公開日 2024/11/21 06:40
オーディオ銘機賞/アナロググランプリ審査委員長が語る
音元出版の新試聴室に「802 D4」が導入されたワケ。B&Wの音は “信頼に値する重要な指標”
山之内 正/角田郁雄
今年4月に小社・音元出版はオフィスを移転し、新たに2つの試聴室を誂えました。PHILE WEBはもちろんのこと、『季刊・オーディオアクセサリー』や『季刊・アナログ』、『ホームシアターファイルプラス』等のオーディオ/ビジュアルの専門メディアを運営する私たちにとって、試聴室とはただ「音楽を楽しむための部屋」ではなく、さまざまな新製品の実力を厳しく検証し、その音質傾向を探るための研究室であり、実験室でもあります。
その試聴室には、イギリスのスピーカーブランドBowers & Wilkins(以下B&W)のスピーカーが導入されました。ステレオ再生を中心とする “WHITE” ルームには、旗艦モデル “800 D4シリーズ” のフロアスタンディング型「802 D4」を設置。マルチチャンネル再生やオーディオビジュアルを中心とする “BLACK” ルームには、“700 S3 Signatureシリーズ” でセンタースピーカーを含む5chシステムを構成しています。
B&Wのスピーカーが、専門メディアの試聴室の「リファレンス」としてふさわしい理由とは何でしょうか。まずは、WHITEルームを使用することが多い2人のオーディオ評論家、「オーディオ銘機賞」審査委員長の山之内 正氏と、「アナロググランプリ」の審査委員長である角田郁雄氏に、それぞれ「802 D4」の魅力について語っていただきました。
オフィス移転のタイミングに合わせて試聴室を一新してから約半年、音元出版の新試聴室の音は完成直後に比べてかなり落ち着いてきた。新しい試聴環境は以前よりも製品ごとの音の違いを確認しやすくなったのだが、そこには2つの要因がある。
音質評価の精度を上げるためには試聴環境の吟味が不可欠で、まずは残響のコントロールや定在波対策などを徹底して部屋の音響特性を追い込むことが必要だ。新試聴室は低域の定在波が以前より少なくなり、音場の見通しが向上。サウンドステージの立体感や余韻の広がりなど、空間情報の再現力を評価しやすくなった。
2つ目の要因は新試聴室の完成と同時期にリファレンスのスピーカーをB&Wの「802 D4」に変更したことだ。旧試聴室では「803 D4」を使っていたので、同じシリーズのなかでひと回り大きなスピーカーに入れ替えたことになる。部屋のエアボリューム(容積)を考えると803 D4が適切なサイズに思えるが、部屋の音響設計で定在波を管理した効果もあるのか、802 D4でも低音のエネルギーを持て余すようなことはなく、ベースの音域が不自然にふくらむこともない。
800シリーズのスピーカーは大型のモデルほど低域側のレンジの拡大とともに低音楽器の音色を描き分ける性能が上がる。特に「801 D4」は、空気の揺らぎにしか感じられないような超低音まで音程と音色を忠実に再現する能力があり、適切な環境で鳴らすと、別格ともいうべき臨場感を引き出すことができる。802 D4の低音再生能力は801 D4と同等ではないが、オーケストラの低音楽器に絞れば、上位機種に肉薄する水準の高精度な低音再生能力があり、ティンパニやグランカッサの発音の違いや倍音構成の特徴を正確に描き分けることができる。
従来に比べて瞬発力の表現にゆとりが生まれ、アンプの駆動力を評価しやすくなったことも実感している。大きめの音圧でオーケストラやピアノを再生しても音が飽和しにくく、立ち上がりのエネルギーの大きさと音が消える時の制動力どちらも正確に把握できるのだ。コントラバスやティンパニだけでなく、ピアノの左手の音域も透明度が高く、演奏の表情や音色の変化を聴き取りやすいことも特筆すべきだろう。アンプやプレーヤーの音質評価はもちろんだが、スピーカーの性能を検証する際にも802 D4の音は信頼に値する重要な指標になる。
現在、世界には多くのスピーカー・ブランドがあります。
伝統のスピーカーユニットを徐々に進化させ、独自の音創りをしたり、天然木キャビネットの響きを大切にし、スピーカーユニットとともに音作りをするなど、ブランドならではの音質を追求しています。一方で、できる限り、音のカラーレーションを取り除き、録音した音源の情報を正確に再生するスタジオモニターを開発するブランドもあります。
その一つがB&Wです。中でも扱いやすく、高品位なスタジオモニターと言えば、B&W「802 D4」が挙げられます。トゥイーター、ミッドレンジ、ウーファーのエンクロージャを独立させ、互いの振動まで排除し、再生帯域における音の干渉、混濁をなくしています。自然な音の立ち上がりを実現するために、アタックを強調しないユニットの取り付け方法まで考え出しています。
