公開日 2020/12/05 07:15
「いいモノを長く」とは、まさにリンLP12に繋がる言葉。新軸受KAROUSELでアナログ再生がさらに進化する
<連載>角田郁雄のオーディオSUPREME
皆さま、いかがお過ごしでしょうか。私は、まだGo To 〇〇にはチャレンジできず、仕事以外は外出せず、執筆、オーディオ機器のメンテナンス、バランス・フォノケーブルの自作、新譜CDを聴くなどして過ごしているところです。
さて、今回のオーディオ話ですが、私が、一番つきあいの長いLINNのベルトドライブ方式レコードプレーヤー「KLIMAX LP12」の軸受を最新の「KAROUSEL」(カルーセル:回転木馬の意味)に変更したという話です。
■英国の独特の気品が漂うリンのアナログプレーヤーLP12
まず、そのLP12の魅力と特徴についてお話しましょう。私は、このLP12に若い頃から憧れていました。その姿には英国の独特の気品が漂っていて、実に美しく思えました。搭載する技術構成も独創的で、製作精度の高さを感じました。
特に、高純度亜鉛アルミ合金ブロックを高精度切削したアウタープラッターとインナープラッターの組み合わせは、共振を排除する2重ターンテーブル方式で、気に入りました。
鏡面仕上げの高精度なスピンドル軸と軸受にも精密さを感じました。そのスピンドル軸の先端は、丸みのある尖った形状で、軸受の底(スラストパッド)に1点で接触します。この軸構造はリンが格別に大切にしている技術で、リンのブランド・ロゴになっています。これにより、回転軸の摩擦雑音を低減させています。
それだけではなく、軸受側面の上下には凸のようなリング状の段をつけ、スピンドル軸との接触面積を減らし、その隙間の凹部分と先端の隙間をオイルで満たしています。これにより、さらに摩擦雑音を下げ、プレーヤーのS/Nを向上させています。よく考えられた画期的な軸構造ですね。これは当時の特許技術だったそうです。
もうひとつの大きな特徴は、多くのプレーヤーは重量級キャビネットを採用したリジット方式ですが、リンは軸受が設置された内部のサブシャーシ(アームボードも連結されている)が、プラッターとアームを3点のスプリングで支えるフローティング方式を採用しています。これにより、完全にプラッターもアームもラックなどから伝わる外来振動や本体からのモーター振動の影響を受けない構造としたわけです。
ですから、強固なオーディオラックの上でなくても、安定した場所であれば、リビングのサイドテーブルや家具の上にも置けるわけです。その結果として、レコードをかけるとS/Nが良く、弱音から強音までのダイナミックレンジが極めて広く、空間性に溢れた生々しい音楽を体験させてくれるのです。
■軸受の変更は、オーバーホールに近い高度な技術作業
さて、ここからが本題です。今回、先にお話しした軸受を第3世代のKAROUSELに変更しました。
材質はステンレススティール製で、より大型化され強度を高め、がっちりとサブシャーシを挟み込むことができます。そして、より摩擦雑音の少ない滑らかな回転を実現し、特にスピンドル軸の先端を1点で受け止める軸の底部(スラストパッド)に、超高硬度なD.L.C.(ダイヤモンド・ライク・カーボン)加工が施されたことが大きな特徴です。
これは、単に新しい軸受に変更するという単純なものではないのです。一旦輸入元のリンジャパンにお預けし、軸受のほかにインナープラッター、サブシャーシを支えるスプリングとゴム・グロメット、ナットとワッシャー、アース線なども交換します。ほとんどオーバーホールに近い、たいへんな技術作業なのです。
私が依頼した時期では、12日間程度で作業が終わりましたが、上面のステンレス・トッププレートまで磨かれ、丁重な作業に感心してしまいました。愛用のケヤキ製ラックへの設置、調整も行って頂きました。
調整後、再生したグリュミオーのヴァイオリン小品集の音に、思わず唖然としてしまいました。まさにヴァイオリニストとピアニストが、眼前で演奏しているような感覚となり、以前よりもずっと微細な響き、弱音表現が鮮明に描写されたのです。これは、別モノと言えるほどS/Nが良く、高解像度化されていることを実感しました。
ダイレクトカッティングのシェフィールドのドラムスを再生すると、その場で演奏しているかのようで、シンバルやドラムスの響きの余韻が今まで以上に空間に舞い上がりました。しかも、低音が素晴らしいのです。ボトムエンドを打つような低域でも、まったく不鮮明にならず透明度を維持してくれます。これは、重量級大型プレーヤーでも得にくい質感かもしれないと感じました。
