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公開日 2021/05/31 06:30

プロの世界基準を満たすクオリティ、SPLが日本に本格展開。DAC/ヘッドホンアンプ「Phonitor」シリーズ2機種をレビュー

【特別企画】音楽家を熱狂させるプロ御用達ブランド
岩井 喬
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オーディオマニアにとって、最高にうれしいニュースが届いた。世界的なヘッドホンアンプのブランドとして名を馳せる、ドイツのSPLの商品群が、2人のエンドーサーの手によって、日本市場に本格展開されるという。プロの音楽家を熱狂させる、圧倒的なサウンドクオリティをレポートしたい。


■次世代サウンドを届けるプロ御用達のブランド

ドイツのデュッセルドルフに本拠地を置くSPLはプロオーディオの世界で高く評価されてきたブランドのひとつだ。SPLはSound Performance Labの略で、1983年に創業。これまで先進的なコンプレッサーやイコライザーなどのエフェクター製品をいくつも手掛けてきた。ヘッドホンアンプに関してもラインアップを用意していたが、一部のマニアにしかその名は知られていなかった。しかし昨年末、日本におけるProfessional Fidelityシリーズ総代理店としてSPLジャパンが設立されたことで、SPLに対して興味を持つ方が増えてきたようだ。

SPLジャパン設立にあたっては3年以上SPLとエンドーサー契約を結んでいるプロデューサー、古屋博敏氏がキーパーソンとなり実現したという。エンドーサーはそのブランド、製品のよさを裏付ける広告塔の役割を持ち、音楽分野で国際的に活躍している実績がないと契約を結べないという。古屋氏は2018年ドイツW杯公式曲のマスタリングを手掛けるなど、世界各国で担当楽曲をいくつもチャートインさせた実績を持つ。

SPL 国際公式エンドーサー 古屋博敏氏

SPL 国際公式エンドーサー 加瀬裕一氏

また、昨年自身名義でリリースした『ART OF RICHARD CLAYDERMAN』は20か国ものチャートで1位を記録したそうで、リチャード・クレイダーマンの楽曲を現代的にアレンジし、ロッド・スチュアート・バンドのギタリストであったゼィブ・シャレブやエルトン・ジョン・バンドのドラマーとして活躍したチャック・サボらがミュージシャンとして参加したという豪華な作品だ。無論この作品の制作にもSPLを全面的に用いたという。

「SPLの製品は自分自身の音楽活動の助けとなってきました。そのサウンドは次世代型というべきもので、これまでにないクリーンさと艶やかさ、濃密さを持っています。ここまで完璧に近いサウンドを持つ機材は稀」と古屋氏と加瀬氏は語る。プロの音楽家を虜にする、その音質のよさはどこから生まれるのか。

その答えのひとつが基幹技術「120Vテクノロジー」だ。一般的なオペアンプを用いた回路では直流±15V電源、+側/−側併せて30Vの電圧範囲の中で駆動されることが多い。一方で120Vテクノロジーでは最新素子を用いたSPL SUPRA Op-Ampというディスクリート基板モジュールで構成され、直流±60Vという従来の回路構成では考えられないほどの高電圧駆動を行うアナログ回路を用いている。高電圧駆動とすることで処理できる音圧レベルの向上や歪率の大幅な低減に効果を発揮する。

「120Vテクノロジー」とは、SPLのチーフ開発者Wolfgang Neumann氏が発明した、一般的なディスクリートアンプの2倍、半導体オペアンプの4倍にあたる+/−60Vで音声処理を行うオリジナル音響技術。電子回路への供給電圧を高めることで、ダイナミックレンジの拡大、歪みやノイズの抑制など様々な好影響がもたらされる。上図は、120Vテクノロジー(+/−60V)と一般的なオーディオ機器(+/−15V)を比較した表


供給電圧を高めたSPL独自の電子回路。高い電圧であればあるほど、扱うことのできる最大レベルが高くなり、音質向上につながる
ダイナミックレンジはより広く取れるようになり、S/N比の点でも優位だ。公表されているダイナミックレンジは141.4dB、THD+Nは−114.2dBと、DACチップを超えるスペックのよさを誇る。さらにPhonitorシリーズならではの機能性となるのが「Phonitorマトリックス」だ。

