番組が上下左右の方向に展開して表示される。操作感についてはまだ明らかではないが、見た目のUIの“未来感”はゾクゾクするほど高かった。
「タイムシフトマシン」で録画された番組は、HDDに空き容量が少なくなると一時保存されている古い録画内容から自動的に上書きされる。しかし必要な番組を指定すれば、1TBの通常録画用HDDや外付けのUSB HDDにダビングできる。ネットワークダビングに対応する同社のレコーダー“VARDIA”をLAN経由で接続すればレコーダーにも保存できる。さらにVARDIAとi.Link接続できるパナソニックのBDレコーダー“DIGA”があれば、55X1に保存した番組をBDに残すことも可能だ。VARDIAからDIGAへのダビング方法については筆者の連載コラム記事を参照してほしい。
全局録画と聞いて思い出すのが、以前ソニーが販売していた「VAIO Xビデオステーション」という製品だ。本機は8つのチューナーと最大2TBのHDDを搭載し、約3週間のアナログ地上波の放送を全局同時録画できる。3週間同時録画をするためには画質をかなり落とさなければならなかったが、それでも見逃した番組のフォローや、ネットで話題になる「突然の放送事故」を難無くチェックできる、テレビ好きには堪えられないレコーダーだった。
筆者は今もVAIO Xビデオステーションを愛用しているが、一度使うと手放せなくなる夢の録画機だと思っている。本機を使用し続けることによって“理想的なテレビ録画とは何か”が見えてきた。あらかじめ番組を探して予約するのではなく、一定期間全局を録画をしておき、後で録画済み番組の中から、必要な番組だけを視聴・保存するの使い勝手が一番良いのではないだろうか。「見たい番組を探して観る」のではなく「録画してある番組から探して観る」ほうが、遙かに快適だ。
全局を全時間録画できれば、時間変更による録り逃しも発生しないし、番組重複による録画ミスも皆無だ。例えば1ヶ月分の全局・全番組を録画できれば、連ドラは録画済みのタイトルを見逃しなく視聴できる。しかし残念ながらVAIO Xビデオステーションは、地上アナログ専用機なので、あと2011年に役目を終えることになる。ソニーから後継機が出ないものかと、首を長くして待っているのだが…最近のソニーを見ていると、あきらめたほうが良さそうに思う。
55X1の場合はデジタル放送をTS画質で録画するので、3TBのHDDながら連続録画は約26時間に止まっている。もしMPEG-4 AVCなどの長時間録画機能を備えれば、地デジ全局での3週間録画も可能だろう。筆者のような録画好きなら、動画圧縮技術を活用した長時間録画機能をいずれはCELL REGZAに望みたいと思う。
ただ現時点で言えば、筆者はCELL REGZAに長時間録画機能が搭載されることには反対だ。なぜなら、いまもし東芝が長時間録画に対応することになれば、同社のレコーダー“VARDIA”が搭載する「HD Rec」方式になるはずだからだ。
HD Recを搭載する「RD-X9」では、ハイビジョン画質を維持しながら、片面1層4.7GBのDVD-Rに最大約2時間48分もの録画が実現できる。2TBのHDDを内蔵する「RD-X9」の場合、最大で約1,322時間のハイビジョン録画が可能なので、もし3TBのHDDを搭載する「55X1」がHD Recに対応すれば約1,983時間(約83日)のハイビジョン録画が可能になる。83日間の連続録画とは、気絶するほど魅力的な録画マシンだ。しかしHD Recで録画してしまうと、ダビングなどでディスク保存した場合、東芝製レコーダー以外では再生できなくなってしまう。またパナソニックのDIGAを使った裏ワザ的なBD保存のテクニックも使えない。これではせっかくアーカイブしても将来の再生環境が不安だ。