マイルス・デイヴィスのアルバムでは、トランペットやテナー・サックスの響きに重厚な響きが加わり、シンバルには一層鮮烈な響きが加わります。先と同じように、S/Nと慣性力が高まった印象を受け、周波数帯域が拡張された印象も受けました。
そこで試しにスイッチを切ってみました。すると、今まで以上にプラッターが惰性で回転する時間が長いことが分かりました。このことからも、回転慣性力が高まり、より滑らかで精度の高い回転を実現しているのだと理解できたのです。
LP12の愛用者は多いことでしょう。KAROUSELの価格は135,000円(税抜)で、標準技術費は50,000円(税抜)ですが、その価格を遥かに超えていて、あたかも新品を買ったかのような感覚になります。一聴しただけでも分かる違いです。愛用者には、ぜひその音質を体験して頂きたいと思います。
私の場合は、KLIMAX LP12に内蔵したフォノイコライザー「URIKA」や別筐体のURIKAとDCモーターに電源供給する電源ユニット「RADIKAL」がアップグレードされたかのようにも感じてしまいます。
■ストリーミング時代にあっても、LP12は進化し続ける
なお、年末に発売される新しいトーンアームを搭載するMAJIK LP12にもKAROUSELが搭載されるそうです。新たにレコード再生にチャレンジされたい方、新しいプレーヤーを検討される方は、ぜひリンの専門店で、デザイン、操作感、音質を体験して欲しいです。LP12はアップグレード・パーツが実に豊富で、予算ができた時にいつでもアップグレードできることも魅力です。
購入したMAJIK LP12は、予算に応じて、徐々にAKURATE LP12、KLIMAX LP12へと近づけることができ、本当に長く愛用できるのです。
最後に、LINNは1973年に創業しました。創業者アイバー・ティーフェンブルン氏は、「レコードプレーヤーをスピーカーのない別室に移し、ケーブルを延長して再生した時、クリアで精密で豊かな音質が聴けた」と語っています。この体験からLP12の開発構想を描いたそうです。
そのLP12は誕生から45年。その間、CD時代が到来し、これにもリンは積極的に取り組み、さらにいち早くハイレゾ・ネットワーク再生に着手。KLIMAX DSで、世界の注目を浴びました。ネットワーク再生の世界はいまも進化し続けています。しかし、その間決してLP12を絶やすことはなく、それどころか進化させています。これは本当に素晴らしい実績です。
私は、この「KARUOSEL」の登場により、あらためてLP12の過去の資料を読み返し、愛用の喜びを感じているところです。「いいモノを長く」とは、まさにLP12につながる、心に響く言葉です。
では、また次回に!
さて、今回のオーディオ話ですが、私が、一番つきあいの長いLINNのベルトドライブ方式レコードプレーヤー「KLIMAX LP12」の軸受を最新の「KAROUSEL」(カルーセル:回転木馬の意味)に変更したという話です。
■英国の独特の気品が漂うリンのアナログプレーヤーLP12
まず、そのLP12の魅力と特徴についてお話しましょう。私は、このLP12に若い頃から憧れていました。その姿には英国の独特の気品が漂っていて、実に美しく思えました。搭載する技術構成も独創的で、製作精度の高さを感じました。
特に、高純度亜鉛アルミ合金ブロックを高精度切削したアウタープラッターとインナープラッターの組み合わせは、共振を排除する2重ターンテーブル方式で、気に入りました。
鏡面仕上げの高精度なスピンドル軸と軸受にも精密さを感じました。そのスピンドル軸の先端は、丸みのある尖った形状で、軸受の底(スラストパッド)に1点で接触します。この軸構造はリンが格別に大切にしている技術で、リンのブランド・ロゴになっています。これにより、回転軸の摩擦雑音を低減させています。
それだけではなく、軸受側面の上下には凸のようなリング状の段をつけ、スピンドル軸との接触面積を減らし、その隙間の凹部分と先端の隙間をオイルで満たしています。これにより、さらに摩擦雑音を下げ、プレーヤーのS/Nを向上させています。よく考えられた画期的な軸構造ですね。これは当時の特許技術だったそうです。
もうひとつの大きな特徴は、多くのプレーヤーは重量級キャビネットを採用したリジット方式ですが、リンは軸受が設置された内部のサブシャーシ(アームボードも連結されている)が、プラッターとアームを3点のスプリングで支えるフローティング方式を採用しています。これにより、完全にプラッターもアームもラックなどから伝わる外来振動や本体からのモーター振動の影響を受けない構造としたわけです。
ですから、強固なオーディオラックの上でなくても、安定した場所であれば、リビングのサイドテーブルや家具の上にも置けるわけです。その結果として、レコードをかけるとS/Nが良く、弱音から強音までのダイナミックレンジが極めて広く、空間性に溢れた生々しい音楽を体験させてくれるのです。
