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公開日 2017/08/19 18:05

コンデンサーヘッドフォンに新たな「エナジー」を。iFIオーディオ「Pro iESL」レビュー

コンデンサー型ヘッドフォンのポテンシャルを現代最高レベルにまで引き上げる
岩井 喬
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ヘッドフォンを使うリスナーにとって、コンデンサー型ヘッドフォンはひとつの憧れだ。しかし、専用のドライバーアンプを必要とするコンデンサー型ヘッドフォンは必然として敷居が高くまた、組み合わせという意味では極めて限られた選択肢の中にあった。しかし、それは過去の話となりつつある。その中心にいるのが「Pro iESL」。これまでのコンデンサー型ヘッドフォンのあり方を変える可能性をも秘める本機を岩井氏がレビューする。

ドライバーアンプの分野で強烈なインパクトを放つ

エナジャイザーモジュール「Pro iESL」¥180,000(税抜)

iFIオーディオのフラッグシップである“Proシリーズ”。その第二弾として登場するのが、コンデンサー型(静電型)ヘッドフォン用トランス結合エナジャイザー「Pro iESL」だ。

Pro iESLは一般的なヘッドフォンアンプに追加することでコンデンサー型ヘッドフォンを使えるようにする、コンデンサー型ヘッドホン用アダプターユニットと捉えることができる。

Pro iESLのポイントは本機単体では使用できず、同社のPro iCANとのペア運用、もしくはバランス駆動出力を備えたヘッドフォンアンプ、プリメインアンプやパワーアンプが必要な点だ。音量調節も親機となるアンプ側で行う。

ここ数年のコンデンサー型ヘッドフォン市場活況の中、あまり製品が出てこないのがドライバーアンプの分野だ。先般コンデンサー型のパイオニアブランドであるスタックスよりフラッグシップ機「SRM‐T8000」が登場し、改めてドライバーアンプに対してスポットライトが当たったといえるが、このPro iESLはそのインパクトに勝るとも劣らないプロダクトである。

プリメインアンプのスピーカー出力にコンデンサー型ヘッドフォン用アダプターを取りつけて使用する製品は数十年前から存在するが、現在の高精度な電子設計の下で開発されたアダプターが紹介されるケースは少なく、Pro iESLはそうしたコンデンサー型ヘッドフォン用アダプターの決定版といえる内容を誇る。“エナジャイザー”という名称が示すように、コンデンサー型ヘッドフォンに対し、エネルギー供給源として機能する本機の作りについて、紹介していこう。

その存在をユニークなものとするコア技術

Pro iESLに内蔵される大きな構成要素はふたつ。ひとつはコンデンサー型ヘッドフォンに必要不可欠な振動膜にかける数百Vのバイアス電圧供給のために設けられたキャパシティブ・バッテリー電源、そしてもうひとつは固定電極に対して付加される数百Vのドライブ電圧を供給するために用意された、iFIオーディオオリジナルのピンストライプ・パーマロイ・コア・トランスだ。

バイアス電圧については230V( スタックス・ノーマルバイアス)、500V(ゼンハイザー「Orpheus HE‐90」)、540V(ゼンハイザー「HE‐60」、キングサウンド「KS‐H2/H3/H4」)、580V(スタックス・現行品PROバイアス)、600V(コス「ESP/950」、ジェイド)、そして将来の予備値として用意された620V、640Vの7ステップが用意されている。

Pro iESLでは、230V(スタックス・ノーマルバイアス)、500V(ゼンハイザー「Orpheus HE‐90」)、540V(ゼンハイザー「HE-60」、キングサウンド「KS-H2 / H3 / H4」)、580V(スタックス・現行品PRO バイアス)、600V(コス「ESP / 950」、ジェイド)、そして将来の予備値として用意された620、640 の7つのバイアス電圧が用意されている。インピーダンスは16/24/64/96 Ωの4 つを用意しているが、Pro iCAN との組み合わせでは64/96 Ωいずれかの設定で使用する。なお、このインピーダンス切り換えはピンストライプ・パーマロイ・コア・トランスの二次側を切り換える仕組みとなっている

接続端子はスタックス・ノーマルバイアス用のDIN6ピン端子とスタックス・現行PROバイアス用のDIN5ピン端子、そしてダイナミック型ヘッドフォン用の4ピンXLRバランス駆動出力を装備。これはPro iCANにも用意されているが、あえて本機に搭載した理由は、駆動力のある上質なプリメインまたはパワーアンプをPro iESLに繋ぎ、その高いドライブ能力で平面駆動型などの鳴らしにくいダイナミック型ヘッドフォンを楽しめるようとのことだ。

本機専用に開発されたキャパシティブ・バッテリー電源は、WIMA社製フィルムコンデンサーをパラレルで繋いで構成したもので、1,000Vもの容量を誇る。一般的な大容量の電解コンデンサーを使う場合、リーク電流も大きいため、一定量のバイアス電圧を常に確保することが難しい。そのために整流回路を工夫する必要があるが、これは動作ノイズの問題もつきまとうため、コンデンサーそのものから別の特性を持つものを選択する必要があったわけだ。

キャパシティブ・バッテリー電源は前述したWIMA社製コンデンサーに必要な電圧になるまで充填を行い、規定量になった段階で充電回路を完全にシャットアウト。そのままバイアス電圧を維持し続ける構造で、30秒ずつ充填を行う必要があるものの、充電回路が動作するのはほんの数マイクロセカンドほどであるという。

一方、ピンストライプ・パーマロイ・コア・トランスは全帯域での歪を抑えることができるパーマロイとGOSS(方向性電磁鋼板)を組み合わせたハイブリッド仕様のコア材を採用。巻き線も共鳴や帯域ごとの癖を解消しつつ高いステップアップ率を得るため、水平・垂直方向へ複雑に極細の線をマルチセクションに巻き込んでいるという。フロントパネルのインピーダンス切り換えはこのトランスの二次側タップを切り換えるために設けられている。

Pro iESL内部。構成要素は大きく2つで、左右に見えるのがキャパシティブ・バッテリー電源、真ん中にあるのがドライブ電圧を供給するためのオリジナルとなるピンストライプ・パーマロイ・コア・トランスとなる

スピーカー入力には100W/8Ω以下の定格を持つプリメインアンプに対応。同時にスピーカー・スルー出力端子も用意されており、内蔵リレーによってヘッドフォンとスピーカー出力の切り換えが行える。つまり本機をスピーカーリスニング環境に挿入したまま活用することができるのだ。

またヘッドフォンアンプと接続するための4ピンXLRのバランス入力も備えられており、ヘッドフォンアンプのヘッドフォン出力より直結できるようになっている。

次ページ「KS‐H3」「SR‐Ω」「E‐270」でPro iESLを試聴

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