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ガジェット 公開日 2024/06/13 11:01
NTTドコモが2026年のサービス提供予定を打ち出した「HAPS」、順調に離陸できるのか
【連載】佐野正弘のITインサイト 第112回
衛星通信などを活用し、携帯電話の基地局がない場所でも通話や通信ができるようにするNTN(Non-Terrestrial Network/非地上系ネットワーク)。米Space Exploration Technologies(スペースX)の低軌道衛星群「Starlink」の実用化で一気に現実味を帯び、大きな注目を集めるようになってきている。
そのNTNを巡ってここ最近、大きな動きが起きている。それはNTTドコモが先日6月3日、「HAPS」を用いた通信サービスを、日本で2026年の提供開始を目指すと発表したことだ。
HAPS(High Altitude Platform Station/成層圏通信プラットフォーム)は衛星ではなく、成層圏を飛行する大型の飛行体に携帯電話の基地局に類する設備を搭載し、上空から地上のスマートフォンと通信する仕組み。衛星と違って地球を周回するわけではないので、1機でカバーできるエリアは衛星よりも狭いが、より地上に近い高度を飛行するので、衛星よりも高速大容量、かつ遅延の少ない通信を実現できるのが特徴だ。
ただ、既に実用化がなされている衛星通信とは違って、HAPSの実現には重力のある成層圏を長時間飛行させる必要があることから課題も多く、世界的にもまだ実用化がなされていない。それだけにあくまで予定とはいえ、NTTドコモが具体的な商用化の時期を示したことには大きな驚きがあった。
早期実現に至った理由は、同日に発表された「AALTO HAPS」(AALTO)という会社への出資が大きく影響している。この日NTTドコモと、親会社である日本電信電話(NTT)とスカパーJSATの合弁会社であるSpace Compassは、航空機大手のエアバス・ディフェンス&スペース(エアバス)との資本業務提携に合意したことを発表。NTTドコモとSpace Compassが主導し、AALTOに対して最大1億ドル(約157億円)を出資するとしている。
AALTOはエアバスの子会社で、HAPSの機体開発や製造などを手掛ける企業。同社が開発したHAPS「Zephyr」は2022年に、米国のアリゾナ州からフロリダ州にわたって64日間、滞空飛行を実現するという実績を持っている。そしてNTTグループは、これまでにも何度かAALTOとHAPSの実証実験を実施しており、その中で国内でも飛行させられるとの確信が得られたことから、今回の出資へと至ったといえそうだ。
ただ先にも触れた通り、HAPSを実用化する上では課題が少なからず存在する。とりわけ、日本でのサービス展開を考慮すると問題になるのが緯度だ。なぜなら、HAPSを飛行させるためのエネルギーは太陽光発電から得ていることから、必然的に日照時間が少なくなる高い緯度の地域では飛行し続けるのが難しいのである。
それゆえNTTドコモらも、商用サービスの提供当初はアリゾナ州からフロリダ州までと同じ緯度に入る、日本の南半分が対象エリアになるとしている。北海道などでのサービス提供を実現するには、技術の目途は立っているものの開発に時間がかかる様子だ。
にもかかわらず、なぜこのタイミングで具体的な時期を示して国内でのサービス提供を打ち出すに至ったのだろうか。理由の1つとして考えられるのは、やはり低軌道衛星を用いた通信サービスの高度化が急速に進んでいることだろう。
実際2024年内には、KDDIがスペースXと、衛星とスマートフォンとの直接通信によるサービスを実現予定だとしている。また楽天モバイルも2024年2月に、米AST SpaceMobileと、衛星とスマートフォンとの直接通信によるサービスを2026年内に提供を目指すことを明らかにしている。
もちろん低軌道衛星とHAPSとでは、飛行する高度の違いもあって実現できるサービスにも多くの違いがあり、競合というよりは補完関係にある存在だ。ただユーザー目線からすると、衛星であれHAPSであれ、上空からスマートフォンとの直接通信を実現できるサービスをいち早く提供してくれる、スピード感が最も重要だ。
