公開日 2022/06/14 06:35
部屋がまるで演奏会場に、「デジタル・コンサートホール」のドルビーアトモス配信を体験!
強い臨場感で身体が動かせない
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団が展開する映像配信サービス「デジタル・コンサートホール」が、新たにイマーシブオーディオの配信をスタートさせた。過去4シーズンのアーカイブ映像の音声を新たにドルビーアトモスとして再ミックスするという取り組みは、イマーシブオーディオの新たな可能性を開くものとして非常に注目されている。そのサウンドを、山之内 正氏が早速体験、そのクオリティを検証する。
>>本文末尾に、「デジタル・コンサートホール」が7日間無料視聴できるクーポンコードが記載されています。ぜひこの機会に、実際にご自身で体験してみてください。<<
「デジタル・コンサートホールが目指してきたゴールの一つがここにある」。6月8日にスタートしたイマーシブオーディオ配信を自宅のシアタールームで視聴し、そう確信した。大画面の4K映像とドルビーアトモスの立体音響が相乗効果を生み、ベルリンのフィルハーモニー大ホールを彷彿させる空間が目の前に広がる。その臨場感はステレオの鑑賞体験とは別物で、コンサートによってはこちらの方がずっと深い没入感が得られるのだ。実際の再生方法とお薦めのプログラムを紹介しよう。
ベルリン・フィルの映像配信サービス「デジタル・コンサートホール(DCH)」は、2008年以降14年にわたって同オーケストラの定期演奏会のライブとアーカイブの映像をリスナーに届けており、熱心なファンは世界中に広がる。スタート当初に比べると映像と音声どちらもクオリティ面で劇的な進化を遂げていて、現在は4K映像とハイレゾ音声の組み合わせまで選べるようになった。
そこに今回のイマーシブオーディオが加わり、ついにサラウンドでも聴けるようになったわけだが、これはデジタル・コンサートホールが始まった当初から視野に入れていたようだ。サービス開始時からDCHの音響プロデューサーをつとめているクリストフ・フランケ氏は「フィルハーモニーの響きをサラウンドでも届けられるようにしたいので、それに向けて技術的な検討を始めている」と数年前に語っていた。
そのときは5.1chの既存のサラウンドを想定していたのかもしれないが、高さ方向の広がりも表現できるイマーシブオーディオの方がベルリン・フィルの響きをより忠実に再現できると判断し、今回の導入に至ったようだ。そのあたりの詳しい経緯はいまフランケ氏にメールで問い合わせているので、近日中に後編として紹介できると思う。
さて、実際の視聴方法だが、ドルビーアトモス対応機器があれば特に難しい設定や準備は必要ない。DCHのアプリを最新バージョンに更新し、設定画面で「3D音声(ドルビーアトモス)」を選ぶだけで良い。今回はApple TVとAVアンプ、そしてiPhoneとAirPodsProという2つの組み合わせで試したが、M1を積むMacならブラウザ(Safari)でも再生できるし、FireTVやドルビーアトモス対応のテレビでも3D音声の再生ができるという。
いまのところ対象となる演奏会は2018年秋以降の4シーズン分で、ごく最近アップデートされた一部の演奏会を除き、期間内のコンサート映像にはほぼ例外なくドルビーアトモスのロゴが表示されていることを確認した。ロゴが付いている演奏会については、Apple TVとHDMIでつないだAVアンプ側にも「DolbyAtmos」の表示が出て、最大7.1.4chのイマーシブ音声を再生することができる。
スクリーンの前に座り続けて直近のシーズン約1年分の演奏会をすべて聴いてみたところ、音の広がり具合はプログラムによってかなり異なることがわかった。詳細は後編で紹介するが、作品の編成や楽器の配置に合わせてコンサートごとにミキシングを行っているという。その作業のためにエンジニアのベネディクト・シュレーダー氏とアンドレアス・ヴォルフ氏が約10ヶ月間を費やしているというから、かなりきめ細かいミキシングを行っていることがうかがえる。