「Phonitorマトリックス」を利用して実際に音楽を再生した場合に、ヘッドホンから聴こえる音のイメージ。実際にスピーカーから音楽を聴くときには、右から来る音は、右耳からだけでなく左耳でも聴いている。このとき左右の耳に音が到達する際の時間遅延やレベル差を考慮して、ヘッドホンでもスピーカーリスニングのような自然な聴こえを再現する技術が「Phonitorマトリックス」だ。なお、機種によって、クロスフィードと角度の設定範囲は異なる

いわゆるヘッドホンでスピーカーリスニングに近い環境を作り出すクロスフィード技術だが、たとえば「Phonitor x」では、両耳間時間差とレベル差を調整する4つのアングル、部屋のサイズや反射/吸収特性の影響を踏まえ、両耳間レベル差を定義する6つのクロスフィードを用意。実際のスピーカー配置に近い状態へ微調整できることが最大の特長だ。ミックスにおいてスピーカーだけで調整しているとピアノやストリングスのパンニングを誤ることがあり、Phonitorマトリックスを活用したヘッドホンリスニングでそうしたミスも減らせると古屋氏はその有効性を語ってくれた。

こちらは「Phonitor x」の場合のANGLEスイッチの動作例。アナログフィルターの設計によって、4つのスピーカー配置を再現できるようになっている

■前後感を的確に描くローエンド、恐ろしくリアルな空間表現

さて、前置きが長くなったが、ここからはSPLジャパンで取り扱いが始まったヘッドホンアンプPhonitorシリーズから、ポータブルオーディオファンに強くお薦めしたい2機種、「Phonitor x」と「Phonitor se」をレビューしてみたい。

なお、どちらもDAC内蔵オプションが選択可能であり、DACチップはすべて共通でAKM製「AK4490」を搭載。PCM 768kHz/32bit、DSD 11.2MHz・DSDに対応するUSB入力を装備する。今回の試聴はいずれも、DAC内蔵タイプでおこなっている。

まずはSPLブランドの新定番といえる「Phonitor x」から。丸形のアナログ指針メーターがアイコニックなデザインで、ヘッドホン端子は4pinXLRバランス駆動出力も搭載している。250Ω駆動で5W×2の高出力アンプを備えるが、バランス駆動対応となるのでSPL SUPRA Op-Ampモジュールは8回路分を用意。前述したように詳細なPhonitorマトリックス調整が可能だ。アナログ入力はXLR、RCAを装備。ボリュームはアルプス製RK27型を採用し、底面部のディップスイッチを用いて+12/+22/+24dBの3段階ゲインアップにも対応する。

「Phonitor x」

新しいフラグシップヘッドホンのなかから、メゼオーディオの平面型ヘッドホン「EMPYREAN」とHEDD「HEDDphone」を鳴らしてテストしてみたが、ローエンドだけで前後感を的確に描き出す、恐ろしくリアルな空間表現性には驚きを隠せなかった。S/Nのよい立体的な空間性とともに、オーケストラの旋律には潤いがあって、音楽全体がシームレスに展開される。ボーカルも肉付きがリアルで、口元もしっとりと生々しい。

「Phonitor x」リア部

バランス駆動では、音場の見通しが一層深くクリアになり、楽器の粒立ちや分離感もさらに高まる。ロックのリズム隊はアタックの階調が一際細やかに描かれ、シンバルワークの緻密さ、余韻の透明感も申し分ない。ピアノのアタックもハンマー音まで鮮明で低域から高域まで滲みなく澄んだ響きを聴かせてくれる。オーケストラの旋律も豊潤だ。

次に120Vテクノロジーの高音質を手軽に楽しめる、アンバランス出力のみの入門機「Phonitor se」を試聴していこう。こちらも250Ω駆動で5W×2の高出力アンプ、アルプス製RK27型ボリュームを搭載。

「Phonitor se」

アナログ入力はRCAのみで、Phonitorマトリックスはパラメーターを最適化した2段階を選択できるようにしている(角度は30度固定・クロスフィードの強弱を選択)。ハイボルテージ駆動のメリットを生かした高出力回路が特徴だが、ヘッドホンによって音量が足りない場合に備え、底面部のディップスイッチで+12dBのゲインアップが可能だ。

こちらはボーカルのボディの厚みが自然で、ディテールも有機的でスムーズだ。音が重層的に重なっているような楽曲でもほぐれよく、分析的に聴くことができ、音場の一次反射音まで見通せる正確な描写性も見事である。管弦楽器の旋律も、厚みを持たせつつ潤いがある高域のハリと立体的なハーモニーの広がりが心地いい。

