[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第138回】実録:FitEar 須山氏×Just ear 松尾氏スペシャル対談『あなたのお耳にジャストフィット!』
■ハイブリッドという選択〜FitEar編〜
野村: で、このお二人を今回お呼びするのにタイミングがよかったのは、Just earは元からハイブリッドイヤホンを手掛けており、そしてFitEarからも初のハイブリッド型モデル「FitEar Air」が発表されたところだったんですよね。
高橋: そこでいくらでも話が広がるお二人なので、今回はタイミング的に特に「ハイブリッド」にフォーカスしてお話を聞いていこうかなと。
野村: 僕としては、お二人のハイブリッドは「ダイナミック型ありき」で「それに対してBAをどう絡ませていくか」という考え方が共通点なのかなと思うのですが、実際にはどうなんですか?
高橋: FitEar Airについては「音楽の表現の中心となっているのは8kHz前後より下の帯域なので、そこまではダイナミック側でまるごとカバーする」という話だったかと思いますが…
須山: 8kHzという数値については私の考えというだけなので、それが正しいのかはともかくですが。低音側が35Hz、高域側が8kHzくらいまでだと、電子音や空気感といった部分を別にすれば、肉声や楽器の周波数帯をだいたいカバーできるんじゃないかなと。BAですと単体でカバーできる帯域が狭いので、低域・中域・高域と担当ドライバーを分けますけど、そうすると本来必要なネットワークが組みにくいので、ピーク、ディップ、帯域重複による淀みが出てきてしまう。例えばエレクトリックベースの基音はウーファー、二次・三次の倍音はミッドレンジ、ラウンド弦のグリスで弦を擦る音はミッドからトゥイーターにまで絡むというように、ばらけてしまうんですね。
高橋: ばらけさせずにうまくつなげられるクオリティの規模や、パーツのネットワーク回路をイヤホンのサイズに収めるのが難しいわけですね。ならば、理想的にはシングルドライバーで全ての帯域をカバーできればいいのだけれど、ダイナミック一発だと伸びきらない高域の補強のためにBAを追加する…というのが須山さんのハイブリッド型へのお考えですか?
須山: カスタムモールドで遮蔽した耳の中からシェルの中での密閉空間で鳴らすと、ダイナミック型は7〜12kHzあたりの帯域が叩かれて伸びないんですよ。でも、そのさらに上の帯域はまたがんばって出ていたりする。その足りない7〜12kHzあたりだけをBAでちょんと足すくらいの感じですかね。今回のこだわりに「密閉環境で鳴らす」というテーマがあったので、その際にアコースティックな理由でうまくいかない部分を他で工夫したり、BAでサポートしたりして「FitEar Air」が出来上がりました。しかしダイナミック…いいですね! 食わず嫌いでした。