公開日 2014/07/10 14:28
山之内正のオーディオ・アナリシス【第1回】ドイツで見たスピーカーの新潮流
4名の評論家が週替わりでオーディオを語る
ファイル・ウェブでは今月より、4名のオーディオ評論家による連載記事を毎週、週替わりで掲載していく。山之内正氏が最先端のピュアオーディオを分析していく「山之内正のオーディオ・アナリシス」第1回は、ドイツ・ミュンヘンで開催された「HighEnd 2014」で確認した最新スピーカーシステムの新潮流をレポートしていく。
ミュンヘンで開催された「HighEnd 2014」に登場した
注目すべきスピーカーシステムたち
デジタル系のコンポーネントに比べると歩みはゆっくりだが、スピーカーなどアナログのコンポーネントにも注目すべき進化が起きている。特に音源の多様化を視野に入れた再生帯域の拡大や動特性の改善が顕著だ。ちなみに帯域の拡大というと高域側の伸長が注目を集めることが多いが、実は低域の音質向上にも著しいものがあり、超低域への周波数レンジの拡大、低音域でのS/Nや歪の改善など、本質的なリファインが行われている。B&WやDALIなど海外メーカーの挑戦が特に目を引くが、TAD、フォステクス、ソニーなど国内メーカーの取り組みも成果を上げていることはいうまでもない。
5月にミュンヘンで行われたHighEnd 2014では、低域の性能改善を目指した欧米メーカーの新しい潮流を目の当たりにした。このイベントは年々規模を拡大してハイエンドオーディオの分野では世界最大級の規模を誇っている。HighEndの会場で重要な新製品を発表するメーカーが年々増えていることが、このイベントへの評価を物語っている。
全面リニューアルしたKEF「Referenceシリーズ」
「BLADE Two」も登場
今年はKEFがReferenceシリーズの全面リニューアルを発表した(関連ニュース)。1973年に誕生した同シリーズの歴代モデルはKEFを代表するスピーカーとして人気があり、どの世代にもその時代の核心となる技術を投入してきた。今回は新設計のUni-Qドライバーと16cmアルミコーンウーファーを組み合わせたことに加え、キャビネット設計の革新性が目を引く。
まずはフロントバッフルの美しい外見と強靭さに注目して欲しい。アルミと樹脂を高温でプレス成形した構造によって剛性の高さと共振対策を両立させたことに加え、表面の平滑性の高さはバッフル面での回折を抑える効果も併せ持つという。内部の補強材の位置や質量もコンピューターシミュレーションによって厳密に管理されており、フロントバッフルと背面は複数のボルトで連結して共振を抑えている。
技術的なもう一つの焦点はバスレフポートの設計にある。LS50で初めて採用された二重構造のフレキシブル・ポート技術を応用して中域におけるポートの共振を抑えるとともに、流体力学の手法を駆使してエアノイズを低減するなど、サイズとユニット構成の異なる製品ごとに緻密な設計を導入して音質への影響を抑えているのだ。ポートのチューニングはいまどき珍しくないと思うかもしれないが、形状、素材、配置などをここまで徹底して追い込んだ例はそう多くはない。
新設計のキャビネットは音質改善に絶大な効果を生んでいる。KEFのブースでは最もサイズの大きいReference 5が鳴っており、4基のウーファーが繰り出す低音の量感はスリムな外見からは想像できないほど余裕がある。
だが、注目すべきはその質感。これほど太い低音が出れば普通はエッジが緩むものだが、Reference 5の低音は輪郭が明瞭でにじみがなく、ボーカルやギターなど中高域の音色をくもらせることもない。低音が過剰気味の曲が最近急速に増えているが、普通なら制御が難しいベースを量感を確保したままタイトな質感で再現する。しかも、家庭では非現実的なほどの大音量で再生しても、そのエッジが鈍ることがないのだ。このサイズのフロア型スピーカーではこれまで例のない快挙と言っていいだろう。
おなじくKEFのブースにはもう一つ重要な製品が展示されていた。あのBLADEをひとまわり小さくしたBLADE Twoである。残念ながら音は未確認だが、Uni-Qドライバーの振動板とキャビネットを深みのあるブルーで統一したデザインは非常に完成度が高く、強いオーラを放っていた。オリジナルのBLADEだと大きすぎるが、このサイズなら視野に入るという人は少なくないと思う。新しいReferenceシリーズとともに日本への早期の導入が待たれるスピーカーだ。
MAGICOのウルトラハイエンドスピーカー
「Ultimate III」は一度聴くと忘れられない音