ハイレゾのステレオ音声は高解像度だが、左右のスピーカーを中心に音が前に張り出す印象が強い。テレビやスクリーンとスピーカーの間の位置関係を工夫すれば画面との一体感がある程度は得られるが、どちらかというと音声だけで完結したバランスになっている。そのため、画面を消して音だけ再生してもCDのようなハイファイ再生が楽しめる。
一方、3D音声に切り替えると、音の重心が左右のスピーカーから離れ、背後のスクリーンの位置まで下がりつつ上下と左右にも広がり、ときには120インチのスクリーン全体に直接音と余韻が広がることもある。交響曲や協奏曲のプログラムはそこまで高さ方向に広がることはなく、目の前にステージが展開するイメージはほぼ映像の印象と一致する。
ただし、スピーカーに音が張り付かないということが実はとても重要だ。演奏の内容に没入できる感覚はステレオ再生よりも深く、映像との一体感は確実に向上するのだ。オーディオ装置で音楽を聴いているという意識から離れ、コンサート会場で実演の舞台に接している感覚に近付くと言っても大げさではない。
ロトの指揮でアルブレヒト・マイヤーが独奏を吹いたJ.S.バッハのオーボエ・ダモーレ協奏曲(2022年3月)はステージを包み込む余韻の浮遊感が絶品で、さらにその外側に広がる残響の振る舞いもフィルハーモニーでの体験にかなり近い。高密度だが伸びやかさもある余韻の存在が、マイヤーのオーボエ・ダモーレの柔らかく深みのある音色を際立たせ、思わずため息が出てしまうほど美しい。
ジョン・ウィリアムズが登場した2022年10月の演奏会はCDでも人気のプログラムだが、デジタル・コンサートホールではイマーシブオーディオでコンサートの一部始終を楽しむことができる。いつもの定期演奏会に比べて聴衆の反応がダイレクトに伝わり、派手な照明なども加わって会場には特別な空気が流れている。金管楽器や打楽器を中心に舞台を取り囲む形で配置された奏者たちが全力で映画音楽に取り組む姿を見ているだけでも気分が高揚するが、イマーシブオーディオで聴く厚みのあるサウンドはステレオ音声とは次元が異なり、臨場感は別格と言っていい。
ペトレンコがシューベルト《グレート》を振った2021/2022年シーズンの開幕コンサート(2021年8月)もドルビーアトモスでミキシングが行われている。第1楽章では他の指揮者よりも強弱の幅を弱音側に広げることで演奏に大きな起伏を作り出しているのだが、その工夫がもたらす深い遠近感は3D音声で聴くと聴き手をハッとさせるほど大きな効果がある。ペトレンコを通してシューベルトがニヤリと笑いかけてくるような面白さがあり、とても新鮮だ。
同じ交響曲でも声楽が入るとステレオ再生との違いはさらに大きくなる。ドゥダメルが振ったマーラーの交響曲第2番《復活》の演奏会(2022年2月)はハイレゾで聴いたときも強い印象を受けた名演だが、ドルビーアトモスで再生すると、演奏会場に居合わせたような強い臨場感に圧倒され、演奏が終わってもしばらく身体が動かせないほどだった。特に独唱、合唱、オルガンが加わる後半では、左右だけでなく上下方向にも展開する高密度な音の構築物が目の前に立ち現れ、バンダの金管はドゥダメルの視線の先、斜め上方から降り注いでくる。
この3次元の立体感は実演では普通に実感できるものだが、録音からはたとえサラウンド再生でも体験することは難しい。一方、この演奏会の3D音声ではマーラーが意図した通りの効果を引き出していると感じた。どんなミキシングをしているのか、強く興味を引かれる音源だ。
オーケストラに声楽が加わる作品で立体的な音場が広がる効果はほかにもいくつか顕著な例がある。2022年3月はガーディナーがメンデルスゾーンの交響曲第2番《讃歌》を演奏し、バレンボイムはヴェルディのレクイエムを振っている。特に後者の「怒りの日」でフィルハーモニーの空間を縦横に飛び交う金管楽器と合唱の動きが抜群の演奏効果を発揮する。イマーシブオーディオでなければ体験できない音響空間を味わうには絶好のプログラムだ。ちなみにこのレクイエムの演奏ではヴァイオリニストのリサ・バティアシュヴィリがコンサートマスター席で演奏している。4K映像で見ると彼女の力強い演奏ぶりが細部まで伝わり、演奏全体にも強い影響を与えていることがうかがえる。
