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公開日 2006/05/11 19:22
「SEDの巻き返しは可能」− キヤノンのトップ交代が正式決定
キヤノン(株)は、本日の取締役会で新たな役員人事を決定した。5月23日より、現・代表取締役会長兼社長の御手洗富士夫氏が代表取締役会長に、現・代表取締役副社長の内田恒二氏が代表取締役に、それぞれ就任する。
今回の人事は、5月24日より、御手洗氏が日本経団連会長に就任することを受けたもの。御手洗氏は1995年にキヤノンの社長に就任し10年以上に渡って同社の経営を行ってきた。この間、同社の収益性を飛躍的に高め、コンプライアンスや環境保護でも先駆的な役割を果たすなど、経営手腕に内外から高い評価を得ている。
新社長の内田氏は、御手洗氏と同じく大分県出身。1965年に京都大学工学部精密工学科を卒業、同社に入社し、長らくカメラ事業部の開発・生産業務に携わった。1999年にカメラ事業本部長、2003年に専務取締役に就任し、その間、IXY DIGITALやEOS DIGITALなどデジタルカメラのヒット商品を世に送り出し、カメラ事業の拡大に貢献した。また内田氏は、同社が東芝と協力して進めているSED事業の統括も行っている。
御手洗氏は、内田氏を新社長に選んだ理由は三つあるとし、一つめの理由について「キヤノンはこれから拡大期を迎える。こういう時には技術屋が適任だと前から考えていた」と説明。「1995年に社長に就任した際、まず1996年からの五ヶ年計画を策定した。脆弱な財政状態を立て直し、事業の選択と集中、利益優先主義といった施策を実行した。2001年からの第二次五ヶ年計画では、選択した事業を世界のナンバーワンにすることを目標とし、計画をほぼ達成することができた。2006年からの5年間は事業の拡大期と位置づけ、2010年以降の新事業ドメインの探索、ナンバーワン戦略の徹底を図っていく」。拡大期に技術系の人物が適任である理由については、「キヤノンは、独自技術を磨き、それに新しいものを加えることで新たな事業を興してきた。次のコア事業を探すには技術の目利きが必要で、それは技術屋でなければできない」と付け加えた。
二つめの理由については「新トップは多くの人が納得する人物でなければならない。内田新社長は、90年代、他社に数年間は遅れていたデジタルカメラ事業を立て直し、世界ナンバーワンに育て上げた。社内シェアも、8%程度まで低下したものを単体ベースでは25%程度に押し上げ、伝統のカメラ部門を大黒柱に復活させた。リーダーシップ、事業運営能力ともに申し分ないと誰もが納得するはずだ」とした。
御手洗氏は三つめの理由に「私心がないこと」を挙げ、「常々、権力が私利私欲に使われてはならないと申し上げてきた。長年のつきあいの中で内田新社長の人柄、人格はよく理解しており、リーダーにふさわしいと判断した」と語った。
御手洗氏はまた、「内田新社長には、五ヶ年計画を完成させるため努力してほしい。2010年の計画終了時には、すべての経営指標で世界のトップ100に入り、同時に環境やコンプライアンスといった分野にも力を注ぎ、世界のどこに行っても尊敬される企業に成長させることを期待している」とエールを送った。
内田氏は御手洗氏の後を受け、「第三次五ヶ年計画を完成させるのが目標。経団連会長の出身母体である我々がしっかり事業を行うのは非常に重要なこと」と述べ、新規事業の探索、コンプライアンス、世界人類との共生といった、御手洗氏のもとで策定された目標に向かって、引き続き努力を続ける考えを表明した。
内田氏はSED事業についても触れ、「昨年のキヤノンEXPOでも展示を行ったが、ブロードバンド時代になると、家庭内に高画質なテレビが必要になる。『クロスメディアイメージング』を標榜する我々にとって、ディスプレイは非常に重要。SED事業はぜひとも必要だ」と述べた。「デジカメ事業を立て直したように、SEDでも巻き返しは可能か」という質問に対しては「当然そう考えている」と自信を見せた。
以下、記者会見の席上で行われた質疑応答をご紹介する。
Q: (内田氏に)五ヶ年計画の達成に向けた課題を教えて欲しい。
A: まずは現在の事業をしっかり固め、ナンバーワンでない事業をナンバーワンに育てていく。また、現在ナンバーワンのものでも、油断するとすぐに落ちる可能性がある。これもしっかりと見ていきたい。新規事業の起ち上げも必要で、中でもディスプレイ事業の製品化を目指して運営していきたい。
Q: (御手洗氏に)経団連会長の就任以降は、社業にどの程度の労力をかけていくのか。
A: 内田新社長は、開発・生産分野はベテランだが、管理業務はこれから勉強してもらわなければならない。私自身は、いままで7時に出社する生活を続けてきたが、これはこれからも変わらない。7時に出社してから1〜2時間仕事をし、9時30分から経団連で業務を行う。キヤノンでは、「朝会」という役員のミーティングでこれからも意思疎通を図り、内田新社長とも密接にコミュニケーションしていく。
Q: 会長・社長ともに大分出身だが、キヤノンにとって大分の存在とは?
