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公開日 2023/10/03 17:52

サブゼロ処理で音はどう変わる? KS-Remasta製シェルリード線を処理の有無で聴き比べ

PHILE WEB.SHOP 販売商品レビュー
井上千岳
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シェル付属品とKS-Remastaオリジナル品、そしてHST処理済のコラボ試聴機を比較
KS-Remasta社で販売実績の高い人気モデル「KS-LW-9500EVO.II」に、サブゼロ処理研究所のHyper Sub-zero Treatment(EXC)を施したシェルリード線が、当サイト内「ファイルウェブ.SHOP」オリジナルコラボ商品として限定発売された。実際に本モデルと、オリジナルモデルを比較試聴してその違いをレポートする。

アナログの面白さはアクセサリーで音が変わること



アナログブームだが、ユーザーの関心は専らプレーヤーやカートリッジ、フォノイコライザーなどのメイン・コンポーネントに向けられているようだ。しかしプレーヤー周りには色々と手をかけるところがあり、それによって音も変わる。アクセサリーはほとんどプレーヤー周りから発生したもので、だからアナログは面白いと言われるのである。

なかでも花形はヘッドシェルのリード線で、わずか5cm内外の連結線がカートリッジの音を微妙に左右する。いかにもアナログらしい部分なので、昔から様々な製品が市場を賑わせてきたし、多くのファンのお気に入り定番アイテムであった。

最近はそういった細かな話があまり聞かれないので、ブームとは言いながら少し淋しい気分がしていたところだが、ちょうどいいところへ登場してきたのが、今回紹介するリード線「HST-KS-LW-9500EVO.II(EXC)」だ。「PC-Triple C/EX線材」と「サブゼロ処理」。なんとも魅力的な取り合わせである。

オーディオ評論家・井上千岳氏

サブゼロ処理研究所とKS-Remastaがコラボした



「サブゼロ」は、いわゆるクライオのことである。超低温処理(クライオジェニックス)はサブゼロ処理と呼ぶのが一般的だそうで、ここでもそれで通すことにする。

製品名の最初にあるHSTは「Hyper Sub-zero Treatment」の意味である。これはサブゼロ研究所が大阪府堺市の熱処理専門企業・八田工業との共同開発で作り上げた超低温処理プロセスで、精密な温度管理の可能なガス法を使用して金属から樹脂まで幅広く深冷処理を行う。両社が長い年月をかけて確立した独自の技術である。

そして、HST処理を施すベース製品「KS-LW-9500EVO.II」を制作するKS-Remastaは、音質とコスト・パフォーマンスに定評のあるシェルリード専門工房。オーディオファンにとっては季刊・オーディオアクセサリー誌でもおなじみのはずだ。

今回の製品は、2種類あるHST処理のうち上級バージョンであるEXCで処理が行われている。通常は冷却/沈静/除冷という行程を24時間かけて行うが、EXCはこれを48時間かけて2回繰り返す。もちろん効果はより高く、HSTの真価をいっそうはっきりと実感することが可能である。

KS-LW-9500EV.IIは導体にPC-Triple C/EXを採用したリード線である。結晶を長く延伸した銅線PC-Triple Cに5N銀をコートした贅沢な線材。径0.3mmの素線を7本合わせて導体とし、実用最大級0.49平方mmのサイズとしている。チップは金メッキ・リン青銅。ハンダにはKS-Remasta EVO.IIを使用し、導体の魅力をさらに高次元で実現した仕様である。

KS-Remastaとサブゼロ処理研究所がコラボした「HST-KS-LW-9500EVO.II(EXC)」はシェル側の端末がグリーン

KS-RemastaオリジナルのKS-LW-9500EVO.IIはシェル側端末色がグレー

シェル付属品とKS-Remastaオリジナル品、そしてHST処理済のコラボ試聴機を比較



さて手元にある試聴モデルは3つ。いずれもデノンのカートリッジ DL-103をオーディオテクニカのLT-13aシェルに装着してある。そしてリード線は、(1)シェル付属品、(2)KS-LW-9500EV.II(オリジナル)、(3)今回のHST-KS-LW-9500EV.II(HST処理済)という具合である。


リード線は、(1)シェル付属品、(2)KS-LW-9500EV.II(オリジナル)、(3)今回のHST-KS-LW-9500EV.II(HST処理済)

試聴に使用したアナログレコード

(1)デノンDL-103+オーディオテクニカのLT-13aシェル付属品

さすがのDL-103。あらゆる面にわたって正確で偏りがない


最初のリード線は、つまりDL-103のそのままの音だ。やや重心を低く取って安定したレスポンス。ピアノはやや厚手のタッチが濁りなく引き出され、暖かみのある音色で音楽が丁寧に描かれている。室内楽も暴れがなく、弦楽器に手触りが心地好い。このざっくりとした感触がいかにも生の音という印象で、昔から人気の源泉であったと言っていい。

しかしだからといって深みのないおとなしい音かというとそんなことはなく、輪郭は明瞭で切れも深く一音々々のエネルギーがしっかりしている。ディテールがきめ細かく緻密に捉えられているのも、再現性を深いものにしている。要するにあらゆる面にわたって正確で偏りがないのである。

オーケストラではそういう特質がフルに発揮されて、音色や楽器の質感、バランスなど様々な要素が精密に再現されている。ダイナミックな起伏にも無理がない。


(2)デノンDL-103+KS-LW-9500EV.II(オリジナル)

