公開日 2018/07/04 12:19
世界で注目される日本ブランド
ミュンヘンHIGH ENDでも注目の的、AIR TIGHTが開発中の新モデル2機種に迫る
オーディオ編集部:浅田陽介
さる5月中旬にドイツ・ミュンヘンで開催された世界最大級のハイエンドオーディオ見本市、『Munich HIGH END 2018』。今年は前年と比べて4%減と、わずかに来場者数が減少したそうだが、実際に会場で現場の空気を体験した者としては、依然として、他のオーディオショウと比べ大きな盛り上がりを見せていたと感じる。
そんな同ショウを改めて振り返って痛感するのは、世界各国から寄せられる日本ブランド製品への関心の高さである。なかでも本稿では、とりわけ高い人気を集めていた、大阪・高槻のエイ・アンド・エム(株)のブランド、AIR TIGHTに注目したい。
AIR TIGHTの個性であり魅力となっているのが、1986年に創業した企業でありながら、一貫して「アナログ」というキーワードと「真空管」にこだわり続けて製品開発を行ってきたことだ。1986年は、ほかのブランドが一斉に「デジタル」へ向かっていた時期だ。今年のHIGH ENDでもその個性を存分に発揮した製品を多数展示し、世界各国の来場者の注目を集めていた。
ブースで展開されていた製品の詳細は後述するとして、このAIR TIGHTの世界的評価の軸になっているのが、大阪・高槻市の自社工場でていねいに組み上げられる同社製品のクオリティとそのサウンドだ。その内部配線の美しさは、世界に数多ある真空管アンプのなかで最高峰とも言われており、内部回路の色使いによる一種の「色気」も設計ポリシーのひとつだそうだ。
ブースでは、日本でも大きな注目を集めたプリアンプ「ATC-5」とパワーアンプ「ATM-3211」のペアによるアナログ再生を展開。スピーカーには、地元ドイツのブランドであるWolf Von Langaが組み合わされていたが、特徴的な構成を持つこのスピーカーを丹精に鳴らし、そのポテンシャルの高さをアピールしていた。
そんな正統派のサウンドに加え、ここに来てAIR TIGHTはユニークな製品アプローチも注目を集めている。今回、特に注目したのが次の2モデルだ。ハイエンドでの取材に加え、大阪・高槻市にあるエイ・アンド・エム本社にて、さらなる最新情報を聞いた。
■フォノイコライザーアンプ「ATE-3011」
AIR TIGHTのブースの中でも、最もユニークなアイデアを盛り込んだ製品として注目を集めたのが、フォノイコライザー「ATE-3011」だ。AIR TIGHTといえば、基本的にMCカートリッジはトランスで受けることを前提としているため、そもそも入力はMMしか対応しないという点はこれまでと共通だが、可変としたイコライザーカーブの採用などこれまでのAIR TIGHTにはなかった機能が盛り込まれている。
フロントパネルには視認性の高いインジケーターを装備しており、向かって左がターンオーバーで、右がロールオフ。それぞれ、NAB、RIAA、AES、FFRR、FlATの5項目を用意しており、配列はカーブのイメージが付きやすいように数値順に配列。基本は5つのカーブへの対応だが、これらを組み合わせることでさまざまなカーブを作りだすことができる点もユニークだ。 イコライジングを行わないFLATの装備は、SP盤の再生を想定したもの。蓄音器等でSPを聴く場合は針圧におよそ100gをかけるケースもあり、盤面に対するダメージが多いと言われてる。「レコードは今後に残すべき貴重な文化遺産」というのがAIR TIGHTの考え方で、その意味でも軽針圧でSPを再生することは重要と話す。
そしてもうひとつ、他にはない機能として注目したいのが、モノラル出力をする際のその方法だ。ATE-3011は全部で2系統の出力を持つが、その他にひとつ「MONO OUT」という端子が装備されている。これは、左ch側の信号をパラレルで出力する使用となっており、モノラルのレコードを再生する場合などに出力を左chとMONO OUTというように接続して使用するものだ。※接続方法は写真を参照