演奏会形式で行われたオペラの舞台もステレオ再生とは別の面白さを味わうことができた。今シーズンにペトレンコが連続して取り上げているチャイコフスキー作品のなかで、2022年4月に行われた《スペードの女王》の公演は特に完成度が高く、この作品の価値を再認識させられるほどだ。特に、声楽パートの広がりやオーケストラとの立体的な対比を際立たせる方向でイマーシブオーディオならではのミキシングが行われており、児童合唱のなかのソロパートをステージ背後の高い位置に定位させたり、リーザとポリーナの二重唱の場面でピアノと声のバランスで親密さを表現するなど、きめ細かくバランスコントロールを行っていることがわかる。
トップスピーカーが作り出す立体音場の効果に比べると、リアスピーカーが演じる役割はそれほど大きくないように感じた。コンサートホールの残響を控えめなレベルで収録している例が多く、会場の空気感や余韻の自然な広がり感を引き出す効果は大きいのだが、それ以上にセンターとトップを含むフロント側のスピーカー群が作り出すステージとその周囲の音場の立体感が抜きん出ていて、空間表現の大半を支配している。
映画と音楽では音響デザインの方向がまったく別だし、観客の反応が重要な役割を演じるスタジアムでのライブコンサートとも狙いが異なる。デジタル・コンサートホールでは演奏会場の臨場感を自然な形で引き出すことが重要なので、前方重視の自然なバランスは適切なものだと思う。
iPhoneとイヤホンの組み合わせでもイマーシブオーディオの効果を手軽に試すことができる。特にAirPods Proを使うとステージの楽器配置に自然な広がりと立体感が生まれ、ヘッドトラッキングの効果も確認できる。アップル以外のヘッドホンやイヤホンではそこまで著しい効果は実感できないが、特別な設定や追加投資をすることなく簡単に試すことができるので、本格的なサラウンド再生に取り組む前にイマーシブオーディオの長所を味わってみたい人にお薦めしたい。
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イマーシブオーディオにより、フィルハーモニーの響きをより忠実に再現できる
「デジタル・コンサートホールが目指してきたゴールの一つがここにある」。6月8日にスタートしたイマーシブオーディオ配信を自宅のシアタールームで視聴し、そう確信した。大画面の4K映像とドルビーアトモスの立体音響が相乗効果を生み、ベルリンのフィルハーモニー大ホールを彷彿させる空間が目の前に広がる。その臨場感はステレオの鑑賞体験とは別物で、コンサートによってはこちらの方がずっと深い没入感が得られるのだ。実際の再生方法とお薦めのプログラムを紹介しよう。
ベルリン・フィルの映像配信サービス「デジタル・コンサートホール(DCH)」は、2008年以降14年にわたって同オーケストラの定期演奏会のライブとアーカイブの映像をリスナーに届けており、熱心なファンは世界中に広がる。スタート当初に比べると映像と音声どちらもクオリティ面で劇的な進化を遂げていて、現在は4K映像とハイレゾ音声の組み合わせまで選べるようになった。
そこに今回のイマーシブオーディオが加わり、ついにサラウンドでも聴けるようになったわけだが、これはデジタル・コンサートホールが始まった当初から視野に入れていたようだ。サービス開始時からDCHの音響プロデューサーをつとめているクリストフ・フランケ氏は「フィルハーモニーの響きをサラウンドでも届けられるようにしたいので、それに向けて技術的な検討を始めている」と数年前に語っていた。
そのときは5.1chの既存のサラウンドを想定していたのかもしれないが、高さ方向の広がりも表現できるイマーシブオーディオの方がベルリン・フィルの響きをより忠実に再現できると判断し、今回の導入に至ったようだ。そのあたりの詳しい経緯はいまフランケ氏にメールで問い合わせているので、近日中に後編として紹介できると思う。