ユニットに関しては、振動板背後の音圧を低減しないと、振動板のフリーな動作は実現しないことを体験し、トゥイーターのソリッドボディやミッドレンジのタービンヘッドまで開発し、ウーファー背後の音圧とエンクロージャの振動を徹底低減させるエンクロージャー形状としています。
真上から見ると美しいアイ・ドロップ形状(涙形状)です。音の自然な繋がりを実現するために振動板も選び抜いています。その結果として、空間にリアルな奏者を描写させ、空間の広さまで再現でき、D4シリーズでは、今まで、聴こえてはいましたが、気にならなかったほんのわずかな微細音や空気感までクローズアップし、再生するようになりました。
私は自宅では、B&Wの「802 D3」を使用し、新譜SACD検証盤の確認もしています。こちらも頼もしい存在です。このような特性をさらに洗練させた最新世代機、802 D4が音元出版のリスニングルームに常設されました。モニタースピーカーとしてのカラーレーションはさらに少なくなり、コンポーネントの特性や音の違いも、よく再生します。まさに試聴室のリファレンスにふさわしいスピーカーです。
■「801 D4 Signature」では奏者の生命も感じさせる
今年の5月には現在のフラグシップモデル「801 D4 Signature」のミッドナイト・ブルー・フィニッシュモデルを新試聴室に持ち込み、試聴を行いました。
唯一無二の美しいラウンド・フォルム。とりわけミッドナイト・ブルー・フィニッシュは、光の当たり具合で絶妙な色のグラディエーションが見えてきて、私は好きです。
Signatureのテクノロジーは、細部にわたり、絶妙とも言える進化を遂げています。新しい試聴室で私のリファレンスである2Lの『Quiet Winter Night』を改めて聴くと、過去に体験しなかった、色々なことに遭遇します。例えば、演奏前の教会の空気感、「さあ、歌唱するよ」とヴォーカリストがちょっとブレスするところ。さらにヴォーカルマイクを使わず、サラウンド・マイクで録音しているから、体の向きを変えて歌う様子もリアル。これを囲む、ドラムス、トランペット、ベース、ピアノのヴィヴィッドなサウンド。これらは、過去に体験した以上のもの。再生装置、そしてリスニングルームが優れているほど、奏者が演奏している様子をリアルに再生してくれます。
ちょっと変わった表現かもしれませんが、再生する音源の奏者がまさに生きている。特にステレオ録音初期の名盤を聴いた時に感じることも多いです。
801 D4 Signatureは、ひとえに情報量が多い、解像度が高い、スタジオクオリティというだけで片付けられない特別な存在です。音元出版の試聴室で聴くと、改めてその思いを強くします。
(提供:ディーアンドエムホールディングス)
その試聴室には、イギリスのスピーカーブランドBowers & Wilkins(以下B&W)のスピーカーが導入されました。ステレオ再生を中心とする “WHITE” ルームには、旗艦モデル “800 D4シリーズ” のフロアスタンディング型「802 D4」を設置。マルチチャンネル再生やオーディオビジュアルを中心とする “BLACK” ルームには、“700 S3 Signatureシリーズ” でセンタースピーカーを含む5chシステムを構成しています。
B&Wのスピーカーが、専門メディアの試聴室の「リファレンス」としてふさわしい理由とは何でしょうか。まずは、WHITEルームを使用することが多い2人のオーディオ評論家、「オーディオ銘機賞」審査委員長の山之内 正氏と、「アナロググランプリ」の審査委員長である角田郁雄氏に、それぞれ「802 D4」の魅力について語っていただきました。
B&Wの音は信頼に値する重要な指標(山之内)
オフィス移転のタイミングに合わせて試聴室を一新してから約半年、音元出版の新試聴室の音は完成直後に比べてかなり落ち着いてきた。新しい試聴環境は以前よりも製品ごとの音の違いを確認しやすくなったのだが、そこには2つの要因がある。
音質評価の精度を上げるためには試聴環境の吟味が不可欠で、まずは残響のコントロールや定在波対策などを徹底して部屋の音響特性を追い込むことが必要だ。新試聴室は低域の定在波が以前より少なくなり、音場の見通しが向上。サウンドステージの立体感や余韻の広がりなど、空間情報の再現力を評価しやすくなった。
2つ目の要因は新試聴室の完成と同時期にリファレンスのスピーカーをB&Wの「802 D4」に変更したことだ。旧試聴室では「803 D4」を使っていたので、同じシリーズのなかでひと回り大きなスピーカーに入れ替えたことになる。部屋のエアボリューム(容積)を考えると803 D4が適切なサイズに思えるが、部屋の音響設計で定在波を管理した効果もあるのか、802 D4でも低音のエネルギーを持て余すようなことはなく、ベースの音域が不自然にふくらむこともない。