HighEnd 2014の会場には気が遠くなるようなウルトラハイエンドの製品が登場することも少なくない。今年はMAGICOのブースにお目見えしたUltimate IIIがその代表格で、同社のブースは会期中どのタイミングで訪れても行列が途切れず、実機に接するのはかなり難しかった。ホーンユニットで構成された巨大なシステムという点はオリジナルのUltimateと共通だが、今回はドライバーやネットワークを一新しており、価格も2倍以上に跳ね上がっている(米国での市場価格はペアで約60万ドル)。
2mを優に超える5ウェイのホーンシステムとはいえ、再生音のたたずまいは拍子抜けするほど自然で、音像はまるで点音源のスピーカーのように小さく収束して揺らぎやぶれとは対極の安定したイメージが浮かぶ。透明感の高い音色と遠くまで見通せる澄んだ音場は非凡だが、目を閉じて聴いたら良質なブックシェルフスピーカーと間違えてしまうかもしれない。外見とのギャップにしばし呆然としてしまうほどだ。
だが、低音の深々とした響きはさすがに次元が違う。ベースやパーカッションは音圧というより空気の振れ幅の大きさで圧倒的なリアリティを生み出し、立ち上がりの速さは実際の楽器に比べてまったく遜色ない。今回は38cmウーファーを2基積むサブウーファーを左右に1個ずつ加えて低音を補強していたが、そこに違和感を感じることはなかった。Ultimate IIIの音を実際に聴ける機会は滅多にないのだが、一度聴くと忘れがたい印象を残すスピーカーであることは間違いない。
今年後半に話題を集めそうな製品をピックアップして紹介
さて、最後にもう一度現実の世界に戻り、手が届きそうな範囲のスピーカーから注目モデルをいくつか紹介しておこう。すでに日本に導入されている製品も含め、今年後半に話題を集めそうな製品が数多く展示されていた。
普及クラスではDALIのRubiconシリーズ(関連ニュース)、ELACの260 LINE、DYNAUDIOのXEO 4/XEO 6(関連ニュース)などが完成度の高いサウンドを聴かせていた。XEOが先鞭をつけたWi-Fi対応のアクティブスピーカーはエラックも400LINEにWi-Fiモジュールとアンプを内蔵したAIR-X(関連ニュース)を展示。この製品はショウの翌週にELAC本社でじっくり聴く機会があったので、あらためて紹介することにしよう。
ハイエンドのカテゴリーで話題を集めた新製品はウィーンアコースティックのLiszt、TADのTAD-CE(関連ニュース)1、ソナス・ファベールのLiliumなど個性派が揃い、枚挙にいとまがない。いずれも各ブランドを代表する重要なモデルなので、詳細はあらためてレポートすることにしたい。
ミュンヘンで開催された「HighEnd 2014」に登場した
注目すべきスピーカーシステムたち
デジタル系のコンポーネントに比べると歩みはゆっくりだが、スピーカーなどアナログのコンポーネントにも注目すべき進化が起きている。特に音源の多様化を視野に入れた再生帯域の拡大や動特性の改善が顕著だ。ちなみに帯域の拡大というと高域側の伸長が注目を集めることが多いが、実は低域の音質向上にも著しいものがあり、超低域への周波数レンジの拡大、低音域でのS/Nや歪の改善など、本質的なリファインが行われている。B&WやDALIなど海外メーカーの挑戦が特に目を引くが、TAD、フォステクス、ソニーなど国内メーカーの取り組みも成果を上げていることはいうまでもない。
5月にミュンヘンで行われたHighEnd 2014では、低域の性能改善を目指した欧米メーカーの新しい潮流を目の当たりにした。このイベントは年々規模を拡大してハイエンドオーディオの分野では世界最大級の規模を誇っている。HighEndの会場で重要な新製品を発表するメーカーが年々増えていることが、このイベントへの評価を物語っている。
全面リニューアルしたKEF「Referenceシリーズ」
「BLADE Two」も登場
今年はKEFがReferenceシリーズの全面リニューアルを発表した(関連ニュース)。1973年に誕生した同シリーズの歴代モデルはKEFを代表するスピーカーとして人気があり、どの世代にもその時代の核心となる技術を投入してきた。今回は新設計のUni-Qドライバーと16cmアルミコーンウーファーを組み合わせたことに加え、キャビネット設計の革新性が目を引く。
まずはフロントバッフルの美しい外見と強靭さに注目して欲しい。アルミと樹脂を高温でプレス成形した構造によって剛性の高さと共振対策を両立させたことに加え、表面の平滑性の高さはバッフル面での回折を抑える効果も併せ持つという。内部の補強材の位置や質量もコンピューターシミュレーションによって厳密に管理されており、フロントバッフルと背面は複数のボルトで連結して共振を抑えている。
