[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域
【第155回】今年もやります!「春のヘッドフォン祭2016」高橋敦の個人的ベスト5
【第1位】Fenderロゴを付けただけ…ではない!
ハイブリッド構成ドライバー搭載モデルをラインナップしたことなども印象的だったイヤモニメーカー、AurisonicsがFenderに買収され、そのFenderからFenderブランドでのイヤモニ製品群が発表されていた。
その実物が今回一挙に展示されていたのだが、正直「完全新モデルもあるみたいだけれど、他のは基本、既存モデルのロゴをFenderに変えただけでしょ?」と思っていた時期が僕にもありました。
しかし! 実物を聴いて驚いた。以前のモデルを聴いたときより明らかに印象がよい。以前のモデルと並べて比べられたわけではないので、どこがどうとは言い難いのだが、逆に言えば「どこがどう」という些細な話ではなくてぱっと聴いた印象として違うのだ。
ドライバー構成やアコースティックの設計が一変したわけではないので、各モデルの潜在能力は前とさほど変わらないはずだ。設計の潜在能力の80%しか引き出せていなかったところを95%まで引き出すことに成功した。そういうことなのだろうか? いや単に、主にチューニング、音作りの部分にFenderの意見が反映されているらしいので、Fenderギターユーザーである僕との相性がよくて印象がよいだけという可能性もあるが。
全モデルそれぞれ好印象だったが、技術的な面白味としてはBAドライバー2基の2ウェイモデル「FXA5」。
ハイブリッド型含めてダイナミック型ドライバー搭載機では、基本的にはハウジングに空気を出し入れするためのポートの設置が必要になる。その回避のためには「FitEar Air」「TE100」のように特殊な工夫が必要になる。ところが「FXA5」はBA型のみでありながらポートによるチューニング技術「Bass Tuned Port」を採用。
この技術自体は既存モデルや他のモデルでも利用されているが、BA型への搭載ということで、これが音作りのための積極的な技術であることがより明確になったと思う。実際、低域の厚みはもちろん、閉塞感の少ない自然な抜けなど、このポートのおかげなのかなと思えるよさを感じることができるのだ。
補足。BA型イヤモニだとドライバーの出口から音導管へ直結という構造が一般的かと思う。となるとハウジングって音の経路から外れてるし、そこにポートを設置して音響的に有効なの? という疑問は浮かぶ。
だがBAドライバーユニット自体、そのケースにポートを設置することでチューニングされているタイプもある。その場合はそのポートを通してBAユニット内とハウジング内はある程度つながっているはず。だからハウジングへのポート設置も有効。なのかもしれない。このモデルの実際の構造はわからないので、もっと他の手法かもしれないが。
なおこの「BA型でもあえてポートを設置してその音響的な利点を得る」という発想と実装は、Unique Melody「MASON II」にも見ることができ、そちらでもその効果と思われる心地よく自然な厚みや抜けを実感できた。
ということで技術的な興味深さとしては「FXA5」なのだが、他のモデルもそれぞれ気になる。完全新規モデルであり最も低価格なダイナミック型「DXA1」は、ダイナミック型でリケーブル対応のイヤモニのエントリークラスということで、その定番であるShure「SE215」の強力な対抗馬になりそう。
上位のダイナミック型「FXA2」やハイブリッド型「FXA6」「FXA7」も、「ダイナミック型やハイブリッド型のイヤモニ」という時点で選択肢が少ないところであり、気になる方も少なからずだろう。
まあ色々と書いてみたがつまり、「Fenderは好きだけどFenderのロゴが付いただけじゃなあ…」なんて思っていた僕をぶっ飛ばしてくれるような出来栄えだった! ということだ。
ただ欲を言えば、「レッド」とか「ブルー」とか、カラバリの名前がつまらないのは残念。それが「キャンディアップルレッド」や「レイクプラシッドブルー」だったら、それだけで印象がさらに何割か強まると思う。それで限定モデルとして「キャンディー・タンジェリン」とか「シェルピンク」みたいなさらにレアなカスタムカラーも出していく、とかの展開も期待!
高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi 趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。 |
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