A: <御手洗氏>23年ほど前に、県からの企業誘致を受け、カメラの工場を作ったのがはじめ。最近ではカートリッジ工場やカメラの増産工場を建設した。大分に工場を作る理由は、一つには県が非常に熱心で、色々な利便を図ってくれるため、スピーディーに事業を進められること。もう一つは、東京からドアtoドアで2時間程度で移動できる「近さ」が魅力だ。<内田氏>「時間距離」の短さが魅力だ。東京・下丸子の開発拠点から大分の工場までのアクセスが大変よい。キヤノン全体にとっても、カメラ事業が社内シェア23%を持つ要因の一つではないかと考えている。
Q: (御手洗氏に)これからも政治献金は行っていくか?
A: 経団連が政治活動を行うのは社会貢献の一環であり、政治献金もその一つの方策だ。条件が整えばこれからも政治献金は行う。金額はまだ全く決めていない。
Q: (内田氏に)これまでのビジネスで記憶に残っている出来事は?
A: 入社直後に圧着板の加工変更を行い、役員のレセプションを撮影したところ、設計ミスで撮影に失敗してしまった。これがこれまでの最大の失敗で、かつ仕事を進める上での原点になった。
Q: (内田氏に)趣味は何か?
A: 昔はドライブなどが好きだったが、最近はあまりやっていない。いまはゴルフを週末に楽しんでいる。読書も趣味の一つで、古代文明などに関する本が好みだ。
Q: 最近株価が好調だが、感想は。
A: 非常に喜んでいる。配当性向を30%にするという目標を発表したことや、配当を100円に増額したことが市場に好感されたのではないか。また、現在の株価が8〜9,000円程度となっているが、あまり高いと株主数が増えないので、5月23日に1対1.5の分割を行う(御手洗氏)。
Q: 個人株主の比率の目標はあるか?
A: 具体的な数字が手元にないが、今は決して多くない。今後はもっと上げていきたい(御手洗氏)。
Q: (内田氏に)デジカメ事業を復活させたとのことだが、遅れていた事業を復活させる秘訣とは?
A: かねがね、悪い製品を慌てて出すのではなく、将来を考えて、ユーザーのためになるものを作るのが重要だと考えている。デジカメ事業では、社内のコンセンサスを得るのに時間がかかったが、最終的には全社一丸となって立ち向かうことができ、好結果につながったのではないか。
(Phile-web編集部)
今回の人事は、5月24日より、御手洗氏が日本経団連会長に就任することを受けたもの。御手洗氏は1995年にキヤノンの社長に就任し10年以上に渡って同社の経営を行ってきた。この間、同社の収益性を飛躍的に高め、コンプライアンスや環境保護でも先駆的な役割を果たすなど、経営手腕に内外から高い評価を得ている。
新社長の内田氏は、御手洗氏と同じく大分県出身。1965年に京都大学工学部精密工学科を卒業、同社に入社し、長らくカメラ事業部の開発・生産業務に携わった。1999年にカメラ事業本部長、2003年に専務取締役に就任し、その間、IXY DIGITALやEOS DIGITALなどデジタルカメラのヒット商品を世に送り出し、カメラ事業の拡大に貢献した。また内田氏は、同社が東芝と協力して進めているSED事業の統括も行っている。
御手洗氏は、内田氏を新社長に選んだ理由は三つあるとし、一つめの理由について「キヤノンはこれから拡大期を迎える。こういう時には技術屋が適任だと前から考えていた」と説明。「1995年に社長に就任した際、まず1996年からの五ヶ年計画を策定した。脆弱な財政状態を立て直し、事業の選択と集中、利益優先主義といった施策を実行した。2001年からの第二次五ヶ年計画では、選択した事業を世界のナンバーワンにすることを目標とし、計画をほぼ達成することができた。2006年からの5年間は事業の拡大期と位置づけ、2010年以降の新事業ドメインの探索、ナンバーワン戦略の徹底を図っていく」。拡大期に技術系の人物が適任である理由については、「キヤノンは、独自技術を磨き、それに新しいものを加えることで新たな事業を興してきた。次のコア事業を探すには技術の目利きが必要で、それは技術屋でなければできない」と付け加えた。
二つめの理由については「新トップは多くの人が納得する人物でなければならない。内田新社長は、90年代、他社に数年間は遅れていたデジタルカメラ事業を立て直し、世界ナンバーワンに育て上げた。社内シェアも、8%程度まで低下したものを単体ベースでは25%程度に押し上げ、伝統のカメラ部門を大黒柱に復活させた。リーダーシップ、事業運営能力ともに申し分ないと誰もが納得するはずだ」とした。
