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2023年も半ばを過ぎたところだが、携帯電話業界の動向を振り返ると、やはり国内スマートフォンメーカーの撤退・破綻が相次いだことが最大のトピックといえるのではないだろうか。とりわけFCNTの経営破綻は、新機種を発売して間もないタイミングということもあって、非常に大きな驚きをもたらしたことは記憶に新しい。
一連の撤退・破綻には円安と半導体の高騰、そしてスマートフォン市場の縮小に政府の端末値引き規制と、複数の要因が働いており、いずれも容易に解決できるものではない。それだけに国内メーカーだけでなく、日本市場に参入している全てのスマートフォンメーカーが、非常に厳しい状況に追い込まれているのが実状だ。
その厳しさは、2023年に発売された海外メーカーの製品からも見えてくる。例えば、中国のOPPOが6月13日に発表したスマートフォン新機種「OPPO Reno9 A」を見ると、RAMを8GBに増やし、背面のカメラ部分のみを光沢仕上げにするなど、デザインに工夫を凝らしている。
だが一方で、チップセットがクアルコム製の「Snapdragon 695 5G」であることや、カメラの性能などスマートフォンの基礎となる部分が、2022年に発売された「OPPO Reno7 A」と大きく変わっていない。もちろんこれだけの性能があれば、カメラやゲーミングなどにハイエンドクラスの性能を求めるのでなければ快適に利用できるし、古いスマートフォンからの買い替え用としては十分といえるのだが、性能向上が進んでいない分、新機種としてのインパクトは弱い。
OPPO Reno9 Aで性能向上を見送ったのは、やはり円安などの影響がありながらも、販売価格を従来通りの水準で維持するためだろう。同社の「Reno A」シリーズは、ミドルクラスでコストパフォーマンスの高さが大きな特徴でもあるだけに、価格が販売数にダイレクトに影響してしまうことから、性能面の進化よりも価格に重点を置いたのだろう。
従来、コストパフォーマンスの高さを積極的にアピールしてきた中国メーカーでさえ、それができなくなっている現状は、日本の市場環境がいかに厳しい状況にあるかを物語っている。だがそれだけに、厳しい環境を乗り越えるための新たな策に打って出るメーカーも、いくつか出てきているようだ。
その1社がモトローラ・モビリティであり、その姿勢は同社が6月28日に発表した新機種「moto g53j 5G」から見て取ることができる。この機種は、FeliCaに対応するなど日本市場向けに開発されたスマートフォンで、価格は3万4,800円。性能は2022年発売の「moto g52j 5G」と比べるとやや低く、ミドルクラスというよりはエントリークラスというべきスマートフォンなのだが、moto g52j 5Gとの価格差は5,000円しかなく、コストパフォーマンスがそこまで高いわけではない。
だが、大きなポイントとなるのは兄弟モデルの「moto g53y 5G」である。こちらは、携帯大手の一角を占めるソフトバンクのワイモバイルブランドから販売され、RAMの容量が半分となる代わりに価格が2万円台にまで引き下げられているなど、戦略性が非常に強い内容であることが分かる。
モトローラ・モビリティが携帯大手に端末を供給したのは、2021年にソフトバンクブランドから販売された「razr 5G」以来。razr 5Gは先進性のアピールに重点を置き、“数を売る” デバイスではなかったのに対し、moto g53y 5Gは明らかに数を売ることに重点を置いていることから、同社がオープン市場からより販売数が多い携帯大手向けへと、販路を拡大しようとしている様子を見て取ることができるだろう。
そして、もう1社がサムスン電子である。同社は6月20日に、「Galaxy S23 Ultra」のオープン市場向け(SIMフリー)モデルの販売を発表したのだ。
Galaxy S23 Ultraは、既にNTTドコモやKDDIのauブランドから販売されているが、今回投入されるのはそのうち最上位の1TBモデル。それゆえ値段は25万を超えるし、販路も同社のオンラインショップのみであるなど、購入できる人はかなり限られる印象を受けるのだが、重要なポイントはサムスン電子が初めて、オープン市場向けにハイエンドモデルを販売したことだ。
