公開日 2022/10/04 06:30
普遍的なアナログの魅力を引き出すLINNの「LP12」。エントリー「MAJIK LP12」のスタンダード3モデルを聴く
【特別企画】アップグレードによる音質変化をチェック
オーディオファンなら誰もが一度は憧れるであろう、LINNのターンテーブル「LP12」。1973年の発売以来、現代へと脈々と受け継がれる、同ブランドを代表するプロダクトである。そんなLP12のストーリーや特徴を今一度振り返るとともに、現行機で主力モデルとなるスタンダードな「MAJIK LP12」による3ラインナップを試聴してその魅力に迫りたい。
LP12はLINNが世に送り出した第1弾製品であり、そのルーツは1960年代にまで遡る。自身も熱心なオーディオファンであった創業者のアイバー・ティーフェンブルン氏が自らの理想を追い求めて作ったのがLP12の原型となるもので、ロールスロイス製ジェットエンジン製造などをはじめとする極めて高精度な切削技術を有する父親の会社、Castle Precision Engineeringの技術を存分に注ぎ込んで製作したことでも知られている。その高いサウンド・クオリティが話題を呼び、1973年にリンプロダクツとして本格的にスタートすることになる。
LP12は、スピーカーからの振動をアイソレートするフローティング構造や、メインシャーシとサブシャーシを巧みに組み合わせた筐体構造を特徴とする。フローティング構造はスプリングを利用したものだが、スプリングのテンションと向きを調整して、厳密に整えられることがポイントである。
シャーシ構造は、モーター類をメインシャーシに、アームとターンテーブルをサブシャーシに搭載してモーターの振動をアイソレートするが、LINNはサブシャーシを音質にとって最優先要素として扱い、その素材を可能な限り硬く強度を高く持たせることで、精度の高い描写力を得るという思想で設計されている。
同社はこれを、レコード側を被写体、アーム側をカメラに例え、両者の位置関係を厳密に保持することで、ピンボケのない精密な写真を撮影すると表現する。 プラッターも二重構造となっており、異なる振動モードを組み合わせて制振する振動対策が採られている。
そして、本機最大の特徴であり魅力であるのが、同社が信念として掲げている「アップグレーダブル」な機器構成である。これは、シャーシからアーム、カートリッジまでを様々なグレードの中から組み合わせて選んだり、アップグレードしていけるということである。これによってユーザーは、ベーシックなグレードからスタートして、適宜に任意の箇所をグレードアップしていったり、LP12自体に抜本的なアップデートがあるたびにそれを新たに搭載してアップグレードしていけるのである。
つまり、「LP12」というのは、今でこそ推奨する組み合わせのセットはあるものの、誕生当初から全てのパーツが置き換え可能という徹底したモジュラー方式によって、柔軟なカスタマイズが可能なプロダクトなのである。
また、ベアリングも特徴的で、プラッターの軸受ベアリングはボール・ベアリングが一般的な中で、LP12は、鋭利なセンタースピンドルの先端で軸を受けるシングルポイント・ベアリングとなっている。なお、ご存知のようにLINNのブランド・ロゴも、このベアリング形状を由来としたものだ。
それでは、早速試聴に入っていきたい。今回試聴した3モデルは、サブシャーシがStandard、トーンアームがKRANEというベーシックな組み合わせで、それ以外は、カートリッジの違い、ベースボードの違い、そして、電源の違いによるモデルのバリエーションとなっている。
なお、プラッターと軸受のみは、最高位のものが全モデルに共通して与えられている。今回の試聴では、同社の「SELEKT DSM-KA」(KATALYST搭載モデル)を用いてB&W「803 D4」を駆動するとともに、LP12からの音声信号をSELEKT内蔵のフォノイコライザーアンプを用いて増幅している。
まずは、もっともベーシックなグレードとなる、「MAJIK LP12 MM」 から試聴した。ベースボードは、シンプルなゴム足による「ソリッドベース」となっており、カートリッジはMM型のADIKTが装備されている。