すでに東芝はBD参入を表明しており、2010年には東芝製のBDレコーダーが店頭に並ぶことも有り得るだろう。その後、先行するソニー、パナソニックなどのBDレコーダーと互換性のある長時間記録方式を採用したうえで、東芝がCELL REGZAの長時間録画対応へステップを進めることが理想だと筆者は考えている。
もはや高画質であることが当たり前になってしまった薄型テレビ市場において、CELL REGZAは画質の改善点以外にも様々にエキサイティングな機能を盛り込んできた製品だ。例えばYouTubeなどのネット動画を高画質表示する機能だ。YouTubeを始めとするネット動画には、大画面テレビを使って楽しみたい貴重なお宝映像もたくさんあるが、55X1はこれらのコンテンツをCELLプラットフォームのエンジンにより、高画質化して表示できる。これまでのテレビでは、ありそうでなかった機能だ。Opera社と共同開発した高速インターネットブラウザでは、ハイビジョン画質でのWebブラウジングも楽しめる。
画質・音質に関しては既にニュース記事でも詳細がレポートされているが、かなりのレベルに仕上がっていると筆者も感じている。
CELL REGZAがすごいところは、このスペックをプロトタイプではなく、2009年12月に発売される商品として早くも実現したということだ。きっと混迷する薄型テレビ業界に大きな一石を投じることになるだろう。過去に東芝はいち早く録画機能を本体に搭載した“レコーダーテレビ”を投入し、成功した。現在ではパナソニック、日立、シャープ、三菱電機がレコーダーテレビを発売し好調だ。将来は他社も地デジ全局同時録画の機能を追従してくるかもしれないが、これにはまだ少し時間がかかりそうだ。
エコロジーという観点でCELL REGZAの機能を見れば、「見ないかもしれない番組も録画する」のだからムダという意見もあるだろう。しかし、あまりにエコロジーに捕らわれてばかりいては生活が窮屈になってしまう。エコロジーは大切だが、そればかりを優先してしまうと、大型テレビを含むAV機器の存在自体を否定しなければならない。そもそも録画機能搭載の“レコーダーテレビ”は、カタログ値には表せないが、とてもエコロジー性能の高いAV機器だ。なぜなら見たい番組を録画することで視聴時間とテレビの稼働時間を効率よく節約できるからだ。テレビ好きとしては、レコーダーテレビを存分に活用することで省エネに貢献したいところだ。
最後に55X1の価格について考察してみる。発売後の店頭実売価格の予想は100万円前後ということで、一見するとメロンやサクランボの初値のようなご祝儀価格を彷彿させる。しかし筆者は無茶な値段とは思わない。ちなみに他社のLEDバックライトを採用する製品の価格はと言えば、本項執筆時期前後の筆者調査ではソニーのBRAVIA「KDL-55XR1」が実勢価格で56万円前後、シャープのAQUOS「LC-52DX1」だと実勢価格45万円前後で売られている。プラス50万で3TBのHDDを搭載し、地デジの全局同時録画機能が使えると考えれば、そう無理のない価格ではないだろうか。製品発表の時点では東芝デジタルメディアネットワーク社の社長である大角正明氏が「1年以内にはコストを抑えたミドルレンジの製品を発表したい」とアナウンスしたことにも期待が集まる。筆者の予想だが、LEDバックライトを使わない蛍光灯パネルなら、かなりコストダウンができるはずだ。
今回の展示では開発途中の製品ということで、実際の使用感などに詳しく触れられなかったのは残念だった。今後、引き続き本機をウォッチし続けたいと思っているので、ご期待いただきたい。
◆筆者プロフィール 鈴木桂水
元産業用ロボットメーカーの開発、設計担当を経て、現在はAV機器とパソコン周辺機器を主に扱うフリーライター。テレビ番組表を日夜分析している自称「テレビ番組表アナリスト」でもある。ユーザーの視点と元エンジニアの直感を頼りに、使いこなし系のコラムを得意とする。そのほかAV機器の情報雑誌などで執筆中。