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公開日 2024/11/29 06:40

【特別インタビュー】ラトビア・気鋭のスピーカーブランド アレタイ。理論と感性が導く北欧モダンのフィロソフィーの真髄

創業者/CEOのヤニス・イルベ氏に訊く
ファイルウェブオーディオ編集部・筑井真奈
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■北欧・ラトビアから誕生した新しいスピーカーブランド



バルト三国の真ん中に位置するラトビア。といっても日本からはなかなか馴染みも薄い。旧ソ連加盟国のひとつで、ソ連の崩壊と共に独立した北欧の小国、以上のイメージは湧きにくいかもしれない。

そのラトビアから、新しいハイエンド・スピーカーブランド「aretai」(アレタイ)が登場した。ギリシャ語で“卓越”“美徳”を意味するというaretai、北欧らしいシンプル&モダンなデザインを特徴とするこのブランドの背景について、創業者/CEOのヤニス・イルベ氏のインタビューを通して探ってみた。

アレタイの創業者/CEOのヤニス・イルベさん(左)と、デザイナーのエドガーさん(右)

北からエストニア、ラトビア、リトアニア、この3つの国を総称してバルト三国と呼ぶ。東はロシア、西は海を挟んでスウェーデン。オーディオファン的にはこう覚えるといいかもしれない。エストニアのエステロン、リトアニアのリード。そしてラトビアはアレタイ。いずれも個性的なブランドで共通項を見出すのは難しいが、あえていうならば高い“技術志向”を持ち、“グローバル市場”に向けて勝負をかけるハイエンド・オーディオブランドである、という点が挙げられるだろう。

その背景にあるのは、やはり旧ソ連時代に栄えた軍需産業の流れを汲む精度の高い製品開発力、理論的強度、そして先進的なデジタルテクノロジーへの親和性である。CEATECの「ラトビア・パビリオン」では、アレタイのほかディスプレイ・ソリューションや手のひらの静脈認証デバイスなど最先端技術を持つ企業が出展していた。ほかにも、ラトビアは宇宙産業やICT技術の発展も著しいという。

CEATECに出展していたラトビア・パビリオン。ラトビアのテック企業4社とラトビア投資開発庁が出展していた

決して国内市場が大きいわけではない北欧諸国では、どうしても海外市場への戦略が必要だ。そう考えると、「他社・他国には簡単に真似できないハイエンドオーディオ機器」というのは大きな武器になりうる。

アレタイはアメリカ・シカゴのAXPONAショウにも出展。グローバルな市場開拓に力を入れている。展示されているのはトップモデルの「Contra 350F」

ヤニス・イルベさんもまた、そんな最新技術への高い関心と、そして熱いオーディオマインドを持ってハイエンドオーディオ市場に参入してきた。ラトビアの首都・リガにあるリガ工科大学でコンピューターサイエンスを学んだのち、マイクロソフトグループに就職、データセンターでセキュリティや国防などに携わる仕事をしていたという。

元々プライベートでもオーディオ機器を作っていたそうだが、2人目の子供が生まれて育児休暇をとった際に、アレタイの初号機となるスピーカー「Contra 350F」の構想を考え始めたのだという。デザイナーのエドガーズさんと出会ったことでその構想は現実化、2018年にアレタイを正式に立ち上げた。

■広いウェーブガイドで高域の自然な拡散を狙う



アレタイのスピーカーで大きく目を引くのは、黒いキャビネット上部に装着された“白いホーン形状”の部分だ。ヤニスさんによると、ここはホーンではなく、トゥイーターの「ウェーブガイド」の役割を果たしているそうだ。

オーディオの製品開発とコーラスで歌を歌うことが何よりも好きだというヤニスさん

「私たちはオーディオ専用ルームではない、普通の部屋でもしっかり良い音を鳴らせるスピーカーを作りたいと考えました。このウェーブガイドは、高音域についてより広い拡散を実現するために開発しました。ご存知の通り、高域は中域よりも高い指向性を持ちます。そのため、このウェーブガイドによって、部屋の中で自然に高域が拡散することを狙っています。

外側が「Contra 200F」(フロント・バスレフ方式)、内側がブックシェルフ型の「Contra 100F」(密閉型)

私が音響心理学から学んだことですが、人間は壁からの最初の反響を音色として聴き分けるそうです。そして、高域と中域が正しいバランスで耳に届くことで、私たちの脳は音色を正しく把握することができます。ですから、高域を広く拡散させ、壁からの反射がミッドレンジと適切なバランスをとることができる、そのための最適な形状を研究しました」(ヤニスさん)

アレタイスピーカーの大きな特徴である白いウェーブガイド。コンプレションドライバー+ウェーブガイドという構成も珍しい

■ユニット選びにおける特別な基準について



現在のアレタイのラインナップは、フロアスタンディング型3.5ウェイの「Contra 350F」(国内未導入)、それより一回り小さい3.5ウェイの「Contra 200F」(国内近日導入予定、価格は517万円前後を予定)、2ウェイブックシェルフ型の「Contra 100F」(220万円/税込)の3機種。いずれもキャビネット上部に白いウェーブガイドが設置されている。