御手洗氏は三つめの理由に「私心がないこと」を挙げ、「常々、権力が私利私欲に使われてはならないと申し上げてきた。長年のつきあいの中で内田新社長の人柄、人格はよく理解しており、リーダーにふさわしいと判断した」と語った。
御手洗氏はまた、「内田新社長には、五ヶ年計画を完成させるため努力してほしい。2010年の計画終了時には、すべての経営指標で世界のトップ100に入り、同時に環境やコンプライアンスといった分野にも力を注ぎ、世界のどこに行っても尊敬される企業に成長させることを期待している」とエールを送った。
内田氏は御手洗氏の後を受け、「第三次五ヶ年計画を完成させるのが目標。経団連会長の出身母体である我々がしっかり事業を行うのは非常に重要なこと」と述べ、新規事業の探索、コンプライアンス、世界人類との共生といった、御手洗氏のもとで策定された目標に向かって、引き続き努力を続ける考えを表明した。
内田氏はSED事業についても触れ、「昨年のキヤノンEXPOでも展示を行ったが、ブロードバンド時代になると、家庭内に高画質なテレビが必要になる。『クロスメディアイメージング』を標榜する我々にとって、ディスプレイは非常に重要。SED事業はぜひとも必要だ」と述べた。「デジカメ事業を立て直したように、SEDでも巻き返しは可能か」という質問に対しては「当然そう考えている」と自信を見せた。
以下、記者会見の席上で行われた質疑応答をご紹介する。
Q: (内田氏に)五ヶ年計画の達成に向けた課題を教えて欲しい。
A: まずは現在の事業をしっかり固め、ナンバーワンでない事業をナンバーワンに育てていく。また、現在ナンバーワンのものでも、油断するとすぐに落ちる可能性がある。これもしっかりと見ていきたい。新規事業の起ち上げも必要で、中でもディスプレイ事業の製品化を目指して運営していきたい。
Q: (御手洗氏に)経団連会長の就任以降は、社業にどの程度の労力をかけていくのか。
A: 内田新社長は、開発・生産分野はベテランだが、管理業務はこれから勉強してもらわなければならない。私自身は、いままで7時に出社する生活を続けてきたが、これはこれからも変わらない。7時に出社してから1〜2時間仕事をし、9時30分から経団連で業務を行う。キヤノンでは、「朝会」という役員のミーティングでこれからも意思疎通を図り、内田新社長とも密接にコミュニケーションしていく。
Q: 会長・社長ともに大分出身だが、キヤノンにとって大分の存在とは?
A: <御手洗氏>23年ほど前に、県からの企業誘致を受け、カメラの工場を作ったのがはじめ。最近ではカートリッジ工場やカメラの増産工場を建設した。大分に工場を作る理由は、一つには県が非常に熱心で、色々な利便を図ってくれるため、スピーディーに事業を進められること。もう一つは、東京からドアtoドアで2時間程度で移動できる「近さ」が魅力だ。<内田氏>「時間距離」の短さが魅力だ。東京・下丸子の開発拠点から大分の工場までのアクセスが大変よい。キヤノン全体にとっても、カメラ事業が社内シェア23%を持つ要因の一つではないかと考えている。
Q: (御手洗氏に)これからも政治献金は行っていくか?
A: 経団連が政治活動を行うのは社会貢献の一環であり、政治献金もその一つの方策だ。条件が整えばこれからも政治献金は行う。金額はまだ全く決めていない。
Q: (内田氏に)これまでのビジネスで記憶に残っている出来事は?
A: 入社直後に圧着板の加工変更を行い、役員のレセプションを撮影したところ、設計ミスで撮影に失敗してしまった。これがこれまでの最大の失敗で、かつ仕事を進める上での原点になった。
Q: (内田氏に)趣味は何か?
A: 昔はドライブなどが好きだったが、最近はあまりやっていない。いまはゴルフを週末に楽しんでいる。読書も趣味の一つで、古代文明などに関する本が好みだ。
Q: 最近株価が好調だが、感想は。
A: 非常に喜んでいる。配当性向を30%にするという目標を発表したことや、配当を100円に増額したことが市場に好感されたのではないか。また、現在の株価が8〜9,000円程度となっているが、あまり高いと株主数が増えないので、5月23日に1対1.5の分割を行う(御手洗氏)。
Q: 個人株主の比率の目標はあるか?
A: 具体的な数字が手元にないが、今は決して多くない。今後はもっと上げていきたい(御手洗氏)。
Q: (内田氏に)デジカメ事業を復活させたとのことだが、遅れていた事業を復活させる秘訣とは?
A: かねがね、悪い製品を慌てて出すのではなく、将来を考えて、ユーザーのためになるものを作るのが重要だと考えている。デジカメ事業では、社内のコンセンサスを得るのに時間がかかったが、最終的には全社一丸となって立ち向かうことができ、好結果につながったのではないか。
(Phile-web編集部)