公開日 2015/06/11 12:23
【レビュー】液晶と異なる“圧倒的な黒”。LGの4K有機ELテレビは使いこなしがカギ
<連載:折原一也の“いまシュン!”ビジュアルプロダクト>
■日本市場で唯一の4K 有機ELテレビ
高画質の薄型テレビを語る上で、常々最高画質のポテンシャルを持つデバイスとして語られる「有機EL」(OLED)。ソニー、パナソニックらは薄型テレビとしての商品化を見合わせているなか、数年前から有機ELパネルを自社製造を手がけるのが、韓国・LGエレクトロニクスだ。そこで今回は、同社が日本市場に投入した有機ELテレビ“LG OLED TV”「55EG9600」(関連ニュース)を、LGエレクトロニクスジャパンにお邪魔して、画質検証を試みた。
LGが日本市場向けに投入したのが、55型で4K(3,840×2,160ドット)の有機ELを搭載したモデル。有機ELがプラズマ等と同じ自発光デバイスである事は知っている人も多いかと思うが、LG方式は「WRGB」と呼ばれる方式でカラーフィルターを通して色と映像を表示する。自発光デバイスとしてワンクッションある表示とも見られがちだが、他社が大型有機ELパネル製造を見合わせる中で唯一LGが4K OLED(日本市場向けには55/65型だが韓国・米国では77型も展開)を発売している事からも、現実的な選択が功を奏したともいえる。
「55EG9600」の実機を前にして、まずはLGによる店頭デモ用の4K映像による画質をチェックを試みた。映像モードは「あざやか」を利用している。
海外ロケで、いかにも「HDR」(High Dynamic Range)をイメージしたような夜景のデモ映像を見ると、同社が「Perfect Black」という表現で有機ELのメリットとして打ち出す、完璧な黒と無限大のコントラストの表現力は圧倒的。特に「55EG9600」では液晶テレビのエリア駆動にありがちな、隣の分割駆動エリアによる光漏れによって黒が浮き上がってしまうハロー効果が全くないので、画面全体で本来黒く現れる箇所は確実に漆黒になる。その印象的な黒の再現はパイオニアが発売していた”KURO”を彷彿させる、液晶テレビとは別次元の黒だ。
■「HDR」志向の高画質でありながら黒の表現力を重視
「HDR」的な表現として、画面内にある光源の輝きも印象的なのだが、取材に同席したLGエレクトロニクスジャパンのPMチームの朴氏によると、LGのOLEDでは液晶テレビほどの画面の明るさは重視しておらず、スペック上も画面全体が全白時のピーク輝度で150カンデラ程度、平均的なAPL(画面平均輝度)の信号で350カンデラ程度とのこと。この値は、2015年春に発売している他社の液晶テレビと比較し半分以下。色域についても昨今の液晶テレビのトレンドであるDCIもカバーしておらず、有機EL=派手という先入観とは異なる性格を備えている。
だが、実際に「55EG9600」の画面に映し出された映像を見ると、一画面内のコントラストの大きさもありピーク部の立ち上がりの鋭さはスペック値以上だ。有機ELはデバイスの特性として低輝度部にノイズが出やすくリニアな階調表現よりもコントラスト志向に振っていることもあり、その急峻な輝度トーンの立ち上がりは「HDR」向きの映像表現と呼んで差し支えないだろう。
画面を見ると派手に思われがちだが、「55EG9600」の画質の本当の長所と呼べるのはAVファンが追い求めていた黒の表現力だ。ライトが煌めく夜景というデモ映像の内容もあって輝きのある箇所も目立つが、実際の輝度は低く眩しさを感じないのが有機EL流なのだ。
もう一つ忘れてはならないのは、「55EG9600」はグローバル機と同じ湾曲型のパネルを採用している点。特に日本のAVファンは「画面が湾曲しているから映像への没入感が高まる」という論法にはあまり納得していないようだが、少なくとも「55EG9600」をテレビ正面や若干ナナメから見ても湾曲が気になることはなかった。
最薄部薄さ0.6mmというデザインを確認する目的で近づいた際に、その湾曲が改めて目に付いた、といったくらいの効果だ。また、今さらながら有機ELは視野角が非常に広いこともあり、真横に近い位置から見ても色変化が全くことも気にならない理由だろう。