800シリーズのスピーカーは大型のモデルほど低域側のレンジの拡大とともに低音楽器の音色を描き分ける性能が上がる。特に「801 D4」は、空気の揺らぎにしか感じられないような超低音まで音程と音色を忠実に再現する能力があり、適切な環境で鳴らすと、別格ともいうべき臨場感を引き出すことができる。802 D4の低音再生能力は801 D4と同等ではないが、オーケストラの低音楽器に絞れば、上位機種に肉薄する水準の高精度な低音再生能力があり、ティンパニやグランカッサの発音の違いや倍音構成の特徴を正確に描き分けることができる。
従来に比べて瞬発力の表現にゆとりが生まれ、アンプの駆動力を評価しやすくなったことも実感している。大きめの音圧でオーケストラやピアノを再生しても音が飽和しにくく、立ち上がりのエネルギーの大きさと音が消える時の制動力どちらも正確に把握できるのだ。コントラバスやティンパニだけでなく、ピアノの左手の音域も透明度が高く、演奏の表情や音色の変化を聴き取りやすいことも特筆すべきだろう。アンプやプレーヤーの音質評価はもちろんだが、スピーカーの性能を検証する際にも802 D4の音は信頼に値する重要な指標になる。
録音した音源の情報を正確に再生する(角田)
現在、世界には多くのスピーカー・ブランドがあります。
伝統のスピーカーユニットを徐々に進化させ、独自の音創りをしたり、天然木キャビネットの響きを大切にし、スピーカーユニットとともに音作りをするなど、ブランドならではの音質を追求しています。一方で、できる限り、音のカラーレーションを取り除き、録音した音源の情報を正確に再生するスタジオモニターを開発するブランドもあります。
その一つがB&Wです。中でも扱いやすく、高品位なスタジオモニターと言えば、B&W「802 D4」が挙げられます。トゥイーター、ミッドレンジ、ウーファーのエンクロージャを独立させ、互いの振動まで排除し、再生帯域における音の干渉、混濁をなくしています。自然な音の立ち上がりを実現するために、アタックを強調しないユニットの取り付け方法まで考え出しています。
ユニットに関しては、振動板背後の音圧を低減しないと、振動板のフリーな動作は実現しないことを体験し、トゥイーターのソリッドボディやミッドレンジのタービンヘッドまで開発し、ウーファー背後の音圧とエンクロージャの振動を徹底低減させるエンクロージャー形状としています。
真上から見ると美しいアイ・ドロップ形状(涙形状)です。音の自然な繋がりを実現するために振動板も選び抜いています。その結果として、空間にリアルな奏者を描写させ、空間の広さまで再現でき、D4シリーズでは、今まで、聴こえてはいましたが、気にならなかったほんのわずかな微細音や空気感までクローズアップし、再生するようになりました。
私は自宅では、B&Wの「802 D3」を使用し、新譜SACD検証盤の確認もしています。こちらも頼もしい存在です。このような特性をさらに洗練させた最新世代機、802 D4が音元出版のリスニングルームに常設されました。モニタースピーカーとしてのカラーレーションはさらに少なくなり、コンポーネントの特性や音の違いも、よく再生します。まさに試聴室のリファレンスにふさわしいスピーカーです。
■「801 D4 Signature」では奏者の生命も感じさせる
今年の5月には現在のフラグシップモデル「801 D4 Signature」のミッドナイト・ブルー・フィニッシュモデルを新試聴室に持ち込み、試聴を行いました。
唯一無二の美しいラウンド・フォルム。とりわけミッドナイト・ブルー・フィニッシュは、光の当たり具合で絶妙な色のグラディエーションが見えてきて、私は好きです。
Signatureのテクノロジーは、細部にわたり、絶妙とも言える進化を遂げています。新しい試聴室で私のリファレンスである2Lの『Quiet Winter Night』を改めて聴くと、過去に体験しなかった、色々なことに遭遇します。例えば、演奏前の教会の空気感、「さあ、歌唱するよ」とヴォーカリストがちょっとブレスするところ。さらにヴォーカルマイクを使わず、サラウンド・マイクで録音しているから、体の向きを変えて歌う様子もリアル。これを囲む、ドラムス、トランペット、ベース、ピアノのヴィヴィッドなサウンド。これらは、過去に体験した以上のもの。再生装置、そしてリスニングルームが優れているほど、奏者が演奏している様子をリアルに再生してくれます。
ちょっと変わった表現かもしれませんが、再生する音源の奏者がまさに生きている。特にステレオ録音初期の名盤を聴いた時に感じることも多いです。
801 D4 Signatureは、ひとえに情報量が多い、解像度が高い、スタジオクオリティというだけで片付けられない特別な存在です。音元出版の試聴室で聴くと、改めてその思いを強くします。
(提供:ディーアンドエムホールディングス)