そうしたことからNTTドコモ、ひいてはNTTグループとしては、低軌道衛星に関する取り組みで他社に出遅れている部分をまずはHAPSでカバーし、NTN関連の事業で一定の優位性を獲得したい狙いがあるのではないかと考えられる。
そしてもう1つはNTT法、さらに言えばユニバーサルサービス制度の見直しだ。NTTは総務省での議論で、現在固定通信が主体となっているユニバーサルサービス制度を見直し、モバイル通信を軸にすべきと提案。人口が少なく固定回線の整備が難しい離島や、山間部など不採算地域は、無線通信をより積極的に活用すべきとしている。
その無線通信には、非常に広いエリアを上空からカバーできる衛星通信やHAPSなどの活用も視野に入っていると見られている。ユニバーサルサービス制度を支えている東日本電信電話・西日本電信電話(NTT東西)が現在、古い固定のメタル回線を維持するため多額の赤字を出していることから、NTTグループとしてはHAPSなどによるサービス提供を急いで、無線でも不採算地域をカバーしやすい環境を整え、無線を前提としたユニバーサルサービス制度の見直しを進めたい考えもあるのではないだろうか。
とはいうものの、HAPSの商用化に向けて超えるべきハードルは非常に多い。緯度の問題だけでなく、HAPSを国内で飛行させ、なおかつ上空から電波を射出するには国による認可が必要で、法的手続きをクリアする必要もあるだろう。
そして何より大きいのがコストの問題だ。HAPSに関する技術の研究開発や、運用をしていく上では非常に大きなコストがかかってくる。試験的に1、2機飛行させるだけならまだしも、より多くのHAPSを飛行させて広いエリアを恒久的にカバーするとなれば、非常に大きなコストがかかってしまい採算が取れない可能性もある。
NTTドコモやSpace Compassとしては国内でのサービス展開だけでなく、いち早く実現したHAPSの技術を海外の通信事業者などに提供することで、収益化を進めていきたい考えのようだ。しかし、低軌道衛星を活用したサービスへの関心が高まっている現状、HAPSの市場開拓が思惑通りに進むかどうかは分からない。それだけにHAPSのサービス提供に向けては期待が大きいが、同時に不安も大きいというのが現時点の筆者の見方である。
そのNTNを巡ってここ最近、大きな動きが起きている。それはNTTドコモが先日6月3日、「HAPS」を用いた通信サービスを、日本で2026年の提供開始を目指すと発表したことだ。
■「HAPS」通信サービス提供を目指すNTTドコモ
HAPS(High Altitude Platform Station/成層圏通信プラットフォーム)は衛星ではなく、成層圏を飛行する大型の飛行体に携帯電話の基地局に類する設備を搭載し、上空から地上のスマートフォンと通信する仕組み。衛星と違って地球を周回するわけではないので、1機でカバーできるエリアは衛星よりも狭いが、より地上に近い高度を飛行するので、衛星よりも高速大容量、かつ遅延の少ない通信を実現できるのが特徴だ。
ただ、既に実用化がなされている衛星通信とは違って、HAPSの実現には重力のある成層圏を長時間飛行させる必要があることから課題も多く、世界的にもまだ実用化がなされていない。それだけにあくまで予定とはいえ、NTTドコモが具体的な商用化の時期を示したことには大きな驚きがあった。
早期実現に至った理由は、同日に発表された「AALTO HAPS」(AALTO)という会社への出資が大きく影響している。この日NTTドコモと、親会社である日本電信電話(NTT)とスカパーJSATの合弁会社であるSpace Compassは、航空機大手のエアバス・ディフェンス&スペース(エアバス)との資本業務提携に合意したことを発表。NTTドコモとSpace Compassが主導し、AALTOに対して最大1億ドル(約157億円)を出資するとしている。