Apple TVやiPhoneからでもドルビーアトモスは再生できる
さて、実際の視聴方法だが、ドルビーアトモス対応機器があれば特に難しい設定や準備は必要ない。DCHのアプリを最新バージョンに更新し、設定画面で「3D音声(ドルビーアトモス)」を選ぶだけで良い。今回はApple TVとAVアンプ、そしてiPhoneとAirPodsProという2つの組み合わせで試したが、M1を積むMacならブラウザ(Safari)でも再生できるし、FireTVやドルビーアトモス対応のテレビでも3D音声の再生ができるという。
いまのところ対象となる演奏会は2018年秋以降の4シーズン分で、ごく最近アップデートされた一部の演奏会を除き、期間内のコンサート映像にはほぼ例外なくドルビーアトモスのロゴが表示されていることを確認した。ロゴが付いている演奏会については、Apple TVとHDMIでつないだAVアンプ側にも「DolbyAtmos」の表示が出て、最大7.1.4chのイマーシブ音声を再生することができる。
スクリーンの前に座り続けて直近のシーズン約1年分の演奏会をすべて聴いてみたところ、音の広がり具合はプログラムによってかなり異なることがわかった。詳細は後編で紹介するが、作品の編成や楽器の配置に合わせてコンサートごとにミキシングを行っているという。その作業のためにエンジニアのベネディクト・シュレーダー氏とアンドレアス・ヴォルフ氏が約10ヶ月間を費やしているというから、かなりきめ細かいミキシングを行っていることがうかがえる。
ハイレゾのステレオ音声は高解像度だが、左右のスピーカーを中心に音が前に張り出す印象が強い。テレビやスクリーンとスピーカーの間の位置関係を工夫すれば画面との一体感がある程度は得られるが、どちらかというと音声だけで完結したバランスになっている。そのため、画面を消して音だけ再生してもCDのようなハイファイ再生が楽しめる。
一方、3D音声に切り替えると、音の重心が左右のスピーカーから離れ、背後のスクリーンの位置まで下がりつつ上下と左右にも広がり、ときには120インチのスクリーン全体に直接音と余韻が広がることもある。交響曲や協奏曲のプログラムはそこまで高さ方向に広がることはなく、目の前にステージが展開するイメージはほぼ映像の印象と一致する。
ただし、スピーカーに音が張り付かないということが実はとても重要だ。演奏の内容に没入できる感覚はステレオ再生よりも深く、映像との一体感は確実に向上するのだ。オーディオ装置で音楽を聴いているという意識から離れ、コンサート会場で実演の舞台に接している感覚に近付くと言っても大げさではない。
ジョン・ウィリアムズのコンサートでは聴衆の反応もダイレクトに伝わる
ロトの指揮でアルブレヒト・マイヤーが独奏を吹いたJ.S.バッハのオーボエ・ダモーレ協奏曲(2022年3月)はステージを包み込む余韻の浮遊感が絶品で、さらにその外側に広がる残響の振る舞いもフィルハーモニーでの体験にかなり近い。高密度だが伸びやかさもある余韻の存在が、マイヤーのオーボエ・ダモーレの柔らかく深みのある音色を際立たせ、思わずため息が出てしまうほど美しい。
ジョン・ウィリアムズが登場した2022年10月の演奏会はCDでも人気のプログラムだが、デジタル・コンサートホールではイマーシブオーディオでコンサートの一部始終を楽しむことができる。いつもの定期演奏会に比べて聴衆の反応がダイレクトに伝わり、派手な照明なども加わって会場には特別な空気が流れている。金管楽器や打楽器を中心に舞台を取り囲む形で配置された奏者たちが全力で映画音楽に取り組む姿を見ているだけでも気分が高揚するが、イマーシブオーディオで聴く厚みのあるサウンドはステレオ音声とは次元が異なり、臨場感は別格と言っていい。
