PR 公開日 2023/05/12 06:35
瑞々しく艶やかな音、ウィーンアコースティクスの魅力が詰まった最新モデル「LISZT Reference」&「Haydn SE SIGNATURE」を聴く
9年ぶりのモデルチェンジでユニットも一新
老舗ブランドの中核2機種が9年ぶりのモデルチェンジ
ウィーンアコースティクスからスピーカーの新作が相次いで日本に到着した。ハイエンドクラスのLISZT Referenceと、ブックシェルフ型のHaydn SE SIGNATUREの2機種である。ウィーンに縁のある作曲家の名をシリーズ名に選ぶのは同社の伝統で、どちらも従来機種のリファインなので型名の後半部分を変更しているが、リストとハイドンの名はそのまま受け継いだ。
2機種ともモデルチェンジは9年ぶり。久々の世代交代でどこまで進化を遂げているのか、期待が募る。ちなみに作曲家の名前はメーカーが本拠を置くウィーンを象徴する存在として採用しているだけで、リストはピアノ曲向け、ハイドンは交響曲向けなどの志向はなく、言うまでもないことだがクラシックに限定した音作りにこだわっているわけでもない。
LISZTは二つの独立したキャビネットを連結した構造をほぼ同サイズのまま前機種から受け継いでいるが、外観はかなり印象が変わった。Beethoven Referenceと同様、ウーファーにもフラット振動板を導入したことがその理由で、同軸ユニットも含め、全てのドライバーユニットを一新している。
ウーファーと同軸ユニットのミッドレンジ振動板は独自配合の「X4P」に更新され、トゥイーターは従来のシルクドーム型からリングラジエーターに変更。トゥイーターにはフェイズプラグを装着しているため、同軸ユニットも外観は新しくなった。
フラット振動板は分割振動が起こりにくく、内側の補強リブによって強度も確保するなど、着実な進化を遂げている。ウーファーのセンター部分にファブリック製の逆ドーム型振動板を配置して指向性など諸特性の改善を狙っていることも含め、このドライバーの構造はBeethoven Referenceと共通だ。ウーファーキャビネットは一番上のユニットの下側で内部に仕切りを設けて上下を独立させ、有害な干渉を抑えているという。
中高域ドライバーの専用キャビネットは左右に回転する構造を前作から引き継いだ。低音の反射などを考慮して本体の位置と角度を決めた後、音を聴きながら上部だけ内側に向けるなど角度を調整することで、最適なセッティングにピンポイントで追い込むことができる。合理的で優れたアイデアだと思う。
HaydnはLISZTに比べると変更点は少なく、外観やサイズも含めて従来の設計思想を継承している。トゥイーターはBeethoven Referenceと共通のシルクドーム型に変更し、それに合わせてクロスオーバー周波数を2.8kHzから2.4kHzに下げているが、透明な「X3P」材を用いたウーファーは前作と変わらない。バスレフポートはフロント側からリア側に変更しているので、セッティングの際は後方の反射を考慮して壁からある程度の距離を置いて設置することをお薦めする。
LISZT Reference -奥行きを感じさせる立体的なステージ展開
LISZT Referenceはメインキャビネットを正面に向けた状態で中高域キャビネットを5度ほど内振りにして固定し、試聴を進めた。低域の反射を抑えると同時に左右壁面を介した間接音の比率を下げることが目的で、実際に音を聴きながら角度の微調整を行った。
セッティングを追い込んだ成果もあり、ベートーヴェンのソナタはヴァイオリンの音像が立体感を保ったままピンポイントで中央に定位し、ピアノの余韻に不自然な広がりがないので音場はすっきり見通し良好だ。ヴァイオリンの瑞々しく艶やかな音色はウィーンアコースティクスのスピーカー共通の長所の一つで、20年以上も前から変わらぬ美点である。前作に比べて中高域のつながりが自然に感じられるのはドライバーユニットを一新した効果と思われる。
ビル・エヴァンスのトリオは各楽器の音像が立体的に定位し、奥行きを感じさせる立体的なステージが展開する。重心の低いバランスはそのままキープした上で、従来よりも明らかに反応が改善し、立ち上がりはより速く、消え際はより自然な描写に生まれ変わっている。エディ・ゴメスのベースは音の跳躍に勢いがあり、一音一音のテンションの高さをはっきり聴き取ることができた。
ドゥヴィエルが歌うバッハのアリアでも音像定位の精度の高さを強く実感した。澄み切った高音に硬さはなく、コロラトゥーラの音域でもきつい感触にならないことにも感心させられた。空間描写も優秀で、柔らかい余韻の動きが曖昧にならず、ゆったりと左右に広がっていく様子が自然で、低音の回り込みも気にならない。
Haydn SE SIGNATURE -余韻に溶け込むハーモニーの柔らかさ
Haydn SE SIGNATUREは混濁のない見通しの効く音場が広がり、室内楽のヴァイオリンやオーケストラ伴奏のアリアでは直接音と間接音の関係が目に浮かび、楽器や声の細かい抑揚を正確に聴き取ることができた。ドゥヴィエルが歌うアリアでは発音は明瞭なのに子音がきつくならず、リュートの音色はウォームで柔らかいのに一音一音の立ち上がりに曖昧さがない。
音色表現が偏らず、鋭さと柔らかさを理想的なバランスで鳴らし分けるのはLISZTとも共通する長所だが、直接音と余韻のブレンド具合は本機の方がいっそう柔らかい方向に向かう。演奏と向き合う距離の近さを求めるならLISZT、エコーに包まれながらゆったり楽しむにはHaydnという具合に、想定する聴き手の姿勢には微妙な違いがありそうだ。
例えば金管アンサンブルをLISZTで聴くとベルの向きが見えるようなリアリティが際立ち、Haydnの再生音は余韻に溶け込むハーモニーの柔らかさを印象付ける。基本的な音調はほぼ共通だが、聴かせ方は同じではないのだ。繊細な作り分けに匠の技を聴き取ることができた。
本記事は『季刊・オーディオアクセサリー188号』からの転載です。