公開日 2012/10/29 13:45
【海上忍のAV注目キーワード辞典】第12回:ウルトラ・バイオレット − 新映像サービスの課題と可能性
BD/DVD作品がPCやスマホ/タブレットでも試聴可能に
【第12回:ウルトラ・バイオレット】
■米国発の新映像配信サービス「UV」
化粧品や日焼け止めで目にすることが多い「UV」の文字。言わずもがな、Ultra Violet(紫外線)の意味だ。しかし、目をAV方面に転じると一変、米国発の新しい映像配信サービスの略称となる。紫色の「UV」マークが付いたDVDやBlu-rayパッケージを購入すると、パソコンなどインターネットに接続可能な機器で映像コンテンツを楽しめるのだ。
UVは、20世紀FOXやワーナー・ブラザーズ、パラマウントなどハリウッドの大手映画会社のほか、マイクロソフトやHP、インテルといったIT系企業、パナソニックやソニーのような家電メーカーなど多様な企業が70社以上参加して設立された団体「DECE(Digital Entertainment Content Ecosystem)」が推進する。米国では2011年秋にサービスを開始、「UV」対応のDVD/Blu-rayパッケージが市販されている。
UV対応パッケージには1枚の紙片が同梱され、そこには十数桁のコードが記載されている。ウェブブラウザで所定のサイト、具体的には映画配給元のサイトにアクセスしてユーザ登録を済ませ、紙片に書かれたコードを入力すると、パッケージのものと“同じ”コンテンツを視聴できる。コンテンツの購入履歴はクラウド上で一元管理され、ハードウェアにはひも付けられないため、機器を買い換えても問題ない。
コンテンツの視聴には、映画配給元が無償提供する再生ソフトを利用する。現在各社が用意している再生ソフトは簡易なもので、再生と停止、早送りと巻き戻し程度しか実装されていないものが目立つが、一方ではFlixster社のように、パソコン(Windows/Mac)やスマートフォン用アプリ(iOS/Android)を提供する企業もある。
再生するコンテンツはクラウド上に置かれ、ユーザの指定した方法で再生される。オーソドックスな方法は「ストリーミング」で、データを受信しながら同時に再生を行う。もうひとつは「ダウンロード」で、パソコンのハードディスクなどに永続的な動画ファイルの形で保存する。UV対応のハード/ソフトを用意すれば、自分の好きな方法で再生できることがポイントだ。オプション扱いになるが、物理ディスク(DVD)へコピーすることもできる。
UV対応パッケージは、家族間で共有することも可能だ。取得したUVのIDには、最大6名の家族アカウントを追加でき、ひとつの家族は12回までコンテンツをダウンロードすることが許される。6人家族の場合、それぞれのパソコンとスマートフォンにダウンロードできる計算だ。ストリーミングは同時視聴が3回線までだが、6人家族それぞれが同じ映画を別の場所で同時に再生するとは考えにくく、DRM付きコンテンツの運用方針としては比較的緩やかといえるだろう。
■現在の課題と今後の可能性
ただし、課題は多い。その筆頭に挙げられるのが、サービス提供エリアの狭さだ。現在のところUVのサービスを提供している国・地域はアメリカとイギリスのみで、日本からは利用できない。年内にはカナダでサービス開始が予定されているほか、2013年以降にはオーストラリアやニュージーランド、ドイツやフランスも見込まれているが、日本に関しての情報はない。
クオリティ面も気になるところ。『パッケージのものと“同じ”コンテンツを視聴できる』と前述したが、たとえBlu-rayパッケージを購入したとしても、ストリーミングで視聴できるコンテンツの画質は同一ではない。インターネットの限られた帯域を使用して配信されるため、最大で約54MbpsというBlu-ray品質は大幅にスポイルされる。現在提供されているのは、ストリーミングではスタンダード(SD)と高品質(HD)の2種類だが、ビットレートはBlu-rayより大きく落ちる。
とはいえ「物理的なメディアに縛られたパッケージ」ではなく、「コンテンツの使用権も含めたパッケージ」を購入するのでは、楽しみ方の範囲において大きな開きがある。パソコンやスマートフォン/タブレットの普及により、場所にとらわれず音楽や映像を楽しみたいというニーズが高まるなか、パッケージに固執していては市場が先細るばかりだ(北米ではDVDの販売本数が急減している事情がある)。パッケージとしての魅力を損なわず付加価値を高めるという意味では、前向きな取り組みと考えていいだろう。
そもそもUltra Violetは、Blu-rayに利用される青紫色レーザー(可視光線ではもっとも波長が短い)の先にある技術、という意味合いで命名されている。再生フォーマットやDRMは統一されずコンテンツホルダーに任されるなど未整備の部分も多く残るが、インターネット/クラウドの利便性を取り入れつつ、今後サービスを進化させていくことに期待したい。