ペトレンコがシューベルト《グレート》を振った2021/2022年シーズンの開幕コンサート(2021年8月)もドルビーアトモスでミキシングが行われている。第1楽章では他の指揮者よりも強弱の幅を弱音側に広げることで演奏に大きな起伏を作り出しているのだが、その工夫がもたらす深い遠近感は3D音声で聴くと聴き手をハッとさせるほど大きな効果がある。ペトレンコを通してシューベルトがニヤリと笑いかけてくるような面白さがあり、とても新鮮だ。
同じ交響曲でも声楽が入るとステレオ再生との違いはさらに大きくなる。ドゥダメルが振ったマーラーの交響曲第2番《復活》の演奏会(2022年2月)はハイレゾで聴いたときも強い印象を受けた名演だが、ドルビーアトモスで再生すると、演奏会場に居合わせたような強い臨場感に圧倒され、演奏が終わってもしばらく身体が動かせないほどだった。特に独唱、合唱、オルガンが加わる後半では、左右だけでなく上下方向にも展開する高密度な音の構築物が目の前に立ち現れ、バンダの金管はドゥダメルの視線の先、斜め上方から降り注いでくる。
この3次元の立体感は実演では普通に実感できるものだが、録音からはたとえサラウンド再生でも体験することは難しい。一方、この演奏会の3D音声ではマーラーが意図した通りの効果を引き出していると感じた。どんなミキシングをしているのか、強く興味を引かれる音源だ。
オーケストラに声楽が加わる作品で立体的な音場が広がる効果はほかにもいくつか顕著な例がある。2022年3月はガーディナーがメンデルスゾーンの交響曲第2番《讃歌》を演奏し、バレンボイムはヴェルディのレクイエムを振っている。特に後者の「怒りの日」でフィルハーモニーの空間を縦横に飛び交う金管楽器と合唱の動きが抜群の演奏効果を発揮する。イマーシブオーディオでなければ体験できない音響空間を味わうには絶好のプログラムだ。ちなみにこのレクイエムの演奏ではヴァイオリニストのリサ・バティアシュヴィリがコンサートマスター席で演奏している。4K映像で見ると彼女の力強い演奏ぶりが細部まで伝わり、演奏全体にも強い影響を与えていることがうかがえる。
きめ細かいバランスコントロールで会場の空気感や余韻の自然な広がり感を引き出す
演奏会形式で行われたオペラの舞台もステレオ再生とは別の面白さを味わうことができた。今シーズンにペトレンコが連続して取り上げているチャイコフスキー作品のなかで、2022年4月に行われた《スペードの女王》の公演は特に完成度が高く、この作品の価値を再認識させられるほどだ。特に、声楽パートの広がりやオーケストラとの立体的な対比を際立たせる方向でイマーシブオーディオならではのミキシングが行われており、児童合唱のなかのソロパートをステージ背後の高い位置に定位させたり、リーザとポリーナの二重唱の場面でピアノと声のバランスで親密さを表現するなど、きめ細かくバランスコントロールを行っていることがわかる。
トップスピーカーが作り出す立体音場の効果に比べると、リアスピーカーが演じる役割はそれほど大きくないように感じた。コンサートホールの残響を控えめなレベルで収録している例が多く、会場の空気感や余韻の自然な広がり感を引き出す効果は大きいのだが、それ以上にセンターとトップを含むフロント側のスピーカー群が作り出すステージとその周囲の音場の立体感が抜きん出ていて、空間表現の大半を支配している。
映画と音楽では音響デザインの方向がまったく別だし、観客の反応が重要な役割を演じるスタジアムでのライブコンサートとも狙いが異なる。デジタル・コンサートホールでは演奏会場の臨場感を自然な形で引き出すことが重要なので、前方重視の自然なバランスは適切なものだと思う。
iPhoneとイヤホンの組み合わせでもイマーシブオーディオの効果を手軽に試すことができる。特にAirPods Proを使うとステージの楽器配置に自然な広がりと立体感が生まれ、ヘッドトラッキングの効果も確認できる。アップル以外のヘッドホンやイヤホンではそこまで著しい効果は実感できないが、特別な設定や追加投資をすることなく簡単に試すことができるので、本格的なサラウンド再生に取り組む前にイマーシブオーディオの長所を味わってみたい人にお薦めしたい。