公開日 2017/12/30 08:00
今こそ知っておきたい「DAC」の基礎知識(後編) ー オーディオメーカーによる“独自DAC”などを解説
ハイエンドオーディオにおけるオリジナルDACとは?
山之内正氏が「DAC」とは何か、その機能や構成する要素までわかりやすく解説(前編はこちら)。後編では、汎用のDACチップとオーディオメーカーが手がける独自DACのちがいなどを紹介していく。
>>山之内正のDAC解説講座(前編)
<DACのことが丸わかり Q&A一覧>
【前編】
Q1、そもそもDACの役割って何?
Q2、なぜDACで音が変わるの? オーディオにおいてDACが重要な理由
Q3、「DAC」というコンポーネントが増えた理由は?
Q4、デジタルフィルターの役割とは?
Q5、マルチビットDACと1ビットDACのちがいは?
【後編】
Q6、ΔΣ変調の役割とは?
Q7、オーディオメーカーが独自に手がける“オリジナルDAC”とは?
Q8、汎用DACチップとオリジナルDACのメリット/デメリットは?
Q9、オリジナルDACを搭載した製品が増えている理由はあるのでしょうか。
Q10、各社のオリジナルDACの特徴を教えてください。
【Q6】ΔΣ変調とは、どのような役割をしているのでしょうか。
ΔΣ変調(デルタシグマ変調)は1ビット型DACの根幹をなす重要な技術の一つです。まず、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換時、非常に高いサンプリング周波数で音声信号を逐次1と0の配列に置き換えることがΔΣ変調の基本的な原理で、振幅情報を時間軸方向で表現する点に大きな特長があります。サンプリング周波数はPCMよりもはるかに高く、メガヘルツの単位にまで及びます。
ΔΣ変調はA/D変換だけでなく、D/A変換の際にも重要な役割を演じます。入力されたPCM信号に対して、最初に8倍程度のオーバーサンプリング処理を行ってデータを補間したあと、ΔΣ変調回路を通過させて1ビットのデジタルストリームに変換し、最後にローパスフィルターを介してアナログの音声信号を取り出すのです。D/A変換の仕組みとしては余分なプロセスが増えるようにも見えますが、マルチビット型の回路でPCM信号をアナログに変換するよりもDACチップを作りやすいというメリットがあります。
この回路構成は現在の1ビット型DACの基本的な方式の一つですが、実際には複数次のΔΣ変調回路を組み合わせたり、高ビット領域をマルチビット方式、低ビット領域をΔΣ変調という具合に2つの方式を組み合わせたり、ΔΣ変調の量子化を1ビットではなくマルチレベルで行うなどの工夫を凝らすことによって、S/Nや歪率などの基本性能を改善する手法が現在では主流になっています。また、DSD信号を入力する場合はΔΣ変調回路をパスし、ダイレクトにアナログローパスフィルターに出力する例が既存のDACチップや、ディスクリート構成のDACの一部で実用化されています。余分な変換プロセスを省き、音質の劣化を抑えることが目的です。
ΔΣ変調という呼び方は1ビット信号を生成するフィードバック回路の動作原理に由来しています。Δは差分を意味し、直前のサンプリングデータとの差を表します。Σはそれを加算する積分回路を指し、最終的に差分の大小を量子化して1または0を出力するため、1ビットDACと呼びますが、マルチレベルΔΣ変調の場合はビット数に応じてその部分の値は数値のステップが増えます。
サンプリング周波数が非常に高いとはいえ、アナログ波形を微小なステップでデジタル化することに変わりはないため、ΔΣ変調でも大量の量子化ノイズが発生しますが、ノイズシェーピングと呼ばれる技術によって、可聴帯域を超える超高域にノイズを再配分し、音質への影響を取り除くことができます。
【Q7】ハイエンドオーディオ製品ではメーカーが独自にDACを開発する例もありますが、なぜなのでしょうか。
オーディオメーカーが開発したプレーヤーやD/Aコンバーターの大半は既存のDACチップを採用してオーディオ回路を設計していますが、高級オーディオを手がけるメーカーを中心に、DAC回路についても独自に設計する例もあります。
音響メーカーがDACを設計するとひとくちに言っても、実際にどこまで踏み込むかは設計コンセプトによっていろいろです。他社とは異なる独自のD/A変換アルゴリズムを用いて回路全体を設計するケースから、DAC回路を構成する一部のブロックをオリジナルで設計するなど、いくつかのパターンがあるようです。
また、同じような動作原理に基いて設計しても、それを実現する回路構成や部品を独自に選ぶことで、さらなる音質改善を狙う場合もあります。音質に寄与する部分を個別部品で組むディスクリート構成を積極的に選ぶメーカーも少なくありません。
既存のDACチップは数多くのパラメーターや機能を内蔵していますが、セットメーカー(オーディオブランド)のエンジニアがそれらをすべて使い切るとは限りません。製品によっては不要な回路などが含まれる場合もあります。独自設計ではそうした無駄を省くことができ、結果として音質改善につながる可能性があります。
一方、アルゴリズムやデジタルフィルターの構成に工夫を凝らすとはいっても、それを独自のDACチップとしてセットメーカーが作り込むことはほとんどありません。DSPやFPGAなど、半導体メーカーが作った既存のデバイスに独自のプログラムを書き込み、アップデートの余地を残しておくことが一般的です。さらに優れた技術が完成した時点で、ソフトウェアを更新して性能や機能を強化できるため、この方法はユーザーにも大きなメリットがあります。
DACを独自に開発するもう一つの重要な利点は、一貫した設計思想で製品の音質を追い込めることにあります。周辺回路などを独自に設計しても、肝心のDAC回路の内部にまで踏み込んで音質をチューニングすることはできないため、どこかで妥協せざるを得ないというのが現実です。その制約を気にせず、狙い通りの音質に追い込むためには、DACも独自に開発することが一番の早道と考えるメーカーが増えているのです。
>>山之内正のDAC解説講座(前編)
<DACのことが丸わかり Q&A一覧>
【前編】
Q1、そもそもDACの役割って何?
