公開日 2022/12/28 06:50
激震が続いた2022年の携帯電話業界。価格騒動に通信障害、明るい兆しも
【連載】佐野正弘のITインサイト 第38回
コロナ禍での行動制限緩和やロシアのウクライナ侵攻など、国内外で激動というべき出来事が相次いだ2022年。振り返ると今年は、携帯電話業界にとってもまた、これまでとは違ったかたちで激動が続いた1年だったといえるだろう。
その1つは「価格」を巡る騒動である。ここ数年来、政府主導で進められた携帯電話料金の引き下げは2021年でおおむね決着をみせたことから、携帯電話料金こそあまり大きな変化はなかったのだが、スマートフォンの価格には非常に大きな変化が出ており、そこに大きく影響したのが今年急速に進んだ円安である。
値上げの勢いを象徴したのが、7月にアップルがiPhoneなどの自社製品を突如大幅値上げしたことであり、iPhone人気の高い日本の消費者からは悲鳴が起きる事態となった。他にも多くのメーカーが円安で値上げ、あるいは新製品の価格を上げざるを得ない状況に追い込まれ、スマートフォン市場を冷え込ませる大きな要因となったことは確かだろう。
だが、その円安を逆手に取って勝負に出たのがGoogleで、2022年に販売した「Pixel 6a」や「Pixel 7」シリーズは、高い性能を備えながらも円安の中にあって、かなり安価な値段で販売がなされ話題となった。もちろんそれはスマートフォン専業ではなく、企業体力も非常に大きいGoogleだからこそできたことであり、もし2023年も円安傾向が続くようであれば、日本市場でのGoogleの存在感が一層高まることとなるかもしれない。
ただ実は、携帯電話料金に関して1つ、業界全体に大きな影響を与えた出来事が起きている。それは今年5月に、楽天モバイルが新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」を発表。通信量が1GB以下であれば、月額0円で利用できる仕組みを廃止したことだ。
楽天モバイルは、先行投資で大幅な赤字に苦しんでおり、それが楽天グループ全体の経営にまで影響を与えていることから、月額0円施策の終了が、赤字解消のため収益化を急ぐ動きであることは間違いない。だが、月額0円施策は非常に好調だっただけに、この発表がユーザーに与えた衝撃は非常に大きく、直後から楽天モバイルを解約、あるいは他社に乗り換える動きが加速したのだ。
その結果楽天モバイルは、2022年9月末までの間におよそ45万も契約数を減らすこととなってしまった。一方で、MVNOや携帯各社のサブブランドなど、楽天モバイルからの乗り換え先となったサービスは契約を大きく伸ばしており、月額0円施策の終了によって楽天モバイルが草刈り場となってしまった感は否めないだろう。
2つ目の激動は「通信障害」であり、それは言うまでもなく、7月に発生したKDDIの大規模通信障害である。この通信障害は、コアネットワークの内部に輻輳が発生したことで障害が長引き、およそ3日間にわたって音声通話を中心に通話や通信が利用できない状況が続いたのである。
その影響は、音声通話だけで約2,278万人に及んでおり、その間緊急通報さえできない人も発生したほか、IoT回線の一部にも影響し、一部銀行のATMが使えなくなるなどの騒ぎも起きた。モバイル通信が社会に広く浸透しただけに、通信障害が与える社会的影響の大きさもまた非常に大きなものになることを、改めて思い知らされた出来事だったといえよう。
ただ、規模の程度や内容に違いはあれど、ここ数年のうちにNTTドコモやソフトバンクも大規模な通信障害を起こしているし、9月には楽天モバイルもおよそ2時間半にわたる通信障害を発生させ、総務省に指導を受けるに至っている。ネットワークが高度化し、複雑さも増している現状、通信障害はどの企業にも起き得るものであることから、一連の出来事を機として、通信障害発生時の“備え”に関心が高まったことも注目すべき変化といえる。
実際、KDDIの通信障害などを受け、何らかの障害が発生したときに他社回線に乗り入れる「非常時ローミング」に関する議論が、総務省で進められるようになったほか、これまで国内ではあまり使われていなかったスマートフォンの「デュアルSIM」の仕組みが、バックアップ回線用として突如脚光を浴びるようになった。通信障害は2023年も起きる可能性があるだけに、今後さまざまなかたちで通信障害を回避しやすい環境が整うことを期待したいところだ。