こうした特徴的な機能を盛り込んだ理由についてAIR TIGHTは「音楽、それもレコードが好きなユーザーであれば、全てのレコードをきちんと再生したいというのは自然なことです。特にイコライザーカーブに関してはさまざまな説があり、正解がどこにあるのか、というのは公に言えることではありません。ただし、ユーザーの方が最も納得の行く形でレコードのまた違った魅力を体験いただければ、という私どもの思いから今回採用へと踏み切っております」と話す。
実はこのATE-3011は、昨年のMunich HIGH ENDでも先日発売となったプリアンプのATC-5と共に発表されていた(当時はまだ型番としてはそれぞれATE-X、ATC-1Xと発表されていた)。当初、予定としてはATE-3011を先にリリースする予定だったが、ATC-5のフォノイコライザーを最終的に決定する際、ATE-3011に搭載予定だった中身を一部搭載したそうだ。その結果ATC-5は大きな好評を持って市場に迎えられたが、AIR TIGHTの技術陣は「単体機である以上、ATC-5を凌駕するサウンドにしなければならない」とこのATE-3011の開発を進めてきたという。
結果としてその発売時期は2018年年末頃と大きくずれ込む形となったが、そのクオリティは確かなものとなったと自信を覗かせる。例えば内部を見てみると、より脚色のない音を実現するために電解コンデンサーレスとするべくEPCOSの大型のPPフィルムコンデンサーを新たに採用したことや、内部配線やシールド、ビスひとつにいたるまでを徹底的に吟味を重ねていることが見て取れる。最終的に出てくるサウンドは歴代AIR TIGHTのなかでも最高峰を目指し、鋭意開発が進められているそうだ。
随所にユニークなアイデアと、AIR TIGHTの確かな技術を盛り込んだATE-3011は、その発売が近づくにつれ、世界各国のメディアでの注目も高まっている。
■パワーアンプ「ATM-300R」
HIGH ENDには間に合わなかったものの、その際にもうひとつの新製品としてアナウンスされていたのが、出力管に300Bを採用したパワーアンプ「ATM-300R」だ。
本機はAIR TIGHTの創立30周年を記念して発売された「ATM-300 Anniversary」(2016年)の好評を受け、レギュラーモデルとしてさらにブラッシュアップされたパワーアンプだ。トランスの一次側からの帰還構成を採用する点など基本設計は踏襲しているが、内部の進化は大きい。例えば、本機のコアパーツとなるトランスとチョークコイルには、新たに日本国内でハンドメイドされるものへと変更。そのハンドメイドの工程も非常に丁寧に行われているとのことで、「このトランスとチョークコイルが手に入ったこと自体が貴重」だという。
ATM-300 Anniversaryと今回のATM- 300Rの内部写真を見比べるとすぐに分かるが、まず目につくのがコンデンサー類の大幅な変更だ。向かって左に採用された電解コンデンサーには、SpragueのATOMというアルミニウム電解コンデンサー6個を整然と配置。こうしたコンデンサーの変更は、よりパーツそのものの脚色のないサウンドの実現にひと役買っているようだ。
また、スピーカー出力も従来は8Ωのみの出力となっていたが、ATM-300Rではあらたに4Ωの出力にも対応。組み合わせるスピーカーへの自由度をもたせている。
さらに注目は、組み合わせる300Bにバリエーションを持たせる方向で開発が進められていること。300Bそのものは真空管アンプファンのなかでもとりわけ人気が高く「銘球」とさえ称される。ATM-300 Anniversaryでは、TAKATSUKI製を採用していたが、今回はPSVANE、SOVTEK、ELECTRO HARMINX、Western Electricなどさまざまなブランドから発売される300Bを自由に組み合わせることができるようなラインアップも現在検討されているそうだ。
ATM-3011 Anniversaryも、日本はもとよりアメリカを始めざまざまな国で評価を受けていた。今回のATM-300Rも例外なく「前作を超えるクオリティ」が追求されている点は見逃せない。
