公開日 2016/06/16 10:57
トレンドはRoon、MQA − 山之内正がミュンヘンで見たデジタルオーディオ最前線
<連続レポート 第2回>
ミュンヘンのHIGH ENDは新製品公開の場としてだけでなく、オーディオ界の新しい潮流を読み解く場としても重要なイベントだ。特にデジタルオーディオは技術の進化が速いため、毎年行われる見本市でも前回からの変化の大きさを思い知らされるが、変化が大きいとはいえ毎年の展示内容を注視していれば、デジタルオーディオがどの方向に向かって進化していくのか見極めることができる。
今年のHIGH ENDでは、会場のいたるところで「MQA」と「Roon Ready」の展示が目を引いた。前者は次世代のロスレスコーデック、後者はネットワークオーディオの新しいプラットフォームを提供するアプリケーション&サービスという違いはあるが、どちらもネットワークオーディオ関連の新しい技術で、使い勝手と音質に分けると主に使い勝手の向上をもたらすことに共通点がある。その2つの新技術に加えて、ミュージックサーバーがいくつか新たに登場したことが、今年のHIGH ENDのデジタルオーディオ分野の主要なトピックだ。
PCオーディオが脚光を浴び始めた頃から比較的最近まで、デジタルオーディオ機器は対応フォーマットの多様さやサンプリング周波数など、スペックを競う動きが目立ち、特にUSB-DACを中心にスペック志向が製品の動向をある程度左右していた。ドイツのオーディオファンにはやや保守的な志向があるためか、数値を競うようなデモンストレーションはそれほど多くないのだが、それでもハードウェアの多くはそこに軸を据えていた。
一方、メリディアン傘下の「Sooloos」をはじめとするミュージックサーバーも以前から注目を集めていて、その関心の強さは日本を上回っている。音質面のメリットに加えて、ライブラリを充実させ選曲などの使い勝手を追求することにも強い関心を抱いている音楽ファンが非常に多いのだ。そんな背景があるためか、昨年の会場では多くのメーカーがTIDALのサポートを表明し、ロスレスの高音質と定額サービスならではの自由度の高いライブラリ構築を訴えていた。スペック競争を抜け出し、ネットワークオーディオの進化が次の段階に入ったことがうかがえる。
今年はさらに踏み込んで、RoonReadyに代表されるネットワークオーディオの新提案が各社の展示を席巻し、これまでとは次元の異なる使い勝手を積極的にアピールした。RoonReadyをサポートするネットワークプレーヤーにはSFORZATO、T+A、AURALIC、exaSound、Ayreなど主要メーカーの多くが名を連ね、そのほかにも「MERGING」や「Mytek」がネットワーク接続機能を持つD/AコンバーターでRoonReadyの仲間入りを果たすことを発表するなど、想像を上回るペースで参入が加速している。
5月の段階では、パートナー企業に名を連ねていても製品が間に合っていないメーカーも少なくないのだが、それでも「RoonReady」のパネルを掲げた効果は思いのほか大きかったようだ。独自のデータベースを駆使したRoonの動作に慣れてしまうと、既存のストリーミングサービスが発展途上に見えてしまうかもしれない。充実した付加価値を提供しつつ、ハイレゾオーディオの音質メリットを確保していることがRoonの支持が広がる最大の理由である。
もう一つのトレンドとして注目を集めたMQAは、昨年に比べて具体的な展示やデモンストレーションが増えて、本格的な発進を強く印象付けた。今年はメリディアンに加えてパイオニア、オンキヨー、Brinkmann、Mytek、Weissなどが対応モデルを発表し、HIGH ENDの会場で複数のデモンストレーションを行った。
さらに、会期中にワーナーミュージックがMQAと提携したニュースが報じられ、ハードウェアと並んで音源の充実が進んでいることをタイミングよくアピールしたことも見逃せない。会場にはメリディアンのボブ・スチュワート氏も駆けつけて自らデモンストレーションを行い、新旧さまざまな音源でMQAの音質メリットを紹介した。具体的な社名やレーベル名は未公開だが、今後の対応ハードウェアと音源の充実についても言及していたので、今年後半はさらに多くの参入が期待できそうだ。
MQAはデータ量を抑えられる点に注目が集まりがちだが、デモンストレーションでは独自技術を用いた音質改善のメリットを積極的にアピールした。音質改善の最大のポイントは時間軸分解能の高さとリンギングの低減にあるとされ、PCM音源との比較ではアタックや音色に違いが現れるという。
