FPGAを使った独自技術の全貌を紹介
CHORDが「DAVE/Mojo」で実現した“最先端” DAC技術。CEOやエンジニアが詳細を語る
■DAVEのWTAフィルターはナノ秒領域での時間精度を実現した
続いてワッツ氏は、最新のフラグシップD/Aコンバーター「DAVE」について、技術的な詳細を説明してくれた。
同氏は冒頭で、汎用DACの問題点について以下のように説明した。「DACの目的とは、先ほども説明したとおり、単にデジタル信号をアナログ信号にするだけではありません。“A/Dコンバーターに入ってきたアナログ信号に復元する”ことが重要なのです。従来型のDACが復元したアナログ信号というのは、その意味においてかなり大ざっぱなものでした。それが音質に現れていたのです」。
「WTAフィルターでタップ数(演算数)を増やすことで、時間領域の精度を上げていけば、音質を向上させることができるのです」(ワッツ氏)。
DAVEには、164,000タップという莫大な処理を行うWTAフィルターが実装された(Hugoの26,000タップと比べると、その処理の大きさがわかる)。そして、処理のアルゴリズムについても、タップ数の多さに適合できるような改善が施されたのだという。ちなみに通常のDACにおけるタップ数は100タップ程度と、ワッツ氏は語っていた。
DAVEにおいて、これだけ巨大な処理が可能なFPGAを使えるきっかけとなったのは、Hugoにおける予想を超えた音質改善が背景にあった。ポータブルモデルであるHugoが、旗艦モデルでさらなる高みを目指すためのきっかけになったというのだ。
「Hugoのときには、時間精度はミリ秒程度で十分だと考えていました。しかし実際には、ナノ秒の領域での時間精度が重要になることが、DAVEの開発過程でわかったのです」(ワッツ氏)。
DAVEのWTAフィルターでは、サンプリング周波数の256倍のFIRフィルターが機能する(通常のDACでは8倍や16倍程度だとワッツ氏は説明)。これにより、88ナノ秒の頻度でのサンプル生成が可能になった。また、この後段において最終的に2,048倍のオーバーサンプリング処理が行われ、9.6ナノ秒ごとのサンプルが生成されるとのこと。こうした莫大な処理を実現するために、166個のDSPコアを並列駆動して処理が行われる。
こうした処理により、アナログ波形に相当する密度を持ち、かつノイズのない、正確な時間精度を持つデジタルデータを生成できるのだという。このデータを受けとってアナログに変換するのが、パルスアレイDACである。
■ノイズシェイパーが“奥行き感”の再現を左右する
DAVEの音質を決定づける上で、大きな役割を果たしたのが、全46積分回路を採用した新設計の17次ノイズシェーパーだ。ワッツ氏によると、デジタルオーディオにおけるノイズシェーパーは、音場の奥行きを再現する上で非常に重要なのだという。
HugoやMojoでも200dBという歪率を実現する高性能なノイズシェーパーが実装されている。しかし、Hugoのノイズシェイパーを開発している中で、そのパラメーターの変化によって、大きな音質的作用があることがわかってきた。特に音場の奥行き表現に与える影響が大きかったのだという。
「私は10代の頃から、音の奥行き感の再現について大きな興味を持っていました。例えば、教会で100m先に設置されたオルガンの音を聴くとしましょう。目をつぶってその音を聴くと、やはり試聴位置のはるか先にオルガンがあることが認識できます。しかし、それがスピーカーによる再現になると、残響は表現されていても、距離的にはスピーカーの中央にオルガンが定位してしまう。オーディオにおいて自然な奥行き感をいかに取り戻すのか、それが長年の関心事だったのです」(ワッツ氏)
脳がある音を認識するとき、残響や反射音などの様々な情報によって位置を認識する。しかし、こうした間接成分の音は、レベルが非常に小さい。これをどれだけ正確に取り戻すかを左右するのが、ノイズシェーパーなのだという。
ワッツ氏は、200dBの“歪率”が獲得できるノイズシェーパーで十分だと考えていた。この値は、一般的なハイエンドDACと比べても1,000倍は精度が高いのだという。しかし、FPGAの規模が大きくなりさらに複雑な処理が必要になる中で、“歪率”を220dBに設定すると、如実に奥行き感が改善したのだという。
DAVEのノイズシェーパーの開発には90日を要し、結果的には350dBという歪率を達成したとワッツ氏は語る。前述の通り46積分回路を用いた17次ノイズシェーパーという巨大な処理回路で、この部分だけでもHugoのFPGAには収まりきらない回路規模なのだという。