AIR TIGHTの製品はひとつひとつが非常に長い間ラインアップされ続けることも大きな特徴だが、そこには開発の過程で徹底した吟味と選別を行い、妥協を排して製品を作り続けてきたというポリシーも大きく関係するだろう。今回発表されたATE-3011、ATM-300Rはいずれも、そんなAIR TIGHTらしさが存分に盛り込まれた製品となっている。
そんな同ショウを改めて振り返って痛感するのは、世界各国から寄せられる日本ブランド製品への関心の高さである。なかでも本稿では、とりわけ高い人気を集めていた、大阪・高槻のエイ・アンド・エム(株)のブランド、AIR TIGHTに注目したい。
AIR TIGHTの個性であり魅力となっているのが、1986年に創業した企業でありながら、一貫して「アナログ」というキーワードと「真空管」にこだわり続けて製品開発を行ってきたことだ。1986年は、ほかのブランドが一斉に「デジタル」へ向かっていた時期だ。今年のHIGH ENDでもその個性を存分に発揮した製品を多数展示し、世界各国の来場者の注目を集めていた。
ブースで展開されていた製品の詳細は後述するとして、このAIR TIGHTの世界的評価の軸になっているのが、大阪・高槻市の自社工場でていねいに組み上げられる同社製品のクオリティとそのサウンドだ。その内部配線の美しさは、世界に数多ある真空管アンプのなかで最高峰とも言われており、内部回路の色使いによる一種の「色気」も設計ポリシーのひとつだそうだ。
ブースでは、日本でも大きな注目を集めたプリアンプ「ATC-5」とパワーアンプ「ATM-3211」のペアによるアナログ再生を展開。スピーカーには、地元ドイツのブランドであるWolf Von Langaが組み合わされていたが、特徴的な構成を持つこのスピーカーを丹精に鳴らし、そのポテンシャルの高さをアピールしていた。
そんな正統派のサウンドに加え、ここに来てAIR TIGHTはユニークな製品アプローチも注目を集めている。今回、特に注目したのが次の2モデルだ。ハイエンドでの取材に加え、大阪・高槻市にあるエイ・アンド・エム本社にて、さらなる最新情報を聞いた。
■フォノイコライザーアンプ「ATE-3011」
AIR TIGHTのブースの中でも、最もユニークなアイデアを盛り込んだ製品として注目を集めたのが、フォノイコライザー「ATE-3011」だ。AIR TIGHTといえば、基本的にMCカートリッジはトランスで受けることを前提としているため、そもそも入力はMMしか対応しないという点はこれまでと共通だが、可変としたイコライザーカーブの採用などこれまでのAIR TIGHTにはなかった機能が盛り込まれている。
フロントパネルには視認性の高いインジケーターを装備しており、向かって左がターンオーバーで、右がロールオフ。それぞれ、NAB、RIAA、AES、FFRR、FlATの5項目を用意しており、配列はカーブのイメージが付きやすいように数値順に配列。基本は5つのカーブへの対応だが、これらを組み合わせることでさまざまなカーブを作りだすことができる点もユニークだ。 イコライジングを行わないFLATの装備は、SP盤の再生を想定したもの。蓄音器等でSPを聴く場合は針圧におよそ100gをかけるケースもあり、盤面に対するダメージが多いと言われてる。「レコードは今後に残すべき貴重な文化遺産」というのがAIR TIGHTの考え方で、その意味でも軽針圧でSPを再生することは重要と話す。
そしてもうひとつ、他にはない機能として注目したいのが、モノラル出力をする際のその方法だ。ATE-3011は全部で2系統の出力を持つが、その他にひとつ「MONO OUT」という端子が装備されている。これは、左ch側の信号をパラレルで出力する使用となっており、モノラルのレコードを再生する場合などに出力を左chとMONO OUTというように接続して使用するものだ。※接続方法は写真を参照
こうした特徴的な機能を盛り込んだ理由についてAIR TIGHTは「音楽、それもレコードが好きなユーザーであれば、全てのレコードをきちんと再生したいというのは自然なことです。特にイコライザーカーブに関してはさまざまな説があり、正解がどこにあるのか、というのは公に言えることではありません。ただし、ユーザーの方が最も納得の行く形でレコードのまた違った魅力を体験いただければ、という私どもの思いから今回採用へと踏み切っております」と話す。