さまざまな機器で実際に聴き比べてみると、録音年代が古いマスターをエンコードしたケースで特に効果が大きく、モノラル音源でも違いを聴き取ることができる。また、ハイレゾプレーヤーなど、身近な再生機器でも自然な音像定位など音質の違いを確認できる点にも注目したい。ハイレゾ音源のダウンロード時はもちろんだが、高音質ストリーミングサービスと組み合わせたときにも大きなアドバンテージを発揮することが期待できそうだ。
さらに重要な潮流として筆者が注目するミュージックサーバーの分野は、RoonReadyやMQAほどは目立たないものの、この数年間における着実な進化を見出すことができた。リッピング機能とストレージを内蔵するDIGIBITの「Ariaシリーズ」やテクニクスの「ST-G30」のほか、DELAやfidataのオーディオ専用NASもUSB接続機能を活用することでミュージックサーバーとして利用可能だ。構成や機能は製品ごとに異なるが、タブレットと操作アプリを組み合わせることで主要な操作をPCレスで行える点にミュージックサーバー共通のメリットがある。
ミュージックサーバーはストレージと再生機能を一体化することで、優れた使い勝手を実現できるポテンシャルを持っている。Ariaシリーズで利用できる独自の音楽データベース「Sonata」はその代表的な例の一つで、特にクラシックファンには他では置き換えられない優れた再生環境を提供する。日本には最新のaria piccoloが近く導入される予定。DIGIBITのブースには最新のフラグシップ機aria 2も展示されていたが、こちらの国内発売はいまのところ未定だ。
Roonが提供する再生環境は先進的で音楽ファンの注目度も高いが、ネットワーク再生のコアとしてパソコンを使うため、評価が分かれる可能性がある。リスニングルームでパソコンを使うことに抵抗があり、ダウンロードも含めてPCレスでネットワークオーディオを楽しみたい音楽ファンは、ミュージックサーバーの動向を注目しておきたい。
ここで紹介した最新の動きはHigh Endの展示のごく一部にすぎないが、小さな変化が全体の流れを左右することもあるので過小評価はできない。特に、RoonやMQAのように利便性と音質の両面でメリットがある技術は浸透力と伝播力が非常に高く、まるで波動のように広がっていく。そして、その波及効果が既存の製品にも及んでいくことも十分に考えられる。
従来のUSB-DACは柔軟性や拡張性に不満があったが、ネットワーク接続機能を載せることで一気にその不満を解消しようとしているし、ネットワークプレーヤーは独自データベースやサーバー機能とリンクすることでさらなる進化を視野に入れた。いずれもネットワーク接続がカギを握ることが興味深い。
今年のHIGH ENDでは、会場のいたるところで「MQA」と「Roon Ready」の展示が目を引いた。前者は次世代のロスレスコーデック、後者はネットワークオーディオの新しいプラットフォームを提供するアプリケーション&サービスという違いはあるが、どちらもネットワークオーディオ関連の新しい技術で、使い勝手と音質に分けると主に使い勝手の向上をもたらすことに共通点がある。その2つの新技術に加えて、ミュージックサーバーがいくつか新たに登場したことが、今年のHIGH ENDのデジタルオーディオ分野の主要なトピックだ。
PCオーディオが脚光を浴び始めた頃から比較的最近まで、デジタルオーディオ機器は対応フォーマットの多様さやサンプリング周波数など、スペックを競う動きが目立ち、特にUSB-DACを中心にスペック志向が製品の動向をある程度左右していた。ドイツのオーディオファンにはやや保守的な志向があるためか、数値を競うようなデモンストレーションはそれほど多くないのだが、それでもハードウェアの多くはそこに軸を据えていた。
一方、メリディアン傘下の「Sooloos」をはじめとするミュージックサーバーも以前から注目を集めていて、その関心の強さは日本を上回っている。音質面のメリットに加えて、ライブラリを充実させ選曲などの使い勝手を追求することにも強い関心を抱いている音楽ファンが非常に多いのだ。そんな背景があるためか、昨年の会場では多くのメーカーがTIDALのサポートを表明し、ロスレスの高音質と定額サービスならではの自由度の高いライブラリ構築を訴えていた。スペック競争を抜け出し、ネットワークオーディオの進化が次の段階に入ったことがうかがえる。
今年はさらに踏み込んで、RoonReadyに代表されるネットワークオーディオの新提案が各社の展示を席巻し、これまでとは次元の異なる使い勝手を積極的にアピールした。RoonReadyをサポートするネットワークプレーヤーにはSFORZATO、T+A、AURALIC、exaSound、Ayreなど主要メーカーの多くが名を連ね、そのほかにも「MERGING」や「Mytek」がネットワーク接続機能を持つD/AコンバーターでRoonReadyの仲間入りを果たすことを発表するなど、想像を上回るペースで参入が加速している。