AALTOはエアバスの子会社で、HAPSの機体開発や製造などを手掛ける企業。同社が開発したHAPS「Zephyr」は2022年に、米国のアリゾナ州からフロリダ州にわたって64日間、滞空飛行を実現するという実績を持っている。そしてNTTグループは、これまでにも何度かAALTOとHAPSの実証実験を実施しており、その中で国内でも飛行させられるとの確信が得られたことから、今回の出資へと至ったといえそうだ。
ただ先にも触れた通り、HAPSを実用化する上では課題が少なからず存在する。とりわけ、日本でのサービス展開を考慮すると問題になるのが緯度だ。なぜなら、HAPSを飛行させるためのエネルギーは太陽光発電から得ていることから、必然的に日照時間が少なくなる高い緯度の地域では飛行し続けるのが難しいのである。
それゆえNTTドコモらも、商用サービスの提供当初はアリゾナ州からフロリダ州までと同じ緯度に入る、日本の南半分が対象エリアになるとしている。北海道などでのサービス提供を実現するには、技術の目途は立っているものの開発に時間がかかる様子だ。
■具体的な目標時期を示した背景とは
にもかかわらず、なぜこのタイミングで具体的な時期を示して国内でのサービス提供を打ち出すに至ったのだろうか。理由の1つとして考えられるのは、やはり低軌道衛星を用いた通信サービスの高度化が急速に進んでいることだろう。
実際2024年内には、KDDIがスペースXと、衛星とスマートフォンとの直接通信によるサービスを実現予定だとしている。また楽天モバイルも2024年2月に、米AST SpaceMobileと、衛星とスマートフォンとの直接通信によるサービスを2026年内に提供を目指すことを明らかにしている。
もちろん低軌道衛星とHAPSとでは、飛行する高度の違いもあって実現できるサービスにも多くの違いがあり、競合というよりは補完関係にある存在だ。ただユーザー目線からすると、衛星であれHAPSであれ、上空からスマートフォンとの直接通信を実現できるサービスをいち早く提供してくれる、スピード感が最も重要だ。
そうしたことからNTTドコモ、ひいてはNTTグループとしては、低軌道衛星に関する取り組みで他社に出遅れている部分をまずはHAPSでカバーし、NTN関連の事業で一定の優位性を獲得したい狙いがあるのではないかと考えられる。
そしてもう1つはNTT法、さらに言えばユニバーサルサービス制度の見直しだ。NTTは総務省での議論で、現在固定通信が主体となっているユニバーサルサービス制度を見直し、モバイル通信を軸にすべきと提案。人口が少なく固定回線の整備が難しい離島や、山間部など不採算地域は、無線通信をより積極的に活用すべきとしている。
その無線通信には、非常に広いエリアを上空からカバーできる衛星通信やHAPSなどの活用も視野に入っていると見られている。ユニバーサルサービス制度を支えている東日本電信電話・西日本電信電話(NTT東西)が現在、古い固定のメタル回線を維持するため多額の赤字を出していることから、NTTグループとしてはHAPSなどによるサービス提供を急いで、無線でも不採算地域をカバーしやすい環境を整え、無線を前提としたユニバーサルサービス制度の見直しを進めたい考えもあるのではないだろうか。
とはいうものの、HAPSの商用化に向けて超えるべきハードルは非常に多い。緯度の問題だけでなく、HAPSを国内で飛行させ、なおかつ上空から電波を射出するには国による認可が必要で、法的手続きをクリアする必要もあるだろう。
そして何より大きいのがコストの問題だ。HAPSに関する技術の研究開発や、運用をしていく上では非常に大きなコストがかかってくる。試験的に1、2機飛行させるだけならまだしも、より多くのHAPSを飛行させて広いエリアを恒久的にカバーするとなれば、非常に大きなコストがかかってしまい採算が取れない可能性もある。
NTTドコモやSpace Compassとしては国内でのサービス展開だけでなく、いち早く実現したHAPSの技術を海外の通信事業者などに提供することで、収益化を進めていきたい考えのようだ。しかし、低軌道衛星を活用したサービスへの関心が高まっている現状、HAPSの市場開拓が思惑通りに進むかどうかは分からない。それだけにHAPSのサービス提供に向けては期待が大きいが、同時に不安も大きいというのが現時点の筆者の見方である。