ブックシェルフ型の「Contra 100F」。背面にもウーファーユニットを搭載した2.5ウェイ方式。上位機種2モデルについても、いずれも背面にウーファーユニットを背負う

フロア型の2機種はバスレフ型、ブックシェルフは密閉型。ドライバーユニットはそれぞれ専用に選定されたものだそうだ。

「私たちはユニット選びについて、いくつかの特別な基準を設けています。最も重要なことは歪みが少なく、感度が高いことです。歪みが少ない方がアンプにかかる負荷も少なくなるからです。

もうひとつ重要なことは、分割振動(ブレイクアップ)がないことです。コーン型のユニットでは、ボイスコイルが振動板を前後に動かすことで音を再生しますが、ある周波数を超えると振動板の内側と外側でズレが発生し、そこで歪みが発生します。そういった歪みが機構的に発生しにくいものを選定しました。

最後に、クロスオーバーの調整です。私たちのクロスオーバーは非常に複雑です。クロスオーバーに使用するコイルや抵抗、コンデンサーについても非常に厳しい許容値のパーツを使っています」(ヤニスさん)

フロントパネルはバルチック・バーチによるMDF、サイドはプライウッドを採用しており、複数の素材を貼り合わせることで不要振動を起こさないように設計されている。キャビネットはラトビアの家具ブランドと共同で開発したものとのことで、高度な木工加工技術が見て取れる。

「Contra 100F」の背面端子。シンプルなシングルワイヤ方式を採る

キャビネットに木材を使っていることも重要で、ラトビアが木材の大きな生産地であることに加えて、「湿度の高い国でも長く再生できる」ことを意図しているという。キャビネット成形のために専用のCNCマシンを用意しており、「外からネジがひとつも見えない」こともデザイン上の大きなこだわりだそうだ。

■ブックシェルフはバスレフ、フロア型はポートを採用する理由



ブックシェルフは密閉型、フロアスタンディング型はバスレフ方式となっている。その理由についてもヤニスさんに尋ねてみた。

「Contra 200F」はフロント・バスレフ方式を採用

「えぇ、200Fと350Fはバスレフポートを搭載しています。私たちは「ベース拡張」と読んでいますが、共振周波を減らし、低域を拡張するために設置しています。

「群遅延」という言葉をご存知でしょうか、人間の耳には、特に低域の音はより高い周波数に比べて遅れて聴こえるというものです。これはバスレフポートを持つスピーカーの特性で、人間の耳にはあまり心地よくありません。立ち上がりが鈍く、低域が不自然になりやすいです。

ですが、大型のスピーカーではキャビネットのサイズに合わせてポートの長さを適切にチューニングすることで、低域をコントロールすることできます。350Fと200Fにはポートを搭載していますが、とても低い周波数となっており、20Hzまでリニアに再生されます。それなりの長さを確保することができれば、ポートも有用です。それがフロア型スピーカーのデザインに対する基本的な考え方です。

「群遅延」の問題は、特に小さいキャビネットの場合に顕著です。位相がおかしくなってしまいます。さらに、小さいキャビネットに短いポートをいれると、ミッドレンジの音が漏れ出して、これもサウンドステージを殺す原因となります。ですから、こちらはポートを設けず、その問題をクロスオーバーで解決しています。それが私たちがバスレフ型と密閉型、それぞれをラインナップする理由です」

■オーディオ開発と同じくらい、「歌うこと」を大切にする



ヤニスさんの語り口からは、理系の研究者らしい理詰めでスピーカー設計を行う明晰なエンジニアの顔が見え隠れする。しかし、単に特性を追求するだけではなく「最終的には『耳』で判断しなければなりません」とヤニスさん。

実はヤニスさんがスピーカー開発と同じくらいとても大切にしていることは、「コーラス隊で歌を歌うこと」だという。リガでは5年に一度、大掛かりな「歌と踊りのフェスティバル」が開催され、5万人以上の人々が来場するという。

「リガのフェスティバルでは、1万5000人以上のコーラス隊と一緒に歌うんですよ。コーラスで歌を歌うためには、さまざまな声や音の高さを聴き分けることができなければなりません。そして、正しいトーンで自分の声を出さなければなりません。このコーラス隊での体験は、私のスピーカー開発にも間違いなく良い影響を与えているでしょう」

音響理論をベースに研究開発を積み重ねる堅実さと、歌い手として己の耳をシビアに鍛え続ける粘り強さ、そして音楽を愛する熱いパッション。シンプル&モダンなスピーカーデザインの背後には、そんな熱い情熱が溢れていることを教えられたインタビューであった。

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