KS-Remastaオリジナルはエネルギーが大きく、ディテールも明瞭で質感も厚い


こういう基本を一応確認しておいて、さてKS-Remastaオリジナル(HSTは未処理)の、KS-LW-9500EV0.IIである。

ひとことで言ってしまうと、先に挙げた特徴が全ていい方へ広がっているという印象だ。レスポンスで言えば高域へも低域へももうひとつずつ伸びている。強弱の凹凸も一回り大きく、エネルギーがそれだけ強くなっているのを感じる。また音の透明度が増して、質感の汚れが払われたようにきれいだ。

ピアノだと大体そういう出方だが、あとタッチの骨格が強固になっているのも確かだ。室内楽では透明感が高まるのと同時に、弦楽器ひとつひとつの線が太くたくましくなる。決して重くなるわけではなく、肉質感が厚くエッジの薄い鋭さが消えて滑らかになる感触である。またチェロの音色は、いまひとつくすんでいたのが明瞭で張りが増す。そしてどの楽器も立ち上がりのエネルギーが強く、ハーモニーがぐっと力強い。

オーケストラは切れのよさがよくわかる。それもただシャープなのではなく、彫りの深い鋭さと言えばいいのかもしれない。音の消え方が平板ではなく、細かなギザギザが見えるような感覚だ。また弦楽器にしても金管楽器にしても、質感が厚く弾力的で起伏に富んでいる。色彩感が豊かだし、フォルテになったときの緻密なアンサンブルがわかりやすいのは解像度が向上した結果である。

結局、信号の通りがよくそのため瞬時のエネルギーが大きく、それによってディテールも明瞭になるし質感も厚くなる。雑音も相対的に減って全てが明瞭になるという仕組みである。レスポンスが高低両端で深さを増すのも、先端の方でエネルギーが弱まってしまわないからだ。


(3)デノンDL-103+HST-KS-LW-9500EV.II(HST処理済)

HST処理済モデルは陰影の濃い再現、すべてがゆったりとして包容力に富む


次はいよいよサブゼロ処理を施したHSTバージョンを聴いてみる。

力が滑らかだ。いままでにも増してエネルギーが乗っているが、それが力みなくすっと流れてゆく。引っかかりがない。パイプが太くなったのか、流れが豊かで起伏にも余裕がある。川で言えば中流と下流のような違いだ。全てがゆったりとして包容力に富んでいる。

ピアノは鳴り方が生き生きとしている。表現が一気に雄弁になったようにダイナミズムの弾みがいい。隅々まで生命力が行き渡っているような出方だ。雄弁に聴こえるのは低音部が深くくっきりとしているのと、弱音の彫りが深いからである。だからレンジも強弱も幅が広がり、それが表現力を大きくしている。

室内楽は立ち上がりの当たりがより弾力に富んで凹凸が大きく、それだけ陰影の濃い再現になっている。音と音の隙間が深いという感覚で、スケールが増しているのである。

音そのもののエネルギーもたっぷりしている。一音々々に溜めがあって、それが瞬発力を強いものにしているようだ。さらに楽器それぞれの存在感がいっそうくっきり感じられる。チェロもヴァイオリンもヴィオラも、どれもひとりずつの表情や音色がはっきりして、それらがアンサンブルとして重なるため音楽が立体的なのだ。ディテールの細かなニュアンスがより強い表現になっているのも、音のメリハリが利いているせいだろう。

HST処理のリード線が、DL-103というカートリッジ本来の音を引き出してくれる



以上のような特徴は、リード線本来の性能・音質がよりよく磨かれて出てきたものだ。そこのところを勘違いしてはいけない。サブゼロ処理の一番の特徴は、製品本来の特質をいっそう際立たせ正しい方向へ拡張する点にある。このリード線ではそのことが端的に現れていると言っていい。

そういうことを再確認しながら、最後にオーケストラを聴いてみたい。

言わなくてもお分かりかもしれないが、出だしから彫りの深さが違う。低音弦の主題が影の濃い鳴り方で流れ、クライマックスへ向かって盛り上がってゆく過程では弦楽器、金管楽器、ティンパニーなどが混濁することなくそれぞれ悠然とした力感がたっぷりと鳴り渡る。そして空間の奥行が深く、それいっそう楽器どうしの分離をよくしている。

クライマックスでのフォルテも丁寧にほぐれ、大音量の中でも楽器ひとつひとつが余裕を持って聴こえてくる。起伏も大きい。

9500 EVO.IIのよさは、素材としてのよさだ。高品位な導体と贅沢な使い方、高信頼な作り。それらが生の形で生かされている。エネルギーと音数の豊かさはその賜物に違いない。

サブゼロ・バージョンはこれを隅々まで丁寧に磨き上げた音だ。どこを取っても荒っぽさがなく、たっぷりしたエネルギーが悠々とした鳴り方を根底から支えている。ディテールの緻密さと彫りの深さも、素材のよさをさらに精密に仕上げたものと言っていい。これがサブゼロというものの本来の効果なのである。製品本来のよさを正しい方向へ磨き上げる。このリード線にはその良さが非常に端的に現れている。

試聴は井上千岳氏の自宅オーディオルームで行った

そして最後に付け加えておきたいのは、ここで聴いた音がDL-103というカートリッジの本当の音だということだ。このリード線にはそれだけの威力がある、ということもまた確かなことなのである。

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