一方、ネットワークに関してはポジティブな出来事も起きており、それは「衛星通信」の活用が急速に進んだことである。
アップルの新機種「iPhone 14」シリーズに、衛星通信を活用したSOSの発信機能が搭載されたことも話題となったが、国内で利用できるサービスとしては10月、米スペースXが「Starlink」を活用した衛星通信サービスを、突如日本で提供開始したことが最も大きな関心を呼んだ。
しかも、スペースXはKDDIと提携していることから、12月にはKDDIが早々に、Starlinkを離島などの携帯電話インフラに活用し始めたことにも驚きがあった。Starlinkのように、高速通信ができる衛星通信が身近なものとなれば、携帯電話のネットワークやエリアのあり方が劇的に変わってくるだけに、その活用は2023年以降も大きな関心を呼ぶことになりそうだ。
そして、改めて2022年を通して振り返ると、今年も「民」より「官」が注目を集めた1年だったと感じる。民間企業同士の競争よりも行政、ひいては総務省での議論の方が多くの関心を呼ぶ傾向は、ここ数年来続いているものだが、それは2022年も大きく変わらなかったようだ。
実際、今年に総務省で繰り広げられた議論を振り返ると、前回挙げた楽天モバイルの「プラチナバンド再割り当て」や、スマートフォンの対応周波数を巡る「バンド問題」、「周波数オークション」の導入やスマートフォンの大幅値引きを巡る「1円スマホ」問題、そして先に触れた「非常時ローミング」…など、非常に大きなテーマが目白押しだった。料金引き下げがなされてもなお、行政が市場に大きな影響力を発揮している様子を見て取ることができるのではないだろうか。
一方、本来ならば最も盛り上がって然るべきはずの、携帯電話会社同士による5Gのネットワーク整備競争は、料金引き下げの影響で携帯各社が業績悪化に苦しみ、投資抑制が続くなどして関心も高まらず、期待外れに終わったと言わざるを得ない。
“官高民低”というべき傾向は、残念ながら2023年も続くことになりそうだが、来年はその予想を裏切って民間企業同士の競争が加速する、明るい年になることを期待したいところだ。
その1つは「価格」を巡る騒動である。ここ数年来、政府主導で進められた携帯電話料金の引き下げは2021年でおおむね決着をみせたことから、携帯電話料金こそあまり大きな変化はなかったのだが、スマートフォンの価格には非常に大きな変化が出ており、そこに大きく影響したのが今年急速に進んだ円安である。
■今年話題を呼んだ「価格騒動」と「通信障害」
値上げの勢いを象徴したのが、7月にアップルがiPhoneなどの自社製品を突如大幅値上げしたことであり、iPhone人気の高い日本の消費者からは悲鳴が起きる事態となった。他にも多くのメーカーが円安で値上げ、あるいは新製品の価格を上げざるを得ない状況に追い込まれ、スマートフォン市場を冷え込ませる大きな要因となったことは確かだろう。
だが、その円安を逆手に取って勝負に出たのがGoogleで、2022年に販売した「Pixel 6a」や「Pixel 7」シリーズは、高い性能を備えながらも円安の中にあって、かなり安価な値段で販売がなされ話題となった。もちろんそれはスマートフォン専業ではなく、企業体力も非常に大きいGoogleだからこそできたことであり、もし2023年も円安傾向が続くようであれば、日本市場でのGoogleの存在感が一層高まることとなるかもしれない。
ただ実は、携帯電話料金に関して1つ、業界全体に大きな影響を与えた出来事が起きている。それは今年5月に、楽天モバイルが新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」を発表。通信量が1GB以下であれば、月額0円で利用できる仕組みを廃止したことだ。
楽天モバイルは、先行投資で大幅な赤字に苦しんでおり、それが楽天グループ全体の経営にまで影響を与えていることから、月額0円施策の終了が、赤字解消のため収益化を急ぐ動きであることは間違いない。だが、月額0円施策は非常に好調だっただけに、この発表がユーザーに与えた衝撃は非常に大きく、直後から楽天モバイルを解約、あるいは他社に乗り換える動きが加速したのだ。