グレン・グールドの『ゴルトベルク変奏曲』(1982年録音)に針を落とすと、その静けさに驚かされた。同時に、ピアノのサウンドの心地よさが格別だ。レコード再生においては、ともすればピッチのブレや歪が気になりがちなピアノの音は、全く耳につく音はなく、しっとりふっくらとした肌触りがあって線が細くならず、音色バランス的にも余計な脚色や強調もなくナチュラル。
カートリッジの特徴もあってか細部を徹底して突き詰めていく描写ではないが、それだけに、音楽以外のことを忘れさせてくれるといえば良いのだろうか。演奏に集中させてくれるのである。SELEKTのサウンドとも方向性が等しく親和性が高いので、両者が目指す質感がより一層高められている印象もある。
続いて、ゲイリー・バートン&チック・コリアの『クリスタル・サイレンス』では、ヴィブラフォンの明るいサウンドも鮮やかながらやはり線が細くならない。また、先程と同じく、静けさに満ちており、演奏だけが眼前に立ち上ってくるかのような描写が快い。定点的にリズムを刻むチックのピアノと、空間の左右を飛び跳ねるゲイリー・バートンのマレットさばきとが心地よく空間へと展開される。
オーケストラ・ソースとしてゲオルグ・ショルティ&シカゴ交響楽団による『ブラームス:交響曲第1番』の第1楽章を再生すると、弦の音色の鮮やかさが印象的だ。弦のセクションは密接な一体感があるとともに、クレッシェンド及びデクレッシェンドの起伏が明快に伝わって来た。
ダイナミクスの変化や楽器の重なりが、ティンパニの強打や弦楽セクションが一斉に強奏する際のアタックに埋もれることなく再現されるので、音楽演奏そのものとしっかりと対峙できる。楽器の音色が持つ艶めかしくリアリティの高い表現なので、音楽通のような方々に、このLINNのシステムを安心しておすすめできるサウンドだと強く感じた。
一転して、ロック及びボーカルソースのレッド・ホット・チリ・ペッパーズ『アンリミテッド・ラブ』の再生でも、やはり楽曲内でジワジワと盛り上がってくる音量の起伏が明瞭である。そして何よりも感激したのが、バスドラムが決して重たくへばりつくようなサウンドにならず、適切な軽やかさを伴った低音再現を楽しめること。ドラムのアタックの一打一打が軽快な立ち上がりで、音楽のグルーヴが実に生き生きとしていて爽快なのだ。
このソースも他と同様に、余計なキャラクターを感じさせないので、音楽へと意識が自然にフォーカスする。このディスクを手にしてからまだ日は浅いが、その中でももっとも楽しい再生音だったと断言できるほどの説得力であった。
モジュール式を採用、パーツのアップグレードで進化するLINN「LP12」
LP12はLINNが世に送り出した第1弾製品であり、そのルーツは1960年代にまで遡る。自身も熱心なオーディオファンであった創業者のアイバー・ティーフェンブルン氏が自らの理想を追い求めて作ったのがLP12の原型となるもので、ロールスロイス製ジェットエンジン製造などをはじめとする極めて高精度な切削技術を有する父親の会社、Castle Precision Engineeringの技術を存分に注ぎ込んで製作したことでも知られている。その高いサウンド・クオリティが話題を呼び、1973年にリンプロダクツとして本格的にスタートすることになる。
LP12は、スピーカーからの振動をアイソレートするフローティング構造や、メインシャーシとサブシャーシを巧みに組み合わせた筐体構造を特徴とする。フローティング構造はスプリングを利用したものだが、スプリングのテンションと向きを調整して、厳密に整えられることがポイントである。
シャーシ構造は、モーター類をメインシャーシに、アームとターンテーブルをサブシャーシに搭載してモーターの振動をアイソレートするが、LINNはサブシャーシを音質にとって最優先要素として扱い、その素材を可能な限り硬く強度を高く持たせることで、精度の高い描写力を得るという思想で設計されている。
同社はこれを、レコード側を被写体、アーム側をカメラに例え、両者の位置関係を厳密に保持することで、ピンボケのない精密な写真を撮影すると表現する。 プラッターも二重構造となっており、異なる振動モードを組み合わせて制振する振動対策が採られている。
そして、本機最大の特徴であり魅力であるのが、同社が信念として掲げている「アップグレーダブル」な機器構成である。これは、シャーシからアーム、カートリッジまでを様々なグレードの中から組み合わせて選んだり、アップグレードしていけるということである。これによってユーザーは、ベーシックなグレードからスタートして、適宜に任意の箇所をグレードアップしていったり、LP12自体に抜本的なアップデートがあるたびにそれを新たに搭載してアップグレードしていけるのである。