実はこのATE-3011は、昨年のMunich HIGH ENDでも先日発売となったプリアンプのATC-5と共に発表されていた(当時はまだ型番としてはそれぞれATE-X、ATC-1Xと発表されていた)。当初、予定としてはATE-3011を先にリリースする予定だったが、ATC-5のフォノイコライザーを最終的に決定する際、ATE-3011に搭載予定だった中身を一部搭載したそうだ。その結果ATC-5は大きな好評を持って市場に迎えられたが、AIR TIGHTの技術陣は「単体機である以上、ATC-5を凌駕するサウンドにしなければならない」とこのATE-3011の開発を進めてきたという。
結果としてその発売時期は2018年年末頃と大きくずれ込む形となったが、そのクオリティは確かなものとなったと自信を覗かせる。例えば内部を見てみると、より脚色のない音を実現するために電解コンデンサーレスとするべくEPCOSの大型のPPフィルムコンデンサーを新たに採用したことや、内部配線やシールド、ビスひとつにいたるまでを徹底的に吟味を重ねていることが見て取れる。最終的に出てくるサウンドは歴代AIR TIGHTのなかでも最高峰を目指し、鋭意開発が進められているそうだ。
随所にユニークなアイデアと、AIR TIGHTの確かな技術を盛り込んだATE-3011は、その発売が近づくにつれ、世界各国のメディアでの注目も高まっている。
■パワーアンプ「ATM-300R」
HIGH ENDには間に合わなかったものの、その際にもうひとつの新製品としてアナウンスされていたのが、出力管に300Bを採用したパワーアンプ「ATM-300R」だ。
本機はAIR TIGHTの創立30周年を記念して発売された「ATM-300 Anniversary」(2016年)の好評を受け、レギュラーモデルとしてさらにブラッシュアップされたパワーアンプだ。トランスの一次側からの帰還構成を採用する点など基本設計は踏襲しているが、内部の進化は大きい。例えば、本機のコアパーツとなるトランスとチョークコイルには、新たに日本国内でハンドメイドされるものへと変更。そのハンドメイドの工程も非常に丁寧に行われているとのことで、「このトランスとチョークコイルが手に入ったこと自体が貴重」だという。
ATM-300 Anniversaryと今回のATM- 300Rの内部写真を見比べるとすぐに分かるが、まず目につくのがコンデンサー類の大幅な変更だ。向かって左に採用された電解コンデンサーには、SpragueのATOMというアルミニウム電解コンデンサー6個を整然と配置。こうしたコンデンサーの変更は、よりパーツそのものの脚色のないサウンドの実現にひと役買っているようだ。
また、スピーカー出力も従来は8Ωのみの出力となっていたが、ATM-300Rではあらたに4Ωの出力にも対応。組み合わせるスピーカーへの自由度をもたせている。
さらに注目は、組み合わせる300Bにバリエーションを持たせる方向で開発が進められていること。300Bそのものは真空管アンプファンのなかでもとりわけ人気が高く「銘球」とさえ称される。ATM-300 Anniversaryでは、TAKATSUKI製を採用していたが、今回はPSVANE、SOVTEK、ELECTRO HARMINX、Western Electricなどさまざまなブランドから発売される300Bを自由に組み合わせることができるようなラインアップも現在検討されているそうだ。
ATM-3011 Anniversaryも、日本はもとよりアメリカを始めざまざまな国で評価を受けていた。今回のATM-300Rも例外なく「前作を超えるクオリティ」が追求されている点は見逃せない。
AIR TIGHTの製品はひとつひとつが非常に長い間ラインアップされ続けることも大きな特徴だが、そこには開発の過程で徹底した吟味と選別を行い、妥協を排して製品を作り続けてきたというポリシーも大きく関係するだろう。今回発表されたATE-3011、ATM-300Rはいずれも、そんなAIR TIGHTらしさが存分に盛り込まれた製品となっている。
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