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公開日 2021/06/04 06:40
アナロググランプリ2021 受賞インタビュー

AIR TIGHT、目指すのはノスタルジーではない。モダンなスピーカーを鳴らし切る真空管アンプ

PHILEWEBビジネス 徳田ゆかり
アナロググランプリ2021 Gold Award
受賞インタビュー:AIR TIGHT


「アナログ感覚が感じられ、オーディオファンに推薦するにふさわしいアナログ再生に欠かせない機器」を選出し、13年目を迎えたアワード「アナロググランプリ2021」。Gold Awardを受賞した、AIG TIGHTブランドを展開するエイ・アンド・エム株式会社にて、創業者三浦篤氏のご子息である社長の三浦裕氏が、ブランドのなりたちと、世界中のファンを魅了するものづくりについて語った。


エイ・アンド・エム株式会社 代表取締役社長 三浦裕氏

インタビュアー 徳田ゆかり(ファイルウェブビジネス担当)


■現代のスピーカーを鳴らせる、ハイパワーな真空管アンプATM-2211J

ーー アナロググランプリのゴールドアワード受賞、誠におめでとうございます。受賞モデルについてお聞かせいただけますか。

三浦 栄誉ある賞を頂戴しまして本当に有難うございます。ATM-2211Jは211という真空管を出力管に使っていて、これは15年ほど前の同じ211を使ったアンプATM-211から端を発しています。一方、5年ほど前に300B管を使い出力管プレートからネガティブフィードバックを取り出して戻す、新たなNFB回路を使ったステレオアンプATM-300Rを出しました。その出力をもう少し大きくできないかと、三極管の211の出力管にNFB回路を適用したものがATM-2211Jです。

300Bの真空管は出力が9Wで、鳴らせるスピーカーが限られます。211ですと、電圧をかけて32Wの出力が得られ、スピーカーの選択肢が広がります。ATM-2211Jは現代のモダンなスピーカーを堂々と鳴らせるのです。開発には3年ほどかかりましたが、1kVという高電圧をかける特殊な構成となるので、安全性にまつわる部分なども入念に仕上げた結果です。

ーー 御社はアナログへのこだわりを貫いていますが、それはなぜでしょうか。

三浦 創業者の三浦篤は国内のオーディオメーカーの出身で、アメリカ支社の社長も務めていました。そのメーカーでは真空管アンプを始めアナログ製品を展開していたのですが、会社が別の企業に買収され、真空管アンプでは生産効率が悪い、大量生産で売れるものを作っていくという方針になったといいます。

三浦自身はアメリカの社長時代に、マランツ氏やマッキントッシュ氏といったオーディオのジャイアントとの方々とお会いする機会があり、それまで経験してきたものづくりは間違っていないとの信念があったと思います。そこで、当時の重役の座をかえりみずその会社を辞め、同じ会社でアンプづくりをしたい希望がありつつも経理に携わっていた石黒正美さんと二人でエイ・アンド・エムを作ったのです。1986年のことです。

その時代では、真空管デバイスは生産効率が悪い、アンプもコンパクトには作れない、消費電力も高い、またいずれ真空管自体入手できなくなり廃れるだろうと言われていました。しかし三浦としては、真空管はいいデバイスであり、それを使ってまだできることがあると確信して、真空管アンプにこだわったものづくりを始めたのです。

今振り返ると信念を貫いたということになるでしょうけれど、当時としては会社の重役の立場から転身するのは無謀なことだったかと思います。そこにはいろいろな思いもあったでしょうし、何より直感的にソリッドステートの音には納得がいかなかったのだと思います。また三浦篤一人では難しかったと思いますが、つきあってくれた石黒さんの存在も大きいですね。

■こだわりが共感を呼び、世界中で支持されるブランドに

ーー 御社は製品をグローバルに展開されていますが、それは設立当初からでしょうか。

三浦 設立して2年ほどは海外まで手が回らず、もっぱら国内での営業を行っていましたが、1988年にイギリスのオーディオ誌にとりあげられたのが海外展開のきっかけになりました。ケン・ケスラーさんという有名な評論家が、「この時代に日本で真空管アンプのメーカーが立ち上がった」と高く評価してくださったのです。そこから一気に注目が集まり、イギリスやアメリカに輸出を始め、1995年頃からは香港経由で少しずつ中国本土への展開も始まりました。