「Phonitor se」リア部

ローエンドの制動性や、高域方向の分解能こそバランス駆動の上位機に譲るものの、低域方向の豊かさ、全体的に流麗で伸びよくなめらかなサウンドには、昨今の高級アンプの硬質な世界観とは一線を画す柔軟で躍動感に溢れたものがある。

なお、SPLブランドとしては、USB DACやパワーアンプなどの単品コンポもラインナップしている。これらを使えば、ピュアオーディオに発展させることもできるし、ヘッドホンアンプPhonitorシリーズのプリアンプ機能を使って、アクティブスピーカーと組み合わせて手軽に高品位なデスクトップオーディオを構築することもできる。

ちなみにピュアオーディオ的観点から見て気になるラインナップとしては、ステレオパワーアンプ「Performer s800」とUSB DAC内蔵プリアンプ「Director Mk2」の組み合わせだ。いずれも120Vテクノロジーを導入しており、Director Mk2のDAC部はPhonitorシリーズと同じAK4490を積むが、こちらの方がより本格的な仕様となる。SPL本社で製品開発のリスニングスピーカーであるというSKY AUDIOの「VerdadeII」を接続して聴いてみたが、ヘッドホンリスニング同様、濃密でありながらほぐれのよい解像感の伴ったスムーズなサウンドを聴かせてくれ、SPLトーンともいえる共通性を見出すことができた。

「Director Mk2」

「Performer S800」

120Vテクノロジーがもたらすサウンドの素晴らしさから、ゼンハイザーやHEDDなど、最先端のハイエンドヘッドホンブランドが開発時のレファレンスのひとつとしてPhonitorシリーズを用いていると聞くが、それも納得がいく音楽性豊かな新しいサウンドだ。次世代型ヘッドホンアンプとしてSPL製品の存在感はますます高まってゆくことだろう。




USB DAC搭載ヘッドホンアンプ
SPL「Phonitor x+ DAC768xs」
販売価格:348,700円(税込)
※DAC非搭載モデルは 300,300円(税込)
SPEC:●対応サンプリングレート:PCM 最大768kHz/32bit、DSD 最大11.2MHz ●最大出力レベル:アンバランス 1W×2(32Ω)、バランス 700mW×2(32Ω) ●ヘッドホン出力:アンバランス(RCA)、バランス(XLR) ●入出力端子:デジタル音声入力(USB Type-B、同軸、光)、アナログ音声入力(アンバランス、バランス)、アナログ音声出力(アンバランス、バランス) ●DACチップ:AKM AK4490 ●全高調波歪率:0.00091%(バランス) ●周波数特性:4Hz〜300,000Hz(-3dB) ●S/N比:98dBu(バランス) ●外形寸法:278W×100H×330Dmm ●質量:4.3kg

USB DAC搭載ヘッドホンアンプ
SPL「Phonitor se + DAC768xs」
販売価格:174,900円(税込)
※DAC非搭載モデルは 126,500円(税込)
SPEC: ●対応サンプリングレート:PCM 最大768kHz/32bit、DSD 最大11.2MHz ●最大出力レベル:アンバランス 1W×2(32Ω) ●ヘッドホン出力:アンバランス(RCA) ●入力端子:デジタル音声入力(USB Type-B、同軸、光)、アナログ音声入力(アンバランス) ●DACチップ:AKM AK4490 ●全高調波歪率:0.00091%(バランス) ●周波数特性:10Hz〜300,000Hz(-3dB) ●S/N比:103dBu ●外形寸法:278W×57H×330Dmm ●質量:3.1kg

USB DAC
SPL「Director Mk2」
販売価格:433,400円(税込)
SPEC: ●対応サンプリングレート:PCM 最大768kHz/32bit、DSD 最大11.2MHz ●デジタル音声入力(USB-TypeB、同軸、光、AES) ●アナログ音声入力:アンバランス(XLR)×2 ●DACチップ:AKM AK4490 ●外形寸法:278W×100H×330Dmm ●質量:4.55kg

パワーアンプ
SPL「Performer S800」
販売価格:397,100円(税込)
SPEC: ●アンプ出力:185W×2(8Ω)※ブリッジモード時450W ●アナログ音声入力:バランス(XLR)●アナログ音声出力:バランス(XLR)●外形寸法:278W×100H×342Dmm ●質量:12.8kg



本記事は「プレミアムヘッドホンガイドマガジン Vol.16」からの転載です。
(協力:A&Mインヴェストメント株式会社)

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