技術的なもう一つの焦点はバスレフポートの設計にある。LS50で初めて採用された二重構造のフレキシブル・ポート技術を応用して中域におけるポートの共振を抑えるとともに、流体力学の手法を駆使してエアノイズを低減するなど、サイズとユニット構成の異なる製品ごとに緻密な設計を導入して音質への影響を抑えているのだ。ポートのチューニングはいまどき珍しくないと思うかもしれないが、形状、素材、配置などをここまで徹底して追い込んだ例はそう多くはない。
新設計のキャビネットは音質改善に絶大な効果を生んでいる。KEFのブースでは最もサイズの大きいReference 5が鳴っており、4基のウーファーが繰り出す低音の量感はスリムな外見からは想像できないほど余裕がある。
だが、注目すべきはその質感。これほど太い低音が出れば普通はエッジが緩むものだが、Reference 5の低音は輪郭が明瞭でにじみがなく、ボーカルやギターなど中高域の音色をくもらせることもない。低音が過剰気味の曲が最近急速に増えているが、普通なら制御が難しいベースを量感を確保したままタイトな質感で再現する。しかも、家庭では非現実的なほどの大音量で再生しても、そのエッジが鈍ることがないのだ。このサイズのフロア型スピーカーではこれまで例のない快挙と言っていいだろう。
おなじくKEFのブースにはもう一つ重要な製品が展示されていた。あのBLADEをひとまわり小さくしたBLADE Twoである。残念ながら音は未確認だが、Uni-Qドライバーの振動板とキャビネットを深みのあるブルーで統一したデザインは非常に完成度が高く、強いオーラを放っていた。オリジナルのBLADEだと大きすぎるが、このサイズなら視野に入るという人は少なくないと思う。新しいReferenceシリーズとともに日本への早期の導入が待たれるスピーカーだ。
MAGICOのウルトラハイエンドスピーカー
「Ultimate III」は一度聴くと忘れられない音
HighEnd 2014の会場には気が遠くなるようなウルトラハイエンドの製品が登場することも少なくない。今年はMAGICOのブースにお目見えしたUltimate IIIがその代表格で、同社のブースは会期中どのタイミングで訪れても行列が途切れず、実機に接するのはかなり難しかった。ホーンユニットで構成された巨大なシステムという点はオリジナルのUltimateと共通だが、今回はドライバーやネットワークを一新しており、価格も2倍以上に跳ね上がっている(米国での市場価格はペアで約60万ドル)。
2mを優に超える5ウェイのホーンシステムとはいえ、再生音のたたずまいは拍子抜けするほど自然で、音像はまるで点音源のスピーカーのように小さく収束して揺らぎやぶれとは対極の安定したイメージが浮かぶ。透明感の高い音色と遠くまで見通せる澄んだ音場は非凡だが、目を閉じて聴いたら良質なブックシェルフスピーカーと間違えてしまうかもしれない。外見とのギャップにしばし呆然としてしまうほどだ。
だが、低音の深々とした響きはさすがに次元が違う。ベースやパーカッションは音圧というより空気の振れ幅の大きさで圧倒的なリアリティを生み出し、立ち上がりの速さは実際の楽器に比べてまったく遜色ない。今回は38cmウーファーを2基積むサブウーファーを左右に1個ずつ加えて低音を補強していたが、そこに違和感を感じることはなかった。Ultimate IIIの音を実際に聴ける機会は滅多にないのだが、一度聴くと忘れがたい印象を残すスピーカーであることは間違いない。
今年後半に話題を集めそうな製品をピックアップして紹介
さて、最後にもう一度現実の世界に戻り、手が届きそうな範囲のスピーカーから注目モデルをいくつか紹介しておこう。すでに日本に導入されている製品も含め、今年後半に話題を集めそうな製品が数多く展示されていた。
普及クラスではDALIのRubiconシリーズ(関連ニュース)、ELACの260 LINE、DYNAUDIOのXEO 4/XEO 6(関連ニュース)などが完成度の高いサウンドを聴かせていた。XEOが先鞭をつけたWi-Fi対応のアクティブスピーカーはエラックも400LINEにWi-Fiモジュールとアンプを内蔵したAIR-X(関連ニュース)を展示。この製品はショウの翌週にELAC本社でじっくり聴く機会があったので、あらためて紹介することにしよう。
ハイエンドのカテゴリーで話題を集めた新製品はウィーンアコースティックのLiszt、TADのTAD-CE(関連ニュース)1、ソナス・ファベールのLiliumなど個性派が揃い、枚挙にいとまがない。いずれも各ブランドを代表する重要なモデルなので、詳細はあらためてレポートすることにしたい。