公開日 2023/08/17 06:30
レコード再生のワンモア・ステップ(4):ゼロバランス、針圧、アンチスケーティングを学ぼう
基本のセットアップでレコードからさらにいい音を引き出そう
リンのLP12を自宅に導入 して、レコードの奥深い魅力と楽しさにますますはまっているクラシック音楽ファシリテーターの飯田有抄さん。ここではプレーヤーのセッティングで必ず抑えておきたい、「ゼロバランス」「針圧」「アンチスケーティング」の3項目について、飯田さんと一緒に学んでいこう。
今回は基本かつ重要な「針圧」と、その周辺の調整を学んでいこう。入門者にはこの最初のところが難関というか、自分できちんとできているかの判断がつきにくいもの。今回も井上千岳先生にアドバイスをいただき、比較試聴する実験も行ってみた。
意外と大切なのが、調整の手順とのこと! その順番は以下のとおり。
(1)オーバーハングの確認
(2)アンチスケーティングの解除
(3)針圧の調整
(4)アンチスケーティングの設定
それぞれ詳しく見ていこう。
トーンアーム先端をターンテーブルの中心まで持っていくと、センタースピンドルとカートリッジの針先とが、ピタリと重なるわけではない。針先は少し外側に出る格好になるが、その針とスピンドルとの距離のことを「オーバーハング」という。
オーバーハングは、アームごとに決められている。お使いのプレーヤーのアームの適正数値(12mmとか16mmといった数値)は、プレーヤーやアームの取り扱い説明書に記載があるはず。カートリッジ交換などをしているうち、その数値からズレているかもしれないので、一度確認しておくと良いかもしれない。
オーバーハングゲージという定規のようなシートもあるので、針先がターンテーブル中心から指定の目盛りの位置へくるように調整しよう。もしズレていたら、カートリッジのネジを一旦緩ませて、適正な位置にくるように取り付け直す。
針先の正しい位置が分かったら、次は針圧の調整になる。しかしその前に重要なのが、「アンチスケーティング」の機能を解除しておくことなのだ。
ここで、アンチスケーティングについて説明しておこう。回転するレコードに針を落とすと、針には内側に向かってぐんぐんと動かそうとする力が掛かる(「インサイドフォース」と呼ばれる)。物理法則による作用で、複雑な要因が関係しているので、そのからくりに深入りするのはやめておこう。ただし、この現象は必ず起こる。インサイドフォースが働くと、V字型に刻まれたレコード溝の、内周側の溝にばかり圧力が掛かることになるため、左右の音が均等に鳴らないことになる。
そこで、その力をオフセットするべく、外側に引っ張る力をかけてやる必要がある。それが「インサイドフォースキャンセラー」や「アンチスケーティング」と呼ばれる機能になる。アームの根元部分にその装置が付いているはず。磁石式、錘式、バネ式など、機構はアームによって異なるが、針圧と同じ数値にセットすると、引っ張られる力を相殺できる。
実はこのアンチスケーティングがセットされた状態だと、針圧を正しく調整することができないそうだ。よって、針圧調整の作業に入る前には、この機能をゼロにしたり、錘を一旦取り外しておく必要がある。
お使いのカートリッジに適した針圧は、カートリッジの説明書に「1.8g〜2.2g(標準2.0g)」などと記載されている。その範囲内の数値で、針先に圧力がかかるように設定しよう。
針圧を測れるデジタルの「針圧計」は、ぜひ持っておきたいアイテム。針先を針圧計に下ろし、規定の重さに収まるように、アームの反対側に付いている錘=「カウンターウエイト」をくるくると回して調整していこう。向かって左に回せば錘が手前に移動し、針圧は高く(重く)なる。右に回せば錘が奥に移動し、針圧は低く(軽く)なる(例外のアームもあり)。針圧計を見ながら慎重に調整すれば、特に難しい作業ではない。
針圧調整用の数字を印字したリングがアームのウエイトに付いている場合は、針圧計がなくても調整することもできる。その場合、まずはアームを真横から見て、どちらかに偏らず水平になるように、カウンターウエイトを動かしてバランスを取る。釣り合いが取れて水平になった状態を「ゼロバランス」と呼んだりする。
ゼロバランスが取れているかどうかは、基本的には自分の目で確認するしかない。ターンテーブルの上に定規を立てて水平を確認する方法などがあるものの、そこまで厳密さに拘らなくても大丈夫。ただ、どちらかといえば、カートリッジ側が上がってしまうのは良くないので(下がっている方がマシ)、そこは気をつけたい。
水平になったら一旦アームをホルダーに戻し、カウンターウエイトが動かないように手で押さえながら、数字が印字されたリングだけを回して、「0」の位置に合わせる。そして今度は、カウンターウエイトごと回し(リングも一緒に動く)、2.0gの針圧にしたい時は目盛りの数字が2.0に来るまで動かす。これで針圧の調整はOK!
