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公開日 2016/05/20 10:00

【第156回】出たか?歴代最強シングルBA! Campfire Audioのイヤホン「Orion」を聴く

[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
高橋 敦
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■高橋敦、「歴代最強シングルBA」と断言!

シングルBA。その言葉に憧憬を禁じ得ない。

すべての帯域をそのひとつのドライバーで再生するフルレンジ構成は、イヤホンにおいてもスピーカーにおいても、ひとつの理想として揺るがない。しかし、理想を手にするには妥協が必要という矛盾した現実!

フルレンジ一発という構成は当然、その一発一基のドライバーの能力に大きく依存する。特に問題となるのは再生周波数帯域の幅。その問題をクリアすることが至難であったからこそ、スピーカーもイヤホンも高級機ほどマルチウェイ、低域と高域、あるいはさらに中域と帯域を分割し、それぞれの帯域に専用ドライバーを割り当てる構成にシフトしてきたという現実がある。例外的にヘッドホンはフルレンジ一発が主流だが。

特にイヤホンにおけるBAドライバーは超低域も超高域も伸びず、軽やかさや繊細さ、速さに強みを持つ反面、厚みや力強さの表現は得意ではない。それを補うためにBA搭載ハイエンド機の多くはマルチBAであり、各帯域に複数のドライバーを割り当てた超多ドライバー機も増えている。

点音源による理想的な定位や位相。帯域分割がないことによる自然な発声や帯域バランス。シングルフルレンジには当然のように備わり、工夫なくマルチウェイ化してしまえば容易に失われる、それらの要素をいかにして維持、あるいは取り戻すか?

ドライバーの同軸配置。ネットワーク回路の最適化。音導管による位相調整。現代ハイエンドイヤホンが抱える課題とそれへの対応策。その少なからずはマルチウェイ化の弊害をいかに解消するかという部分の話だ。それでもマルチウェイ化で得られる再生帯域の拡大、表現の厚みや余裕と秤にかければ、その他に道はない。

そんなふうに考えていた時期が僕にもありました。そんな僕の思い込みを打ち砕いてくれたのがこちら!

他にあまり見ない独特のタッチで塗り潰されたブラック!

油彩的というか、重みのある黒

Campfire Audio「Orion」。実売税込4万2,000円程度のシングルBAモデルだ。

発売当初は同時発売の4BAモデル「Jupiter」のドライバー構成や音導管を用いないチューブレス構造といった特徴的な部分に目を奪われ、また実際そちらも優秀なモデルであったので、僕はそちらに意識を持って行かれてしまっていた。

しかしイベント等ではなく落ち着いた場所で改めて両者を聴き込む機会が訪れると、

「…は!?」

と疑問符付きの感嘆符を発してしまったのは「Orion」だった。感嘆符はそのまんま「これはよい音!」という喜びの驚きだ。では疑問符はというと「これシングルBAなの?」という要素。つまり僕は「シングルBAにしてはよい音」ではなく、「シングルBAへの想像の範疇を超えたよい音」というニュアンスでの、「…は!?」を発してしまったのだ。シングルBAならではのよさを強く打ち出しつつも、シングルBA離れした必要十分以上のワイドレンジさも確保しやがっている。

僕は、基本的に何事も断言はしたくないタイプの人間だ。しかし現時点でのこれは迷わず断言できる。「僕が知る無数のシングルBAの中で『Orion』が歴代最強!」

無論、「歴代最強」なんていうのは「僕の好みへの合致っぷりが歴代最強」ということに過ぎないので、誰にとっても最強とか最高とかではない。しかしそれでもなお、「シングルBA好きな方にはぜひチェックしてほしい逸品!」と断言しておすすめしたいモデルだ。

またこれも無論、「歴代最強」の前に「シングルBAの中で」という注釈は必要ではある。いくら「シングルBAへの想像の範疇を超えたよい音」であっても、だ。しかしシングルBAという括りから突出するほどのその魅力は、シングルBAという括りをなくしても十分に魅力的。ドライバー構成に特にこだわりがなく、自分の好みの音を出してくれればそれでよいという方の中には、その好みがこのモデルの音と合致する方もいらっしゃると思う。

「そういえば自分が求めてる音って、実はシングルBAの延長線上にあるのかも?」そうピンと来た方にもぜひチェックしてみてもらいたい。

次ページまずは外観から中身の仕様までチェックしていこう

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