Q2、なぜDACで音が変わるの? オーディオにおいてDACが重要な理由
Q3、「DAC」というコンポーネントが増えた理由は?
Q4、デジタルフィルターの役割とは?
Q5、マルチビットDACと1ビットDACのちがいは?
【後編】
Q6、ΔΣ変調の役割とは?
Q7、オーディオメーカーが独自に手がける“オリジナルDAC”とは?
Q8、汎用DACチップとオリジナルDACのメリット/デメリットは?
Q9、オリジナルDACを搭載した製品が増えている理由はあるのでしょうか。
Q10、各社のオリジナルDACの特徴を教えてください。
【Q6】ΔΣ変調とは、どのような役割をしているのでしょうか。
ΔΣ変調(デルタシグマ変調)は1ビット型DACの根幹をなす重要な技術の一つです。まず、アナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換時、非常に高いサンプリング周波数で音声信号を逐次1と0の配列に置き換えることがΔΣ変調の基本的な原理で、振幅情報を時間軸方向で表現する点に大きな特長があります。サンプリング周波数はPCMよりもはるかに高く、メガヘルツの単位にまで及びます。
ΔΣ変調はA/D変換だけでなく、D/A変換の際にも重要な役割を演じます。入力されたPCM信号に対して、最初に8倍程度のオーバーサンプリング処理を行ってデータを補間したあと、ΔΣ変調回路を通過させて1ビットのデジタルストリームに変換し、最後にローパスフィルターを介してアナログの音声信号を取り出すのです。D/A変換の仕組みとしては余分なプロセスが増えるようにも見えますが、マルチビット型の回路でPCM信号をアナログに変換するよりもDACチップを作りやすいというメリットがあります。
この回路構成は現在の1ビット型DACの基本的な方式の一つですが、実際には複数次のΔΣ変調回路を組み合わせたり、高ビット領域をマルチビット方式、低ビット領域をΔΣ変調という具合に2つの方式を組み合わせたり、ΔΣ変調の量子化を1ビットではなくマルチレベルで行うなどの工夫を凝らすことによって、S/Nや歪率などの基本性能を改善する手法が現在では主流になっています。また、DSD信号を入力する場合はΔΣ変調回路をパスし、ダイレクトにアナログローパスフィルターに出力する例が既存のDACチップや、ディスクリート構成のDACの一部で実用化されています。余分な変換プロセスを省き、音質の劣化を抑えることが目的です。
ΔΣ変調という呼び方は1ビット信号を生成するフィードバック回路の動作原理に由来しています。Δは差分を意味し、直前のサンプリングデータとの差を表します。Σはそれを加算する積分回路を指し、最終的に差分の大小を量子化して1または0を出力するため、1ビットDACと呼びますが、マルチレベルΔΣ変調の場合はビット数に応じてその部分の値は数値のステップが増えます。
サンプリング周波数が非常に高いとはいえ、アナログ波形を微小なステップでデジタル化することに変わりはないため、ΔΣ変調でも大量の量子化ノイズが発生しますが、ノイズシェーピングと呼ばれる技術によって、可聴帯域を超える超高域にノイズを再配分し、音質への影響を取り除くことができます。
【Q7】ハイエンドオーディオ製品ではメーカーが独自にDACを開発する例もありますが、なぜなのでしょうか。
オーディオメーカーが開発したプレーヤーやD/Aコンバーターの大半は既存のDACチップを採用してオーディオ回路を設計していますが、高級オーディオを手がけるメーカーを中心に、DAC回路についても独自に設計する例もあります。
音響メーカーがDACを設計するとひとくちに言っても、実際にどこまで踏み込むかは設計コンセプトによっていろいろです。他社とは異なる独自のD/A変換アルゴリズムを用いて回路全体を設計するケースから、DAC回路を構成する一部のブロックをオリジナルで設計するなど、いくつかのパターンがあるようです。
また、同じような動作原理に基いて設計しても、それを実現する回路構成や部品を独自に選ぶことで、さらなる音質改善を狙う場合もあります。音質に寄与する部分を個別部品で組むディスクリート構成を積極的に選ぶメーカーも少なくありません。
既存のDACチップは数多くのパラメーターや機能を内蔵していますが、セットメーカー(オーディオブランド)のエンジニアがそれらをすべて使い切るとは限りません。製品によっては不要な回路などが含まれる場合もあります。独自設計ではそうした無駄を省くことができ、結果として音質改善につながる可能性があります。
一方、アルゴリズムやデジタルフィルターの構成に工夫を凝らすとはいっても、それを独自のDACチップとしてセットメーカーが作り込むことはほとんどありません。DSPやFPGAなど、半導体メーカーが作った既存のデバイスに独自のプログラムを書き込み、アップデートの余地を残しておくことが一般的です。さらに優れた技術が完成した時点で、ソフトウェアを更新して性能や機能を強化できるため、この方法はユーザーにも大きなメリットがあります。
DACを独自に開発するもう一つの重要な利点は、一貫した設計思想で製品の音質を追い込めることにあります。周辺回路などを独自に設計しても、肝心のDAC回路の内部にまで踏み込んで音質をチューニングすることはできないため、どこかで妥協せざるを得ないというのが現実です。その制約を気にせず、狙い通りの音質に追い込むためには、DACも独自に開発することが一番の早道と考えるメーカーが増えているのです。
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