サムスン電子は、日本市場に参入している主要メーカーの中で、携帯電話会社からの販路を最も重視する姿勢を示していた。それゆえ、同社がこれまでオープン市場向けに投入したスマートフォンは、2022年発売の「Galaxy M23 5G」のみで、携帯各社に配慮して主力のハイエンドモデルは投入してこなかったのだ。
だが今回、同社が最新の主力モデルであるGalaxy S23 Ultraを販売したことで、携帯電話会社に頼らない販路開拓を積極化する姿勢を明確に示したといえよう。加えて、同じタイミングでスマートフォンだけでなく、タブレットの「Galaxy Tab S6 Lite」の販売も発表したことを考えると、日本ではまだ販売していないノートパソコンなども取り扱い、サムスン電子独自のエコシステム構築に踏み出すことも視野に入っているのかもしれない。
さらにもう1社、新たな動きを見せたのが国内メーカーのシャープである。同社は、7月3日に実施したスマートフォン「AQUOS」シリーズの新CM完成披露イベントで、台湾とインドネシアに向けて国内展開しているスマートフォンを、フルラインナップで展開することを明らかにしている。
実はシャープは、これまで何度かスマートフォンでの海外進出を推し進めており、欧州では嗜好の違いなどからあまり成果につながっていない一方、アジアでは一定の成果を出している。実際、台湾では新機種を継続的に投入しているほか、インドネシアでも2020年に「AQUOS zero2」「AQUOS R3」を、2021年に「AQUOS sense4 plus」を投入するなどして、市場開拓を進めている状況だ。
それゆえ、今後もシャープが白物家電を中心として、主に強いブランド力を持っているアジア市場を、そのブランド力とリソースを生かしてスマートフォンの販売拡大にもつなげていく方針のようだ。
モトローラ・モビリティはオープン市場から携帯大手、サムスン電子は携帯大手からオープン市場へ、そしてシャープは国内から海外へという違いはあるが、いずれも開拓ができていなかった市場へとあえて踏み出す、攻めの姿勢で逆境を乗り越えようとしている様子がうかがえる。
多くのメーカーが守りの戦略を取る中にあって、攻めに出た3社が市場からどのような評価を得るかは、今後の国内スマートフォン市場を見据える上でも重要なポイントになってくるだろう。
■厳しい状況が続く国内外のスマートフォンメーカー
一連の撤退・破綻には円安と半導体の高騰、そしてスマートフォン市場の縮小に政府の端末値引き規制と、複数の要因が働いており、いずれも容易に解決できるものではない。それだけに国内メーカーだけでなく、日本市場に参入している全てのスマートフォンメーカーが、非常に厳しい状況に追い込まれているのが実状だ。
その厳しさは、2023年に発売された海外メーカーの製品からも見えてくる。例えば、中国のOPPOが6月13日に発表したスマートフォン新機種「OPPO Reno9 A」を見ると、RAMを8GBに増やし、背面のカメラ部分のみを光沢仕上げにするなど、デザインに工夫を凝らしている。
だが一方で、チップセットがクアルコム製の「Snapdragon 695 5G」であることや、カメラの性能などスマートフォンの基礎となる部分が、2022年に発売された「OPPO Reno7 A」と大きく変わっていない。もちろんこれだけの性能があれば、カメラやゲーミングなどにハイエンドクラスの性能を求めるのでなければ快適に利用できるし、古いスマートフォンからの買い替え用としては十分といえるのだが、性能向上が進んでいない分、新機種としてのインパクトは弱い。
OPPO Reno9 Aで性能向上を見送ったのは、やはり円安などの影響がありながらも、販売価格を従来通りの水準で維持するためだろう。同社の「Reno A」シリーズは、ミドルクラスでコストパフォーマンスの高さが大きな特徴でもあるだけに、価格が販売数にダイレクトに影響してしまうことから、性能面の進化よりも価格に重点を置いたのだろう。
従来、コストパフォーマンスの高さを積極的にアピールしてきた中国メーカーでさえ、それができなくなっている現状は、日本の市場環境がいかに厳しい状況にあるかを物語っている。だがそれだけに、厳しい環境を乗り越えるための新たな策に打って出るメーカーも、いくつか出てきているようだ。