前述のとおり、針圧と同じ数値となるようにアンチスケーティングをセットすれば準備完了! 実は、針が盤面のどこに位置するかなどによって、インサイドフォースの値は異なるそうで、これもまたあまり厳密に考えすぎる必要はない。レコードの外周から3分の1あたりの位置で均等にオフセットされるのが望ましいと言われている。
では正しくない針圧や、アンチスケーティングをせずに再生すると、レコードの音はどうなってしまうのだろう?
標準の針圧が2.0gのカートリッジを、あえて1.0gの針圧にして、『ブラームスのクラリネット五重奏曲』を聴いてみた。適正針圧での再生に比べると、まっ先に「失われた!」と感じたのは、ダイナミクスの変化。平坦で、魂の抜けたような音楽になってしまった。もっとスカスカの音になるのかと思ったものの、意外とそれなりに音は鳴ってしまうので、逆に、不適切な針圧に気づきにくい可能性も。
しかし、明らかに音楽の豊かな表情は失われてしまうので、気になる方はやはり一度、針圧チェックをしてみてほしい。逆に、適正範囲の最大値、2.2gに設定してみると、音がやや太くなり、一段味の濃い演奏に感じられた。適正範囲内でも繊細に表情は変わるので、好みの値を探るのも楽しそう。
次に、アンチスケーティングをなしにして聴いてみたところ、左側のスピーカーからの音圧が僅かに上がってしまった。内周側のLチャンネルの溝に負荷がかかったためと思われる。正しくない再生では、音楽のバランスが崩れるどころか、レコード盤や針を傷めることもあるので、やはり基本の調整はしっかりと行わなくては、と納得。
(編集部注)今回紹介の方法は、スタティックバランス式のアームを用いている。ダイナミックバランス式のアーム場合は、アームの針圧設定ノブを0にしてから、カウンターウエイトを動かしてゼロバランスを取り、取れたら針圧設定ノブを回して希望の針圧に設定する。
本記事は『季刊・アナログ vol.79』からの転載です。
ちゃんと聴くために必須大切な儀式の基礎とコツ
今回は基本かつ重要な「針圧」と、その周辺の調整を学んでいこう。入門者にはこの最初のところが難関というか、自分できちんとできているかの判断がつきにくいもの。今回も井上千岳先生にアドバイスをいただき、比較試聴する実験も行ってみた。
意外と大切なのが、調整の手順とのこと! その順番は以下のとおり。
(1)オーバーハングの確認
(2)アンチスケーティングの解除
(3)針圧の調整
(4)アンチスケーティングの設定
それぞれ詳しく見ていこう。
オーバーハングって何? どのように確認する?
トーンアーム先端をターンテーブルの中心まで持っていくと、センタースピンドルとカートリッジの針先とが、ピタリと重なるわけではない。針先は少し外側に出る格好になるが、その針とスピンドルとの距離のことを「オーバーハング」という。
オーバーハングは、アームごとに決められている。お使いのプレーヤーのアームの適正数値(12mmとか16mmといった数値)は、プレーヤーやアームの取り扱い説明書に記載があるはず。カートリッジ交換などをしているうち、その数値からズレているかもしれないので、一度確認しておくと良いかもしれない。
オーバーハングゲージという定規のようなシートもあるので、針先がターンテーブル中心から指定の目盛りの位置へくるように調整しよう。もしズレていたら、カートリッジのネジを一旦緩ませて、適正な位置にくるように取り付け直す。
アンチスケーティングは針圧設定の前に一旦解除
針先の正しい位置が分かったら、次は針圧の調整になる。しかしその前に重要なのが、「アンチスケーティング」の機能を解除しておくことなのだ。
ここで、アンチスケーティングについて説明しておこう。回転するレコードに針を落とすと、針には内側に向かってぐんぐんと動かそうとする力が掛かる(「インサイドフォース」と呼ばれる)。物理法則による作用で、複雑な要因が関係しているので、そのからくりに深入りするのはやめておこう。ただし、この現象は必ず起こる。インサイドフォースが働くと、V字型に刻まれたレコード溝の、内周側の溝にばかり圧力が掛かることになるため、左右の音が均等に鳴らないことになる。