現在では、直接の輸出が28カ国、代理店経由での輸出が32カ国です。国内と海外の比率は2:8といったところで 、特に昨今は海外が伸長しています。海外では地域によって、当社の製品の受け止められ方が違い、欧米ではエントリーからミッドレンジがメインで、スカンジナビアなどではコンパクトで外観も美しいものが受けています。東南アジアや中国はハイエンドの製品から売れていく傾向があり、サイズが大きく存在感がある製品が受けていますね。我々としてはエントリー、ミッドレンジ、ハイエンドとどのカテゴリーもこだわりをもって展開しているのですが、地域によってリアクションが違うのは興味深いですね。

たとえば、地域毎に特別仕様の展開をすれば売れるかもしれません。しかし我々としては、音楽ファンの方にいい音楽をお聞かせできる製品をご提供することが我々の存在意義と自負していますので、そういう方向は考えておりません。

当社は多品種少数生産で展開しており、製品のモデルチェンジはあまりしません。価格帯もハイエンドに偏ることなくまんべんなくやっております。製品づくりについても、地域に合わせてというより我々が作りたいものを作っていまして、そこをお客様に支持していただけていると思います。

ただ今回のATM-2211Jは、末尾に「J」を入れた日本限定モデルとして海外モデルと差別化しました。海外製品のモデル名はATM-2211になります。ガレージメーカーとしては全世界で同じものを展開する方が効率はいいですが、日本と海外とで異なる電源環境を考慮して、それぞれのリージョンにふさわしく仕様を分けたのです。これは新しい試みとしてこのモデルから始めたことですが、今後も製品によってはこのように展開していこうと思っております。

ATM-2211Jは発表前に、弊社のウェブサイトやSNSに写真を掲載したところ、そこで思いがけず世界中からプリオーダーをたくさんいただきました。発売開始のタイミングで生産が間に合わず、ご迷惑をおかけしてしまいました。コロナによる巣ごもり需要に大いに後押しされたということもあります。

ーー 御社のブランド力、ご活躍に対するお客様の期待の大きさが窺われますね。

三浦 大変ありがたいことです。それは、創業者が昔からファンの皆様との交流を積極的にやってきたからでもあるでしょうし、国内では当社の営業部隊が全国をまわって皆様との関わりを地道に作り続けてきたからでもあります。我々はこだわりをもって一生懸命オーディオ機器を作っていますが、特に構えることはなく、展示会などでもお客様と一緒に音楽を楽しむ姿勢でいます。また売れるものを作るというより、我々が出したいものをこだわって作っているところや、創業者が裸一貫から真空管のアナログアンプを作ってきたことを粋に感じていただいているのかもしれません。

AIR TIGHTは自らハイエンドブランドを語るというより、ファンの方々によってハイエンドの世界に持ち上げていただいたと感じますし、ファンの方々によってブランドを広げていただいていると実感しています。それはどの地域でも同様で、ディストリビューターさんがイベントをしますと、ファンの方々が手弁当で集まってくださり、AIR TIGHTの代弁者となって発信してくださっているのです。

ーー 今後はどのような展開をされますか。

三浦 多くの皆様には、真空管アンプというと出力が小さく、暖色系の音といったイメージをもっておられるかもしれません。しかし我々が目指しているのはノスタルジックな製品ではなく、現代に通じるアンプです。ぜひ固定概念を取り去って、モダンなスピーカーと組み合わせていただきたですね。

我々はすべての製品を手作りで日本生産しているわけですから、今後は会社を大きくするというより、むしろますますこだわりをもって、面白い製品を作っていきたいと思います。デザインも美しく操作性もよく、所有する喜びがあり、物としての価値があるもの。もちろん音や構造、部品にもこだわって、音楽を聞いて楽しいもの 、AIR TIGHTらしいと言われるものをこれからも作り続けていきたいですね。

今年後半には、エキサイティングな面白い製品を出そうと計画しています。またその先は毛色の変わった面白いものも色々と考えているところです。ものづくりの楽しみ、わくわくを温めて皆様にご披露したいと思います。

ーー 今後がますます楽しみですね。有難うございました。

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