■軸受の変更は、オーバーホールに近い高度な技術作業
さて、ここからが本題です。今回、先にお話しした軸受を第3世代のKAROUSELに変更しました。
材質はステンレススティール製で、より大型化され強度を高め、がっちりとサブシャーシを挟み込むことができます。そして、より摩擦雑音の少ない滑らかな回転を実現し、特にスピンドル軸の先端を1点で受け止める軸の底部(スラストパッド)に、超高硬度なD.L.C.(ダイヤモンド・ライク・カーボン)加工が施されたことが大きな特徴です。
これは、単に新しい軸受に変更するという単純なものではないのです。一旦輸入元のリンジャパンにお預けし、軸受のほかにインナープラッター、サブシャーシを支えるスプリングとゴム・グロメット、ナットとワッシャー、アース線なども交換します。ほとんどオーバーホールに近い、たいへんな技術作業なのです。
私が依頼した時期では、12日間程度で作業が終わりましたが、上面のステンレス・トッププレートまで磨かれ、丁重な作業に感心してしまいました。愛用のケヤキ製ラックへの設置、調整も行って頂きました。
調整後、再生したグリュミオーのヴァイオリン小品集の音に、思わず唖然としてしまいました。まさにヴァイオリニストとピアニストが、眼前で演奏しているような感覚となり、以前よりもずっと微細な響き、弱音表現が鮮明に描写されたのです。これは、別モノと言えるほどS/Nが良く、高解像度化されていることを実感しました。
ダイレクトカッティングのシェフィールドのドラムスを再生すると、その場で演奏しているかのようで、シンバルやドラムスの響きの余韻が今まで以上に空間に舞い上がりました。しかも、低音が素晴らしいのです。ボトムエンドを打つような低域でも、まったく不鮮明にならず透明度を維持してくれます。これは、重量級大型プレーヤーでも得にくい質感かもしれないと感じました。
マイルス・デイヴィスのアルバムでは、トランペットやテナー・サックスの響きに重厚な響きが加わり、シンバルには一層鮮烈な響きが加わります。先と同じように、S/Nと慣性力が高まった印象を受け、周波数帯域が拡張された印象も受けました。
そこで試しにスイッチを切ってみました。すると、今まで以上にプラッターが惰性で回転する時間が長いことが分かりました。このことからも、回転慣性力が高まり、より滑らかで精度の高い回転を実現しているのだと理解できたのです。
LP12の愛用者は多いことでしょう。KAROUSELの価格は135,000円(税抜)で、標準技術費は50,000円(税抜)ですが、その価格を遥かに超えていて、あたかも新品を買ったかのような感覚になります。一聴しただけでも分かる違いです。愛用者には、ぜひその音質を体験して頂きたいと思います。
私の場合は、KLIMAX LP12に内蔵したフォノイコライザー「URIKA」や別筐体のURIKAとDCモーターに電源供給する電源ユニット「RADIKAL」がアップグレードされたかのようにも感じてしまいます。
■ストリーミング時代にあっても、LP12は進化し続ける
なお、年末に発売される新しいトーンアームを搭載するMAJIK LP12にもKAROUSELが搭載されるそうです。新たにレコード再生にチャレンジされたい方、新しいプレーヤーを検討される方は、ぜひリンの専門店で、デザイン、操作感、音質を体験して欲しいです。LP12はアップグレード・パーツが実に豊富で、予算ができた時にいつでもアップグレードできることも魅力です。
購入したMAJIK LP12は、予算に応じて、徐々にAKURATE LP12、KLIMAX LP12へと近づけることができ、本当に長く愛用できるのです。
最後に、LINNは1973年に創業しました。創業者アイバー・ティーフェンブルン氏は、「レコードプレーヤーをスピーカーのない別室に移し、ケーブルを延長して再生した時、クリアで精密で豊かな音質が聴けた」と語っています。この体験からLP12の開発構想を描いたそうです。
そのLP12は誕生から45年。その間、CD時代が到来し、これにもリンは積極的に取り組み、さらにいち早くハイレゾ・ネットワーク再生に着手。KLIMAX DSで、世界の注目を浴びました。ネットワーク再生の世界はいまも進化し続けています。しかし、その間決してLP12を絶やすことはなく、それどころか進化させています。これは本当に素晴らしい実績です。
私は、この「KARUOSEL」の登場により、あらためてLP12の過去の資料を読み返し、愛用の喜びを感じているところです。「いいモノを長く」とは、まさにLP12につながる、心に響く言葉です。
では、また次回に!