そこで、その力をオフセットするべく、外側に引っ張る力をかけてやる必要がある。それが「インサイドフォースキャンセラー」や「アンチスケーティング」と呼ばれる機能になる。アームの根元部分にその装置が付いているはず。磁石式、錘式、バネ式など、機構はアームによって異なるが、針圧と同じ数値にセットすると、引っ張られる力を相殺できる。
実はこのアンチスケーティングがセットされた状態だと、針圧を正しく調整することができないそうだ。よって、針圧調整の作業に入る前には、この機能をゼロにしたり、錘を一旦取り外しておく必要がある。
針圧の調整を実践!(スタティックバランス)
お使いのカートリッジに適した針圧は、カートリッジの説明書に「1.8g〜2.2g(標準2.0g)」などと記載されている。その範囲内の数値で、針先に圧力がかかるように設定しよう。
針圧を測れるデジタルの「針圧計」は、ぜひ持っておきたいアイテム。針先を針圧計に下ろし、規定の重さに収まるように、アームの反対側に付いている錘=「カウンターウエイト」をくるくると回して調整していこう。向かって左に回せば錘が手前に移動し、針圧は高く(重く)なる。右に回せば錘が奥に移動し、針圧は低く(軽く)なる(例外のアームもあり)。針圧計を見ながら慎重に調整すれば、特に難しい作業ではない。
ゼロバランスって何?どうやって設定するの?
針圧調整用の数字を印字したリングがアームのウエイトに付いている場合は、針圧計がなくても調整することもできる。その場合、まずはアームを真横から見て、どちらかに偏らず水平になるように、カウンターウエイトを動かしてバランスを取る。釣り合いが取れて水平になった状態を「ゼロバランス」と呼んだりする。
ゼロバランスが取れているかどうかは、基本的には自分の目で確認するしかない。ターンテーブルの上に定規を立てて水平を確認する方法などがあるものの、そこまで厳密さに拘らなくても大丈夫。ただ、どちらかといえば、カートリッジ側が上がってしまうのは良くないので(下がっている方がマシ)、そこは気をつけたい。
水平になったら一旦アームをホルダーに戻し、カウンターウエイトが動かないように手で押さえながら、数字が印字されたリングだけを回して、「0」の位置に合わせる。そして今度は、カウンターウエイトごと回し(リングも一緒に動く)、2.0gの針圧にしたい時は目盛りの数字が2.0に来るまで動かす。これで針圧の調整はOK!
正しく針圧設定できたら次にアンチスケーティングを設定
前述のとおり、針圧と同じ数値となるようにアンチスケーティングをセットすれば準備完了! 実は、針が盤面のどこに位置するかなどによって、インサイドフォースの値は異なるそうで、これもまたあまり厳密に考えすぎる必要はない。レコードの外周から3分の1あたりの位置で均等にオフセットされるのが望ましいと言われている。
では正しくない針圧や、アンチスケーティングをせずに再生すると、レコードの音はどうなってしまうのだろう?
標準の針圧が2.0gのカートリッジを、あえて1.0gの針圧にして、『ブラームスのクラリネット五重奏曲』を聴いてみた。適正針圧での再生に比べると、まっ先に「失われた!」と感じたのは、ダイナミクスの変化。平坦で、魂の抜けたような音楽になってしまった。もっとスカスカの音になるのかと思ったものの、意外とそれなりに音は鳴ってしまうので、逆に、不適切な針圧に気づきにくい可能性も。
しかし、明らかに音楽の豊かな表情は失われてしまうので、気になる方はやはり一度、針圧チェックをしてみてほしい。逆に、適正範囲の最大値、2.2gに設定してみると、音がやや太くなり、一段味の濃い演奏に感じられた。適正範囲内でも繊細に表情は変わるので、好みの値を探るのも楽しそう。
次に、アンチスケーティングをなしにして聴いてみたところ、左側のスピーカーからの音圧が僅かに上がってしまった。内周側のLチャンネルの溝に負荷がかかったためと思われる。正しくない再生では、音楽のバランスが崩れるどころか、レコード盤や針を傷めることもあるので、やはり基本の調整はしっかりと行わなくては、と納得。
(編集部注)今回紹介の方法は、スタティックバランス式のアームを用いている。ダイナミックバランス式のアーム場合は、アームの針圧設定ノブを0にしてから、カウンターウエイトを動かしてゼロバランスを取り、取れたら針圧設定ノブを回して希望の針圧に設定する。
本記事は『季刊・アナログ vol.79』からの転載です。