その1社がモトローラ・モビリティであり、その姿勢は同社が6月28日に発表した新機種「moto g53j 5G」から見て取ることができる。この機種は、FeliCaに対応するなど日本市場向けに開発されたスマートフォンで、価格は3万4,800円。性能は2022年発売の「moto g52j 5G」と比べるとやや低く、ミドルクラスというよりはエントリークラスというべきスマートフォンなのだが、moto g52j 5Gとの価格差は5,000円しかなく、コストパフォーマンスがそこまで高いわけではない。
だが、大きなポイントとなるのは兄弟モデルの「moto g53y 5G」である。こちらは、携帯大手の一角を占めるソフトバンクのワイモバイルブランドから販売され、RAMの容量が半分となる代わりに価格が2万円台にまで引き下げられているなど、戦略性が非常に強い内容であることが分かる。
モトローラ・モビリティが携帯大手に端末を供給したのは、2021年にソフトバンクブランドから販売された「razr 5G」以来。razr 5Gは先進性のアピールに重点を置き、“数を売る” デバイスではなかったのに対し、moto g53y 5Gは明らかに数を売ることに重点を置いていることから、同社がオープン市場からより販売数が多い携帯大手向けへと、販路を拡大しようとしている様子を見て取ることができるだろう。
そして、もう1社がサムスン電子である。同社は6月20日に、「Galaxy S23 Ultra」のオープン市場向け(SIMフリー)モデルの販売を発表したのだ。
Galaxy S23 Ultraは、既にNTTドコモやKDDIのauブランドから販売されているが、今回投入されるのはそのうち最上位の1TBモデル。それゆえ値段は25万を超えるし、販路も同社のオンラインショップのみであるなど、購入できる人はかなり限られる印象を受けるのだが、重要なポイントはサムスン電子が初めて、オープン市場向けにハイエンドモデルを販売したことだ。
サムスン電子は、日本市場に参入している主要メーカーの中で、携帯電話会社からの販路を最も重視する姿勢を示していた。それゆえ、同社がこれまでオープン市場向けに投入したスマートフォンは、2022年発売の「Galaxy M23 5G」のみで、携帯各社に配慮して主力のハイエンドモデルは投入してこなかったのだ。
だが今回、同社が最新の主力モデルであるGalaxy S23 Ultraを販売したことで、携帯電話会社に頼らない販路開拓を積極化する姿勢を明確に示したといえよう。加えて、同じタイミングでスマートフォンだけでなく、タブレットの「Galaxy Tab S6 Lite」の販売も発表したことを考えると、日本ではまだ販売していないノートパソコンなども取り扱い、サムスン電子独自のエコシステム構築に踏み出すことも視野に入っているのかもしれない。
さらにもう1社、新たな動きを見せたのが国内メーカーのシャープである。同社は、7月3日に実施したスマートフォン「AQUOS」シリーズの新CM完成披露イベントで、台湾とインドネシアに向けて国内展開しているスマートフォンを、フルラインナップで展開することを明らかにしている。
実はシャープは、これまで何度かスマートフォンでの海外進出を推し進めており、欧州では嗜好の違いなどからあまり成果につながっていない一方、アジアでは一定の成果を出している。実際、台湾では新機種を継続的に投入しているほか、インドネシアでも2020年に「AQUOS zero2」「AQUOS R3」を、2021年に「AQUOS sense4 plus」を投入するなどして、市場開拓を進めている状況だ。
それゆえ、今後もシャープが白物家電を中心として、主に強いブランド力を持っているアジア市場を、そのブランド力とリソースを生かしてスマートフォンの販売拡大にもつなげていく方針のようだ。
モトローラ・モビリティはオープン市場から携帯大手、サムスン電子は携帯大手からオープン市場へ、そしてシャープは国内から海外へという違いはあるが、いずれも開拓ができていなかった市場へとあえて踏み出す、攻めの姿勢で逆境を乗り越えようとしている様子がうかがえる。
多くのメーカーが守りの戦略を取る中にあって、攻めに出た3社が市場からどのような評価を得るかは、今後の国内スマートフォン市場を見据える上でも重要なポイントになってくるだろう。