続いてワッツ氏は、最新のフラグシップD/Aコンバーター「DAVE」について、技術的な詳細を説明してくれた。
同氏は冒頭で、汎用DACの問題点について以下のように説明した。「DACの目的とは、先ほども説明したとおり、単にデジタル信号をアナログ信号にするだけではありません。“A/Dコンバーターに入ってきたアナログ信号に復元する”ことが重要なのです。従来型のDACが復元したアナログ信号というのは、その意味においてかなり大ざっぱなものでした。それが音質に現れていたのです」。
「WTAフィルターでタップ数(演算数)を増やすことで、時間領域の精度を上げていけば、音質を向上させることができるのです」(ワッツ氏)。
DAVEには、164,000タップという莫大な処理を行うWTAフィルターが実装された(Hugoの26,000タップと比べると、その処理の大きさがわかる)。そして、処理のアルゴリズムについても、タップ数の多さに適合できるような改善が施されたのだという。ちなみに通常のDACにおけるタップ数は100タップ程度と、ワッツ氏は語っていた。
DAVEにおいて、これだけ巨大な処理が可能なFPGAを使えるきっかけとなったのは、Hugoにおける予想を超えた音質改善が背景にあった。ポータブルモデルであるHugoが、旗艦モデルでさらなる高みを目指すためのきっかけになったというのだ。
「Hugoのときには、時間精度はミリ秒程度で十分だと考えていました。しかし実際には、ナノ秒の領域での時間精度が重要になることが、DAVEの開発過程でわかったのです」(ワッツ氏)。
DAVEのWTAフィルターでは、サンプリング周波数の256倍のFIRフィルターが機能する(通常のDACでは8倍や16倍程度だとワッツ氏は説明)。これにより、88ナノ秒の頻度でのサンプル生成が可能になった。また、この後段において最終的に2,048倍のオーバーサンプリング処理が行われ、9.6ナノ秒ごとのサンプルが生成されるとのこと。こうした莫大な処理を実現するために、166個のDSPコアを並列駆動して処理が行われる。
こうした処理により、アナログ波形に相当する密度を持ち、かつノイズのない、正確な時間精度を持つデジタルデータを生成できるのだという。このデータを受けとってアナログに変換するのが、パルスアレイDACである。
■ノイズシェイパーが“奥行き感”の再現を左右する
DAVEの音質を決定づける上で、大きな役割を果たしたのが、全46積分回路を採用した新設計の17次ノイズシェーパーだ。ワッツ氏によると、デジタルオーディオにおけるノイズシェーパーは、音場の奥行きを再現する上で非常に重要なのだという。
HugoやMojoでも200dBという歪率を実現する高性能なノイズシェーパーが実装されている。しかし、Hugoのノイズシェイパーを開発している中で、そのパラメーターの変化によって、大きな音質的作用があることがわかってきた。特に音場の奥行き表現に与える影響が大きかったのだという。
「私は10代の頃から、音の奥行き感の再現について大きな興味を持っていました。例えば、教会で100m先に設置されたオルガンの音を聴くとしましょう。目をつぶってその音を聴くと、やはり試聴位置のはるか先にオルガンがあることが認識できます。しかし、それがスピーカーによる再現になると、残響は表現されていても、距離的にはスピーカーの中央にオルガンが定位してしまう。オーディオにおいて自然な奥行き感をいかに取り戻すのか、それが長年の関心事だったのです」(ワッツ氏)
脳がある音を認識するとき、残響や反射音などの様々な情報によって位置を認識する。しかし、こうした間接成分の音は、レベルが非常に小さい。これをどれだけ正確に取り戻すかを左右するのが、ノイズシェーパーなのだという。
ワッツ氏は、200dBの“歪率”が獲得できるノイズシェーパーで十分だと考えていた。この値は、一般的なハイエンドDACと比べても1,000倍は精度が高いのだという。しかし、FPGAの規模が大きくなりさらに複雑な処理が必要になる中で、“歪率”を220dBに設定すると、如実に奥行き感が改善したのだという。
DAVEのノイズシェーパーの開発には90日を要し、結果的には350dBという歪率を達成したとワッツ氏は語る。前述の通り46積分回路を用いた17次ノイズシェーパーという巨大な処理回路で、この部分だけでもHugoのFPGAには収まりきらない回路規模なのだという。