5月の段階では、パートナー企業に名を連ねていても製品が間に合っていないメーカーも少なくないのだが、それでも「RoonReady」のパネルを掲げた効果は思いのほか大きかったようだ。独自のデータベースを駆使したRoonの動作に慣れてしまうと、既存のストリーミングサービスが発展途上に見えてしまうかもしれない。充実した付加価値を提供しつつ、ハイレゾオーディオの音質メリットを確保していることがRoonの支持が広がる最大の理由である。
もう一つのトレンドとして注目を集めたMQAは、昨年に比べて具体的な展示やデモンストレーションが増えて、本格的な発進を強く印象付けた。今年はメリディアンに加えてパイオニア、オンキヨー、Brinkmann、Mytek、Weissなどが対応モデルを発表し、HIGH ENDの会場で複数のデモンストレーションを行った。
さらに、会期中にワーナーミュージックがMQAと提携したニュースが報じられ、ハードウェアと並んで音源の充実が進んでいることをタイミングよくアピールしたことも見逃せない。会場にはメリディアンのボブ・スチュワート氏も駆けつけて自らデモンストレーションを行い、新旧さまざまな音源でMQAの音質メリットを紹介した。具体的な社名やレーベル名は未公開だが、今後の対応ハードウェアと音源の充実についても言及していたので、今年後半はさらに多くの参入が期待できそうだ。
MQAはデータ量を抑えられる点に注目が集まりがちだが、デモンストレーションでは独自技術を用いた音質改善のメリットを積極的にアピールした。音質改善の最大のポイントは時間軸分解能の高さとリンギングの低減にあるとされ、PCM音源との比較ではアタックや音色に違いが現れるという。
さまざまな機器で実際に聴き比べてみると、録音年代が古いマスターをエンコードしたケースで特に効果が大きく、モノラル音源でも違いを聴き取ることができる。また、ハイレゾプレーヤーなど、身近な再生機器でも自然な音像定位など音質の違いを確認できる点にも注目したい。ハイレゾ音源のダウンロード時はもちろんだが、高音質ストリーミングサービスと組み合わせたときにも大きなアドバンテージを発揮することが期待できそうだ。
さらに重要な潮流として筆者が注目するミュージックサーバーの分野は、RoonReadyやMQAほどは目立たないものの、この数年間における着実な進化を見出すことができた。リッピング機能とストレージを内蔵するDIGIBITの「Ariaシリーズ」やテクニクスの「ST-G30」のほか、DELAやfidataのオーディオ専用NASもUSB接続機能を活用することでミュージックサーバーとして利用可能だ。構成や機能は製品ごとに異なるが、タブレットと操作アプリを組み合わせることで主要な操作をPCレスで行える点にミュージックサーバー共通のメリットがある。
ミュージックサーバーはストレージと再生機能を一体化することで、優れた使い勝手を実現できるポテンシャルを持っている。Ariaシリーズで利用できる独自の音楽データベース「Sonata」はその代表的な例の一つで、特にクラシックファンには他では置き換えられない優れた再生環境を提供する。日本には最新のaria piccoloが近く導入される予定。DIGIBITのブースには最新のフラグシップ機aria 2も展示されていたが、こちらの国内発売はいまのところ未定だ。
Roonが提供する再生環境は先進的で音楽ファンの注目度も高いが、ネットワーク再生のコアとしてパソコンを使うため、評価が分かれる可能性がある。リスニングルームでパソコンを使うことに抵抗があり、ダウンロードも含めてPCレスでネットワークオーディオを楽しみたい音楽ファンは、ミュージックサーバーの動向を注目しておきたい。
ここで紹介した最新の動きはHigh Endの展示のごく一部にすぎないが、小さな変化が全体の流れを左右することもあるので過小評価はできない。特に、RoonやMQAのように利便性と音質の両面でメリットがある技術は浸透力と伝播力が非常に高く、まるで波動のように広がっていく。そして、その波及効果が既存の製品にも及んでいくことも十分に考えられる。
従来のUSB-DACは柔軟性や拡張性に不満があったが、ネットワーク接続機能を載せることで一気にその不満を解消しようとしているし、ネットワークプレーヤーは独自データベースやサーバー機能とリンクすることでさらなる進化を視野に入れた。いずれもネットワーク接続がカギを握ることが興味深い。