つまり、「LP12」というのは、今でこそ推奨する組み合わせのセットはあるものの、誕生当初から全てのパーツが置き換え可能という徹底したモジュラー方式によって、柔軟なカスタマイズが可能なプロダクトなのである。
また、ベアリングも特徴的で、プラッターの軸受ベアリングはボール・ベアリングが一般的な中で、LP12は、鋭利なセンタースピンドルの先端で軸を受けるシングルポイント・ベアリングとなっている。なお、ご存知のようにLINNのブランド・ロゴも、このベアリング形状を由来としたものだ。
ピアノの心地よさが格別。ナチュラルかつしっとりした肌触りが魅力
それでは、早速試聴に入っていきたい。今回試聴した3モデルは、サブシャーシがStandard、トーンアームがKRANEというベーシックな組み合わせで、それ以外は、カートリッジの違い、ベースボードの違い、そして、電源の違いによるモデルのバリエーションとなっている。
なお、プラッターと軸受のみは、最高位のものが全モデルに共通して与えられている。今回の試聴では、同社の「SELEKT DSM-KA」(KATALYST搭載モデル)を用いてB&W「803 D4」を駆動するとともに、LP12からの音声信号をSELEKT内蔵のフォノイコライザーアンプを用いて増幅している。
まずは、もっともベーシックなグレードとなる、「MAJIK LP12 MM」 から試聴した。ベースボードは、シンプルなゴム足による「ソリッドベース」となっており、カートリッジはMM型のADIKTが装備されている。
グレン・グールドの『ゴルトベルク変奏曲』(1982年録音)に針を落とすと、その静けさに驚かされた。同時に、ピアノのサウンドの心地よさが格別だ。レコード再生においては、ともすればピッチのブレや歪が気になりがちなピアノの音は、全く耳につく音はなく、しっとりふっくらとした肌触りがあって線が細くならず、音色バランス的にも余計な脚色や強調もなくナチュラル。
カートリッジの特徴もあってか細部を徹底して突き詰めていく描写ではないが、それだけに、音楽以外のことを忘れさせてくれるといえば良いのだろうか。演奏に集中させてくれるのである。SELEKTのサウンドとも方向性が等しく親和性が高いので、両者が目指す質感がより一層高められている印象もある。
続いて、ゲイリー・バートン&チック・コリアの『クリスタル・サイレンス』では、ヴィブラフォンの明るいサウンドも鮮やかながらやはり線が細くならない。また、先程と同じく、静けさに満ちており、演奏だけが眼前に立ち上ってくるかのような描写が快い。定点的にリズムを刻むチックのピアノと、空間の左右を飛び跳ねるゲイリー・バートンのマレットさばきとが心地よく空間へと展開される。
オーケストラ・ソースとしてゲオルグ・ショルティ&シカゴ交響楽団による『ブラームス:交響曲第1番』の第1楽章を再生すると、弦の音色の鮮やかさが印象的だ。弦のセクションは密接な一体感があるとともに、クレッシェンド及びデクレッシェンドの起伏が明快に伝わって来た。
ダイナミクスの変化や楽器の重なりが、ティンパニの強打や弦楽セクションが一斉に強奏する際のアタックに埋もれることなく再現されるので、音楽演奏そのものとしっかりと対峙できる。楽器の音色が持つ艶めかしくリアリティの高い表現なので、音楽通のような方々に、このLINNのシステムを安心しておすすめできるサウンドだと強く感じた。
一転して、ロック及びボーカルソースのレッド・ホット・チリ・ペッパーズ『アンリミテッド・ラブ』の再生でも、やはり楽曲内でジワジワと盛り上がってくる音量の起伏が明瞭である。そして何よりも感激したのが、バスドラムが決して重たくへばりつくようなサウンドにならず、適切な軽やかさを伴った低音再現を楽しめること。ドラムのアタックの一打一打が軽快な立ち上がりで、音楽のグルーヴが実に生き生きとしていて爽快なのだ。
このソースも他と同様に、余計なキャラクターを感じさせないので、音楽へと意識が自然にフォーカスする。このディスクを手にしてからまだ日は浅いが、その中でももっとも楽しい再生音だったと断言できるほどの説得力であった。
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