その結果楽天モバイルは、2022年9月末までの間におよそ45万も契約数を減らすこととなってしまった。一方で、MVNOや携帯各社のサブブランドなど、楽天モバイルからの乗り換え先となったサービスは契約を大きく伸ばしており、月額0円施策の終了によって楽天モバイルが草刈り場となってしまった感は否めないだろう。
2つ目の激動は「通信障害」であり、それは言うまでもなく、7月に発生したKDDIの大規模通信障害である。この通信障害は、コアネットワークの内部に輻輳が発生したことで障害が長引き、およそ3日間にわたって音声通話を中心に通話や通信が利用できない状況が続いたのである。
その影響は、音声通話だけで約2,278万人に及んでおり、その間緊急通報さえできない人も発生したほか、IoT回線の一部にも影響し、一部銀行のATMが使えなくなるなどの騒ぎも起きた。モバイル通信が社会に広く浸透しただけに、通信障害が与える社会的影響の大きさもまた非常に大きなものになることを、改めて思い知らされた出来事だったといえよう。
ただ、規模の程度や内容に違いはあれど、ここ数年のうちにNTTドコモやソフトバンクも大規模な通信障害を起こしているし、9月には楽天モバイルもおよそ2時間半にわたる通信障害を発生させ、総務省に指導を受けるに至っている。ネットワークが高度化し、複雑さも増している現状、通信障害はどの企業にも起き得るものであることから、一連の出来事を機として、通信障害発生時の“備え”に関心が高まったことも注目すべき変化といえる。
実際、KDDIの通信障害などを受け、何らかの障害が発生したときに他社回線に乗り入れる「非常時ローミング」に関する議論が、総務省で進められるようになったほか、これまで国内ではあまり使われていなかったスマートフォンの「デュアルSIM」の仕組みが、バックアップ回線用として突如脚光を浴びるようになった。通信障害は2023年も起きる可能性があるだけに、今後さまざまなかたちで通信障害を回避しやすい環境が整うことを期待したいところだ。
■明るい兆しをみせた「衛星通信」の活用
一方、ネットワークに関してはポジティブな出来事も起きており、それは「衛星通信」の活用が急速に進んだことである。
アップルの新機種「iPhone 14」シリーズに、衛星通信を活用したSOSの発信機能が搭載されたことも話題となったが、国内で利用できるサービスとしては10月、米スペースXが「Starlink」を活用した衛星通信サービスを、突如日本で提供開始したことが最も大きな関心を呼んだ。
しかも、スペースXはKDDIと提携していることから、12月にはKDDIが早々に、Starlinkを離島などの携帯電話インフラに活用し始めたことにも驚きがあった。Starlinkのように、高速通信ができる衛星通信が身近なものとなれば、携帯電話のネットワークやエリアのあり方が劇的に変わってくるだけに、その活用は2023年以降も大きな関心を呼ぶことになりそうだ。
そして、改めて2022年を通して振り返ると、今年も「民」より「官」が注目を集めた1年だったと感じる。民間企業同士の競争よりも行政、ひいては総務省での議論の方が多くの関心を呼ぶ傾向は、ここ数年来続いているものだが、それは2022年も大きく変わらなかったようだ。
実際、今年に総務省で繰り広げられた議論を振り返ると、前回挙げた楽天モバイルの「プラチナバンド再割り当て」や、スマートフォンの対応周波数を巡る「バンド問題」、「周波数オークション」の導入やスマートフォンの大幅値引きを巡る「1円スマホ」問題、そして先に触れた「非常時ローミング」…など、非常に大きなテーマが目白押しだった。料金引き下げがなされてもなお、行政が市場に大きな影響力を発揮している様子を見て取ることができるのではないだろうか。
一方、本来ならば最も盛り上がって然るべきはずの、携帯電話会社同士による5Gのネットワーク整備競争は、料金引き下げの影響で携帯各社が業績悪化に苦しみ、投資抑制が続くなどして関心も高まらず、期待外れに終わったと言わざるを得ない。
“官高民低”というべき傾向は、残念ながら2023年も続くことになりそうだが、来年はその予想を裏切って民間企業同士の競争が加速する、明るい年になることを期待したいところだ。